外来診療・栄養指導に役立つ胃切除後障害診療ハンドブック
編集 | : 「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループ/胃外科・術後障害研究会 |
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ISBN | : 978-4-524-25897-0 |
発行年月 | : 2015年7月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 188 |
在庫
定価3,850円(本体3,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
多様な臨床症状を呈する胃切除後障害をより早い段階で発見し、その診断と治療を体系的に行うためのハンドブック。多くの病院で行われている指導や対応の現状に即した構成で、日常の外来診療・栄養指導の際にも使いやすいよう、要点をコンパクトにまとめた。胃癌診療に携わる外科医、管理栄養士、その他の医療スタッフや患者にも有用な一冊。
序章
「胃切除後障害診療ハンドブック」の発刊にあたって
「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループについて
PGSAS-45/PGSAS-37質問票について
PGSAS(postgastrectomy syndrome assessment study:ペガサス)について
PGS(postgastrectomy syndrome:胃切除後障害)対応システム構築プロジェクトについて
第1章 胃切除後障害の総論
章のはじめに
総論
第2章 胃切除後障害の各論
章のはじめに
I.器質的障害
1.逆流性胃炎
2.逆流性食道炎
3.吻合部潰瘍・狭窄
4.胆石・胆.炎
5.輸入脚症候群
6.内ヘルニア
7.残胃の癌
II.機能的障害
1.胃切除後によくみられる症状と症状分類(下位尺度)
2.食道逆流
3.腹痛
4.食事関連愁訴(小胃症状)
5.消化不良
6.下痢
7.便秘
8.早期ダンピング症候群
9.後期ダンピング症候群
10.胃アトニー(atony)
11.Roux-en-Y症候群
III.吸収・代謝・栄養関連
1.胃切除後の消化・吸収・代謝の変化
2.体重減少(るい痩)−筋肉量と脂肪量の減少
3.脂肪消化吸収障害(脂肪便)
4.乳糖不耐症
5.骨障害
(付)こむら返り
6.貧血
7.食欲不振
第3章 胃切除後障害からみた各胃切除術式の特徴
章のはじめに
各胃切除術式の特徴
1.幽門側胃切除術Billroth-I法再建
2.幽門側胃切除術Roux-en-Y法再建
3.胃全摘術Roux-en-Y法再建
4.噴門側胃切除術
5.幽門保存胃切除術(PPG)
6.胃局所切除術
第4章 胃切除後障害の診断・検査の進め方
章のはじめに
診断・検査の進め方
1.患者が不調を訴えた際の鑑別診断
2.診察とルーチン検査の進め方
3.胃切除後の評価に使われる主な消化管機能検査
第5章 胃切除後障害の予防
章のはじめに
予防
1.胃切除後の食事に関する注意のポイント(胃を切った後の生活を快適に過ごすための食事の5か条)
2.食事の食べ方について確認すべき項目とその指導の実際(術前,退院前,退院後の食事指導の要点)
3.注意して食べたい食品・料理および調理法の工夫
4.中食,宅配,簡単クッキングについての具体的なアドバイス
5.外食における注意点,アドバイス
6.気をつけたい状況
7.補食(間食)の勧め
8.胃切除後に不足しやすい栄養素
9.胃切除後の生活に関する注意のポイント(体に優しい生活のための5か条)
10.胃切除後にお勧めの適度な運動とレジャー
11.社会生活への復帰(職場復帰の進め方)
12.病気と術後の身体の変化への向き合い方:メンタルヘルス
第6章 胃切除後障害の治療の実際
章のはじめに
治療の実際
1.栄養評価と食・生活指導
2.栄養治療(人工栄養管理:artifical nutrition)
3.薬物治療
4.手術治療
第7章 胃切除後障害を克服するためのロードマップ
章のはじめに
PGSを克服するためのロードマップ
1.PGSの発生要因
2.PGSを克服するためのチーム
3.PGSの検出・対応システム(3段階構想)
4.チーム医療連携の全体図
5.患者自身の対応(1):患者支援ツール
6.患者自身の対応(2):自己対処の要点
7.患者自身の対応(3):「振り返り日誌」の活用法
8.管理栄養士の対応(1):外来栄養相談,外来NST
9.管理栄養士の対応(2):PGSAS(ペガサス)アプリの活用法
10.医師の対応(1):PGSを検出する
11.医師の対応(2):アラーム徴候
12.医師の対応(3):検出したPGSへの対処法
巻末資料
1.患者支援ツールの案内文
2.PGS検出シート
巻頭言
外科的手術により臓器切除に伴う変化に対して、生体は適応すべく様々な反応や努力をするが、一定程度の術後障害が生ずることは少なくない。特に胃切除による変化は、モノを食べ、歩くことが基本の人間にとって極めて大きな障害であり、それゆえ、胃切除の歴史とともに長年にわたって様々な角度から検討され、その発生のメカニズムなどについても分析がなされてきた。しかしながら、診断、評価、治療については必ずしも統一したものはなく、また、個人差も少なくないことから治療に難渋することも事実である。
そのようななか、「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループにより、膨大なデータを収集することにより「共通の物差し」として胃切除後障害の評価基準となるPGSASが開発されたことは画期的であり、その評価に基づいた治療への新たな展開が期待されていたところである。そこで今回、その評価に基づいた診断、そして治療のための「胃切除後障害診療ハンドブック」が刊行された。
本書の基本姿勢としては、胃切除後障害をあくまで患者目線で考え、記載していることである。したがって、そのメカニズムを理解するうえで患者に説明しやすいよう様々な工夫がなされており、そして最大の特徴は、医師のみならず看護師、栄養士といっしょになったチーム医療による胃切除後障害の予防、治療のあり方が、実臨床に則したかたちで記載されていることである。医療人のみならず患者にとっても福音となるハンドブックであり、外来などの診療時に手元において大いに活用していただきたい。
本書の刊行にあたり、ワーキンググループとともにこの問題に取り組んできた胃外科・術後障害研究会を代表して、このような画期的な本を刊行することができたことを大変嬉しく、誇りに思うと同時に、グループを指導してきた中田浩二先生をはじめとした発起人の先生方、そして様々な分野のメンバーの方々に心より感謝と敬意を表したい。
2015年6月吉日
胃外科・術後障害研究会 会長
公立昭和病院 院長
上西紀夫
今般、胃切除後患者の診療に関係する医師、看護師、栄養士はもとより、胃を切除した患者に役立つユニークな実地診療ハンドブックが刊行された。近年、胃外科医療の現場においては早期胃癌が大半を占めるようになり、治癒あるいは長期に存命する患者は日増しに増加している。そのような状況の中、医療者側は術後障害を限りなくゼロにすべく努力はしているものの、胃切除術後の障害である器質的障害、機能的障害、消化吸収、代謝障害の栄養関連の術後障害で困っている患者は意外と多い。しかもその障害は継時的に複雑に変化するものである。
本書の編集にあたったのは、胃外科・術後障害研究会から派生したワーキンググループ「胃癌術後評価を考える」会の有志ら(図1)によるものである。その活動は胃切除後障害の克服に向けて多面的に取り組んでおり、本書はその成果の一つである。本書の特徴は、胃切除後の現場において実臨床にあたる医師、チーム医療の一端を担う栄養士、看護師、および患者らが三位一体となって考えられるよう記載されていることである。事実、術後障害を理解するうえで患者に指導、説明しやすいようにイラストを含め、さまざまな工夫が随所になされている。
本書のコンセプトは、(1)胃切除後障害を有する患者に対して、医療者(医師、栄養士)がその状況を理解し、適切に対応できるように必要な情報が取り込まれている。それも必要な部分を適宜取り出して役立てるようになっている。(2)患者の目線に立って図や表を多用し理解しやすい。(3)医療者側にとっても指導のポイントを意識した内容であり、evidenced basedではなく、患者との対話によるnarrative basedによる実践に即した構成である。
具体的には、総論と各論からなり、各論では術後障害からみた手術術式の特徴、術後障害の診断・検査のすすめ方、その予防と治療の実際を目の前の患者の事例別に理解できるようになっている。最後に胃切除後障害を克服するためのロードマップとともに、チーム医療連携の支援ツールが巻末資料として示されているのもありがたい。
いずれにしても明日からの診療の現場で役に立つ診療ハンドブックであることは論をまたない。胃切除後障害に悩む患者にも多いに役立てていただきたいものである。
臨床雑誌外科77巻11号(2015年11月号)より転載
評者●鹿児島大学名誉教授/元胃外科・術後障害研究会会長 愛甲孝
胃切除後障害に関してこんなに詳しく、また、こんなに読みやすい本を初めてみた。これを作られた先生方の才能と努力に感嘆している。
Helicobacter pylori感染者の胃がん発症リスクが高いことが明らかとなり胃がんハイリスクグループの設定が可能となった。また、内視鏡検査の質も高くなり内視鏡切除が可能な早期胃がんの発見率が向上した。このため、最近ではESD(Endoscopic Submucosal Dissection)で治療される胃がん患者が増加し、胃切除手術を受ける例が減っているように感じる。しかし、私の勤める病院では、今でも年間数十例の胃切除手術が行われており、手術後の経過観察目的で消化器内科を受診する患者も少なくない。これらの患者の多くはやせており、ダンピング症状や胃もたれ症状、下痢、胸焼けを訴える例も多く胃切除後障害を有する患者は少なくないと感じている。
この度、出版された「外来診療・栄養指導に役立つ胃切除後障害診療ハンドブック」は、胃切除後障害の患者を診療することの多い、消化器内科医、消化器外科医だけではなく、栄養士、薬剤師にも最適なガイドブックである。
本書には正常な胃や腸管の生理機能の説明から胃切除後障害の起こるメカニズムまでが詳しく書かれている。各論では、すべての胃切除後障害が網羅され、症状、病因・病態、術式との関係、診断、治療、予防と指導方法が順次記載されている。これだけの内容を記載すると、つい詳しくなりすぎて読みにくくなるものであるが、文章が短く、箇条書きが多いため理解しやすい。さらに、わかりやすい図が各所に付加されていて内容の理解を助けてくれる。頭に残りやすい図であるため、私は学生講義でこの図を使ってやろうと不謹慎にもコピーをとってしまった。
本書は消化器外科の先生方が胃切除後障害の評価をどのように行うべきか検討した研究活動から生まれたガイドブックである。胃切除後障害を検出するための質問票やチームで対処するコツなども記載されており、大変使いやすいマニュアルとなっている。本書を読み切ると胃がどんなに複雑な生理機能を行っているのか、どんなに重要な臓器であるのかを改めて理解することができ、何だかちょっと嬉しくなってしまう。
最近遠視が混じって小さい字が読みにくくなっている私でも半日で楽しく、全頁を読み切ってしまった。たくさんの方に本書を読んでいただき、胃の生理機能の不思議に感動していただくとともに胃切除後障害の患者の診療に役立てていただきたい。
臨床雑誌内科117巻4号(2016年4月増大号)より転載
評者●島根大学第二内科教授 木下芳一