解剖学的視点で解き明かす女性骨盤手術
著 | : 金尾祐之 |
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ISBN | : 978-4-524-25474-3 |
発行年月 | : 2016年9月 |
判型 | : A4 |
ページ数 | : 102 |
在庫
定価8,800円(本体8,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
婦人科領域の腹腔鏡下骨盤臓器手術を安全におこなうための指南書。腹腔鏡下手術の進歩によって得られた詳細な解剖構造を踏まえ、胎生解剖の視点から複雑な膜・層構造や臓器の相互関係を正しく捉えた「外科解剖学」に立脚し、骨盤臓器手術の理論と技術を、豊富な写真・シェーマと卓越した技術を有する著者ならではの分かりやすい語り口でまとめた。
第1章 安全に手術を行うための骨盤解剖の習得
A.骨盤解剖の捉え方
B.局所解剖学的視点から考える骨盤解剖〜立体構造を理解する〜
1.骨盤解剖の理解の仕方
C.骨盤内臓器の相互関係
D.症例から復習する〜局所解剖学的視点から考える女性骨盤解剖〜
症例1:膣悪性黒色腫(pT4a N0M0,IIB期)
症例2:外陰部の二次性Paget病(Pagetoid spread of internal malignancy:原発は直腸癌)
症例3:再発子宮頸癌(1)
症例4:再発子宮頸癌(2)
【根治手術後化学療法抵抗性照射野内再発子宮頸癌に対する治療〜側方再発に対する手術療法について〜】
E.胎生解剖に基づいた外科解剖学的視点から考える骨盤解剖〜膜のつながりを理解する〜
1.はじめに
2.後腹膜臓器の発生
3.Modified Three Compartment Theory(MTCT)
4.腎筋膜の発生
5.尿管周囲の膜構造
6.尿管板外側の膜と基靱帯との関係,“脱膜化”
7.すべての臓器が腸間膜を持つという発想
8.筆者が考える骨盤膜解剖とは
第2章 解剖学に基づいた腹腔鏡下神経温存広汎子宮全摘術
A.必要な手術器具について
1.スコープ
2.カメラシステム
3.エネルギーデバイス
4.ヘモクリップ
5.トロックスガーゼ
6.血管テープ,直針2-0プロリン
7.鉗子
B.膣カフの形成
C.体位,トロッカー配置
D.暫定的腔の展開
E.後膣円蓋への操作ポートの追加
F.骨盤内リンパ節郭清
1.大腰筋(腸腰筋)と外腸骨血管の間の展開
2.リンパ節の上端(総腸骨節)のクリッピング,切断
3.尾側リンパ節[鼠径上節(大腿上節)]のクリッピング,切断
4.リンパ節の外腸骨節の血管からの分離
5.閉鎖リンパ節の郭清
6.仙骨節,総腸骨節,内腸骨節の郭清
G.上部靱帯の切断
H.子宮の把持
I.尿管周囲の脱膜化
1.尿管板内側の膜(下腹神経前筋膜)と尿管内側の基靱帯血管鞘との癒合筋膜の脱膜化=尿管トンネル内側の開放
2.尿管板外側の膜の脱膜化
J.膀胱子宮靱帯前層の切断
K.基靱帯の切離
L.子宮膀胱靱帯後層の切離
1.膀胱側腔展開時に内側の脂肪組織をしっかり摘出する
2.膀胱子宮靱帯後層を裏打ちする膜構造を“脱膜化”する
M.直腸剥離,仙骨子宮靱帯/直腸子宮靱帯/直腸膣靱帯の切開
N.膣切開
O.摘出物の回収
P.手術終了
Q.子宮腸間膜理論に基づいた術式の開発
1.概要
2.はじめに
3.子宮頸癌根治術における広間膜後葉ならびに仙骨子宮靱帯広汎切除の意義
4.仙骨子宮靱帯広汎切除術に必要な解剖とその手技
R.まとめ
第3章 FAQ コーナー:骨盤臓器手術に関する疑問に解剖学的視点からお答えします
Q1:トロッカーはどの位置(配置)に立てているのですか?また,筋腫などに対して腹腔鏡下子宮全摘術(TLH)を行う場合,大きさなどでトロッカーの位置を変えていますか?
Q2:どんなエネルギーデバイスを使っていますか?また,どのような使い分けをしていますか?
Q3:腹腔鏡下単純子宮全摘術の施行時,前方アプローチにて子宮動脈,尿管をうまく同定できません.どうしたらいいですか?
Q4:基靱帯をうまく切り下げることができません.どうしたらいいですか?
Q5:膣管の切開がうまくいきません.すごく時間がかかったり,出血したりします.どうしたらうまくできますか?
Q6:子宮内膜症による癒着でダグラス窩が閉鎖しているとき,どのようにしたら直腸を安全に剥離できますか?
Q7:難しい解剖はよくわかりません.結局,解剖なんてわからなくても手術が安全にできればいいのではないでしょうか?誰でも安全にTLHができる方法ってないのですか?Q8:どのようなトレーニングをして,どのように適応拡大をしていけば腹腔鏡下手術を安全に習得できますか?
第4章 腹腔鏡下縫合結紮
A.縫合のコツ
1.正しい角度とは
2.正しい角度で針を把持するためには
3.実際の手順
4.縫合針の腹腔内への挿入方法
B.結紮のコツ
1.C-loop法
2.P-loop法
3.用語解説
C.縫合結紮が有用な場面
序文
「組織は空気で切れ」
まだ研修医であった筆者に恩師である山嵜正人先生(当時大阪労災病院副院長)がよくおっしゃっていた言葉である。当時の自分はその言葉の意味を十分に理解できず、何となくの返事をしていたことを覚えている。
あれから20年近い年月が過ぎ、今回骨盤解剖についてまとめる機会をいただいた。自分なりに勉強をして、自分なりの結論を本書で表現したつもりである。胎生期の発生に目を向けて膜の癒合などを論じたが、結局のところ、骨盤手術の肝は“いかに正確に剥離すべき層に進入すべきか”に尽きるように感じている。剥離すべき正しい層は目の細かい結合組織で形成される、いわゆる“あわあわの層”であり、この層に進入したとき、目の細かい結合組織が展開されるため、すーと空気が入る。このことを恩師は「空気で切る」と表現し、正しい層で剥離することを「組織は空気で切れ」と指導したのであろう。結局、研修医のときにすでに指導いただいていたことを本書はまとめたに過ぎない。
ただ、婦人科癌に対し低侵襲手術全盛のこの時期に骨盤解剖をもう一度考えることは重要と感じている。触覚が低下する低侵襲手術において腫瘍の根治性を損なわない手術を完遂するためには、視覚情報の洗練、すなわち骨盤膜解剖の追究が必要不可欠と思われるためである。その意味で骨盤膜解剖についてこだわって執筆したつもりであり、本書が婦人科癌に対する低侵襲手術をこれから始めようとする方のお役に少しでも立てれば本当にうれしい限りである。
2016年8月
金尾祐之