骨折の治療指針とリハビリテーション
具体的プロトコールから基本をマスター!
編集 | : 酒井昭典/佐伯覚 |
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ISBN | : 978-4-524-25973-1 |
発行年月 | : 2017年6月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 468 |
在庫
定価9,350円(本体8,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
医師とメディカルスタッフ間のギャップを埋めることを目的に、骨折のリハビリテーションに従事するメディカルスタッフを対象に編集された実践書。全身の各部位の骨折について治療のゴールを明記したうえで、医師が行う治療法、リハビリテーションを行うにあたってメディカルスタッフが留意すべき具体的な点を受傷後16週までの期間に分けて詳細に記載している。
I.総論
A.骨折治癒
B.骨折治癒時期の決定
C.固定材料の生体力学的原理
D.運動療法−筋力と関節可動域
E.骨折治療に用いられる物理療法
F.荷重と歩行
G.日常生活動作・活動(ADL)のための補助具と適応器具
H.装具と副子
I.ハローベストとGardner-Wells牽引
J.開放骨折の分類と治療
II.上肢の骨折
A.鎖骨骨折
B.上腕骨近位端骨折
C.上腕骨骨幹部骨折
D.上腕骨遠位端骨折
E.肘頭骨折
F.橈骨頭骨折
G.前腕骨骨折
H.橈骨遠位端骨折
I.舟状骨骨折
J.中手骨骨折
K.指節骨骨折
III.下肢の骨折
A.大腿骨頚部骨折
B.大腿骨転子部骨折
C.大腿骨転子下骨折
D.大腿骨骨幹部骨折
E.大腿骨顆上骨折
F.膝蓋骨骨折
G.脛骨プラトー骨折
H.脛骨骨幹部骨折
I.脛骨天蓋骨折(pilon骨折)
J.足関節骨折
K.距骨骨折
L.踵骨骨折
M.中足部骨折
N.前足部骨折
IV.脊椎の骨折
A.環椎骨折(Jefferson骨折)
B.軸椎骨折(ハングマン骨折)
C.歯突起骨折(dens骨折)
D.頚椎圧迫・破裂骨折
E.頚椎片側・両側椎間関節脱臼・骨折
F.胸椎圧迫・破裂骨折
G.腰椎圧迫・破裂骨折
索引
序文
骨折の治療成績は、患者に起因する要因を除けば、治療(保存療法あるいは手術療法)そのものとリハビリテーションの進め方の組み合わせによって決定される。骨折に対する治療法の選択は、単に画像上の骨折型だけに基づいてなされるものではなく、患者の年齢、活動度や社会的背景に基づいて、また、術後のリハビリテーションが安心して円滑に進められるようになされるべきである。
骨折の完全癒合を待たずに急性期からリハビリテーションを始めることが多くのケースで必要になる。臥床に伴う肺炎や尿路感染、不動に伴う関節拘縮や筋萎縮などを起こさないようにするためである。ここ10年から20年の間に内固定材料は大きく進歩した。ショートフェモラルネイルは大腿骨転子部骨折の治療において良好な固定性を与え、早期離床と早期荷重を可能にした。ロッキングプレートは骨粗鬆症患者の骨折治療においてスクリューの弛みやバックアウトを起こすことなく、良好で安定した臨床成績をもたらした。生体内吸収性プレートは旺盛な仮骨形成により、外固定期間のさらなる短縮が期待できる。インストゥルメンテーションを用いた脊椎手術は以前よりも安全に低侵襲で行うことが可能となり、適応が広がった。
昨今の医療現場においては、骨折の治療は役割分担が進んできている。急性期から慢性期(回復期、維持期)まで一貫して一人の医師が治療に携わるケースはほとんどない。骨折の治療は整形外科医が専門的に行い、骨折初期から機能回復に至るまでのリハビリテーションはリハビリテーション科の医師、理学療法士、作業療法士が専門的に行う。治療を担当するメディカルスタッフの連携がとても重要であるとともに、リハビリテーション医療が担う役割は非常に大きい。専門性が高くなればなるほど、互いの連携が難しくなるという懸念がある。在院日数は短縮される傾向にあり、より質の高いリハビリテーション医療が求められている。
従来、骨折後のリハビリテーションプログラムは、先輩医師(多くは執刀医)から口頭で伝授されてきた。若手の医師やリハビリテーションスタッフは系統的に骨折治療を学ぶ機会は少なく、臨床で経験した個々の症例から習得しているのが現状である。習得のレベルとプロトコールの正確度は、経験した症例内容と指導医の教え方に大きく依存することになる。そこでこのたび、豊富な経験と科学的根拠に基づいて、骨折の治療とリハビリテーションの進め方を標準化したのが本書である。本書に目を通しながら各骨折の治療経過をシミュレーションすることができる。
本書の特徴は、実際に執刀する整形外科医と、その後の運動器のリハビリテーションを担うリハビリテーション医およびメディカルスタッフの手によって、全身の代表的な骨折ごとに、治療法の選択とリハビリテーションの具体的なプロトコールについて詳細かつ経時的に記載されていることである。外固定の仕方や装具の使い方が精緻なイラストで示され、術前後のX線写真が解説されている。さらに、荷重、可動域訓練、筋力強化訓練の方法と進め方について、週単位で骨折部の状態を把握しながら理解できるよう記載され、注意点や臨床的意義がわかりやすく書かれている。
整形外科とリハビリテーション科の専門医と若手医師、理学療法士、作業療法士、リハビリテーションに携わる看護スタッフのすべての方々に、日常臨床における実践的な教科書あるいは指針として本書がお役に立てば幸いである。
2017年4月
酒井昭典
佐伯覚
「整形外科は骨折に始まり骨折に終わる」と、ご高名な先生のお言葉にあるように、骨折は整形外科を語るうえで欠くことのできない代表的な疾患である。整形外科医にとってもっとも身近な疾患といえる骨折ではあるが、その治療の歴史は決して輝かしい道のりばかりでなく、むしろ苦難の連続であった。骨折治療が難渋する最大の理由は、何といっても無限とも思えるそのバリエーションの広さである。それは単に骨折形態の個体差にとどまらず、骨強度、閉鎖性・開放性、軟部組織損傷の合併などがさまざまな程度で組み合わさることにより、その治療体系を複雑なものにしている。つまり骨折のバリエーションは治療における難易度のバリエーションと言い換えることもできる。百戦錬磨のベテラン整形外科医をもってしても、時には先のみえぬ迷路に迷い込み悪戦苦闘を強いられることもある。「完全な局所解剖の知識、洗練された識別力、冷静な判断力、豊富な経験、細心の注意、一言でいえば外科的技能と力量の総合力が試される」とは、1800年代に記された言葉であるが、200年後の現代でも決して色褪せていない。
さてここで、本書のタイトルである「骨折の治療指針とリハビリテーション」に注目する。読者の中には、前述のようにバリエーション豊富な疾患に対して、さらに多くの要因が関与するリハビリテーションを明快に示すことがはたして可能なのかと、疑問に思う方も少なくないのではないか。いかにももっともな疑問であり、まずはこの難題に真っ向から挑んだ、産業医科大学チームの酒井昭典教授、佐伯覚教授、各執筆者に敬意を表したい。そんな思いでページをめくると、そこには「標準的な骨癒合期間」、「標準的なリハビリテーション期間」の見出しが。それを目にして、いかに複雑な治療体系であっても、すべての基本は標準を知ることが第一歩と気づかされる。標準を知らずして応用はない。標準的なリハビリテーションを理解したうえで、個々の症例に応じプラス・マイナスを追加することによって、カスタマイズを理路整然と行うことができる。
上記を理解したうえでもう一度見返す。第II章以降の各論では、「治療の指針」として治療のゴールが整形外科とリハビリテーションで別々に提示されている。前者ではめざすべき整復位が、後者では関節可動域、筋力が含まれており、いずれも客観的に定量評価可能な指標であり臨床現場での有用性が高い。これに加え治療法の適応、注意点、合併症が述べられており、後述されるリハビリテーションを円滑に行ううえで重要なポイントととなる。「治療の実践」は本書の肝となる部分であり、もっとも多くのページ数が割かれている。受傷から16週後までを時系列で5期に分け、骨癒合状態、理学・画像所見、固定方法、注意点をふまえ、具体的なリハビリテーション処方が示されている。骨折治療の最大の問題点として、骨折部の力学的強度を直接計測できない点があげられる。本書では種々の“状況証拠”を示すことによって、安全なリハビリテーションのすすめ方に説得力をもたせている。最後に各項のまとめとして「時期別の患者ケア一覧」が掲載されており、全体的な整形外科治療、リハビリテーションの流れを把握するうえでたいへん重宝と感じた。
編者が本書の序文でも強調しているように、骨折治療において良好な臨床成績を得るためには、整形外科治療とリハビリテーションが綿密な連携のうえで行われることが不可欠である。「整形外科治療の意図を理解したリハビリテーション」、「リハビリテーションを念頭においた整形外科治療の選択」を相互に意識することにより、はじめてそれらは実現する。本書は骨折治療における単なるリハビリテーションテキストとしての域を超え、両者に情報共有と共同作業の意識づけをうながすのにはうってつけの一冊である。骨折治療に携わるすべてのスタッフに推奨したい。
臨床雑誌整形外科68巻12号(2017年11月号)より転載
評者●弘前大学大学院リハビリテーション医学講座教授 津田英一