書籍

心室頻拍のすべて

編集 : 野上昭彦/小林義典/里見和浩
ISBN : 978-4-524-25826-0
発行年月 : 2016年11月
判型 : B5
ページ数 : 352

在庫品切れ・重版未定

定価12,100円(本体11,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

“心室頻拍”に焦点を当て、その機序から、病理学的所見、マッピングに役立つ画像診断、薬物治療、デバイス治療、進歩の著しいカテーテルアブレーション治療まで、診療のすべてを網羅した決定版。様々な頻拍の発生部位や背景疾患ごとに診療の考え方・ポイントを解説。症例も多数収載されており、多様な起源をもつ心室頻拍の実践的な診療が学べる。不整脈医、循環器医必携の一冊。

第1章 総論−心室頻拍の診断・治療について知る−
 A.分類,基礎疾患,メカニズムなど
 B.心電図診断
  1.心電図鑑別法(wide QRS頻拍の鑑別法)
  2.非侵襲的リスク評価法
 C.治療に活かす診断法
  1.マッピングに役立つ画像診断(MRI,CT,ICE,PET)
  2.特発性心室頻拍のマッピング
  3.二次性心室頻拍のマッピング
 D.治療
  1.薬物療法
  2.デバイス治療
  3.特発性心室頻拍のアブレーション
  4.二次性心室頻拍のアブレーション
 E.病理
 F.トピック
  1.新たなカテーテルアプローチ法(心外膜アプローチ)
  2.新たな焼灼法(バイポーラ,ニードル,ケミカルアブレーション)
  3.心室頻拍・心室細動頻発時の対応
第2章 各論−臨床心室頻拍診療学:個々の心室頻拍の詳細−
 A.特発性心室頻拍
  1.右室流出路起源−特発性心室頻拍一般の心電図のアルゴリズム
   ■症例1 狭義の右室流出路起源と推測されたが肺動脈起源であった心室期外収縮症例
   ■症例2 右室流出路起源心室期外収縮(中隔起源と自由壁起源)
  2.三尖弁輪,僧帽弁輪起源
   ■症例1 イリゲーションカテーテルを用いた心内膜側からの焼灼が有効であった僧帽弁輪前壁起源(aortomitral continuityの側壁寄り)心室期外収縮
  3.肺動脈起源
   ■症例1 肺動脈隔離により根治し得た肺動脈起源心室頻拍/心室期外収縮
   ■症例2 左冠尖においてもperfect pace mapが得られた肺動脈起源心室期外収縮
   ■症例3 肺動脈起源特発性心室期外収縮
  4.冠尖と冠状静脈
   ■症例1 右室へのpreferential conductionが関与した大動脈無冠尖起源特発性心室頻拍
   ■症例2 左右の冠尖接合部から焼灼された心室期外収縮
   ■症例3 特発性流出路起源心室期外収縮−遠位大心静脈
  5.乳頭筋起源
   ■症例1 心腔内エコー画像と三次元マッピングの統合がアブレーションに有用であった左室前乳頭筋起源心室頻拍の一例
   ■症例2 CARTO SOUNDにてアブレーション部位を詳細に観察できた乳頭筋起源特発性心室頻拍の一例
  6.ベラパミル感受性
   ■症例1 焼灼成功部位に偽腱索を認めたベラパミル感受性特発性左室心室頻拍
 B.遺伝性疾患
  1.QT延長症候群
   ■症例1 electrical stormを呈したLQT2症例
   ■症例2 HERG遺伝子変異を有する右室流出路起源多形性心室頻拍
  2.カテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)
   ■症例1 カテコラミン誘発多形性心室頻拍に伴う失神時の心電図所見
   ■症例2 複数のトリガー心室期外収縮に対するアブレーションが奏効したカテコラミン誘発多形性心室頻拍
  3.特発性心室細動
   ■症例1 シロスタゾールが心室細動の抑制に有効であった早期再分極症候群
   ■症例2 トリガー抑制ではなく,プルキンエネットワークでの伝導修飾が心室細動抑制に有効であったshort-coupled variant of torsades de pointesの一例
   ■症例3 右室下壁プルキンエ末梢からのトリガー心室期外収縮へのアブレーションによって心室細動stormが抑制された早期再分極症候群
 C.脚枝間リエントリー性頻拍,束枝間リエントリー性頻拍
  ■症例1 脚枝間リエントリー性心室頻拍(BBR-VT)の一例
  ■症例2 束枝間リエントリー性心室頻拍(IFVT)の一例
  ■症例3 全周期の心内電位記録が得られた右脚ブロック型脚間リエントリー性頻拍
  ■症例4 A型脚間リエントリー性頻拍と脚枝間リエントリー性頻拍を合併した一例
 D.瘢痕部関連頻拍
  1.虚血性心疾患
   ■症例1 頻拍回路の同定されたOMI-VT
   ■症例2 心筋梗塞既往の心室頻拍storm症例に対するアブレーション
   ■症例3 high-density pace mappingが有効であった陳旧性心筋梗塞心室頻拍アブレーション症例
  2.拡張型心筋症
   ■症例1 心室中隔を主体に広範囲に低電位領域を認めたBecker型筋ジストロフィーに伴う心室頻拍
   ■症例2 心室頻拍の旋回路の一部が電気生理学的および病理組織学的に同定可能であった拡張型心筋症
  3.肥大型心筋症
   ■症例1 瘢痕間緩徐伝導部位が同定された肥大型心筋症に伴う心室頻拍
   ■症例2 左室瘤を伴う中部閉塞性肥大型心筋症の心室頻拍に対する心外膜アブレーション
  4.心サルコイドーシス
   ■症例1 心サルコイドーシスの心室頻拍アブレーション
   ■症例2 心室瘤を伴う心サルコイドーシスに生じた心室頻拍
  5.不整脈原性右室心筋症
   ■症例1 心外膜アプローチを行った不整脈原性右室心筋症の一例
   ■症例2 三尖弁輪を時計方向および反時計方向に旋回する心室頻拍を呈した不整脈原性右室心筋症の一例
   ■症例3 不整脈原性右室心筋症に対する抗不整脈薬治療
   ■症例4 不整脈原性右室心筋症に心室頻拍を合併した親子例
  6.開心術後(Fallot四徴症術後)
   ■症例1 大動脈弁・僧帽弁置換術後の心室頻拍アブレーション
  7.基礎心疾患を伴うプルキンエ関連頻拍
   ■症例1 心室細動およびプルキンエ関連単形性心室頻拍に対してカテーテルアブレーションを施行した虚血性心筋症の一例

序文

 この30年で頻拍性不整脈に対する検査法・治療法は格段の進歩を遂げました。様々な侵襲的・非侵襲的検査によってその機序が考察され、近年、不整脈外科手術やカテーテルアブレーション治療によってそれらの仮説が正しいことも証明されました。様々な抗不整脈薬も開発され、さらにカテーテルアブレーションやデバイス治療などの非薬物治療によって治療効果は格段に改善しました。
 しかし、頻拍の種類によってその治療効果にいまだ大きな差が存在していることも事実です。一部の上室頻拍症ではカテーテルアブレーションによって根治が得られるのに対し、治療効果が不十分な頻拍症も少なくありません。さらに、機序解明と治療効果が必ずしも一致していないこともやっかいな問題です。機序がよくわかっていて治療効果も高い頻拍はWPW症候群や心房粗動で、心房細動や心室細動は、機序は明確には不明で治療効果も高いとは言えません。一方、房室結節リエントリー性頻拍は、実は機序はよくわかっていませんが、その治療効果は極めて高いです。
 心室頻拍はどうでしょうか。心室頻拍の機序は相当詳細に解明されてきています。しかし、治療に関しては抗不整脈薬治療、デバイス治療、カテーテルアブレーション治療とも限界があり、思ったほどの恩恵を患者さんに提供できていないのが現状と思います。
 これまで不整脈全般に関する教科書や、心房細動アブレーション、デバイス治療に関する医学書は数多く出版されています。しかし、心室頻拍や心室細動のみに特化したものはわずかしかありませんでした。また、この分野における近年の進歩には著しいものがあります。それが本書『心室頻拍のすべて』を企画した理由です。本書においては、心室頻拍・心室細動の病理学的所見や機序、そして薬物治療、デバイス治療、新たなマッピング方法、カテーテルアブレーション治療のすべてを網羅しました。本書を通読いただくことにより心室頻拍のup-to-dateを理解できると思いますし、実際に各疾患の頻拍に遭遇した際には、各項目を参照することにより、その治療計画を立てる一助にもなるかと自負しております。
 本書がすべての心室頻拍・心室細動患者さんの助けになることを祈念します。

2016年10月
野上昭彦
小林義典
里見和浩

 徐脈性不整脈に対するペースメーカー植込み術と発作性上室性頻拍の治療法としてのカテーテルアブレーション治療は確立している。一方、心房頻拍と心室頻拍には多様なタイプ、異なる発生機序および種々の病因があり、各々に適した検査法と治療法が異なっているのでどの方法を選択すべきか難しいことがある。とくに、心室頻拍は頻拍のタイプ、発生機序および不整脈を起こしている原因疾患が多様で、すべての心室頻拍の最新の知見を学術集会およびJournalから得るには膨大な時間と努力が必要となり、忙しい臨床現場で診療・治療している医師にとっては難しい。本書は、前半の総論では心室頻拍を包括的な見地から解説し、後半の各論では心室頻拍をタイプ別と病因別に分けて詳細に説明しているので、この一冊で現時点での多種多様な心室頻拍の最新の知識を得ることができる。とくに、特発性心室頻拍は、本邦では比較的多い心室頻拍であり、また本邦から年々新しい研究がたくさん発表されているので、欧米の書籍ではあまり記述されていない新知識が本書では詳細に解説されている。
 第1章の総論では心室頻拍を特発性心室頻拍と二次性心室頻拍(瘢痕性)に大別し、両者の心室頻拍の診断法と治療法を総括的に解説している。内容も従来の心電図や臨床電気生理学的検査を中心とした検査に加えて、画像診断(MRI、CT)や病理という新しい切り口からの検査法も紹介している。また、トピックの項を設けて、新たなマッピング法(心外膜マッピング)や最新のアブレーション法(バイポーラ、ニードル、ケミカルアブレーション)を紹介・解説している。第2章の各論では、心室頻拍を病因別(特発性、遺伝性、虚血性、拡張型心筋症、心筋サルコイドーシス)に分類し、一般的な解説に続いて著者が経験した実際の症例を提示して診断・治療の重要なポイントなどを説明している。とくに、特発性心室頻拍に関しては、発生部位の違いから細かく分類し、各々の頻拍の特徴や心電図の特徴をあげ、アブレーション時の具体的な方法や注意点などを解説している。
 本書の執筆を担当した著者は、皆第一線の現場で不整脈治療に携わっている先生である。したがって、臨床で遭遇する多種多様な心室頻拍の診断や治療に迷う状況や疑問に対しての解決策を自分の経験を通じてわかりやすく説明してくれているので、読んでいると解説者の生きた声が聞こえてくる。
 本書は、心室頻拍の治療に携わっている医師にとっては治療の手助けとなるよい参考書であるとともに、学生と研修生にとっては心室頻拍の全般を理解するのを手助けするよい教科書である。

臨床雑誌内科119巻6号(2017年6月号)より転載
評者●岡山市立市民病院 大江透

9784524258260