感染症診療ゴールデンハンドブック改訂第2版
監修 | : 藤田次郎/喜舎場朝和 |
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編集 | : 椎木創一/仲松正司 |
ISBN | : 978-4-524-25298-5 |
発行年月 | : 2018年6月 |
判型 | : 新書 |
ページ数 | : 376 |
在庫
定価4,400円(本体4,000円 + 税)
正誤表
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2019年04月16日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
感染症診療に必要な知識とコツをコンパクトに解説。目の前の患者に対して何を考え、何をすべきか、診療上の重要事項が一目でわかる。病歴のとりかたから検査法、各種感染症の具体的アプローチと治療法、診療所や在宅等における感染症に加え、各薬剤の特徴や投与上の注意も整理。また、今版では、冒頭によく遭遇する微生物の塗抹所見をカラーで掲載。経験豊かな執筆陣の診療テクニックを白衣のポケットに入れて持ち運ぼう!
I 基本アプローチ
1.感染症の病歴のとり方−主として細菌感染症を念頭に置いて
2.診療における経路別感染対策
3.感染症の検査法
4.薬剤耐性菌の動向
5.行政へ届出が必要な感染症
II 各感染症へのアプローチ
A 呼吸器感染症
1.かぜ症候群,急性気管支炎
2.急性咽頭炎,扁桃炎
3.急性中耳炎
4.急性副鼻腔炎
5.急性喉頭蓋炎
6.インフルエンザ
7.市中肺炎
8.院内肺炎,医療・介護関連肺炎
9.胸水,膿胸
10.肺結核
11.非結核性抗酸菌症
B 消化器感染症
1.Helicobacter pylori感染症
2.感染性腸炎
3.虫垂炎,大腸憩室炎
4.腹膜炎
5.Clostridioides difficile感染症
6.ウイルス性肝炎
7.肝膿瘍
8.急性胆嚢炎,急性胆管炎
C 血流感染症
1.感染性心内膜炎
2.心外膜炎
3.カテーテル関連血流感染症
D 尿路・泌尿器感染症
1.膀胱炎
2.急性腎盂腎炎,腎膿瘍
3.無症候性細菌尿
4.前立腺炎
5.精巣上体炎
E 皮膚・軟部組織感染症
1.疱疹を認める疾患
2.水疱を認める疾患
3.紅斑を認める疾患
4.膿疱を認める疾患
5.壊死性軟部組織感染症
6.動物咬傷,ヒト咬傷
F 性感染症
1.尿道炎(淋菌,クラミジア)
2.骨盤内炎症性疾患
3.梅毒
G 中枢神経系感染症
1.髄膜炎
2.脳膿瘍
3.脳炎
H 骨・関節の感染症
1.骨髄炎
2.化膿性関節炎
I HIV感染症
J 敗血症
K 不明熱
L 手術部位感染
M 好中球減少時の発熱
N 渡航後発熱と感染対策
III 地域における感染症診療
1.診療所における感染症診療
2.介護福祉施設における感染症診療
3.在宅における感染症診療
IV 薬剤からのアプローチ
A 抗菌薬
B 抗真菌薬
C 抗ウイルス薬
D ワクチン
E 妊婦・小児への投与上の注意
付録
Dr.喜舎場の感染症語録
索引
改訂第2版の序
感染症診療で私たちが相手にしている数多の微生物たちは、一匹一匹は小さくか弱いのですが、その増殖力と変異による目まぐるしい進化を起こし、die hardな特性を備えうる恐ろしい敵です。ややこしいことに、同じ微生物を人間や動物は身中に宿しており、免疫系の賦活化や病原微生物からの防護のための助力を得ています。そうした手強い相手と複雑なバランスでつながっている中で、「発熱=抗菌薬」のような単純な戦略を臨床現場で続けた結果、抗菌薬が臨床現場で頻用されるようになってわずか半世紀たらずで、薬剤の効かない微生物によって「post-antibiotic era」が夢ではない状況にまで追い込まれています。本書で語録の執筆をお願いした喜舎場朝和先生が、その昔、研修医であったわれわれに向かって「オレをバカにしても細菌をバカにするな!」と顔を真っ赤にして吠えておられた姿が、今まさに眼前に浮かんでしまいます。
国際的に薬剤耐性菌の問題が浮き彫りとなり、2011年に世界保健機関(WHO)が世界保健デーにおいて薬剤耐性菌対策、いわゆるAMR(antimicrobial resistance)対策をテーマにしました。このことが世界の注目を呼び、各国から具体的なアクションプランが発表されています。こうした昨今の大きな流れは心強いものであり、是非推し進めていく必要があります。その一方で、AMR対策がいわばブームのようにとらえられていないか、懸念せざるを得ません。ブームには、いずれ終わりがきます。しかし、感染症診療を適正に行っていく使命が終わることはありません。これがブームではなく、平素の診療風景の中の一部としてしっかりと根づくまでは、医療従事者のみならず一般の方々や畜産業関係者などを巻き込んで、少々声高にでもアピールしていかなくてはなりません。そしてAMR対策の実践は、診療現場の医療従事者一人一人の日常診療から始まっているのです。
患者を目の前にして本書を手にとられる医療従事者の皆さんは、この内容が一見とても細かいと思われるかもしれません。原因微生物名や感染臓器を固有名詞として極力明確にする、という感染症診療の大原則はシンプルです。しかし、感染症診療には患者背景や診療背景をふまえた細かなコツが必要なのです。それを欠いた紋切り型の感染症診療は、「use it,lose it」のように抗菌薬を過去の遺物にしかねません。それを避けるための診療スタイルはややもすれば複雑になりますが、これらの内容をコンパクトかつ明快に、現場で感染症診療を実践されている先生方にまとめて頂きました。本書が目の前の患者さんの診療に役立ち、さらには将来の世代に抗菌薬を残すことにつながることを切に願っております。
2018年5月
椎木創一、仲松正司
世界に誇る沖縄式感染症診療のアートと最新のエビデンスが詰まったハンドブック
日本を代表する臨床感染症の二大巨匠である喜舎場朝和先生と藤田次郎先生が、執筆および監修をされたハンドブックの最新改訂版がついに出た。執筆陣はもちろん沖縄県立中部病院と琉球大学医学部に関係する感染症エキスパートの先生方である。
今回の改訂では、「地域における感染症診療」の章が加わり、診療所や介護福祉施設、在宅における感染症診療にも対応できる内容となっている。さらには、沖縄県立中部病院での臨床哲学のコア部分である喜舎場朝和先生の感染症語録が付録として収められている。この病院内では歴史を超えて研修医に代々受け継がれており、よく知られる内容であったが、この改訂でついに世に公開されることになったのである。これには、有名な「患者がshaking chillしているのを見たら、主治医もshaking chillしろ」や、「スメアは身体所見の一部と考えよ」などがある。こういった診療のパールを理解して身に付けることによって、感染症診療の質を真に向上させることができるものと思う。
冒頭の章の最初の項目は、初版に続いて「感染症の病歴のとり方」のタイトルで、喜舎場朝和先生の診療哲学の教示からスタートする構成となっている。これらによって、この本は、喜舎場式感染症哲学で始まり、コア部分では臨床感染症のサイエンスを展開させ、喜舎場式感染症哲学で終わる理想的な構造となった。
本文のフォーマットは箇条書きであり、素早く読みとることができる。また、図表やアルゴリズムも豊富に含まれており、臨床現場での緊急対応の助けになる。推奨される抗菌薬については、一般名、商品名、用量、投与間隔、投与日数、投与経路などがコンパクトに整理され、グレー色でハイライトされ、ユーザーフレンドリーとなっている。もちろん、エビデンスのアップデートもなされていることは文献リストで一目でわかる。臨床的によく出会う微生物の塗抹所見はカラー写真の口絵でまとめられており、スメアを実施する際に便利である。
喜舎場式哲学の生みの親であるRaff先生などが活躍されていた古き良き米国オールドスクール世代の感染症哲学は、太平洋を越えて沖縄に移植されたが、一方でアメリカ大陸では衰退した。そしてベッドサイドでの医師によるスメアは、日本全国に広がるようになった。「最近の米国の医療現場では、医療費の抑制を目的に、保険会社主導で各種ガイドラインを作成し、安価で画一的な治療を推奨している」と述べた本書の序文の意味するところは、熱病に対する勝利宣言とも読めると思う。評者の今後の期待は、本書の英訳版を出版し、日本のみならず、本書のアートとサイエンスを、アジアや世界に向けて発信してほしい、ということである。
臨床雑誌内科123巻2号(2019年2月号)より転載
評者●群星沖縄臨床研修センター長 徳田安春