肝疾患治療マニュアル
ガイドラインを理解し、応用する
編集 | : 竹原徹郎/持田智 |
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ISBN | : 978-4-524-25424-8 |
発行年月 | : 2017年6月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 318 |
在庫
定価4,840円(本体4,400円 + 税)
正誤表
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2017年11月15日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
C型肝炎の画期的新薬DAAs、B型肝炎でのペグインターフェロンのadd-on療法の普及、NAFLD/NASHの増加、非代償性肝硬変での新薬の登場等、進歩が著しい肝疾患治療の“今”を非専門医向けに解説。肝疾患の各種ガイドライン(取扱い規約、厚労省の指針等含む)の内容を押さえた上で、エキスパートが実臨床でどのような対応をしているか知ることができる。「わたしの工夫」「患者への説明のポイント」など、役立つコラムも掲載。
I章 肝疾患治療の実践〜ガイドラインの一歩先へ〜
1.急性肝炎(A型肝炎,B型肝炎,C型肝炎,D型肝炎,E型肝炎)
2.急性肝不全,劇症肝炎
3.ウイルス性慢性肝炎,肝硬変
a.B型肝炎
b.C型肝炎
4.自己免疫性肝炎
5.原発性胆汁性胆管炎(旧称:原発性胆汁性肝硬変)
6.原発性硬化性胆管炎,IgG4関連肝胆道疾患
7.薬物性肝障害
8.アルコール性肝障害
9.NAFLD・NASH
10.非代償性肝硬変
11.代謝性肝疾患(Wilson病,シトリン欠損症)
12.肝膿瘍,肝嚢胞
13.原発性肝癌
14.転移性肝癌
II章 肝疾患の治療薬〜エキスパートはこう使う!〜
1.インターフェロン製剤
2.抗ウイルス薬
a.リバビリン
b.NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬
c.NS5A阻害薬
d.NS5B阻害薬
e.核酸アナログ製剤
3.肝機能改善薬
a.グリチルリチン製剤
b.ウルソデオキシコール酸
c.タウリン
d.漢方製剤
4.肝不全治療薬
a.肝不全用アミノ酸製剤,成分栄養剤
b.分岐鎖アミノ酸製剤,カルニチン
c.ラクツロース,ラクチトール
d.リファキシミン
e.利尿薬
5.肝癌治療薬
a.ソラフェニブ
b.肝動注用抗悪性腫瘍薬
6.その他
a.ナルフラフィン
b.ルストロンボパグ
III章 肝疾患の治療手技〜エキスパートのテクニックを知る!〜
1.経皮的局所療法(PEIT,RFAなど)
2.経カテーテル治療・化学療法(TAE,TACEなど)
3.内視鏡的治療(EVL,EISなど)
4.バルーン下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)
5.TIPS
6.腹水の治療(腹水穿刺排液,CART,デンバーシャント)
7.血漿交換・血液濾過透析(人工肝補助療法)
8.瀉血療法
IV章 肝疾患の栄養療法と運動療法〜エキスパートはこうしている!〜
1.肝硬変に対する栄養療法
2.C型肝炎に対する鉄制限食
3.脂肪肝・NASHに対する栄養療法
4.肝疾患の運動療法
索引
序文
内科学の専門領域で、最近、最も変貌を遂げたのは、肝臓病学である。C型慢性肝炎、代償性肝硬変では、直接作動型抗ウイルス薬(direct-acting antivirals:DAAs)が導入され、インターフェロンを用いない経口薬のみの治療によって、ほぼ全例でウイルスを排除できるようになった。一方、B型慢性肝疾患では核酸アナログ製剤の限界が明らかになり、肝発癌の防止を目指して、ペグインターフェロンのadd-on療法が普及しつつある。また、脂肪性肝疾患、特に非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)が増加し、これに起因する肝癌の診療が重要になっている。非代償性肝硬変では、腹水、肝性脳症、低栄養とサルコペニアおよび.痒感に対する新たな薬物が次々と登場した。急性肝不全、自己免疫性肝疾患などの難病に関しても、国の支援体制が改編され、これが今後の診療に影響を与えると考えられる。
激変する肝疾患診療に対応する目的で、日本肝臓学会、日本消化器病学会および厚生労働省の研究班は、各疾患のガイドライン、診療ガイド、マニュアルを作成し、これを刊行物ないしWeb 上で公開している。しかし、ガイドラインなどはエビデンスの枠に縛られており、肝臓専門医が実際に行っている臨床の現場とは、乖離する場合がある。各種ガイドラインを補完して、実臨床で応用しやすくするために、本書「肝疾患治療マニュアル」を刊行した。「ガイドラインの一歩先へ」が本書のスタンスである。まず、「肝疾患治療の実践」として各種疾患の診療の全貌を概説した。冒頭で、現在のガイドラインを要約し、次いで、「エキスパートが行う治療の実際」を、詳細に論じることにした。さらに、肝疾患の治療薬、治療手技、栄養療法と運動療法に関して、その作用機序、専門医の工夫とアドバイスなども含めて、個別に紹介することとした。執筆は第一線で活躍する肝臓専門医に依頼した。次々と登場する新薬などに対応して、追記、補完をお願いしたが、多忙ななか、迅速に対応いただいた執筆者の先生方に深謝する。
肝疾患の診療において、最も重要で、優先すべきはガイドラインである。しかし、本書が実臨床とのギャップを埋め、ガイドラインの理解を深めることに貢献することを期待する。また、若手の専門医および専門医を目指す内科医も、本書を参考とすることで、熟練の専門医と同様の診療を実施できれば幸いである。
2017年5月
竹原徹郎、持田智
『肝疾患治療マニュアル』は肝疾患に関する各種ガイドラインを踏まえたうえで、その一歩先をスタンスとしたマニュアルであり、編者の大阪大学の竹原氏と埼玉医科大学の持田氏により画期的な取り組みがなされている。構成としては、I章では各疾患に対する治療、II章では治療薬ごとにエキスパートがどのような使い方をするか、III章は治療手技ごとにエキスパートのテクニックを、IV章では栄養療法と運動療法に特化して解説している。
項目のなかでも、ウイルス肝炎および抗ウイルス薬の執筆を担当された先生方のご苦労が窺われる。筆者自身も日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン委員会の委員長であるため、ウイルス肝炎治療の執筆を頼まれることがあるが、いつも校正の時点で執筆時と内容が異なっていることが多く苦労している。B型肝炎についてはテノホビル・アラフェナミド(TAF、ベムリディ)が取り上げられているが、この薬への変更について、最新の「B型肝炎治療ガイドライン第3版」では言及している。C型肝炎については、プロテアーゼ阻害薬のグレカプレビルと併用する現在承認申請中のピブレンタスビルもNS5A阻害薬の表に記載されている。これらが使用可能となればpan-genotypeの直接作動型抗ウイルス薬(direct-acting antivirals:DAAs)として8週と投与期間が短縮され、2型C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)に対してもリバビリンフリーの治療が可能になり、期待がもたれる。このようにウイルス肝炎治療については、本マニュアルに加えて、日本肝臓学会のHPを参照して最新の知識を得てほしい。
II章の「肝疾患の治療薬」ではいたるところで、エキスパートの具体的な処方が示されている。埼玉医科大学の富谷氏のカルニチンの使い方や、新潟大学の寺井氏のトルバプタンの使い方などは読者の役に立つと思う。
III章の「肝疾患の治療手技」では、大分大学の清家氏がラジオ波凝固療法(radiofrequency ablation:RFA)時のプローブをもつ左手の自由度のことを強調している。埼玉医科大学の今井氏によると、肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)とバルーン下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)はすべて消化器内科で行っているとのことで、B-RTO時の静脈系のIVRの注意点を述べている。
IV章の「肝疾患の栄養療法と運動療法」では、各種食品の鉄含有量の記載やストレッチ、レジスタンス運動のシェーマが示してあり、高く評価される。
コラムの「これからの10年(5年)」も、項目ごとに興味深い。自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH)の「これからの5年」で指摘されたHCV陽性のAIH患者でのDAAs治療は、各施設では症例は多くないが、今後多施設のデータ集積によりこれまで不明であった点が明らかになると思われる。
読んでいて不便と思ったのは、コンパクトにするためと思われるが、各項目のところに著者名が記載されていない点である。読んでいてこの項目のエキスパートが誰なのかを知りたいと思うと、目次に戻る必要がある。ぜひ、文中にも著者名を記載してほしかった。
臨床雑誌内科120巻5号(2017年11月号)より転載
評者●帝京大学医学部内科主任教授 滝川一