イラストレイテッド 心電図を読む改訂第2版
鑑別に迷わないために
監修 | : 杉浦哲朗 |
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著 | : 土居忠文 |
ISBN | : 978-4-524-25543-6 |
発行年月 | : 2016年9月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 180 |
在庫
定価3,740円(本体3,400円 + 税)
正誤表
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2017年08月21日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
数多ある心電図本のなかでも良書としてベストセラーを誇る心電図ガイドが、新規図を豊富に盛り込みついに改訂。心臓の病態を波形から読み取るノウハウを凝縮し、頭に入れておくべき鑑別疾患をコンパクトにまとめた。学生はもちろん、現場に出た臨床検査技師、看護師の入門書に最適で、心電図の判読スキルを無理なく身につける一冊に仕上がった。暗記に頼らない心電図の本当の読み方がここにある。
口絵
刺激伝導系
刺激伝導系の興奮と心電図波形の形成
心電図波形の名称と基準値
波形の表現法
四肢誘導
胸部誘導
心電図判読の手順
心臓活動と心電図の関係
第I章 調律異常および伝導異常
1 洞調律とその異常
A.正常洞調律
B.洞頻脈
C.洞徐脈
D.洞不整脈
E.洞停止
F.移動性ペースメーカ
G.洞房ブロック
H.洞不全症候群
I.房室接合部調律と促進性房室接合部調律
J.補充収縮
K.房室解離
2 期外収縮
A.期外収縮の分類
B.心房期外収縮
C.房室接合部期外収縮
D.心室期外収縮
E.期外収縮と洞調律との関係
F.二段脈,三段脈
3 融合収縮
4 心房細動・心房粗動
A.心房細動
B.心房粗動
5 発作性上室頻拍
6 心室頻拍・心室固有調律
A.心室頻拍
B.心室固有調律と促進性心室固有調律
7 心室細動
8 ブルガダ症候群
9 WPW症候群
10 房室ブロック
11 心室内伝導障害
A.右脚ブロック
B.左脚ブロック
C.左脚前枝ブロック
D.左脚後枝ブロック
E.2枝ブロック
F.3枝ブロック
12 人工ペースメーカ
第II章 心房・心室肥大
1 心房拡大
A.右房拡大
B.左房拡大
2 心室肥大
A.右室肥大
B.左室肥大
C.両室肥大
第III章 虚血性心疾患
1 狭心症
A.労作性狭心症
B.異型狭心症
2 心筋梗塞
A.心筋梗塞
B.下壁梗塞
C.前壁中隔梗塞
D.広範囲前壁梗塞
E.側壁梗塞
F.後壁梗塞
G.右室梗塞
H.非Q波梗塞
第IV章 その他のQRS波,ST-Tの異常
1 電気軸
2 移行帯異常
3 低電位
4 右胸心
5 心筋症
A.肥大型心筋症
B.拡張型心筋症
6 たこつぼ型心筋症
7 急性心膜炎
8 QT延長症候群
9 r波の漸増不十分
第V章 電解質異常
1 高カリウム血症
2 低カリウム血症
3 高カルシウム血症
4 低カルシウム血症
付録
1 アーチファクト
2 人為的ミス
3 血液循環と心疾患
索引
著者序文
心電図の判読を学ぶには、まずP波、QRS波、ST部分、T波、PQ時間、QT時間などの基本パターンを十分に習得し、それから異常心電図波形の読み方、さらに各種病態における心電図の判読へと進むのが、一般的な勉強法の1つと考えられます。
本書は、主に異常心電図波形と各種病態における心電図の判読に重点を置き、心電図を学ぶための入門書としてまとめたものです。イラストを多く用い、分かりやすく簡潔に仕上げるよう努めました。
臨床心電図の種々の所見は、心臓電気生理の比較的単純な原則によって理解できるものが多く、これらをより分かりやすく理解できるように、イラストを用いて解説しました。とくに、不整脈の波形と刺激伝導系との関係を示したイラストは、著者自身が心電図を判読するときに頭に描いて判読の助けとしているものです。異常心電図の解説は簡潔にまとめ、心電図を判読する際に初心者が見落としなく判読できるように、症例ごとに心電図波形および所見を掲載しました。また、鑑別診断について実例を示し、判読する際の助けになるように配慮しました。本書を読み進める中で、まだ説明されていない心電図が突然「鑑別診断」として出てきますが、心電図波形の特徴を心電図診断に結び付けるためには、鑑別すべき波形を頭に描き考察することが重要です。順を追って理解することと並行して、鑑別診断の関連付けを学んでいただければと思います。
心電図検査は循環器疾患の診断において、最初に患者に適したオリエンテーションを付けるためのもっとも有効な検査の1つであり、臨床検査技師や看護師などの的確な心電図の判読が、患者の救命に役立つことも少なくありません。本書は、初心者の方に活用していただくことを基本方針として作成しましたので、学生諸君や臨床検査技師、看護師、研修医など、多くの方々に入門書として活用していただければ幸いです。
本書の発刊にあたって、ご多忙の中、監修の労をとっていただいた杉浦哲朗先生、ならびに出版に尽力を惜しまれなかった南江堂諸氏に心から感謝いたします。
2016年8月
高知医療支援研究所所長
土居忠文
心電図は心臓の電気的活動を表す基礎的な検査法であり、診療科を問わず医師であれば誰でも判読することが求められる。一方で、心電図の勉強が現在の医学部授業で系統的に行われることはほとんどなく、医学生は各々が簡単な心電図の指南書を購入して勉強しているのが実態である。心電図は簡単なようで実は奥が深い。
本書は、まず口絵で、心電図を形成する刺激伝導系の興奮と心電図波形の形成過程、四肢誘導、胸部誘導の説明に始まり、著者の考える心電図判読手順が記してある。心電図の判読は心電図成分の出現順に行うのが通常で、本書もそのように解説してある。その後、第I章では調律異常および伝導異常、第II章 心房・心室肥大、第III章 虚血性心疾患、第IV章 その他のQRS波、ST-Tの異常、第V章 電解質異常の5章で構成される。いずれの章でも心電図異常の短い定義と特徴的心電図所見をあげ、実際の心臓図と心電図異常の起こる心臓の場所が特定できるように記述してある。
さらに鑑別診断にも多くの記述を割き、実際の心電図を提示して鑑別すべき心電図との対比を行っている。第I章-12の人工ペースメーカの記述は秀逸で、人工ペースメーカの機能、表現コード、それぞれの心電図、ペーシング不全、センシング不全について詳述してある。第III章-1の狭心症のST低下については、健常者にみられるST-T変化が心房の再分極過程を表すTa波部分が運動後にST低下にみえることがあると記述があり、心内膜下虚血ではPQとST部の描く円周が一致しないと説明があり納得がいく。運動後に交感神経緊張で生理的ST低下が起こる理由がわかった。第III章-2の心筋梗塞の記述では心筋虚血、心筋壊死の程度によりST-T部分がどのように変化するかが心筋の壊死進行に合わせて書いてあり興味深い。その後、冠状動脈の枝ごとに虚血の進行と心電図変化の相関の記述があり、これらの章では12誘導すべての心電図を書き記すことで心電図のST-T変化と冠状動脈病変の進行部位がよく対比されている。第IV章では電気軸、移行帯異常、低電位、心筋症などの知っておくべき心電図が記載されている。広島から最初の症例報告があった急性心筋梗塞に類似した胸痛と心電図変化を有する左室壁運動があるが、冠状動脈には優位狭窄のないたこつぼ型心筋症の心電図が記載されている。最終章の電解質異常では、高カリウム血症、低カリウム血症、高カルシウム血症、低カルシウム血症の記載があり、典型的な心電図が載っている。高カルシウム血症、低カルシウム血症の心電図は日常診療でほとんど目にすることがなく、たいへん参考になる。
以上、本書は題名のとおりイラストレイテッド(図解が多い)心電図の鑑別本で、初心者から経験豊富な循環器専門医も一読(一見)の価値がある専門書である。
胸部外科69巻13号(2016年12月号)より転載
評者●広島大学外科学(第一外科)教授 末田泰二郎
心電図に関わる多数の書籍のなか、本書の改訂がなされた。その事実は、本書がすでに読者の支持を受けた証でもある。心電図はすでに多くの先駆者たちが基本的な臨床検査法として、その有用性を確立し、世界的にも広く受け入れられ普及してきた。その特徴は、単純な波形構成にもかかわらず心臓の電気的興奮をその時間軸とともに推定可能とし、簡便で繰り返し記録可能な優れた検査法である。この単純な波形から得られる情報は、まだまだ十分に解明されたわけではない。検査法としての心電図が、簡便かつ普遍的であるがゆえに、その意義と、得られる情報を理解し活用できることは、今日の臨床現場では不可欠であり、心電図情報を十分利用できるならば医療者の臨床能力を高めることが可能となる。
それでは、いかに心電図を読み、活用するかを考えたとき、初心者にとってはその糸口を自ら見出すことは困難かもしれない。究極は、正常心電図と何が違うかを瞬時に見抜く能力を身につけることであろう。そのためには多くの心電図に慣れ親しむことが求められる。これは最終目標であるが、ぜひ、志は高くして望むべきである。心電図に親しみ、慣れ、感覚的にここがおかしいといった具合に気づくようになるには、基本的に正しい思考過程を学ぶことが求められる。
本書は、長く心電図に関わってこられた著者が、長年の経験を活かし、いかに基本的思考過程を構築できるかをラダーグラム(電気的興奮の発生源とその伝導経路を図示したもの)に具体的に示し、初心者の理解度を高める工夫がなされている。このラダーグラムを正しく描くことは、刺激伝導系の電気生理学的特徴である不応期の概念が必要となるが、想像を巡らせ考えることは大変よいトレーニングとなる。本書は、効果的にラダーグラムを付し、刺激の伝導過程を心電図記録に視覚的に図示することで理解度を高めることを容易にしている。初学者であっても、単に視覚的に波形をパターン認識で記憶するのではなく、表現される波形が刺激伝導系をいかに伝導しているかを頭に浮かべ考えるトレーニングが重要となる。複雑な心臓の電気生理学的背景を苦手と思っている皆様には、刺激伝導系を常にイメージしながら心電図判読を心がけることで自然と慣れ親しむことになる。
本書は、電気生理学的センスをトレーニングできる入門書として、また、これまでの知識を再確認するためにも役立つものと期待できる。研修医、医療従事者から臨床現場で活躍されている臨床医まで幅広く利用できる一冊である。
臨床雑誌内科119巻4号(2017年4月増大号)より転載
評者●日本医科大学多摩永山病院名誉院長 新博次