パーソン・センタード・ケアでひらく認知症看護の扉
編集 | : 鈴木みずえ/酒井郁子 |
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ISBN | : 978-4-524-25514-6 |
発行年月 | : 2018年1月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 332 |
在庫
定価4,180円(本体3,800円 + 税)
正誤表
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2018年05月08日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
認知症の病態を理解し、全人的で専門性の高い看護を実践したい看護師・看護管理者に向けた指南書。これからの認知症看護に欠かせない“パーソン・センタード・ケア”の概念を基盤に全体を構成。認知症の人の視点に立ち、認知症と共に生きる人を理解したうえで、具体的なケアの方法論と展開法をていねいに解説。地域包括ケアシステムの一角としての場を選ばない認知症看護の実践、ケアをつなぐために必携の一冊。
第I章 認知症と共に生きる人の理解
1 認知症の人はどんな世界を生きているか
A 記憶障害をもつ人の体験
B 見当識障害に関連した歩き回る(徘徊)行動の体験
C 失認・失行・失語に関連した生活障害の体験
D 認知機能障害による不安や恐怖の体験
E 認知症の診断の告知と絶望感
F 認知症のその人の体験の意義:魂の核に向かう
G 1人の人として受け入れることの重要性
2 パーソン・センタード・ケアから認知症の人を考える
A パーソン・センタード・ケアとは
B パーソン・センタード・ケアの基盤となるパーソンフッド
C よい状態とよくない状態のサイン
D 認知症の人の心理的ニーズ
E 個人の価値を低める行為と個人の価値を高める行為
F 認知症のパーソン・センタード・モデル
第II章 認知症の進行(ステージ)に応じた意思決定支援
1 認知症の進行(ステージ)の理解
A 適切な疾患理解とは
B ステージごとによくみられる状態の理解
C 検査でわかる記憶障害と検査ではわからない記憶障害
2 認知症の人の意思決定を支える
A 意思の引き出し方
B 具体的な意思決定支援の方法と実際
第III章 軽度認知症と共に生きる人を支える
1 体験を理解する
A 軽度認知症をもつH氏のストーリーから考えてみよう
B パーソン・センタード・モデルを用いてH氏の心を理解しよう
C 解説
2 行動や言動の意味を理解して,パーソン・センタード・ケアを実践する
A 軽度認知症の人が生きる世界
3 健康障害を予防し,支援する
A 脱水
B 慢性心不全
C うつ病
D 慢性硬膜下血腫
E 脳血管障害
F 正常圧水頭症
4 暮らしを支える
A 地域包括ケアシステムにおける軽度認知症の人の支援
B 軽度認知症の人を支える看護職の役割−事例9の場合
C 地域包括ケア体制下の軽度認知症の人の予防から看取りまでを支えるキーパーソン
第IV章 中等度認知症と共に生きる人を支える
1 体験を理解する
A 中度認知症をもつJ氏のストーリーから考えてみよう
B パーソン・センタード・モデルを用いてJ氏の心を理解しよう
C 解説
2 行動や言動の意味を理解して,パーソン・センタード・ケアを実践する
A 歩き回る,家から出て行って戻らなくなる
B 介護者に対して大きな声をあげる,拒否する(攻撃的)行動や発言がある
C 入浴しない,着替えない
3 健康障害を予防し,支援する
A 排泄障害
B 疼痛
C 転倒による骨折
D 睡眠障害
4 暮らしを支える
A 本人の強みを活かして支援できた事例
B 中等度認知症の人が皆と仲良く活き活きと過ごす課題の明確化とケアのポイント
5 身体治療が必要な認知症の人に対するパーソン・センタード・ケアの導入
A 急性期病院における認知症高齢者の特徴
B 入院直後の急性混乱状態における看護
C 認知症の人の認知機能障害とその対応策を理解する
D 急性期病院での治療・看護における課題と本人の視点
E 急性期病院に入院中の認知症の人の看護のポイント
F 急性期病院における認知症の人に対する看護の役割
6 身体治療を受ける認知症の人のせん妄ケア
A せん妄
B 医療施設におけるせん妄ケアのシステム化
C 入院の経過に応じた家族への説明
7 病棟での看護管理
A 急性期病院の現状とパーソン・センタード・ケアに基づいた取り組み
B 病棟における具体的な看護管理
第V章 重度認知症と共に生きる人を支える
1 体験を理解する
A 重度認知症をもつL氏のストーリーから考えてみよう
B パーソン・センタード・モデルを用いてL氏の心を理解しよう
C 解説
2 行動や言動の意味を理解して,パーソン・センタード・ケアを実践する
A 食べ物ではない物を食べる,食べ過ぎる
B 食事をとらない,とることができない
C 排泄物を布団や壁に塗る,トイレではない場所で排泄する
3 健康障害を予防し,支援する
A 摂食障害
B 誤嚥性肺炎
C 寝たきり
4 最期の暮らしを支える
A 重度認知症の人のQOL
B チームによるエンド・オブ・ライフ・ケアの実践
C 最期を迎える場での援助
第VI章 若年性認知症と共に生きる人を支える
1 体験を理解する
A 若年性認知症の定義と実態
B 老年性認知症との違い
C 本人・家族の心理
D 本人・家族への支援
2 就労継続支援の実際
A 仕事をすることの意味
B 事業所の産業医に対する調査から
C 社会的な観点における認知症高齢者との違い
D 若年性認知症の本人・家族調査における就労と経済の状況
E 雇用・経済問題への支援
F 認知症介護研究・研修大府センターの取り組み
G 若年性認知症の人への支援
3 認知症の人がつくる地域包括ケアシステム
A 地域包括ケアシステムと地域包括ケア
B 58歳でアルツハイマー型認知症と診断された佐野光孝さんとの出会い
C 佐野光孝さんがもたらした地域の発展
D まとめ
第VII章 認知症と共に生きる人の社会的側面からの理解
1 人口統計からみた認知症
A 認知症の死因分類
B 認知症の有病率の現状
C 世界の認知症高齢者の割合と将来推計
2 歴史・文化からみた認知症
A 植えつけられた,誤った「認知症観」−1970年代
B 心情と生活への視点を欠いたまま−1990〜2000年代
C 「徘徊」問題の議論にも本人不在−2014年
D 認知症を受け止める変化の兆し−最近〜現在
3 政策からみた認知症
A 介護保険制度施行前の認知症施策の歩み
B 介護保険制度施行後〜オレンジプランまでの認知症施策
C 認知症施策5か年計画戦略(オレンジプラン)
D 「認知症施策推進総合戦略〜認知症高齢者などにやさしい地域づくりに向けて〜」(新オレンジプラン)
E 地域包括ケアシステム
F 地域包括ケアシステムと地域密着型サービス
G これからの地域包括ケアシステムにおける認知症施策
4 介護からみた認知症
A 介護とは
B 認知症介護の概観
C 家族が担う介護
D 介護職が担う介護
E 看護職の介入が必要な局面と連携
5 医療からみた認知症
A 予防
B 治療
6 法律からみた認知症
A 認知症の人が社会から疎外されることをめぐる法的課題
B 認知症の人への医療・介護をめぐる法的課題
C 認知症の人が社会生活のなかで被害者とならないための法的課題
D 認知症の人が社会生活のなかで加害者とならないための法的課題
E 認知症の人の介護者の責任をめぐる法的課題
7 社会変革の潮流からみた認知症
A 認知症の人が社会を変える
8 各国の対策からみた認知症
A オーストラリア:革新的早期認知症支援プロジェクト
B デンマーク:認知症国家戦略
C 英国:認知症国家戦略
D スウェーデン:認知症ケアの保障と国家対策
E 認知症サミット
F 認知症ケアにおけるギャップを埋めるためのグローバルな活動−Global Action on Personhood(GAP)in Dimentia Care
第VIII章 パーソン・センタード・ケアを実践するためのチームとその人材育成
1 認知症かどうか曖昧な状況におかれた人を支える
A 地域での認知症予防の重要性
B プロジェクト内容
C スクリーニング検査の実施(高齢者機能健診)
D 認知症予防スタッフ養成の実施
E コミュニティ・プログラムの開発と実施
F コミュニティの波及効果に関する調査
G まとめ
2 急性期病院での多職種連携と看護師の役割
A 急性期病院に入院する認知症高齢者のケア提供に必要なチームアプローチ
B 院内デイケアによる多職種連携と看護師の役割
C 急性期病院での多職種連携と看護師の役割
3 介護保険施設における支援
A 介護保険施設の特徴
B 介護保険施設における認知症の人の生活とケアの方向性
C 介護保険施設におけるケア体制
D チームにおける看護師の役割
4 認知症の人への災害時の支援
A 災害とは
B 災害看護
C 災害の各局面における認知症の人への支援
5 認知症の人を支援する人材の育成システム
A 市民の育成〜認知症サポーターキャラバン・メイト〜
B 介護職の育成
C 看護職の育成と今後の展望
D 学会などの認定資格と今後の展望
6 パーソン・センタード・ケアの普及
A パーソン・センタード・ケアの日本への導入
B 認知症ケアマッピング研修
C パーソン・センタード・ケアの新しい潮流
D パーソン・センタード・ケアのこれから
序文
日本はどの国も経験していない超高齢社会に突入した。それに伴い、認知症の人の生活を支えることは、保健・医療、福祉の領域だけではなく、社会や国家、世界をも巻き込んで多領域がかかわる大きな視点からの取り組みに発展している。そのようななか、地域包括ケアシステムの構成要素である急性期病院、介護保険施設、訪問看護ステーション、などで活動する看護師には、認知症をめぐる介護・福祉・社会制度も含めた幅広い知識と適切なケア提供のためのスキルの習得が期待されている。
そのため本書は、現在、そして、これからのあるべき認知症看護の考え方である“パーソン・センタード・ケア”というニューカルチャーをベースに全体を構成した。また、進行度別に認知症の人の視点から状況をみることに重きを置き、症状の進行に伴う生活上の障害に対する看護の課題とケアの方法論の明確化を図った。さらに、認知症の人に起こりやすい心理の表出や健康課題を明らかにした。その人の人生に触れ、場を共有しながら関係の構築を図ることと、全人的で専門性の高い看護を提供するための実践の両方を、認知症の人に届けるために必要な考え方と知識を網羅し、ていねいに解説した。
私たちは看護師としてではなく1人の人として、老いてゆく両親や自分自身に向きあっていくことになる。そのようなとき、パーソン・センタード・ケアの視点は、単に看護実践の質を深めるだけでなく、私たちの人生をも豊かにするであろう。
目の前の認知症の人へのケアの質向上を目指す看護師、認知症看護の実践方法の根本的な改革や認知症看護の専門性の構築に取り組む看護師、そして、看護管理者の皆さまにとって、本書が役立てば幸いである。
関係者の皆さまとその所属施設にご理解とご協力をいただき、本書を出版することができたことを深くお礼申し上げる。
2017年12月
鈴木みずえ
酒井郁子
超高齢社会の中、認知症の人ががんに罹患する、またはがんに罹患している人が認知症になることは少なくありません。がん治療が複雑多様化している今、患者の症状をきちんと理解し、意思決定を支援することが看護師の役割として求められています。
がんに罹患した認知症の人とかかわる際、「むずかしい」「わかりにくい」「本人の意思が反映されていない意思決定がされている」と感じたことはないでしょうか。そういった悩みや疑問に筋道を立てて考えることができるよう本書は解説されています。
パーソン・センタード・ケアの4要素
本人の意思が反映されないことは、心理的ニーズを阻害し個人の価値を低める行為(PD:Personal Detraction)に値します。“その人は認知症だから”と考えるのではなく“その人自身”を理解することが何より重要です。
「パーソン・センタード・ケア」は認知症ケアの考え方として知られていますが、その基盤となる考えは、“その人の視点や立場に立って理解する”ことにあります。本書でも紹介されているパーソン・センタード・ケアの4要素である、V(人々の価値を認める)、I(個人の独自性を尊重する)、P(その人の視点に立つ)、S(相互に支えあう社会的環境を提供する)はがん領域においても、全人的なケアを提供するために必要不可欠です。
悩んだときの指南本として
本書には、認知症とともに生きる人へのケアとして、病態の理解、適切なアセスメント、ケアの具体的方法が、実践の場でよく遭遇する事例をもとにていねいに解説されています。認知症の人の言動をどのように理解してケアをすればよいのか、悩んだ時に解決に導いてくれます。また、地域包括ケアシステムの中で、急性期病院、亜急性期病院、施設、在宅など所属する施設によってどのような役割を担いながらケアをつなけばよいのか、認知症とともに生きる人が安心して生活できるよう地域全体で実践していくことの大切さも教えてくれます。
本書は認知症ケアの本ですが、がんに携わるすべての人に読んでもらいたい一冊です。きっと、自分のケアに自信がもてず、どうすればよいか悩んだ時、あなたの助けとなって看護の扉をひらいてくれることでしょう。
がん看護23巻4号(2018年5-6月号)より転載
評者●北播磨総合医療センター緩和ケア病棟/がん性疼痛看護認定看護師 向井美千代