治療を支える疾患別リハビリテーション栄養
リハと栄養はベストカップル
編集 | : 森脇久隆/大村健二/若林秀隆 |
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ISBN | : 978-4-524-25745-4 |
発行年月 | : 2016年3月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 324 |
在庫
定価4,180円(本体3,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
各専門領域の疾患・病的状態の治療成績を向上させるために、NST専門療法士や医師に求められるリハビリテーション栄養の実践的知識をまとめたマニュアル。栄養アセスメントから栄養療法のプランニング、リハビリテーションの実際まで症例提示を交えて解説し、リハビリテーション栄養のポイントや注意点、もたらされる効果など臨床現場で役立つプラクティカルな内容を学ぶことができる。
I 栄養とリハビリテーションの総論
1.治療を支えるリハビリテーション栄養
A.リハビリテーション栄養の考え方
B.サルコペニアの考え方
2.治療を支える栄養療法
A.栄養学の基礎
B.骨格筋に及ぼす飢餓と侵襲の影響
C.栄養管理計画の策定
D.骨格筋のエネルギー代謝
E.筋肉増強を目指した栄養管理とサプリメント
3.治療を支えるリハビリテーションと運動療法
A.理学療法概説
B.運動と高次脳機能
C.嚥下リハビリテーション概説
D.廃用症候群の評価とリハビリテーション
4.骨格筋と薬剤
A.骨格筋を低下させる薬物療法
B.骨格筋を増強させる薬物療法
C.骨格筋量とがん化学療法
II 疾患とリハビリテーション栄養
1.中枢神経・末梢神経疾患
A.脳卒中
B.パーキンソン病
C.脊髄損傷
D.末梢神経障害
2.運動器疾患
A.骨折
B.化膿性疾患
C.関節リウマチ
3.循環器疾患
A.急性心不全
B.慢性心不全
C.末梢動脈疾患
D.リンパ浮腫
E.心臓術後のリハビリテーション
4.呼吸器疾患
A.慢性閉塞性肺疾患
B.誤嚥性肺炎・細菌性肺炎
5.消化器疾患
A.肝細胞癌術後
B.肝炎,肝硬変・肝臓癌
C.炎症性腸疾患
D.胸部食道癌周術期
6.糖尿病
7.肥満(サルコペニア肥満)
8.ICU関連筋力低下
9.がん終末期
10.腎疾患
11.うつ病
III ライフサイクルとリハビリテーション栄養
1.小児
2.妊婦
A.栄養療法
B.リハビリテーション
3.高齢者
索引
序文
人間が体を動かすことができる意義は大変大きい。自己を守るための危険からの逃避はもちろん、さまざまな欲求を満たすためにも身体機能の維持は必須である。身体機能が障害されると社会の最小単位である家庭内での行動も制限され、それは精神的な健全性をも損なう。身体機能が人間の幸福度、すなわちQOLに及ぼす影響はきわめて大きい。
翻って、医学・医療に課せられた任務は国民の健康の維持・増進である。健康とは、人間が身体的、精神的、社会的、霊的に良好な状態にあることである。したがって、患者の身体機能に目を向けずに疾患の治療に専念することは、医療人の任務を放棄していることになりかねない。しかし、入院加療が国民の身体機能を低下させる大きな契機になっているという事実がある。さらに、それはしばしば不可逆的であり、日常の生活動作に問題のなかった人が入院加療後に施設へ入所せざるを得なくなることもまれならずある。このような事態は、国民医療費や介護費の増加に拍車をかける。国民の健康増進の観点からも、限られた医療資源、介護資源の有効活用の観点からも、入院を契機とした身体機能の低下は可及的に回避されなければならない。
医療現場の現状はどうであろうか。疾病や病態によっては、何の根拠もなく伝統的に入院中の安静が強いられてきた。肝臓疾患、腎疾患、さまざまな臓器の手術後などである。入院中の転倒防止の観点からは、床上安静がもっとも安全かもしれない。しかし、安静がもたらす骨格筋の萎縮によって、例えば潜在的な嚥下機能の低下が顕在化する可能性がある。さらに、退院後の転倒の危険は増加する。必要のない安静を強いるのは、もはや罪悪であるといって過言ではない。
入院中の栄養管理についても、すべての患者に十分な配慮がなされているとはいえない。病院食のみの経口摂取で過栄養に陥り、体重が増加する症例はきわめてまれである。一方、身体機能の低下とともに体重が減少する症例は多数存在する。低栄養と運動不足があいまって、患者に深刻な身体機能の低下がもたらされるのである。
本書は、疾患の治療と並行してリハビリテーションと栄養管理を行う際に必要な知識を網羅したものである。ここまで踏み込んでいただければ、患者をより幸せな状態に導くことができるであろう。快く執筆いただいた先生方に心から感謝の意を表し、この多くのご尽力が患者の幸せを守ることに寄与することを願い、本書の序文としたい。
2016年2月
森脇久隆
大村健二
若林秀隆
今から約20年前に日本版栄養サポートチーム(nutrition support team:NST)が芽生え、その後、爆発的に広まり、全国の病院中97%以上の施設がNSTをもち、患者のための栄養管理を行うことが当たり前のようになってきた。この栄養に関する分野は、日本の医学教育から取り残されていた部分であるが、非常に大切な分野で、この理解なくして特に外科患者の術前・術後管理はありえないと考えられている。そのような観点から、栄養管理は栄養評価と適切な栄養方法を推奨することを目的として、はじめてNST加算が認められ、瞬く間に普及した。この栄養の分野はさらに病態栄養へと突きすすみ、その一つとして「リハビリテーション栄養」が注目されるようになってきた。この分野は、特に「サルコペニア」に関して多くの議論がなされ、患者本位の生活の質(QOL)を重視した治療法を模索してきた。
今回出版された本書は、その執筆者にこの道の牽引者が勢ぞろいして分担執筆されている。内容をみると、まず総論として「リハビリテーション栄養」と「サルコペニア」についての概念が述べられている。この中でリハビリテーション施設では約50%の患者が低栄養であり、栄養状態良好な患者は8.5%しかみられないと述べている。少なくともこの50%の患者に対して、最大限の生活パフォーマンスが発揮できるように栄養管理を行うことが必要である。また、リハビリテーションを行っている高齢者の40〜46%にサルコペニアを認める。もともと「サルコペニア」の定義は「加齢に伴う筋肉量の低下」を意味していたが、現在では、「筋肉量減少を認め、筋力低下もしくは身体機能低下を認めた場合」とされている。握力、歩行速度に関しても細かく定義されており、これに基づいて診断されている。また本書では、運動療法に関して詳しく述べられている。たとえば筋力トレーニングとして、その負荷は、運動限界とする回数の80%程度が有効といわれていることや、筋力維持には最大筋力の20〜30%以上の負荷、筋力増強には最大筋力40〜50%以上の負荷が必要なことなどが示されている。これらを加味した栄養療法はどのように行うべきなのか、また、個々の疾患に対する病態別リハビリテーション栄養はどのように行うべきなのかについても詳しく解説している。
これからの栄養はまさに「リハビリテーション栄養」の時代に突入した感がある。これからリハビリテーションと栄養管理について取り組もうと思っている方、さらにもっと深く追求しようと思っている方には必見の一冊となるであろう。この書をもとに、さらに高いレベルをめざしていただきたい。
臨床雑誌外科78巻9号(2016年9月号)より転載
評者●昭和大学小児外科教授 土岐彰
「rehabilitation」の語源は、一説によるとラテン語のre(再び)+habilis(人間らしい)に由来する。しかし、「rehabilitation」に相当する日本語はなく、そのまま「リハビリテーション」という言葉が使用されるようになったという。つまり、「リハビリテーション」とは、もともとは「再び人間らしく生きること」を意味する語であり、それが転じて現在は「適応」することや「社会復帰」することなどの意味を含有する広義の語として定着している。そして、現代の高齢化社会におけるニーズの高まりもあり、「リハビリテーション」という語は、医学的側面に加え、社会的側面をも包含した医療サービスの一領域として認知されるにいたっている。
さて、われわれが直接的にかかわる「“医学的”リハビリテーション」では、医師は患者の障害の状況を総合的にアセスメントし、専門職種で構成されたリハビリテーションチームとともに治療にあたる。リハビリテーションの実際では、医師以外の専門職種の占める役割のほうがむしろ大きい。胸部外科領域に生きるわれわれは、患者の栄養状態や身体機能のアセスメント、リハビリテーションのプランニングと実際など、お世辞にも精通しているとはいいがたいであろう。本書は、そのようなリハビリテーションをあまり得意としないわれわれ胸部外科医でも、リハビリテーションの考え方と背景とするエビデンス、その実際を疾患別に体系的に理解することができる構成になっている。
本書では、「栄養障害」と「サルコペニア」の二つの概念をアセスメントの軸としている。栄養状態と運動機能は密接に関連しており、これらの改善は相乗的に(おそらく相加的ではなく)、患者の生活の質(QOL)の改善に寄与することとなる。リハビリテーションがはたす重要性は、疾患の違いによらず共通するものである。多くの患者は疾患発症前に低栄養状態にあり、それに続発するサルコペニアのためにQOLを損ない、治療・リハビリテーションが長期化してしまうという悪循環に陥りがちである。手術後の早期離床と早期退院は、これら栄養状態と運動機能に大きく影響され、さらには生命予後をも左右する。当施設でも術後の早期離床プログラムを実践しているが、同時に栄養管理への介入もプログラムの一環として行っている。本書もその一助となっていることはいうまでもない。
本書の冒頭の章に次のような記述がある。「リハ栄養とは…(中略)、障害者や高齢者の機能、活動、参加を最大限発揮できるような栄養管理を行うことである。リハ栄養はスポーツ栄養のリハ版といえる。スポーツ栄養では、スポーツ選手が競技のときに最高のパフォーマンスを発揮できるように栄養管理を行う」。当然ながら、われわれも知識として栄養管理の重要性を知っていたはずであるが、この記述にはハッとさせられた。効率よく、そして効果的に最大限のパフォーマンスを発揮するのに栄養管理が重要であることは、スポーツ選手もリハビリテーション患者も同様なのである。このことに改めて気づかされた。
われわれ胸部外科医が手術をうまく成功させることはもちろんであるが、手術後の患者のパフォーマンスを向上させることは、手術を含めた治療全体の大きな目的である。外科医は手術のことだけを知っておけばよいという時代はすでに過ぎ去った。治療全体を統括する役割を担うわれわれ外科医が、知っておくべきリハビリテーションに関する知識を本書は教えてくれる。読者が本書で学んだ知識をもとに、医療チームがスムーズに治療を遂行できるようなマネジメント力を発揮できることを切に願う。
胸部外科70巻2号(2017年2月号)より転載
評者●九州大学循環器外科学教授 塩瀬明