実戦 外科診療ハンドブック
監修 | : 亀岡信悟 |
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編集 | : 瀬下明良/神尾孝子/板橋道朗/齋藤登/世川修 |
編集協力 | : 三宅邦智/成田徹 |
ISBN | : 978-4-524-25715-7 |
発行年月 | : 2015年4月 |
判型 | : B6変型 |
ページ数 | : 312 |
在庫
定価4,620円(本体4,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
東京女子医科大学第二外科の特色は、消化器外科だけでなく小児外科・乳腺外科・外科栄養・感染症なども担当する、いわゆる「一般外科(general surgeon)」である。その特色を活かし外来・病棟から手術室まで一般外科領域における必須の基本知識・手技を網羅したハンドブック。研修医から外科専門医をめざす医師、さらに学生・メディカルスタッフにも理解しやすい内容。
I章 外科診療の基本知識
1.外科診察の基本
A.基本編
1.診療におけるアプローチ
2.外科診療トリアージ
B.腹部診察の基本
1.視診
2.聴診
3.打診
4.触診
C.乳腺診察の基本
1.問診
2.視・触診
3.画像診断
4.細胞診・組織診
D.小児診察の基本
1.小児診察のポイント
2.感染症
A.スタンダードプリコーション
1.手指衛生
2.PPE(手袋,エプロン,ガウン,マスクなど)
3.安全な注射法
4.汚染された可能性のある器具などの安全な取り扱い
5.呼吸器衛生・咳エチケット
B.予防的抗菌薬の使用
C.SSI
D.感染症発症時の対策
1.院内感染症とは
2.院内感染症に対する指針と対策
3.感染症発症時対策の実際
E.注意すべき感染症
1.MRSA
2.多剤耐性菌
3.偽膜性腸炎
3.創部管理・ドレーン管理
1.創の知識と管理
2.ドレーン管理
4.内視鏡手術の基本
A.セットアップ
B.デバイス
1.モノポーラ型電気メス
2.vessel sealing system
3.超音波凝固切開装置(USAD)
4.自動縫合器(LS)
5.自動吻合器(CS)
5.ERAS
1.ERASとは
2.目的と対象疾患
3.ERAS プロトコール
6.外科栄養・補液
A.経静脈栄養・輸液
1.輸液療法の基本
2.栄養療法の適応
3.PPNの管理
4.TPNの管理
B.経腸栄養
1.基本的な考え方
2.投与経路
3.経腸栄養剤
4.投与速度
5.経腸栄養の管理
C.小児外科輸液・栄養
1.小児の輸液
2.小児の栄養
D.サルコペニア
E.在宅中心静脈栄養
7.ストーマの管理
A.造設
B.閉鎖
1.双孔式ストーマ
2.Hartmann術後結腸ストーマ
C.管理
1.術前管理
2.術後管理
8.輸血の基本
1.輸血療法の目的
2.輸血方法
3.輸血製剤の種類と投与の目的
4.慢性時の使用指針
5.出血時における輸液・成分輸血療法の適応
6.緊急輸血の際の“大原則”
7.輸血(輸血用血液)に伴う副作用・合併症
9.緩和ケア総論
1.緩和ケアの拡大
2.緩和ケアアプローチの基本原則
3.がん診療に携わる医師が今日からできる診断時からの緩和ケアの実践
10.チーム医療の基本
1.チーム医療とは
2.チーム医療を担う人たち
3.チーム医療のための基本的な考え方
4.チーム医療の評価
5.外科医のためのノンテクニカルスキル(NOTSS)
II章 外科診療の必須手技
1.基本手技
A.消毒法
1.腹部の消毒
2.四肢の消毒
3.手指の消毒
B.手洗い法
1.スクラビング法
2.ウォーターレス法
C.手袋装着法
1.オープン法
2.クローズド法
D.ガウンテクニック
E.気道確保
1.マスク換気
2.ラリンジアルマスク
3.気管挿管
F.胸骨圧迫法
2.切開・縫合手技
A.切開・排膿
B.糸結び
1.基本的事項
2.両手法
3.両手法
4.片手法
5.1本指法
C.基本的器具の種類と使い方
D.止血法
E.気管切開法
1.従来法
2.経皮的気管切開法
3.輪状甲状膜穿刺針
4.小児気管切開法
F.縫合法
1.開腹手術
2.内視鏡手術
G.吻合法の基本
1.手縫い吻合
2.器械吻合
3.挿入手技
A.胃管挿入法
B.イレウス管挿入法
C.S-B チューブ挿入法
4.穿刺,採血,血管確保手技
A.局所麻酔
1.表面麻酔
2.浸潤麻酔
B.指間ブロック
C.腰椎麻酔(脊髄くも膜下麻酔)(脊椎麻酔)
D.硬膜外麻酔
E.仙骨ブロック
F.静脈血採血法
1.成人
2.小児(新生児・乳児は除く)
G.動脈血採血法
1.大腿動脈穿刺法
2.橈骨動脈穿刺法
H.静脈確保
1.前腕からの静脈確保
2.静脈切開カテーテル留置(cut down)法
I.静脈カテーテル留置法
1.内頸静脈
2.鎖骨上穿刺
3.鎖骨下穿刺
4.末梢挿入式中心静脈カテーテル(PICC)留置
5.エコーガイド下中心静脈カテーテル挿入
6.小児における中心静脈カテーテル留置法
J.静脈アクセスの取り方
K.穿刺ドレナージ法
1.経皮経肝胆道ドレナージ(PTCD)
2.経皮経肝胆.ドレナージ(PTGBD)
3.胸腔穿刺
4.腹腔穿刺(経腹壁的穿刺法)
5.腹腔内膿瘍穿刺
6.膀胱穿刺
5.小児手技
A.腸重積に対する非観血的整復法
B.外鼠径ヘルニア嵌頓に対する用手的還納法
III章 厳選 外科臨床で必要な知識
1.全身状態の評価と対処
1.performance status(PS)
2.米国麻酔学会術前状態分類(ASA Physical Status classification)
3.Hugh-Jones分類
4.NYHA(New York Heart Association)分類
5.基本的な不整脈の波形
6.栄養指標
7.急性腎障害(AKI)の計算式
8.酸塩基平衡
9.DIC スコア
10.SIRSの診断基準
11.E-PASS scoring system(在院死亡率の予測)
12.POSSUM scoring system(死亡率,術後合併症の予測)
13.Clavian-Dindo分類(術後合併症の分類)
14.APACHE-II score(死亡リスクの推測)
15.SOFA score(臓器障害度の評価)
16.肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン
17.Wells スコア
18.抗血栓薬の休薬目安
19.抗血栓薬服用患者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン
20.局所麻酔薬中毒,アレルギーへの対応
21.アナフィラキシーショック時の対応
22.ステロイド力価
2.癌の進行度と抗癌薬
1.主な癌のTNM分類と病期分類(取扱い規約)
2.マンモグラフィ所見
3.基本的な抗癌薬一覧
4.イリノテカンの副作用発現とUGT1A1遺伝子多型の関係
5.痛みスケール
6.麻酔換算表
3.感染症に用いられる薬剤
4.疾患特異的な知識
1.気胸の肺虚脱程度
2.肝障害度(liver damage)
3.Child-Pugh スコア
4.急性膵炎診断基準
5.急性膵炎重症度判定基準
6.Crohn病診断基準
7.IOIBD アセスメントスコア(Crohn病の活動性指標)
8.CDAI(Crohn’s Disease Activity Index)
9.潰瘍性大腸炎診断基準
10.潰瘍性大腸炎重症度分類
11.Hinchey分類(大腸憩室炎・穿孔の重症度分類)
12.エコーによる膀胱内尿量の計測方法
5.小児外科領域
1.小児の輸液
2.小児の栄養
3.小児の薬用量
4.成長曲線
序
このたび「外科診療ハンドブック」を上梓することになった。私が東京女子医科大学第二外科学教室で長年にわたり積み上げてきた仕事の総括を、教室員全員の力で、一冊のテキストブックという形にまとめたいというささやかな夢が実現できたことは望外の喜びである。
まず、外科診療の第一線で日夜患者に直接対応する学生(スチューデント・ドクター)から研修医、さらにはチーフレジデントまでを主な対象とし、臨床現場で手軽に活用できるテキストをコンセプトとした。したがって、体裁はポケットサイズとし、短時間に要領よくポイントをつかめるよう、図表や写真を駆使し、ビジュアル的な要素を重視した。また、第I章は「外科診療の基本知識」、第II章は「外科診療の必須手技」と実践にフォーカスを当てたが、第III章では新たな試みとして資料編として「厳選 外科臨床で必要な知識」を追補し、臨床現場で日常用いられる臨床分類や規約、ガイドライン、診断基準、診療フローチャートのほか、臨床スコアや計算式、換算表を網羅した。医療現場でのニーズに応えたもので、この資料編は診療オーダーの際に活用できるのみならず、後進の指導や症例検討会、カンファレンスの際に、本書をポケットからそっと取り出し、ディベートの際にもエビデンスとして大いに利用していただきたい。
また、章や項目の改頁にできた空白欄には、僭越ではあるが「若手外科医へのメッセージ」というコラムを設け、将来の臨床現場を担ってくれるであろうすべての若手外科医に対する一老外科医の思いとエールを送らせていただいた。
この企画は教室スタッフの瀬下明良君、神尾孝子君、板橋道朗君、齋藤登君、世川修君および実務で奮闘してくれた成田徹君、三宅邦智君の努力によるところが大きい。執筆は教室員全員が担当してくれた。外科教室なので全員第一線の医療現場で超多忙な臨床業務を送っている面々である。その合間をぬって、限られた時間内での執筆である。私は正直、期限内の脱稿を危惧していたのだが、何度も校正を重ねて、予定通り完成した。私はここぞというときには“一丸”となることができる組織は“本物”と認識しているが、この大仕事を成し遂げた医局と教室員を心から誇りに思っている。
2015年3月
東京女子医科大学第二外科
亀岡信悟
臨床現場の第一線で活躍している研修医や若手レジデントが、すぐに活用できるポケットサイズの外科診療テキストブックが発刊された。
本書は外科系の外来や病棟で日ごろ目にする手技や管理、それに必要な知識がコンパクトにまとめられている。その内容は三つのチャプターで構成され、一般外科のみならず乳腺、小児、緩和の領域にまで及んでいる。第I章では術前・術後管理の基本的知識について、第II章では基本手技から難度の高い手技について、第III章では臨床現場で用いられているさまざまな分類やスコア、診断基準、計算式、薬剤について記載されている。本書はエビデンスと多くの経験が網羅された内容となっている。特に診察や管理の基本、手技の解説は図表や写真を用いて臨床現場に沿った執筆がなされているため、臨場感があり理解しやすく気軽に読める。また第III章の「厳選 外科臨床で必要な知識」は、忘れがちな情報あるいは知らなかった情報が掲載されており、指導医にとっても有用な部分である。この部分は本書の大きな特徴であり、大学病院のような特定の教育施設だけでなく、市中基幹病院の若手医師にも活用していただきたい。
さらに随所に組み込まれた監修者のコラムがまたよい。このようなメッセージは教室を主宰されてきた経験ならではのもの、古くから受け継がれてきた格言ともいうべきもので、折に触れて若い先生たちに述べられてきたことと思われる。しかしこのように文章にして残せば、多くの人が何かを感じ取ってくれるものである。科学的に裏づけされたエビデンスは重要であるが、監修者がいうように「外科学は経験学」という部分もまた真なりである。
外科を志す医師、若手外科医諸君には、基本的知識と手技を理解したうえで実践する、そしてその行為の背景にある考え方や真実を考える医師であってほしい。ぜひ本書をポケットに持ち歩き活用していただきたい。忙しい医師にとっても短時間に要領よくポイントがつかめる一冊である。
臨床雑誌外科77巻8号(2015年8月号)より転載
評者●久留米大学外科学講座教授 赤木由人
本書の対象は「序」にあるように、「外科診療の第一線で日夜患者に直接対応する学生(スチューデント・ドクター)から研修医、さらにはチーフレジデント」ときわめて明確である。そのため、まずは基本中の基本ともいえる内容がしっかりとおさえられていることが大切である。その点を確かめるべくページを繰ってみると、消毒法、手洗い、ガウンテクニックなど、われわれが先輩から厳しく仕込まれた事柄がわかりやすく書かれている。最近では旧来のブラシや滅菌水を用いた方法でなく、水道水と石鹸で手洗いした後にアルコール系の速乾式消毒剤を用いる手洗い法を採用する施設も多いが、本書にもウォ−ターレス法として記載してあるのを読んで現状に即したマニュアルであることを実感した。本書は大きく「外科診療の基本知識」、「外科診療の必須手技」、「厳選 外科臨床で必要な知識」の3部構成となっており、いずれもその項目立て、記載内容ともよく吟味され磨き抜かれていると感じた。
筆者が考える初心者向けのマニュアルが満たすべき内容として、(1)基本的なこと、重要なことが書いてあり、レベルが高すぎることは書いていない、(2)up to dateな内容である、(3)簡潔な表、わかりやすいイラストが多用されている、をあげたい。いずれも当然のことであると思われるが、実際にはなかなかお目にかかれないのが現実である。本書はこれらをよく満たしている。ところで本書はページの角が丸くなっているが、角が直角の本をポケットに入れているといつの間にかその部分がめくれ、変形して読み辛くなってしまうという経験を誰もがしたことと思う。この点も、著者らが本書を常時ポケットに携行して日夜利用してほしいという気持ちの表れと感じた。インターネットの情報が大きな役割を占める現在においても、ベッドサイドで外科医が使うには手ごろな大きさのハンドブックが最良である。
外科と密接な関係にある麻酔、小児外科に関しての記載がある点も優れた点である。基本的には消化器外科を中心に書いてあるため、今後外科専門医をめざす若い人にとって心臓血管外科、呼吸器外科に関しては本書のみでは不足であろうが、外科の基本は何といっても消化器外科であり、本書の価値を損なうものでは決してない。かえって、それらを加えることで分厚く使いにくいものになるのは著者らの意図に反することになるであろう。
ともすればこの手の書は事実の羅列に終始し、無味乾燥なものになりがちであるが、本書では各所にちりばめられたコラム「若手外科医へのメッセージ」が全体を血の通ったものにしている。監修者の人格が滲み出ており、筆者もこのコラムだけを先に拾い読みしてしまった。若い外科医たちにとってこのコラムは、きっとあるときには励みになり、またあるときには叱咤激励の言葉として胸に残るに違いない。特に最初のコラムの末尾に書かれた「しかし厳しいのは君たち外科医だけではない。甘えるな!」という言葉には外科医としての凛とした姿勢がうかがえて、監修者がこれを最初にもってきた気持ちがわかる気がした。今後、本書を手に修行した素晴らしい外科医が後に続くことを願う次第である。
胸部外科68巻11号(2015年10月号)より転載
評者●鹿児島大学心臓血管・消化器外科教授 井本浩