大腸CTテキスト
原理・特性の基礎知識から現場で使えるセッティング,読影法まで
編集 | : 消化管先進画像診断研究会 |
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ISBN | : 978-4-524-25768-3 |
発行年月 | : 2015年5月 |
判型 | : A4 |
ページ数 | : 146 |
在庫
定価4,620円(本体4,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
大腸CTのスペシャリストがまとめた“国内初”のテキスト。内視鏡検査に比べて「痛くない」「検査時間が短い」「安全性が高い」として注目が高まっている大腸CTについて、消化管先進画像診断研究会(GAIA)のメンバーが中心となって、検査の進め方、セッティング、読影法など導入に必要十分な“標準的な”内容をわかりやすく解説。大腸CTに携わる医療スタッフ、導入を検討している施設のスタッフに最適の一冊。
I 大腸CTの基礎知識
1.大腸CTの潮流
2.大腸CTの原理
3.大腸CTの診断精度とエビデンス
4.大腸CTの特性
II 大腸がん検診としての大腸CT
1.前処置
a.タギング
b.通常用量腸管洗浄剤・下剤の使用法
c.低用量腸管洗浄剤・下剤の使用法
d.腸管洗浄剤・下剤を用いない前処置
e.鎮痙剤の使用法
2.腸管拡張
a.大腸の解剖
b.手動送気
c.自動送気(自動炭酸ガス注入器)
d.良好な腸管拡張を得るためのガス注入の工夫
3.撮影条件の設定
4.(超)低線量化のポイントと注意点
5.読影法とレポート作成
6.大腸CTのピットフォール
a.偶発症
b.flat lesionの診断精度
c.検査不成功例に学ぶ(タギング不良,拡張不良)
7.大腸内視鏡挿入困難例に対する大腸CT
III 大腸がん術前検査としての大腸CT
1.撮影方法
2.局在診断,深達度診断
3.外科医からみた大腸がん術前検査のポイント
IV 大腸CTの症例アトラス
V 大腸CTのためのQ&A−消化管先進画像診断研究会に寄せられた質問集
付録
1.大腸CTの説明書・同意書例
2.大腸ポリープ・大腸がんの肉眼形態
索引
序文
小生が大腸CTと出会ったのは、赴任先の横浜の大学病院に向かって緩やかな坂道を歩いていた2001年春のことである。研修医時代からの恩師である遠藤俊吾先生の「新病院にはマルチスライスCTが導入されていて、仮想内視鏡検査ができるそうだ。始めてみないか」という言葉に、「面白そうですね」と即答したことを今でも鮮明に覚えており、これが大腸CTを始めたきっかけである。赴任先は消化管内視鏡で世界的に有名な教室であり、当初は大腸CTを検診として利用するという考えはなく、術前検査における注腸造影検査の代わりにすぎなかった。しかし、術前大腸CTは、部位診断と転移診断、さらには術前マッピングとして大変有用であることがわかり、世界に先駆けて日本で臨床応用が進んだ。このときご活躍された第一人者の先生方に、本書の第III章をご執筆いただいた。
当時、小生ら外科チームが担当する症例は、高度進行がん例が少なくなかった。内視鏡が盛んな教室で優れた技術を有する内視鏡医の先生方が日々多くの内視鏡を行っているのに、そうした受診者は高度に進行するまでなぜ受診機会に恵まれなかったのか疑問であった。折しも、日本では大腸がん検診の受診率の低さが問題となっており、がん対策推進基本計画で受診率50%以上という目標が2007年に掲げられたが、米国ではすでに検診目的の大腸CTの大規模な精度検証が実施されていた。検診受診率を上げて大腸がん死亡を確実に下げている米国で、さらに大腸CTを積極的に活用しようという状況を見聞きし、縁あって渡米する機会をいただいた。米国では多くのことを学んだが、なかでも検診目的の画像検査はよい画像を得ることではなく病変がみつかる程度の低線量でよいこと、拾い上げる必要のある病変を精度検証された方法で確実に診断するべきであるという姿勢に感銘を受けた。検査は受診者のためにあるのであって、あくまで病変をみつけることが目的であり、きれいな鮮明な画像を得ることは施行医の自己満足でしかないのである。その頃の日本の大腸CTの被曝線量は術前検査に準じるものであり、検診としては到底受け入れられない条件であった。読影方法にしても、欧米では着実に精度検証を積み上げていた流れがあり標準化が進んでいたが、日本では独自の読影方法が、よいだろうという善意のもとで広がりをみせていた。検診で行う場合の低線量の撮影条件や読影方法の標準化は大腸CTが普及するうえで極めて大切なことである。日本における大腸CTの精度検証に貢献いただいた先生方を中心に、本書の第I章と第II章をご執筆いただいた。
本書を手にされた方の多くが、大腸CTを実臨床でスムースに確実に正しい方法で実施したいという考えをお持ちのことと思う。大腸CTは検査手技にしても読影方法にしても従来の大腸精密検査に比べても比較的容易といわれているが、従来の検査の延長で行うのではうまくいかない。まったく新しい検査として身につける必要があるのだが、身につける具体的な内容が学会や研究会ではベールに包まれがちであった。本書ではそうしたベールをきれいにはがし、科学的根拠に基づいた標準的な大腸CTを臨床で応用するための実践的なテキストとして完成した。これから大腸CTを本格導入しようされる方にはもちろん、すでに多くの検査を実施している施設の方々にも役立つエッセンスをふんだんに盛り込んでいる。どの施設で誰が行っても受診者への負担を最小限に抑えた精度の高い検査として行うためにはどのようにしたらよいのかということを、主観に基づくのではなく科学的根拠に基づきわかりやすい内容で第一人者の先生方にご執筆いただき、まさに必読のテキストとなっている。本書の第IV章では、大腸CTでみつけておくべき症例画像をふんだんに紹介している。第V章では、消化管先進画像診断研究会で参加者の先生方からいただいたご質問をまとめて紹介しお答えしている。付録では説明書・同意書、さらには放射線領域では比較的なじみが薄い大腸病変の肉眼形態を紹介しており、実臨床の場ですぐに役立つものと確信している。
2015年4月
消化管先進画像診断研究会代表世話人
永田浩一
日本では高齢化に伴って大腸がん死亡が増え続けているが、米国の大腸がん死亡はとりわけ女性において着実に減少している。大腸がん死亡者数の予測(2015年)によれば、男性ではすでに日本が米国より多く、女性でも日本が米国を上回るのは時間の問題である。日本の人口は米国の4割にすぎないというのに、残念きわまりない。
米国で大腸がん死亡が減っている理由としては、大腸がん検診の受診率が60%を超えていることがあげられる。大腸がん検診の方法は大半が大腸内視鏡であるが、大腸CTも検診法の一つである。一方で日本では便潜血検査による大腸がん検診が行われているが、2013年の受診率は全国平均で30%台にすぎず(国民生活基礎調査)、2012年の精検受診率は65%にすぎない(地域保健・健康増進事業報告)。精検受診率が低い理由としては、便潜血陽性の意味が十分に理解されていないこと、大腸内視鏡検査による苦痛が考えられ、後者を解決する手段としても大腸CTが期待される。
近年、日本でも大腸CTへの関心は高く、日本消化器学会関連週間(JDDW)や日本消化器がん検診学会で大腸がんスクリーニングあるいは精検に関する主題に選ばれ、一般演題の発表も増えている。『大腸CTテキスト−原理・特性の基礎知識から現場で使えるセッティング、読影法まで』が2015年5月に発刊されたが、まさに時宜を得たものといえる。
本書は消化管先進画像診断研究会のメンバーによって執筆された。大腸CTの基礎知識、原理から始まって、大腸CTの診断精度とエビデンスと書き進めている。大腸CTの内視鏡に対する非劣性を証明した海外での大規模臨床試験およびJapanese National CT Colonography Trial(JANCT)の結果が示され、また、大腸CTの受容性を低下させる前処置の負担に関しても低用量腸管洗浄剤について臨床試験の結果を紹介している。このように、本書の記述は著者らのopinion-basedではなく、evidence-basedであることが大きな特徴である。日本では前処置、タギング、撮影法、読影法が必ずしも統一されていないが、世界の標準とはどのような方法なのかをわかりやすく解説している。また各項目の冒頭にKey Pointが書かれていて読みやすい。巻末のQ &Aも参考になるであろう。
今回、私自身も大腸CTを体験し、前処置、検査中・検査後ともに苦痛がほとんどないことを実感した。今後は大腸CTを行うすべての医療機関が低線量での撮影を徹底し、標準化された方法で検査および読影がなされ、大腸がん死亡の減少に寄与することを期待している。これから大腸CTを始めようと考えている医師・診療放射線技師のみならず、すでに大腸CTに関わっている人々に対しても、教科書として本書をぜひお勧めしたい。
臨床雑誌内科117巻2号(2016年2月号)より転載
評者●公益財団法人福井県健康管理協会・県民健康センター所長 松田一夫