てんかん白書
てんかん医療・研究のアクションプラン
編集 | : 日本てんかん学会 |
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ISBN | : 978-4-524-25963-2 |
発行年月 | : 2016年10月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 206 |
在庫
定価2,860円(本体2,600円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
てんかん診療に携わる医師・医療スタッフだけでなく、官公庁・政策関係者、製薬企業社員、メディア関係者、患者とその家族ら向けに日本てんかん学会が編集した“白書”。てんかんは、その病態から、自動車運転免許の問題、職業や教育上の配慮、偏見への対応など、社会的な課題の多い疾患の一つである。その診療や臨床研究、社会的取り組みなどの最新の実情を紹介し、さらに今後の展望や同学会からの提言をまとめた。
総括:行動プランと推奨
1 行動プラン
2 推奨(総括)
I てんかんの医療
1 疫学
a.有病率・発病率
b.事故・死亡率
2 病因
3 診断
a.分類
b.生理
c.画像
d.遺伝子・染色体
e.免疫・その他の診断
f.神経心理など
4 治療
a.予防
小児期
成人期
b.薬物治療
小児期
成人期
重積
c.外科治療
切除外科治療
緩和外科治療
d.その他の治療
5 てんかんケア(リハビリテーション,包括医療)
6 性
7 年齢による特殊性
a.新生児
b.小児と思春期
c.高齢者
8 併存障害
a.発達
b.身体
c.認知
d.精神
9 経済的側面(診療報酬)
10 社会的側面
a.教育
b.雇用
c.保険など
d.偏見
11 危機管理
II 法・制度
1 医療と福祉をめぐる制度
2 法・制度と資格
3 運転免許
III てんかん教育と啓発
1 専門職
a.医師と医学生
b.医療専門職
c.非医療専門職
2 一般啓発
a.メディア
b.学校教育
c.一般啓発
d.患者・家族の教育
IV てんかん医療とケアのシステムと連携
1 てんかん医療システムと連携
2 てんかん医療の移行
3 てんかんケアシステムと連携
V てんかん組織と活動,情報とネットワーク
1 医療組織と活動
2 非医療組織と活動
3 情報とネットワーク
VI 研究
1 基礎研究とトランスレーショナル研究
2 臨床研究
a.小児期
b.成人期
c.脳神経外科
3 併存症の研究
4 社会医学研究
VII 国際関係
略語一覧
用語集
索引
序文
てんかんは、西洋では悪霊に取りつかれるという考え方が根強かった。日本では、俗称「くつち」とも呼ばれ、また、中国から「癲癇」という呼称も取り入れられた。この半世紀を振り返ると「てんかん」という疾患はその概念をはじめ、基礎的ならびに臨床的に飛躍的な進歩を遂げた。2005年に国際抗てんかん連盟と国際てんかん協会が検討し、その定義は、「てんかん発作を引き起こす永続的な素因と、この状態に基づく神経生物学的、認知的、心理的、社会的帰結に特徴づけられる脳障害である」という患者の日常生活の状態を加味した「包括的」定義がなされた。日本では日本てんかん学会と日本てんかん協会が毎年10月をてんかん月間と定め、北米では3月にパープルデーがあるが、国際的に心を1つにすることを目的に2015年に世界てんかんの日が月の第2月曜日と定められた。WHOの2015年の総会で、てんかんの医療が最重要課題として採択され、てんかんのある人の権利を促進・保護する政策や法律を、各国政府が策定・強化・導入する必要性が強調された。これを受け日本ではてんかん地域診療連携体制整備事業が、国との連携で8つの自治体事業として始まった。
わが国のてんかんのある人は100万人にのぼると推計されており、高齢社会の進行に伴い、その数は増加傾向にあるといわれている。近年、基礎医学の進歩に伴い、科学的根拠に基づき、新規抗てんかん薬が次々登場し、ドラッグラグも少しずつ解消し、外科治療、ケトン食療法など治療も進歩している。しかし、日常生活のなかでの発作の突然性、激越性、意外性から、資格制限、職業や教育上の配慮、偏見への対応などについて、てんかんのある人も家族もいまだに悩まされており、他疾患に比し、社会的側面の課題が多い。そこで、日本てんかん学会の編集により、わが国のてんかん医療の実情と今後の研究、社会面・経済面の課題と展望などを「白書」としてまとめ、学会活動、政策提言の基礎資料となる書籍として刊行することとした。対象は、てんかん診療に携わる医療者、各省庁、政治家、政策関係者、メディア関係者、てんかんのある人とその家族などである。
てんかんのある人の病状は多彩であり、医師の間でも理解されがたい。社会生活にほぼ問題のない方も多いにもかかわらず、診断開示により残念ながら、社会的制約を受ける場合もいまだ多い。これからは、てんかんを隠す時代から、理解していただくことにより、明るく開示できる時代になることが目標である。秋元波留夫先生が初代会長、同理事長として創立された日本てんかん学会は、精神科、神経内科、小児科、脳神経外科などの会員からなる学際的なものである。本年50回学術集会を迎える。それに際して、長期計画委員会委員長井上有史先生の提案で、てんかん白書を作成し出版することが理事会で発案・承認された。
本書により、てんかんの実態を行政をはじめとする広く世の中の方に理解していただき、その理解に基づき、教育現場や就労の場面、日常生活の場面などで知恵を活かしていただき、一億総活躍社会にあって、てんかんのある人が、その自身の能力を最大限に活かして社会の一員としてその生涯を全うできることを期待する。
2016年9月
一般社団法人日本てんかん学会理事長、学校法人東京女子医科大学名誉教授
大澤眞木子
わが国において、てんかん領域の白書が出されたのはこれが初めてではない。1981年(昭和56年)に京都で国際てんかん学会議が開催された際に、日本てんかん協会が主催した「国際てんかん学公開講座81」の記録が「てんかん学の軌跡」としてまとめられ、それが契機となって『てんかん白書’83「てんかん問題の現状と課題」』(日本てんかん協会(編)、1983年)が出版された。さらにまた、この白書に引き続き、日本てんかん協会は日本てんかん学会と協力して、「てんかん総合対策の樹立に関する研究委員会」を設立し、その研究会の報告書が『てんかん制圧への行動計画』(秋元波留夫(編)、1986年)として出版されている。
本書もこのような流れを汲み、日本てんかん学会と日本てんかん協会合同の「てんかん白書編集委員会」によって編集されており、しかも、本書の下敷きになっている「てんかんに関する宣言(てんかん宣言)」(2013年)も二つの組織の合同による作成であるということに重要な意味がある。
てんかんは脳の科学というきわめて基礎的な学問の上に、いくつかの診療科にまたがって診断と治療がなされるが、それだけに留まらず、そこにはてんかんという病気を抱えている人の生活があり、社会との関わりがあるという、きわめて学際的にして包括的な視点が求められる疾患である。したがって、日本てんかん学会と日本てんかん協会という車の両輪が手を携えて行動しない限り、てんかんの問題は解決しないのである。
ところで、「白書」と呼ばれるものに共通するコンセプトは“現状を明らかにし”、それに基づき“将来の展望を語る”という点である。本書も例外ではない。
本書では「てんかんの医療」、「法・制度」、「てんかん教育と啓発」、「てんかん医療とケアのシステムと連携」、「てんかん組織と活動、情報とネットワーク」、「研究」、「国際関係」といった大項目について、“現状を明らかにして、将来の展望を語る”という「白書」としての役割を余すところなく果たしている。
すなわち、それぞれの項目が「概説」、「現状と問題点」、「結論:今後に向けて」という小見出しでまとめられており、書き手は、いずれも現在現場でアクティブに活動している方々である。それだけに、どの項目も最新の知見を具体的な記載で、大変読みやすくまとめられている。その意味では、本書は良質な教科書である。すでに述べたように、いずれの項目も明確な共通の小見出しにまとめられており、大項目は、病因などの基礎的な話から医療的な側面、そして社会的な側面に分かれているので、どこからでも読みたいところだけ読めばよく、知りたいことを知ることができるという意味でも、またとない教科書である。
したがって、どのような形であれ、またどのような立場であれ、「てんかん」に関わる人は本書を手にすることによって、てんかんをめぐるさまざまな側面の現状と今後の課題を明確に知ることができる良書であり、少しでもてんかんに関わる人々にはぜひお勧めしたい一冊である。
臨床雑誌内科119巻5号(2017年5月号)より転載
評者●埼玉医科大学名誉学長 山内俊雄