がん研べからず集(内視鏡手術編)
ビデオでみるトラブルシューティング(DVD付)
監修 | : 山口俊晴 |
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編集 | : 比企直樹/小西毅/石沢武彰 |
ISBN | : 978-4-524-25443-9 |
発行年月 | : 2017年5月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 144(DVD動画65分収録) |
在庫
定価9,900円(本体9,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
がん研で受け継がれている規範「べからず集」を内視鏡手術に即してアップデート。手術合併症対策や手術室の雰囲気づくり、外科医としての心構えにいたるまで、トラブルの予防といざという時の対処の秘訣をまとめた。内視鏡手術で起こりうるトラブル回避の心得、危険な手術場面での対応方法をDVDの音声解説付き動画で学べる。あらゆる内視鏡手術の術者だけでなく、手術室のナースにもオススメの一冊。
A 手術計画,体位とセッティング
1 術前画像の読み込みを怠るべからず
2 定型化なくして手術すべからず
3 トロッカー位置の確認を怠るべからず
4 骨を目印にトロッカー位置を定めるべし(後腹膜臓器の手術)
5 極端な頭低位・頭高位に注意すべし
B 安全な機器の使用法
1 器械の特性を理解せずに使用すべからず
2 エネルギーデバイスの長所と短所を理解すべし
C 雰囲気づくり
1 手術は雰囲気づくりを忘るるべからず,沈黙は罪である
2 誰にでもわかる言葉で説明すべし
D 術野展開と視野確保
1 カメラを曇らすべからず,汚れたカメラで手術すべからず
2 モニターから目を離すべからず
3 悪い視野・赤い視野で進むべからず
4 1ヵ所に深入りすべからず(後腹膜臓器の手術)
5 助手は大きな視野展開を心がけるべし
6 術者と助手が同時に鉗子を動かすべからず
7 把持した組織を簡単に放すべからず,内視鏡手術は匍匐前進である
E 正しい層を保った剥離法
1 後腹膜,腹壁の層を見切るべし
2 腸間膜の層を見切るべし
3 面づくり,膜を張ることを忘るるべからず
F Oncological safety
1 癌の観察を怠るべからず
2 骨盤内で鈍的剥離をすべからず
3 腫瘍とリンパ節の扱いに注意すべし
4 婦人科疾患手術時は周囲臓器(尿管・膀胱・直腸)へ常に配慮すべし
5 術中超音波は肝離断の体勢で行うべし
6 開腹移行を躊躇すべからず
G 出血の予防と対応
1 血管に対しステープラーを無理に挿入すべからず
2 「受け」をつくってから手前を処理すべし
3 中等度の静脈は「へた」を残して切断すべし
4 出血しても慌てるべからず,カメラは近づくべからず
5 出血時は組織の緊張を解除すべし
6 出血時に助手は不用意に動くべからず
7 出血の吸引は間欠的に行うべし,洗浄を多用すべからず
8 膜を畳み込むように切るべからず,通して切るべし
H 臓器損傷の予防
1 死角で操作すべからず
2 術野外でのできごとに気を配るべし
3 組織の「ご機嫌」をうかがいながら把持すべし
4 超音波凝固切開装置のティシューパッド側にも注意を払うべし
5 「あとでやろう」と思うべからず
6 「難しいラパコレ」をすべからず
7 膜を1枚1枚剥ぐような手術を忘るるべからず
8 組織の透明性の確認を怠るべからず
I 閉創時のトラブル回避
1 ガーゼや器械のカウントをおろそかにすべからず
2 出血のみならず肺瘻や縫合不全の確認を怠るべからず
3 ドレーンはトロッカー孔にかかわらず最適位置に留置すべし
4 トロッカー抜去部位の止血確認を怠るべからず
J 教育・学習
1 縫合・結紮の習得なくして内視鏡手術を行うべからず
2 「次どこを切るか」,術者の気持ちで手術を見よ
3 術者ばかりすべからず
4 半学半教を忘るるべからず,教えることで自らも学ぶべし
5 教育には我慢と愛が大切であると忘るるべからず
索引
序文
梶谷 鐶先生は1909年岡山県総社市生まれ。1932年に東京帝国大学医学部を卒業、1939年に癌研究会康楽病院(戦後、附属病院に改称)外科に異動。当時の外科部長の久留 勝先生(のちに金沢大学教授、大阪大学教授、国立がんセンター病院長)の指導を受け、2年後に久留先生のあとを継いで、外科部長に昇格。胃癌を中心に乳癌・大腸癌手術に取り組んだ。1962年、岡山大学の陣内傳之助教授、大阪大学の久留 勝教授、千葉大学の中山恒明教授らと胃癌研究会を発足させ、その後、胃全摘、系統的リンパ節郭清により胃癌拡大根治術を含め、胃癌の外科治療を確立した。1973年に癌研究会附属病院の第5代院長に就任。1984年に癌研附属病院名誉院長となった。
梶谷先生が外科医としての守るべき規範について述べたものを『外科医べからず集−梶谷語録に学べ』(金原出版)として高山路爛先生が本名の大鐘稔彦名義で2005年に出版しており、今でもがん研有明病院の手術室の壁にはこの「べからず集」の文言が貼りつけてある。梶谷先生の「べからず集」を紐解くと、起こしてはならない術中・術後合併症や手術室の雰囲気や外科医としての心構えに至るまで、主にトラブルシューティングやトラブルの予防策についての秘訣が述べられており、今もなお手術におけるセーフティネットとして役立っている。
近年、内視鏡手術の進歩とともにがん研有明病院でも胸部、腹部、後腹膜と内視鏡手術が盛んに取り入れられるようになった。内視鏡手術におけるトラブルシューティングやトラブルの予防策は独特のものがあり、これらを確認する意味で内視鏡手術における「新がん研式べからず集」が必要ということから本書は発案された。本書が多くの内視鏡手術に関わる外科医たちに読まれ、手術がより安全なものとなることが望まれる。
2017年4月
がん研有明病院胃外科部長
比企直樹
がん研有明病院大腸外科副医長
小西毅
がん研有明病院肝胆膵外科副医長
石沢武彰
この度、南江堂より『がん研べからず集(内視鏡手術編)−ビデオでみるトラブルシューティング』が、がん研有明病院の内視鏡外科に携わる先生方のご尽力により上梓された。序文によると、がん研有明病院には、日本の癌外科治療に多大な貢献をされた梶谷鐶先生の外科手術に対する考えが凝縮された語録が脈々と伝わっており、「べからず集」としてエッセンスが手術室に貼り付けられているそうである。開胸・開腹手術の時代から内視鏡手術に移行してきている現在、梶谷先生の「エッセンス」を引き継いだがん研内視鏡手術のエキスパートたちが、内視鏡手術における「べからず集」をまとめられたのである。本書は、これから内視鏡手術を始める外科医だけでなく、内視鏡手術にすでに携わっている外科医にも大いに参考になるであろう。
本書の特徴として、胸部外科だけでなく腹部外科、婦人科、泌尿器科のエキスパートたちがそれぞれの専門分野における実例を時にはビデオで示しながら、「べからず」について解説している。各論としてそれぞれ固有臓器の解剖を通じて解説している部分もあるが、基本となる「べからず」については内視鏡手術全体に共通しており、胸部外科手術以外の項目の「べからず」もたいへん参考になる。一例として「難しいラパコレをすべからず」がある。これは困難例において患者に危険が及ぶのであれば内視鏡手術に固執することなくすみやかに開腹の手術に移行せよ、ということであるが、この「べからず」はまさに胸腔鏡手術を含むすべての内視鏡手術に当てはまり、スッと腑に落ちるものである。
さて、呼吸器外科における「べからず」の項目では、3名(文敏景先生、中尾将之先生、松浦陽介先生)のエキスパートが、複数の「べからず」についてビデオ付きで解説している。ただ実は、それぞれの「べからず」はとりわけ特別なことではない。「モニターから目を離すべからず」、「血管に対しステープラーを無理に挿入すべからず」、「死角で操作すべからず」などの「べからず」であるが、これらは呼吸器外科の手術を経験した者であれば一度は聞いたことがあるに違いない。ただ、それでもこれらの「べからず」が実際は実践されず、術中出血などのトラブルを生じる現状があるのも事実である。それは「聞いて知っていること」と「常に実践できること」は大きく違うからである。両者の間には大きな隔たりがあるが、本書と付属のビデオにより、「聞いて知っている」状態から「常に実践できる」状態に、一歩あるいはそれ以上、近づくことは間違いない。なお、「肺門・縦隔リンパ節の郭清時にはリンパ節の皮膜を損壊すべからず」、「出血のみならず肺瘻や縫合不全の確認を怠るべからず」に関するビデオでは、術者の美しいリンパ節郭清や運針を楽しむことができる。さらに、チーム医療や教育に対する心構えについても解説されており、すでに熟練している外科医が読んでもたいへん参考になる一冊である。
以上、「現代版がん研べからず集」ともいうべき本書について、気がつけば一気に読み終えていた個人の感想を述べさせていただいた。最後に、本書がより安全で質の高い内視鏡手術に貢献することをお約束する。
胸部外科70巻12号(2017年11月号)より転載
評者●岡山大学呼吸器・乳腺内分泌外科学教授 豊岡伸一