胃がん・大腸がん薬物療法ハンドブック
編集 | : 室圭 |
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ISBN | : 978-4-524-25879-6 |
発行年月 | : 2016年8月 |
判型 | : 新書 |
ページ数 | : 352 |
在庫
定価4,620円(本体4,200円 + 税)
正誤表
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2016年12月05日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
がん罹患数でも上位を占める胃がん・大腸がんの薬物療法について、副作用マネジメントなども含め、必要十分な情報をコンパクトにまとめたポケットサイズのマニュアル書。各レジメンの冒頭には、投与スケジュールや必要な検査、主な副作用が一目で把握できる表を掲載。臨床現場における注意点や治療のコツ、新薬情報まで網羅した胃がん・大腸がん診療に携わるすべての医療者必携の一冊。
第I章 総論
1.胃がん治療のアルゴリズム
2.胃がん薬物療法の概要と今後の展望
3.大腸がん治療のアルゴリズム
4.大腸がん薬物療法の概要と今後の展望
第II章 薬物療法の実践
A.胃がん
1.S-1単独療法
2.S-1+cisplatin併用療法
3.irinotecan+cisplatin;biweekly併用療法
4.fluorouracil+l-LV併用療法
5.weekly paclitaxel単独療法
6.nab-paclitaxel単独療法
7.docetaxel単独療法
8.irinotecan単独療法
9.docetaxel+cisplatin+S-1併用療法
10.trastuzumab+XP(SP)併用療法
11.SOX/CapeOX併用療法
12.weekly paclitaxel+trastuzumab併用療法
13.weekly paclitaxel+ramucirumab併用療法
B.大腸がん
1.mFOLFOX6+bevacizumab併用療法
2.mFOLFOX6+cetuximab/panitumumab併用療法
3.CapeOX+bevacizumab併用療法
4.capecitabine+bevacizumab併用療法
5.SOX+bevacizumab併用療法
6.FOLFIRI+bevacizumab併用療法
7.FOLFIRI+cetuximab/panitumumab併用療法
8.FOLFOXIRI+bevacizumab併用療法
9.sLV5FU2+bevacizumab併用療法
10.irinotecan+cetuximab/panitumumab併用療法
11.cetuximab/panitumumab単独療法
12.UFT+LV併用療法
13.S-1+irinotecan併用療法
14.regorafenib単独療法
15.TAS-102単独療法
16.FOLFIRI+ramucirumab併用療法
第III章 主な有害事象への対策
1.全身に関係する有害事象
2.骨髄抑制
3.発熱性好中球減少症
4.間質性肺炎
5.消化器毒性
6.循環器系障害
7.肝機能障害
8.腎機能障害
9.皮膚障害
10.手足皮膚反応
11.末梢神経障害
12.アレルギー反応・infusion reaction
13.電解質異常
14.CVカテーテル(ポート)トラブル
第IV章 胃がん・大腸がんの緩和ケア
1.胃がん・大腸がんの緩和ケアの注意点
2.腹膜転移(腹水・イレウス)への対応
3.疼痛に対する薬物療法
4.骨転移に対する薬物療法
第V章 胃がん・大腸がんのチーム医療
1.胃がんチーム医療の実際
2.大腸がんチーム医療の実際
付録
有害事象共通用語規準(CTCAE)
索引
序文
近年、胃がん・大腸がんの薬物療法の治療成績の向上には著しいものがある。分子標的治療薬をはじめとする新規薬剤の承認・臨床導入、新たな併用療法の開発が行われ、それらが臨床現場に根付いてきている成果といえるだろう。一方、各種治療レジメンは多種多様に複雑化し、専門家であっても用法・用量、投与スケジュールをすべて把握することが難しくなってきているのが現状である。ましてや、研修医や経験の浅い医師・医療スタッフが、投与スケジュールはもとより、支持療法や起こりやすい副作用とその時期等に関して、すべてを理解し把握することは至難の業である。
本書はそんな医療者の方々へ向けて企画・編集され、ハンディであるにもかかわらず“かゆいところに手が届く”内容となっている。見やすさ、わかりやすさ、詳しさの点であらゆる工夫が凝らされており、強みは、なんといっても本領域のエキスパートといえる豪華な執筆者の布陣である。本書は、さまざまな病態をもつ多くの患者の治療を自ら行い、あらゆるエビデンスを熟知した、高い臨床力を有する新進気鋭の消化器腫瘍医の知識と経験の賜物である。困ったときに辞書のように使うのも一手であるが、ぜひ全編を最初から熟読していただきたい。
本書が、胃がん・大腸がんの治療に真摯に取り組んでいる医師・医療スタッフにとって、日常診療の一助となることを心より願っている。
2016年7月
室圭
日本人において消化器がん、とくに胃がん・大腸がんは罹患率、死亡率ともにトップ5に入る、遭遇する機会のきわめて多い悪性疾患である。診断されてからその経過中に、多くの患者が術後アジュバントあるいは進行・再発がんのためにがん薬物療法(以下、薬物療法)を受けることになり、全がん患者のなかで薬物療法を受ける胃・大腸がん患者の割合は高い。すなわち化学療法センターで治療する機会が最も多いがん種である。さらに、がん診療を専門とする医師・看護師・薬剤師ばかりでなく、非専門の医療者においてもがん薬物療法の副作用マネジメントやNSAIDs、オピオイドによる適切な疼痛コントロール、終末期緩和医療に関わる機会は多い。
そういった状況下で、本書は手軽に参照できる冊子として位置づけられる。まず、小さくてポケットに入り、持ち運びに便利である。また、がん診療の領域では略語が多く、そのfull spellを探すのに苦労するが、テキストに入る前に本文でよく出てくる略語がfull spellとともに表にしてまとめられており、用語参考リストとしての機能を果たしている。
次に「総論」において、胃がん・大腸がんの大腸癌研究会のガイドラインに沿って治療アルゴリズムをもとに治療の流れを概説している。標準治療であるエビデンスの存在する一次・二次治療が無効になった症例に対して、エビデンスの乏しいそれ以降の治療選択について患者・家族に話ができるように、現存する情報と現在進行中の臨床試験が記載されている。また、現在治験中の薬剤の紹介もあり、標準的な治療をし尽くした患者にも、希望の火を消さない配慮がなされている。
「各論」の薬物療法の実践においては、レジメンごとに用法・用量、実際的な投与法、注意点・確認点が記載され、経験の浅い医療者にとっては、複雑なレジメンでも記載に沿って実施すれば薬物療法を完遂することができ、また誤投与を防ぐ安全管理面での配慮もされている。執筆者の経験を含め、「困ったときの工夫」、「患者への指導のポイント」は示唆に富むもので、非常に参考になる。
近年開発されている抗がん薬の多くは分子標的治療薬で、間質性肺障害や皮膚障害が用量規定因子となる、従来の殺細胞性抗がん薬とは異なる副作用プロファイルをもつ。本冊子の後半は100ページ近い紙数を使って有害事象対策や緩和ケアについて記載がなされている。とくに消化器がんで悩まされる腹膜転移やイレウスについての記載は参考になる。さらに、がん医療の実践はチーム医療であるが、その重要性と実際について胃がんと大腸がんを別に項目立てし記載されているところが興味深い。すなわち、それぞれのがんの臨床的な特徴、経過を踏まえて、チームとして対応する際の留意点が記載されていて、経験の少ない医療者をサポートする意図がみえる。
本冊子はハンドブックとはいえ、薬物療法ならびにその副作用対策を網羅し、チーム医療で患者を包括的に診療することを基本において書かれたものであり、胃がん・大腸がんを診療する医療者にとって大変有用な実践書ということができる。常時白衣のポケットに入れて参照・活用いただきたい良書として強く推奨したい。
臨床雑誌内科119巻6号(2017年6月号)より転載
評者●福岡大学総合医学研究センター教授 田村和夫