ステップアップEBM実践ワークブック
10級から始めて師範代をめざす
著 | : 名郷直樹 |
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ISBN | : 978-4-524-25368-5 |
発行年月 | : 2009年7月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 396 |
在庫
定価4,180円(本体3,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
好評書『EBM実践ワークブック』『続EBM実践ワークブック』に次ぐ第3弾。研修医と指導医の対話スタイルを採用し、読者の参加を促しながら、著者が積み上げてきた知識、経験、技術を面白くわかりやすく伝える。また、初級〜10段と順に20の級・段を設定しており、レベルアップを実感しながら読み進められる。既刊の2冊を読まれた方にも、これからEBMを学ぼうという方にも楽しめる一冊。
I章 EBMを本気で実践する
EBMのスタートとゴール
〜5つのステップ、とりあえずの5つのゴール〜
1 スタート:EBMの5つのステップ
2 ゴールはどこか
3 当たり前だという研修医ととても実践できないという研修医
4 ゴールに戻って
コラム:初心忘るべからず
EBMのさまざまな実践モード
〜5つのステップのバリエーション〜
1 同じ繰り返しのちょっとした違い
2 時々の初心
3 EBM実践のさまざまなモード
コラム:英語の壁を乗り越える
17年間の日々、EBMの実践:高血圧の治療を例に《前編》
〜1991年、SHEP研究での利尿薬、β遮断薬の評価から〜
1 降圧薬の歴史と病態生理に基づく決断
2 収縮期高血圧における病態生理とエビデンスの矛盾
17年間の日々、EBMの実践:高血圧の治療を例に《後編》
〜ACE阻害薬、Ca拮抗薬からJIKEI Heart Studyまで〜
1 従来薬と新薬の直接比較
2 低用量利尿薬の威力
3 β遮断薬はどうか
4 これまでのまとめ
5 アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)で
6 背景疑問の重要性と病態生理の重要性
7 全体を振り返って
コラム:へき地診療所時代の「その場の1分」、「その日の5分」、「その週の1時間」
II章 事例でわかるEBM
本書の使用法
1 10年、20年後を見据えて
2 ここからの進め方
3 昇級、昇段
4 学習の本質
5 それぞれのレベルの目標
初級編(10級〜7級)〜問題を同定し、効率よく探す〜
ステップ0からはじめよう
〜わかるの3段階〜 10級
1 わけのわからない引用から
2 すべての基盤
3 EBMのステップ0(ゼロ)
昇級試験10級
コラム:RDレインについて
コラム:知らざるを知らずとす
問題の定式化(EBMのステップ1)《Part1》
〜PECOで問題の定式化〜 9級
1 ある患者
2 どう勉強を始めるか
3 EBMのステップ1:問題の定式化
4 最初の患者に戻って
5 ある患者の現実
昇級試験9級
コラム:日常におけるPECOの利用法
問題の定式化(EBMのステップ1)《Part2》
〜診断のPECO、予後のPECO、治療のPECO〜 8級
1 臨床上の疑問のカテゴリー
2 診断のPECO
3 予後のPECO
4 実際の臨床現場で
昇級試験8級
コラム:真のアウトカムで評価した診断の論文
コラム:SpPinとSnNout
問題についての情報収集(EBMのステップ2)
〜5Sアプローチによる情報収集〜 7級
1 PECOからPECOTへ
2 ステップ2:情報収集
3 7つのPECOから情報収集を概観する
昇級試験7級
中級編(6級〜1級)〜EBMを武器に臨床上の問題に向き合う〜
治療編:糖尿病血糖コントロール
〜EBMの5つのステップに沿った問題の解決〜 6級
1 糖尿病患者の薬物治療を何から始めるか
2 その日の外来レビューで
3 その週の抄読会で
昇級試験6級
コラム:UGDP研究
コラム:ランダム化、隠蔽化、マスキング(盲検化)
コラム:ITT(intention─to─treat)解析
診断編:インフルエンザ迅速キットの有用性 5級
1 この患者はインフルエンザか
2 3つのPECOに戻る
3 ベイズの定理と検査後確率の計算
4 外来カンファレンスで
5 再びカンファレンスで
昇級試験5級
コラム:H&P万能主義
コラム:よく当たる占い師
予後編:メタボはどれくらい怖いか 4級
1 予後に関するPECOを立てる
2 抄読会の実際
3 実際の臨床の現場で
4 まとめ
昇級試験4級
コラム:RCTは予後の検討に使えるか
メタ分析編:術後の栄養 3級
1 術後の食事はいつから始めるか
昇級試験3級
コラム:メタ分析は最高のエビデンスか
コラム:相対危険、相対危険減少、治療必要数の計算
副作用編:スタチンによる横紋筋融解の頻度 2級
1 副作用の疑問
2 副作用の情報検索
3 抄読会
4 治療と副作用のEBMの実践の違い
昇級試験2級
コラム:横断研究と症例対照研究、コホート研究
コラム:3Xの法則
情報検索編:疑問によって検索戦略を変える 1級
1 疑問に合った情報源を使う
2 “MEDLINE”を検索する
昇級試験1級
上級編(初段〜8段)〜批判的吟味と評価に焦点をあてて〜
連続変数を読む
〜喘息の論文を例に標準化平均差を理解する〜 初段
1 連続変数をアウトカムとした論文
2 連続変数の指標と解釈
3 標準化平均差の計算法
昇段試験初段
コラム:有意差検定をするな
PROBE法とその問題点
〜日本の大規模臨床試験を例に〜 2段
1 情報バイアスとは
2 PROBE法登場の背景
3 PROBE法とアウトカム
4 抄読会で
昇段試験2段
コラム:もう1つのPROBEstudy
コラム:非劣性試験
一次アウトカムと二次アウトカム
〜“ACPJC”の要約と元論文の結論の食い違い〜 3段
1 同じ論文の違う結論
2 アウトカムを詳しく読み込む
3 アウトカムに対応した結果の読み
4 一次アウトカムと二次アウトカムと統計学的検定
5 ボンフェローニ補正
6 有意水準0.05で有意差ありとはどの程度の差か
7 一流雑誌でもこの有様
昇段試験3段
コラム:大規模試験はなぜ大規模か
コラム:相対危険の解釈──スペシャル版
メタ分析のバイアス
〜4つのバイアスを理解する〜 4段
1 メタ分析の4つのバイアス
2 出版バイアス
3 評価者バイアス
4 元論文バイアス
5 ごちゃ混ぜバイアス
昇段試験4段
コラム:サブグループ分析の問題点1:あわてんぼうのアルファエラー
コラム:サブグループ分析の問題点2:ぼんやりベータエラー
コラム:論文から計算されるNNTと目の前の患者でのNNT
ガイドラインの使い方
〜脳卒中の血栓溶解療法のグレードはAでよいか〜 5段
1 ガイドラインは一情報源にすぎない
2 ガイドラインを探す
3 脳梗塞に対する経静脈的血栓溶解療法
昇段試験5段
コラム:グレードとエビデンスの乖離が顕著な例
SSLR
〜階層別尤度比を使いこなす〜 6段
1 腹痛患者で
2 SSLRを報告した論文を例に
3 ROC曲線
4 尤度比の考え方の起源
昇段試験6段
コラム:prediction rule(臨床予測指標)
診断の論文の批判的吟味
〜心不全の診断にBNPをどう使うか〜 7段
1 心不全の診断
2 診断の論文の批判的吟味
3 原著論文で
昇段試験7段
EBMのステップ
〜1〜4のステップの評価と臨床研究へのつながり〜 8段
1 日々の実践の評価
2 EBMから臨床研究へ
3 観察研究によるRCTの有効性の検証
昇段試験8段
コラム:composite outcomeには気をつけろ
コラム:論文の書き方ガイド
III章 指導医のためのEBM
指導医のためのEBM 9段
1 EBM教育のコツ
2 教材作成法
3 ワークショップの開催法
昇段試験9段
コラム:EBM標語集
IV章 医療全体の中でのEBM
医療全体の中でのEBM 10段/師範代
1 最後の付け足し
2 誤ったことばかり
3 誤りをなくすためではない
4 誤りを媒介として
5 コミュニケーションツールとしてのEBM
6 医師患者間のギャップを埋めるために
昇段試験10段
コラム:ACCORD試験
付録
本書で使った論文の要約集〜Critical Appraisal Topic(CAT)〜
昇級・昇段試験解答(例)
索引
EBMという言葉は広く普及した。卒前教育でも取り上げられることが多くなった。筆者自身、複数の大学で、学生向けの講義やワークショップを担当している。初期臨床研修の目標の中にも組み入れられた。指導医講習会では、EBMのセッションが設けられることが多い。しかし、実際に臨床の現場で、EBMを実践する、EBMの教育をする、となるとどうか。そこは、まだまだである。
聴診器について知っているというのと、聴診器が使えるという間には、千里の隔たりがある。EBMも同じである。EBMについて知っているというのと、EBMが使えるという間にも、深くて長い川がある。それは、国家試験に合格したというのと、臨床医として働いている、ということの差にも似ている。そう考えると、聴診器の使い方の実践や教育だってまだまだ不足しているし、卒前教育も国家試験を最優先し、臨床教育はその次という現状である。臨床医としての教育が、系統的に完成された仕組みの中で提供されるというには程遠い。知識と実践のギャップは医療のあらゆるところに存在する。
今の医学教育の問題を、知識と実践のギャップととらえると、EBMの問題というのは、医療全体の問題の一部にすぎないが、逆にEBMの問題は医療全体の問題の縮図であるという見方もできるかもしれない。そうだとすれば、EBMの実践や教育をうまく提供する方法は、その他の臨床実践や教育にも役立つだろう。
そこで本書の役割である。本書はEBMの実践、教育のための教科書である。しかし、上記のように、もっと一般的な医学、医療の問題を取り扱っている面がある。そういう視点に立てば、本書はEBMに限らず、臨床教育全体や教育手法の教科書としても使えるかもしれない。
いきなり大風呂敷を広げたが、筆者自身は、知識と実践のギャップを埋めるための手法を、EBMを例に記述したというつもりである。本書の中で、EBMは単なる材料である。EBMを材料として、知識と実践のギヤップを埋めるための、日常臨床の実践と教育の教科書を書いた、と本気で思っているのである。本気というのは、ただの誇大妄想にすぎないのかもしれないが。それが誇大妄想であるのかどうか、その判断は、読者の皆さんに委ねよう。
本書を、医学生、研修医、指導医、さらに医療に関わる人、すべてに向けて、差し出したい。
2009年6月
名郷直樹