看取りケア プラクティス×エビデンス
今日から活かせる72のエッセンス
編集 | : 宮下光令/林ゑり子 |
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ISBN | : 978-4-524-25542-9 |
発行年月 | : 2018年2月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 312 |
在庫
定価3,300円(本体3,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
看取り期における患者・家族の意向を踏まえ、専門的かつ正しい知識をもってよいケアを実践する医療者におくる指南書。根拠(エビデンス)に基づく標準的なケアの方法を示し、効果の期待できるケアの選択肢を明確に提示。第2部の各論では、臨床で抱く具体的な疑問を様々な研究結果を用いて解説。デスカンファレンスの進め方を盛り込み、患者・家族のケアだけでなく医療者自身のケアにも言及した。今日からの実践(プラクティス)の道しるべとなる一冊!
第1部 看取りのケアのキホン(基本編)
第I章.看取りのケア 〜基礎の基礎〜
1.看取りのケアの基礎知識
2.家族へのケアの基礎知識
3.患者・家族とともに行う看取りのケア 〜よりよい看取りをめざして〜
第II章.症状コントロール 〜患者の苦痛を緩和する〜
1.疼痛
2.呼吸困難
3.消化器症状
4.せん妄
5.苦痛緩和のための鎮静
第III章.疾患別にみる看取り期の特性
1.がん
2.心不全
3.腎不全
4.神経疾患(ALS,パーキンソン病,脳卒中)
5.COPD
6.認知症
7.ICU/救急(急性期の看取り)
8.小児疾患(子どもの看取り)
第IV章.死亡後の処置,整容 〜お別れ支度のお手伝い〜
1.死亡後の経時的身体変化と扱い方
2.死亡後の処置(エンゼルケア)
3.エンゼルメイク(身だしなみの整え)
4.家族への声かけとかかわり方
第V章.家族のグリーフ 〜お別れ支度のお手伝い〜
1.悲嘆と遺族の心理過程
2.遺族会,手紙(遺族に向けた手紙),遺族訪問,地域のリソース
第VI章.デスカンファレンス 〜看護師のグリーフ〜
1.デスカンファレンスの意義
2.デスカンファレンスの進め方
3.デスカンファレンスの実際
4.看護師のグリーフ
第2部 実践! 看取りケア(応用編)
第I章.看取りに向けたケア
(1)からだの変化
1.食べられない患者にできるケアは?
2.大量腹水の患者にできるケアは?
3.脱水は苦痛なのか?
4.顔のうっ血がある患者のケアは?
5.脆弱化した皮膚のケアは?
6.死前喘鳴に吸引は有効か?
7.目の乾燥のケアは?
8.口渇・口腔乾燥に有用なケアは?
9.聴覚は最後まで残るのか?
10.お迎え現象はどれくらいの患者が経験するのか?
(2)治療やケア
1.体位変換はルーティンで必要か?
2.輸液は絞るべきか?
3.入浴はできるのか?
4.血管に点滴の針が入らないときは?
5.鎮静は寿命を縮めるか? 安楽死なのか?
6.臨死期の心電図モニターは必要か?
7.臨死期の排泄ケアは?
8.血圧維持のための足上げの効果はあるのか?
9.介護施設の看取りの特殊性は?
(3)家族ケア
1.せん妄に対して家族が求めるケアは?
2.看取りが近いにもかかわらず付き添いを離れたいという家族への対応は?
3.家族内の葛藤・衝突がある場合,どう対応するか?
第II章.死亡時の対応と死亡確認
1.心肺蘇生時には家族が立ち会うべきか?
2.死亡時の立会と死亡確認は?
3.自宅で急変して亡くなった! 救急車を呼んではいけない?
4.死亡確認時に気をつけることは?
5.お別れの時間を確保していますか? 〜すぐにエンゼルケアを始めるべきか〜
第III章.死後処置(エンゼルケア)
1.湯かんを行う場合の考え方は?
2.ご遺体のかたちを整える
3.詰め物は有効か?
4.排便・排尿の対応は?
5.ルート抜去部の変色に対する対応は?
6.死亡退院時の服装は?
7.死後処置は家族といっしょにするべきか?
第IV章.グリーフケア
1.遺族が一番つらい時期っていつごろ?
2.一般病棟でもできるグリーフケアは?
3.遺族へのよいお手紙,悪いお手紙とは?
4.遺族が求めるよい遺族会とは?
5.「気になるな」と思ったご遺族にどうアプローチするか?
第V章.デスカンファレンス 〜看護師への支援〜
1.意見が出ないときは?
2.ショックを受けている新人への支援は?
3.カンファ中に受け持ち看護師が泣き出したら?
4.すべてを解説したがる医師にどう対応する?
5.自死例にどう対応する?
6.看護師の不調 誰にどうアドバイスをもらう?
7.看護師が精神科を受診すべきときとは?
索引
序文
「看取りのケアの根拠? エビデンス? 看取りのケアは個別性が一番大事なのでは?」「でも、看取りでは日々悩むことが多いので、もし、しっかりとした根拠があるなら知りたいな」このような動機で本書を手にされた方も多いのではないかと思います。多くの臨床の人に伝えたい!という気持ちで本書の企画は始まりました。その頃、たまたま、看護師が疑問を投書するネット上の掲示板のようなサイトで「私の病棟では死が近くなると血圧を維持するために下肢挙上するのですが、意味はあるのでしょうか?」という質問を見ました。若い方は知らないかもしれませんが、私が臨床に出ていた20年前では日常的に行われている病院も少なくなく、私も日々、せっせと下肢を挙上していました。「さすがにいまどきはないだろう」と思っていたのですが、このことをSNSに挙げたところ、「うちの病院でもたまに見ます」と有名な大学病院の方も含めて反応があり、驚きました。看護の世界には神話か都市伝説のようなケアが口伝されており、根拠ある看取りのケアを解説する本が必要と再認識した次第です(この質問に関しては193ページ参照)。
では、神話や都市伝説と思しきケアはすべて正しくないのでしょうか? 経験豊富な看護師が「この患者さんは鼻が尖ってきたから、もう数日で亡くなるかもしれない」と言っているのを聞いたことはありますか? ときどき聞いた話です。当時の私には今ひとつピンと来ませんでしたが、最近の海外の研究で「あと数日である」ことを非常に正確に予測する指標のひとつが「ほうれい線が垂れてくる」ことであるという研究成果が発表されました(7〜8ページHuiの論文参照)。ほうれい線が垂れると相対的に鼻が高くみえますので、それが「鼻が尖ってくる」と表現されたのかもしれません。まだエビデンスという言葉すら普及していない時期の先輩看護師の観察力の鋭さに感嘆しました。
言うまでもなく看取り期のケアは個別性を重視すべきアートという側面が強いと思います。しかし、様々な研究から、エビデンス、個々の看護行為の裏づけとなる根拠や科学的研究成果もどんどん発表されています。本書はこのエビデンスとアートを結び付け、「今日からの臨床に活かせる実践(プラクティス)」の道しるべを提供することを目的に企画しました。主にエビデンス面は遺族調査などを専門に研究している宮下が、プラクティス面はがん看護専門看護師として臨床経験が豊富な林が担当しました。また、各セクションではすでによく知られていることをまとめるのではなく、徹底的に国内外の研究を調べ最新のエビデンスを掲載するために、若手の研究者・臨床家を中心に執筆を依頼しました。
臨床における看取りのケアでは、エビデンスだけではなく、目の前の患者さんにそれをどう適用するか、患者さん、ご家族にどのように実践するかが重要となるため、本書では第1部「看取りのケアのキホン(基本編)」で基本となる知識や考え方を解説したうえで、第2部「実践!看取りケア(応用編)」で臨床で頻繁に遭遇しうる個々の場面において、「根拠と研究のエビデンス」「ケアのポイント」を解説しています。「ケアのポイント」では患者の個別性に対応できるよう、「ケアの選択肢」をできるだけ多く掲載することにしました。個々のケアのポイントはそれほど目新しいものではありませんが、それが根拠や研究のエビデンスに基づいたものであることを知ることによって、自信をもってケアを実践できることを期待しています。
本書は現時点での「最先端のエビデンス」を集めたつもりですが、まだエビデンスに乏しい領域もあり、今後の研究の発展によって修正が必要になる項目も出てくると思います。また、読者の方から「臨床現場ではこのようなことで困っているが、エビデンスはどうなのか?」などとお知らせいただければ、エビデンスを調べ、必要なら新しく研究を行い、本書の改訂版を出すことを夢見ております。本書が看取りのケアの臨床で日々悩みつつも患者さん、ご家族のため頑張っている看護師の方々への道しるべのひとつとなることを祈っています。
2018年1月
宮下光令
林ゑり子
現場発の疑問にこたえる
本書の編集は、エビデンスの領域を宮下光令氏が、プラクティスの領域を林ゑり子氏が主に担当し、著者34人が全員看護職である。「今日から活かせるエッセンス」として72項目が挙げられ、看取りのケアのキホン(基本編)全6章26項目、実践!看取りケア(応用編)全5章46項目の構成である。いずれも、看護現場からの疑問に忠実にこたえ、看護ケアにすぐに役立つ内容となっている。本書を熟読することで、自信をもって臨死期にある患者や家族とかかわることができ、残された時間を大切に過ごしていただくための支援ができるようになる1冊である。
基本編では、最新の文献を引用し、学問的な内容について図表を多く用いてわかりやすく述べている。看取りケアの基礎知識から始まり、家族ケアの実際、各症状、各疾患別に看護ケアの実際から薬物療法まで詳しく解説されている。死後処置(エンゼルケア)やグリーフケアのエビデンスの解説も目新しい。
応用編では、臨死期での症状コントロールを、根拠と研究のエビデンスから、ケアのポイントまで、患者の個別性に対応できるように詳述されている。医師があまり振り向かない終末期での対応、たとえば輸液量、腹水穿刺の可否、脆弱化した皮膚への対応、死前喘鳴の吸引の可否などについて具体的に述べられている。さらに、臨死期での入浴の是非、鎮静や心電図モニター装着など、看取りの現場での課題の解決策が示されている。
看取りケアに自信をもちたいすべての医療者へ
各項目ともに、看護雑誌や医学雑誌の特集で掲載されるような内容であるが、本書はすべてを網羅しているので、臨床の場で座右の書となると思われる。看取りにかかわる看護師だけでなく、すべての看護師、医師、薬剤師、介護士などほかの医療者にとっても役立つであろう。職場での購入以外に、個人的に手元に置いておきたい一冊である。
がん看護23巻4号(2018年5-6月号)より転載
評者●宝塚市立病院緩和ケア病棟師長/緩和ケア認定看護師 岡山幸子