MRIと超音波動画による胎児診断[Web動画付]
著 | : 増ア英明/瀬川景子 |
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ISBN | : 978-4-524-25609-9 |
発行年月 | : 2021年7月 |
判型 | : A4 |
ページ数 | : 224 |
在庫
定価11,000円(本体10,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
胎児の出生前診断において,超音波検査に加えて全身を客観的かつ精密に評価できるMRIを活用するための実践書.実臨床における胎児MRIの位置付け,特徴的な所見とその見極め方を示し,超音波動画と組み合わせて得られた各疾患の鑑別診断にいたる流れを解説.遭遇頻度の高い疾患から希少な先天異常の診断までを網羅した,診断力を高めたい産科婦人科医・放射線科医に最適の一冊.
T.正常構造の超音波・MRI
A 超音波検査
1.利点と欠点
2.検査時期
3.胎児形態の評価法
4.胎児形態スクリーニング
5.超音波診断の限界
6.アーチファクト
7.倫理問題と法的問題
B MRI検査
1.利点と欠点・限界
2.適応および検査時期
3.安全性
4.読影における注意点
5.アーチファクト
6.MRI撮像法
C 胎児診断における超音波検査とMRIの使い分け
1.超音波検査(動画)とMRIの特徴
2.胎児頭部の疾患
3.胎児胸部の疾患
4.胎児腹部の疾患
5.その他の胎児疾患
U.各部位の形態異常
A 脳神経
1.脳室拡大,水頭症
2.胎児期頭蓋内出血による水頭症
3.脳梁低形成,脳梁欠損
4.くも膜嚢胞
a.鞍上部くも膜嚢胞
b.後頭蓋窩くも膜嚢胞
5.Dandy-Walker奇形とvariant
6.外脳症,無脳症
7.全前脳胞症
8.裂脳症(孔脳症)
9.髄膜瘤
10.Chiari U型奇形
11.仙尾骨部奇形腫
a.T型
b.V型
12.先天性サイトメガロウイルス感染症
13.胎児Galen静脈瘤
B 頭頸部
1.頸部リンパ管腫
2.胎児ヒグローマ
3.口唇裂,口蓋裂
C 胸部
1.横隔膜ヘルニア
a.Bochdalek孔ヘルニア
b.食道裂孔ヘルニア
2.横隔膜弛緩症
3.先天性肺気道奇形(CPAM)
a.T型,U型
b.V型
4.肺分画症
5.気管支閉鎖症
6.先天性肺気道奇形(CPAM)+肺分画症
7.胎児胸水
8.リンパ管腫
D 心臓
1.完全内臓逆位
E 腹部
1.食道閉鎖
2.十二指腸閉鎖および狭窄
3.空腸回腸閉鎖
4.胎便性腹膜炎
5.そのほかの消化管異常(回腸癒着,内ヘルニア形成)
6.腹壁異常
a.腹壁破裂
b.臍帯ヘルニア
c.尿膜嚢胞
7.腸間膜嚢胞
8.先天性胆道拡張症
9.副腎出血
F 泌尿生殖器
1.水腎症
a.腎盂尿管移行部閉塞
b.両側水腎症,膀胱出口部閉塞
2.尿管瘤(巨大尿管症)
3.総排泄腔遺残
4.多嚢胞性異形成腎
5.多発性嚢胞腎
6.腎無形成
7.Potter症候群
8.卵巣嚢胞
9.尿道下裂
G 四肢
1.四肢短縮症
V.希少疾患
1.側脳室片側性拡大(傍Sylvius裂症候群)
2.眼球異常
a.緑内障
b.第一次硝子体過形成遺残
3.上顎発生奇形腫
4.胎児甲状腺腫
5.気管支原性嚢胞
6.先天性上気道閉鎖症
7.心臓腫瘍
8.無脾症候群
9.多脾症候群
10.静脈管欠損
11.肝血管腫
12.膀胱脱
13.Beckwith-Wiedemann症候群
14.Carmi症候群
15.Meckel-Gruber症候群
16.VACTERL連合
17.無心体双胎
W.付属物
1.胎盤血腫
2.絨毛膜血管腫
3.前置胎盤,癒着・侵入胎盤
4.胎盤ポリープ
5.単一臍帯動脈
6.臍帯静脈瘤
7.前置血管
8.臍帯付着異常(卵膜付着)
9.臍帯下垂
10.帝王切開術瘢痕部妊娠
おわりに
はじめに
産科医療は,母親と胎児という二人の人間を同時に取り扱うという,他の診療科にはない特殊性を有している.古くは母親だけが対象であり胎児のことは看過されていたが,現在の標準的な産科診療においては,すべての胎児について,大きさと形態と機能から異常の有無がスクリーニングされている.そして,何らかの通常と異なる所見のある胎児は精密検査を受けるというシステムが構築されている.その際,胎児スクリーニングは主に超音波検査によって行われるが,いったん精密検査が必要とされた場合,さらに詳細な超音波検査に加えて,最近ではMRIを行う施設は少なくない.
MRIに比べて超音波検査の歴史は古く,静止画は動画になり(電子スキャン),妊娠初期から観察できるようになり(経腟法),液体の流れが描出され(カラードプラ法),ついには立体表示が出現した(3D/4D 超音波).最近40年ほどの間に超音波機器は著しく発展し,子宮内の胎児を容易かつ詳細に観察できるようになった.一方この間に,超音波検査以外の画像診断法として,MRIの有用性が指摘されるようになってきた.しかし,従前のMRIは撮像に要する時間が長く,機器を有する施設は限られており,胎動によるアーチファクトを生じることなど,胎児診断に用いるには問題が少なくなかった.ところが最近になって,撮像に要する時間が急速に短縮したことから,アーチファクトの問題が解決され,画像の質や利便性が格段に向上し,胎児診断になくてはならない検査法として認識されつつある.さらにMRIは,放射線科医や放射線科技師により行われるため,産婦人科医にとっては第三者の意見を聴取できる機会ともなっている.今後は,超音波検査で胎児スクリーニングが行われ,それ以上の情報を必要とする場合は胎児MRIが行われるようになることが予想される.
本書では,このような胎児診断の趨勢を考慮して,産婦人科医である増アと放射線科医である瀬川とが,それぞれ動画による超音波所見とMRIとを比較しつつ,同一胎児についての各所見を解説することとした.特にMRIについては,胎児診断における位置づけ,胎児の正常所見および形態異常の特徴的所見,注意すべきアーチファクトなど,実地臨床において必要となる読影法について,正確かつ精密に解説している.
今からの胎児診断には,超音波検査によるスクリーニングとMRIによる精密検査の両方が必要であり,それぞれを担当する医師の胎児に関する共通認識が必要である.医療はいずれの分野においてもチームによる対応が求められており,胎児診断についても例外ではない.本書が,産婦人科と放射線科との架け橋として,胎児診断におけるチーム医療のきっかけとなることを期待したい.胎児は医療者にとっての新しい患者であるばかりでなく,母親やその家族にとっても身近な存在になっており,それもまた画像診断によってもたらされた福音であろう.すべての胎児の幸福を願って結びとする.
2021年5月吉日
長崎大学名誉教授/佐世保市総合医療センター理事長・院長 増ア英明
長崎大学病院放射線科助教 瀬川景子