続・エビデンスで解決!緩和医療ケースファイル
編集 | : 森田達也/木澤義之/新城拓也 |
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ISBN | : 978-4-524-25788-1 |
発行年月 | : 2016年2月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 220 |
在庫
定価3,850円(本体3,500円 + 税)
正誤表
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2016年02月22日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
緩和医療の現場で直面する難題に、クイズ形式で解決に挑む好評書の「続編」登場。前書に掲載できなかったシチュエーションに、最新のエビデンスも取り入れて幅広い内容に。熟練医師やスタッフの経験則に頼りがちな実際から、エビデンスを理解し具体的に現場に生かす“実践”へ。前書と合わせて活用すれば効果倍増。患者に寄り添う緩和医療をめざすすべてのスタッフにおすすめの一冊。
CHAPTER1 疼痛
CASE1 アセトアミノフェンは本当に効果があるの?
CASE2 これは「突出痛」なのか?
CASE3 「突出痛」らしい痛みに何を使うか?(1)
CASE4 「突出痛」らしい痛みに何を使うか?(2)
CASE5 膵臓がんの痛み(神経を巻き込む痛み)にオキシコドンはより効果的なのか?
CASE6 メサドンを使い出す前と後のモニタリング−QT延長症候群
CASE7 オピオイドからメサドンへの置き換え−ゆっくりやるか,一度にやるか?
CASE8 痛みが取り切れない(1)−困ったときに考えてみるケタミン
CASE9 痛みが取り切れない(2)−抗がん剤のしびれる痛み
CASE10 オピオイドの便秘に難渋
CASE11 オピオイドの吐き気が治まらない
CASE12 オピオイド投与中のせん妄の対応−オピオイドスイッチング後の次の一手
CASE13 「モルヒネは使わないでほしい」と家族に拒絶されたら?
CASE14 副作用に関する説明の仕方−偉大なるノセボ効果
CHAPTER2 疼痛以外の身体症状
CASE15 呼吸困難はモルヒネでどの程度改善するか?
CASE16 モルヒネはどの程度の確率で呼吸困難を改善するか?
CASE17 フェンタニル貼付剤を使用している人の呼吸困難をどうする?
CASE18 吐き気に「とりあえず?プリンぺラン」
CASE19 吐き気止めのチョイスは?
CASE20 消化管閉塞にオクトレオチドはいつまで入れるのか?
CASE21 終末期の輸液量をどうするか?
CASE22 がん患者の倦怠感にステロイドは効くの?
CHAPTER3 精神的サポートとコミュニケーション
CASE23 予後を伝えるとき,「そればかりはわかりません」はかえって良くない?
CASE24 治らないことを伝えれば良い,ってものでもないらしい
CASE25 「どう伝えれば良いんだろう」のような現場の質問で
CASE26 先々のことを話し合うことは大事
CASE27 療養場所を話し合うことは大切
CASE28 在宅療養への移行をどう紹介するか?
CASE29 退院前カンファレンスというコミュニケーションの価値
CASE30 スピリチュアルケアに生かすposttraumatic growth(外傷後成長)の視点
CASE31 家で最期を迎えたい患者の希望をどう叶えるか?
CHAPTER4 終末期ケア
CASE32 予後をどうやって予測するか?(1)−複数のツールの比較:どれが一番良いか?
CASE33 予後をどうやって予測するか?(2)−新しい予後予測指標の評価
CASE34 看取りの説明とパンフレットの使用
CASE35 終末期せん妄をどうするか?(1)−ケアのあり方
CASE36 終末期せん妄をどうするか?(2)−パンフレットの効果
CASE37 終末期せん妄−できれば予防したいけどできるのか?
CASE38 終末期せん妄とお迎え現象−「故人がみえる」ことについて
CASE39 死前喘鳴で苦しいと感じているのは誰?
CASE40 死前喘鳴への自宅での対応−抗コリン薬のエビデンス
CASE41 「苦痛緩和のための鎮静で寿命が縮むのか?」と聞かれたら
CASE42 鎮静薬の選択−ミダゾラム,フルニトラゼパム,フェノバルビタール?
索引
序文
『エビデンスで解決!緩和医療ケースファイル』が世に出たのが2011年、はやいもので4年が経過した。おかげさまで前書はそこそこの好評を博し、今回「続」編を発行することとなった。「続」編が発行されるということの意味は、「緩和医療に関するエビデンスが次々に生まれている」ということである。この数年間に、薬物療法ではケタミンとプラセボの比較試験、ヌクレオシドとプラセボの比較試験、ステロイドとプラセボの比較試験といった大規模でかつこれまでの経験則や教科書の記述を覆す臨床研究が発表された。これまで「効果があるだろう」と思われて使用されてきた薬剤が、(少なくとも研究対象の集団では)効果がないことが明らかにされたものも多かった。
精神的ケア・システムの領域では、早期からの緩和ケアの比較試験が相次いで実施されたり、Coping with Cancer(CWC)と呼ばれる進行がん患者のコホート試験が行われて、意思決定(アドバンス・ケア・プランニング)が患者家族の終末期のquality of lifeを大きく左右することが次々と明らかにされている。
わが国においても、緩和ケア領域の研究は検証試験でやや遅れをとっているものの地道に進んでいる。1990年代から行われたJ-HOPE研究による1万人の遺族調査はわが国でユニークなものであり、多くの「あのときこうしておけばよかった」ことを教えてくれるエビデンスが世界に発信され続けている。また、本書の刊行には間に合わなかったが、世界最大規模の予後予測研究であるJ-ProVal研究、ステロイドやモルヒネの効果がある患者と効果のない患者の予測を可能にするためにデザインされたJ-FIND研究、日常臨床で使用している薬剤の効果推定を行うPhase-R研究など多くの観察研究が成功しているか成功しつつある。ノバミンRの制吐効果などいくつかの検証試験でも完遂直前まできている。これらは「続々」編で(おそらく)紹介していけるだろう。
本書『続・エビデンスで解決!緩和医療ケースファイル』では、前書の形式を踏襲して、前述した新しいエビデンスをもとに、現場で理解しやすいように事例にあてはめて「最前線」で活躍する臨床家を中心に執筆いただいた。「エビデンスをつくる」ことと同じように、「エビデンスをどう生かすかを臨床家が伝える」ことも大切と考えている。「エビデンス」には賞味期限があり、新たなエビデンスによってその価値は変わるものである。本書が最近の緩和ケアのエビデンスを、「どう臨床に生かすか」を考えるきっかけになることを願っている。
最後に、多忙な臨床・研究の合間に本書の執筆を進めていただいたわが国の緩和ケア最前線にいる諸氏に感謝する。
2016年早春
森田達也
素晴らしい本である。エビデンスを臨床に活かす参考に満ちている。本書冒頭のアセトアミノフェンのケースを読むだけでもそれは伝わってくる。初めに、高用量のオピオイドが投与されているがん患者に対して、アセトアミノフェンを追加投与することは有用でないというエビデンスが示される。しかし、提示されている症例のなかで、諸事情を考慮した結果アセトアミノフェンの追加投与を検討するのが現実的だという推奨をしている。これには正直驚かされた。その諸事情は本書を読んでいただきたいと思うが、臨床現場の判断に近い思考過程からその推奨を行っている。初めにそのエビデンスが示されて読んだとき、エビデンス重視の結論が導き出されるものと勝手に想像していた。従来のエビデンス本はそうだったと思う。しかし、「エビデンスはそうでも、臨床ではこうなんだよ」、そう思うことが多かった。しかし本書は違う。エビデンスに長け、かつ緩和ケアの「最前線」で活躍する臨床家を中心に執筆されているからであろう。編集の森田先生、木澤先生、新城先生の三氏はいずれも研究と教育の日本のリーダーである。このことからだけでも本書の内容の深さがうかがわれる。
また、目次をみても本書の魅力が伝わってくる。緩和ケアの臨床現場でよく遭遇する臨床疑問に満ちているのである。それぞれの項目にふさわしい執筆陣の名前があがっている。内容に対する期待があがってくる。そして、読み進むにつれてその期待はさらに大きなものになり、裏切られることはない。
各章は統一したフォーマットで書かれており、とても読みやすい。初めに症例が提示され、その臨床疑問への解答例が示される。そして根拠となるエビデンスが示され、そのエビデンスを臨床に活かすコツ、そのうえで求められる確認事項、そして推奨される解答とその解説がまとめられている。その解説が優れている。ポイントが太字でわかりやすく強調されている。そして、前述の「エビデンスはそうでも、臨床ではこうなんだよ」が示されているのである。本書を読み進むことで、まさに臨床のエキスパートから指導を受けるのと同程度の知識と知恵と態度が得られると思う。
本書は好評だった前書から約4年後の続編である。その間に新しく示されたエビデンスを盛り込み、時代の流れに応じた臨床疑問が設定されている。今の緩和医療の実践に最も役立つ書籍であると言える。今後も定期的に見直され、新しくされる緩和ケアの「up to date」となることを願っている。
臨床雑誌内科119巻2号(2017年2月号)より転載
評者●聖路加国際病院緩和ケア科部長 林章敏