書籍

てんかん、早わかり!

診療アルゴリズムと病態別アトラス

編集 : 池田昭夫
ISBN : 978-4-524-25867-3
発行年月 : 2020年9月
判型 : B5
ページ数 : 236

在庫あり

定価5,500円(本体5,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

てんかん診療のエキスパートが、診療の基礎から実践までを体系立ててわかりやすく解説した実践書。非専門医が苦手意識を持ちがちな脳波判読や発作症状を「アトラス」としてまとめ、病態ごとに診療アルゴリズムも掲載、さらに新規抗てんかん薬による治療やてんかんの社会的側面も網羅。迷いなくてんかん診療に臨むための指針となる一冊。

口絵
A.脳波所見アトラス,画像所見アトラス
 脳波所見アトラス
  中心・側頭部に棘波を示す良性小児てんかん
  側頭葉てんかん:発作時脳波
  側頭葉てんかん:発作間欠期脳波
  前頭葉てんかん:発作時脳波
  前頭葉てんかん:発作間欠期脳波
  定型欠神発作:発作間欠期脳波
  非定型欠神発作
  光突発反応
  若年ミオクロニーてんかん
  Lennox-Gastaut症候群(速律動)
  Lennox-Gastaut症候群(脱力発作)
  非けいれん性てんかん重積状態
  14&6Hz陽性群発:14&6Hz陽性棘波
  6Hz棘徐波
  睡眠時良性てんかん型一過性波:小鋭棘波
  三相波
  群発・抑制交代
  周期性同期性放電:無酸素脳症
  周期性放電:全般性周期性てんかん性放電
  周期性放電:周期性一側性てんかん性放電
 画像所見アトラス
  海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん
  限局性皮質異形成
  自己免疫性てんかん
  神経線維腫症I型
  神経皮膚症候群(結節性硬化症)
  血管奇形(海綿状血管腫)
  視床下部過誤腫
  Rasmussen脳炎
  FDG-PET
  発作時脳血流SPECT
  MRI:arterial spin labeling(ASL)
B.てんかん診療アルゴリズム
 診断・検査の流れ
  発作の診断・てんかんの診断の手順
  一般的な診療の流れと検査の関係
 各種病態の診療アルゴリズム
  発作型と抗てんかん薬の選択
  部分てんかん
  外科的治療の対象となるてんかん症候群
  若年ミオクロニーてんかん
  症候性全般てんかん(成人)
  症候性全般てんかん(小児)
  急性症候性発作
  てんかん重積状態
  てんかんに伴う精神症状
序章 モノローグ
第I章 てんかんの基礎知識
 1.てんかんとは
 2.てんかんの種類
第II章 てんかんの診断と検査
 1.診断の手順とポイント
 2.診察のコツ
 3.発作症状をマスターする
 4.検査の種類と選択方法
 5.誤診をなくすために
第III章 てんかんの治療法
 治療の総論と概要
  1.治療法の選択
  2.薬物療法
   a)総論
   b)小児での薬剤選択と投与法
   c)高齢者での薬剤選択と投与法
   d)妊娠可能年齢の女性における薬剤選択と投与法
   e)副作用とその対策
  3.外科的治療法
  4.その他の治療法
  5.発作の誘因とその対処法
第IV章 てんかん診療の実践
 病態別診療マニュアル
  1.部分てんかん
  2.外科的治療の対象となるてんかん症候群
  3.若年ミオクロニーてんかん(JME)とその類縁疾患もしくは特発性全般てんかん(IGE)
  4.症候性全般てんかん
   a)成人
   b)小児
  5.急性症候性発作
  6.てんかん重積状態
  7.てんかんに伴う精神症状
第V章 てんかんの社会的側面
 1.てんかんと発達・発達症
 2.てんかんと教育
 3.てんかんと職業
 4.てんかんと日常生活
索引

序文

 ヒトは生まれてから一生涯を終えるまでに、10人に1人は少なくとも1回のいわゆる「てんかん発作」を経験するという統計があります。これは慢性のてんかん症候群だけではなく、周産期の問題や老年期の急性脳血管障害などの急性症候性発作までを含んだ数値です。すなわち、ヒトの脳は興奮と抑制のバランスで高度の脳機能が営まれていて、そのバランスが崩れると、比較的容易に「てんかん発作」を引き起こすこととなります。本書では、慢性の「てんかん病態」と「急性症候性発作としてのてんかん発作」との両者をカバーしています。
 歴史的に精神科疾患とみなされてきた「てんかん」は、今は神経細胞異常を基盤とした神経疾患とみなされ、その診療は臨床神経科学的分野の発展に伴い、加速度的に進歩しています。「てんかん」の臨床は21世紀になり大きな進歩と変化がありました。たとえば、(1)1990年代以降は、患者さんの年齢層、診療内容、併存疾患などに応じて、小児科、精神科、脳外科、神経内科の多診療科が広く対応する、まさに国民病的な色彩を呈してきました。(2)人口構造と疾病特徴の変遷に伴い(特に本邦では超高齢社会となり)、高齢者てんかんが増加しました。(3)自己免疫性てんかんという新病態の発見、てんかん重積が従前よりも非常に多様であることなど、次々に明らかとなってきました。(4)それに伴い、21世紀のてんかん発作とてんかん分類は、日進月歩の進歩を取り入れ新しくなりました。
 本書は、このようなてんかんを取り巻く多様な状態と新しい進歩を、わかりやすく一冊にまとめて、幅広いニーズに応えることを目的としました。初期研修医、神経系を対象とする各診療科(小児科、脳神経内科、脳外科、精神科、集中治療科、救急医学科など)の修練医だけでなく、medical staff(脳波検査技師、関連診療科のナースなど)の皆様まで、広くお役に立つように編集しました。具体的な本書の特徴は、以下の4点です。
 (1)最初に、代表的なてんかん病態の脳波アトラスと画像アトラスを配置しました。
 (2)各種てんかん病態の診断と治療のためのアルゴリズム12ケースを、まとめて示しました。
 (3)各論最初のモノローグで、問診から診察、検査、評価、診断、治療のプロセスの流れの実例を、物語形式で紐解きました。
 (4)専門用語は可能な限り日本語と英語の併記を心がけ、てんかんの「発作分類」や「症候群分類」については、その旧分類と新分類での対応表を作成しました。
 てんかん診療では、脳波、画像、抗てんかん薬、各種法令と社会制度など、実にさまざまな知識が必要となりますが、本書では、これらの内容をすべて包含しています。より専門的な内容は専門書を参考にしていただくとして、本書は通読して内容を俯瞰する以外に、臨床現場に即して関連部分を参照して使用していただくことができるようになっています。
 本書が広く皆様のお役に立つことを願っています。最後に、編集方針にご賛同いただき、各章を分担執筆いただきました多くの先生方、編集協力者の皆様、編集部の皆様のご協力に感謝いたします。

2020年7月吉日
池田昭夫

 てんかんは100人に約1人が罹患するcommon diseaseであり,ほとんどの臨床医にとって日常診療で避けられない疾患である.適切な診断と治療によって約7割の患者の発作を抑制できることから,正しい理解が不可欠である.しかし現実には,てんかん発作を目撃することはきわめてまれで,ほとんどの場合,診察室で神経学的所見は正常であるため,患者や家族の訴えから病態を推察しなければならないことが少なくない.よって,このことがてんかんの診断を難しくしているといえる.また発作の症状は多種多様であり,痙攣発作を起こす疾患がてんかんとは限らない.さらに近年,副作用を軽減した新規抗てんかん薬が多数出現し,より病態に即した適切な薬物選択が要求されるようになっている.
 本書はこのような今日のてんかん診療の難点に対し,画像や実症例を交えて大変わかりやすく解説されている.日頃てんかんを専門外としている医師が読んでも理解しやすい一冊である.
 本書の特徴は以下の五つに集約される.
@代表的なてんかんの脳波所見と画像所見アトラスが豊富に掲載されている
 日常的に見かける異常脳波だけでなく,なかなか出会うことのない疾患特異性の高い脳波や,病的意義の乏しい境界域の脳波も掲載されており,検査結果を解釈する際に大きな手助けとなる.また,海馬硬化症や限局性皮質異形成などの器質的異常を呈する疾患の頭部MRI所見や,FDG‒PETといった最新の核医学検査所見も掲載されており,検査をオーダーする際の参考にもなる.
A診断から治療のプロセスがフローチャートでコンパクトにまとめられている
 てんかんが疑わしい場合に,検査はどれからオーダーすればよいか,診断や治療薬の選択はどうしたらよいかという疑問が,フローチャートをたどることで簡単に解決できる.焦点発作,全般発作という括りだけでなく,若年ミオクロニーてんかんではどうか,その類縁疾患ではどうかといったてんかんの代表的疾患ごとにまとめてあり,きわめてわかりやすい.また,後期研修医K君と上級医I先生の対話形式で診療プロセスが紹介されており,実際の臨床現場にいるようでリアリティに富んでいる.
Bてんかんの旧分類と新分類の違いが表にまとめられている
 かつて「部分発作と全般発作」で大別され,われわれが慣れ親しんできた1981年てんかん分類は改訂され,2017年に国際抗てんかん連盟(ILAE)により最新の「発作分類」と「てんかん分類」が提唱された.しかしながら,この新分類はやや複雑でとっつきにくい点も多い.本書では,両者の変更点を表にして1対1対応で表記されていて理解しやすいよう 工夫されている.
Cテーラーメイドを心がけた治療法が記載されている
 一般的な抗てんかん薬の選択方法だけでなく,高齢者の場合や妊娠可能な女性の場合など,特殊であるが臨床上重要な病態ごとに分けて治療法が紹介されている.また,外科的治療の適応や薬物療法から移行するタイミングについても詳細に解説されており,小児科,精神科,脳神経内科,脳神経外科など多科にまたがる症例でも,各々の患者のステージングに合わせた治療法の選択が可能となっている.
D病状説明のテクニックや,てんかんの社会的側面についても詳細に触れられている
 てんかん治療は患者本人の理解と合意が必要不可欠であるため,とても参考となる.「車の運転」や「就労制限」など,昨今臨床の現場で問題にあがる内容について最新の法律や解釈を交えて客観的に述べられており,患者に説明する際に大いに役立つ内容となっている.
 以上,本書の特徴的な項目を紹介させていただいたが,問診,診察,検査,評価,診断,治療のすべてがコンパクトに網羅されている.とくに日常診療に寄り添い読み手の専門性を選ばない内容となっており,今日のてんかん診療に関わるどの臨床医の手元に置いても役立つ,お勧めの一冊である.

臨床雑誌内科127巻6号(2021年6月号)より転載
評者●順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科 教授 服部信孝

9784524258673