臨床薬物動態学改訂第5版
臨床薬理学・薬物療法の基礎として
監修 | : 加藤隆一 |
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編集 | : 家入一郎/楠原洋之 |
ISBN | : 978-4-524-25758-4 |
発行年月 | : 2017年12月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 396 |
在庫
定価6,270円(本体5,700円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
薬学部・医学部向けの臨床薬物動態学分野のパイオニア的教科書。個人最適化医療をめざす臨床薬物動態学の基礎から最先端の発展的内容まで幅広く網羅。今改訂ではペプチド、抗体医薬品などの新しい情報や知見を積極的に盛り込んだほか、薬物動態理論に関する章を再編するなど章立ての一部変更を行い、基礎から最新の情報までよりスムーズに学べる構成とした。
I 薬物動態の統合的把握の重要性
A Mechanism.based pharmacokinetics
B 生理学的薬物速度論モデルを用いた薬物動態解析
C 薬物動態の個人間変動
D Pharmacokinetic/Pharmacodynamicモデル
II 薬物速度論とクリアランスコンセプト
A コンパートメントモデル
B モーメント解析
C クリアランスコンセプトと分布容積
D バイオアベイラビリティ
E 体内動態の非線形性
F 薬物の蛋白結合
III 薬物の生体膜透過
A 薬物の細胞膜透過機構
B 薬物トランスポーターの特徴
C 方向性輸送における律速過程
D 関門機構としての薬物トランスポーター
E 代謝物の動態に関わる薬物トランスポーター
IV 薬物の投与部位からの吸収(楠原洋之)
A 消化管からの薬物吸収
B 直腸と皮膚表面からの薬物吸収
C 肺胞・鼻粘膜からの薬物吸収
V 薬物の代謝
A 薬物代謝酵素の多様性
B 薬物代謝の種差・性差
C CYPの阻害と酵素誘導
D in vivoにおける薬物の代謝
E 単代謝経路薬物と多代謝経路薬物
F 薬物代謝酵素の活性に影響する諸因子
H 遺伝子多型と個別化医療
VI 薬物の排泄
A 薬物の尿中排泄
B 薬物の胆汁中排泄
C 薬物の消化管分泌
VII 薬物反応性と薬物動態の個人差・人種差
A 薬物反応性の個人差
B 薬物動態の個人差
C 薬物代謝の個人差と有害反応発現の要因
D 薬物動態の個人差を理解し,少なくするために必要なこと
E 薬物代謝酵素の遺伝子多型の人種差
F 薬物代謝能の人種差,民族差
G 薬物トランスポーターと蛋白結合の人種差
VIII 薬理遺伝学
A 双生児における薬物代謝
B アセチル抱合反応の遺伝子多型
C アルコールおよびアルデヒド代謝の個人差と遺伝子多型
D CYPによる代謝に関連した遺伝子多型
E CYP以外の代謝酵素の遺伝子多型
F トランスポーターの遺伝子多型
G 薬理遺伝学的多型にともなう薬効の変動および副作用の発現
H 遺伝子多型と個別化医療
IX 薬物相互作用
A 薬物相互作用の影響度の決定要因
B 代謝酵素を介した薬物相互作用の実例
C 薬物代謝酵素の誘導
D 肝薬物輸送・腎尿細管分泌における薬物相互作用
E 吸収過程における薬物相互作用
F 薬物相互作用と遺伝子多型
G 血液脳関門における薬物相互作用
H 薬物相互作用を利用した有効性,安全性の向上
I 内在性化合物を利用した相互作用の評価
J 蛋白結合からの薬物の追い出し現象
K 臓器血流速度の変動と薬物相互作用
X 食事内容・嗜好品・生活習慣と薬物動態
A 絶食と摂食
B アルコール摂取
C 緑茶と喫煙
D 低・高蛋白食および野菜食
E 炭焼ステーキ,コーヒー,花キャベツ
F グレープフルーツジュース,St.John’s wort
G ビタミン
H 非経口栄養食
I 運動,安静,睡眠など
XI 年齢と薬物動態
A 薬物動態の年齢による発達
B 高齢者における薬物動態
XII 女性および妊娠時における薬物動態
A 薬物吸収・動態の性差
B 薬物分布・動態の性差
C 薬物消失・動態の性差
D 薬物代謝・動態の性差
E 薬物トランスポーターに関する性差
F 月経周期と薬物動態
G 経口避妊薬による体内動態変動
H 薬効・副作用の性差
I 妊娠時における薬物動態
J 胎児への薬物の移行
K 母乳への薬物の移行
XIII 病態下における薬物動態
A 肝疾患時における薬物動態
B 循環器疾患時における薬物動態
C 呼吸器疾患時における薬物動態
D 腎疾患時における薬物動態
E 内分泌疾患時における薬物動態
F 癌患者における薬物動態
G 炎症性疾患時およびインターフェロンなど投与時の薬物動態
H 外傷,外科手術および熱傷時における薬物動態
I 肥満者における薬物動態
XIV 高分子医薬品の体内動態の特徴
A 高分子医薬品の吸収と分布
B 高分子医薬品のクリアランス
C 天然型と遺伝子組換え(リコンビナント)型の高分子医薬品の体内動態の差異
D DDS手法による高分子医薬品の体内動態の改善
XV TDMに基づく最適投与方法の設計
A TDM
B 薬物の尿中排泄およびクレアチニンクリアランスからの薬物投与設計
C 薬物の血中濃度のモニタリングからの薬物投与設計
D 唾液中薬物濃度の測定によるモニタリング
E TDMにおける臨床薬物動態研究の重要性
XVI ヒトにおける薬物動態を指向した医薬品開発
A 薬物動態の種差の克服
B 開発候補品のヒトにおける薬物動態の検討
C 医薬品開発におけるバイオアベイラビリティの低い開発候補品の問題点
D 薬物相互作用を起こしやすい薬物を除くこと
E 遺伝多型を示す薬物につき考慮すべきこと
索引
サイドメモ
1 薬物の代謝酵素とトランスポーター
2 薬物動態データのバラツキと再現性
3 類洞と肝クリアランス
4 遺伝子多型と表現多型(遺伝多型)
5 haplotype(ハプロタイプ),allele(アレル),diplotype(ディプロタイプ)
6 CYPと薬物トランスポーターの遺伝子多型の薬物動態におよぼす影響の比較
7 肝硬変症患者の肝血流速度と薬物の肝細胞への取り込み
8 血液脳関門を介した高分子医薬品の輸送
9 抗体医薬品から派生した多機能性高分子医薬品
10 アプタマー
改訂第5版の序
『臨床薬物動態学−臨床薬理学・薬物療法の基礎として−』の初版が1992年に刊行されて以来、この度、第5版を発刊することになった。長い歴史を有する本書であるが、他の薬物動態学や臨床薬理学を標榜する教科書とは内容・構成が大きく異なることが読者から支持されている一番の理由と思われる。臨床薬理学者、薬物動態学者として両学問をサイエンスとして発展させてこられた加藤隆一先生のご努力とセンスが成せる技である。楠原、家入の両名が先生の御意志を引継ぎ、編集の機会を得たことは責任が重たく、また、大変名誉なことと感じている。
臨床薬物動態学や臨床薬理学は患者個々に適切な薬物療法を提供する医療従事者には必須の学問であるとともに、医薬品開発においても欠くことができない。治験のルールであるGCP省令のガイダンスには、薬物動態や臨床薬理の文字が多用されており、その重要性が明記されている。また、臨床試験は、その試験の実施時期や目的によっていくつかに分類されるが、臨床薬理試験には、忍容性試験に加え、単回および反復投与における薬物動態・薬力学試験、薬物相互作用試験が含まれている。さらに、「治験薬概要書」には、薬物動態学や臨床薬理学の学問としての進歩がみてとれる。ヒト薬物代謝酵素、トランスポーター発現系などを使用した代謝や分布に関する非臨床試験情報は、治験計画書の理解のみならず、臨床使用を外挿する際にはいまや必須であるが、薬物動態学者による基礎研究を通して得られたノウハウの実用化であり、研究室から開発現場への成果の橋渡しの結果といえる。NOAELやMABELに基づくfirst in human試験における初期投与量の設定も臨床薬理学の基礎や経験がなければ確立されていない。薬物動態学と臨床薬理学の展開には、基礎研究とその実用化の関係、すなわち、トランスレーショナルリサーチ、リバーストランスレーショナルリサーチの活用が必要であるし、両学問を取り扱う教科書にはこの精神が必要と思われる。
本書でもかなりの頁を割いた薬物相互作用や薬理遺伝学の理解は、ここ数年で比較にならないほど、医学や薬学の領域で進んでいる。しかし、基礎的な理論や背景をしっかり身につけないと表面的な理解しかできず、真に薬物動態や臨床薬理を学んだとはいえない。両学問が実学に直結するため、表面のみの理解に終始するといった落とし穴が潜んでいるように感じる。第5版では、従来の章立てを踏襲しているが、薬物速度論や薬物相互作用の項では、より一層の理論の導入を図った。本書の大きな特長の1つは全編にわたる数多くの図表にあり、読んでいて楽しいし、臨床でいうところの症例報告にあたる。楽しみながら、これらの学問の習得とさまざまな場面での活用に本書が役に立てればうれしい限りである。
2017年9月
家入一郎、楠原洋之