エキスパートに学ぶ!完全胸腔鏡手術[Web動画付]
著 | : 河野匡 |
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ISBN | : 978-4-524-25267-1 |
発行年月 | : 2020年5月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 154 |
在庫
定価10,450円(本体9,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
患者に負担が少なく低侵襲の手術である完全胸腔鏡手術を25年以上にわたり一貫して行い、7,000例以上の豊富な手術件数を有する著者の渾身の一冊。手技の工夫やトラブルシューティングなどもふんだんに収載し、同手技を余すところなく披露。豊富な写真とWeb上で閲覧できる200分を超える動画で同手技をていねいに解説した。
I 総論
1.胸腔鏡手術とは
2.ビデオ光学系
(1)光学機器
(2)録画装置
(3)胸腔鏡
3.手術器械と周辺機器
(1)把持鉗子,剝離鉗子,弱弯の鉗子,直角鉗子
(2)持針器,ノットプッシャー
(3)吸引嘴管
(4)フック電極
(5)ツッペル鉗子
(6)その他の手術器械
(7)周辺機器
4.体位とポート挿入部位
(1)体位
(2)ポート
(3)ポート挿入部位
II 各論
1.肺部分切除
(1)自然気胸に対する肺部分切除
(2)肺腫瘍に対する肺部分切除
2.肺葉切除とリンパ節郭清
1)右肺上葉切除術
(1)胸膜切開
(2)上肺静脈上葉枝の剝離と切離
(3)肺動脈上幹の剝離と切離
(4)独立したA3の剝離と切離
(5)上中葉間の不全分葉の分離
(6)Ascending A2の剝離と切離
(7)気管支の剝離と上下葉間の形成
(8)気管支の剝離と切離,上葉の回収
(9)リンパ節郭清
(10)空気漏出のコントロールと止血
(11)胸腔ドレーンの留置と閉創
2)右肺中葉切除術
(1)胸膜切開
(2)上肺静脈中葉枝の剝離と切離
(3)葉間肺動脈の剝離と葉間の形成
(4)A5の剝離と切離
(5)中葉気管支の剝離と切離,中葉の回収
(6)リンパ節郭清
(7)空気漏出のコントロールと止血
(8)胸腔ドレーンの留置と閉創
3)右肺下葉切除術
(1)肺靱帯の切離と胸膜切開
(2)右下肺静脈の切離
(3)中下葉間の形成,葉間肺動脈の剝離と下葉肺動脈の切離
(4)下葉気管支の剝離と気管分岐部のリンパ節郭清,下葉気管支の切離
(5)空気漏出のコントロールと止血
(6)胸腔ドレーンの留置と閉創
4)左肺上葉切除術
(1)胸膜切開
(2)上肺静脈の剝離と切離
(3)中枢側から上下葉間までの肺動脈の剝離
(4)葉間形成と肺動脈の剝離と分枝の切離
(5)上葉気管支の剝離と切離
(6)リンパ節郭清
(7)空気漏出のコントロールと止血
(8)胸腔ドレーンの留置と閉創74
5)左肺下葉切除術
(1)肺靱帯の切離と胸膜切開
(2)左下肺静脈の切離
(3)葉間肺動脈の剝離,不全分葉の形成と下葉肺動脈の切離
(4)下葉気管支の剝離と気管分岐部のリンパ節郭清,下葉気管支の切離
(5)空気漏出のコントロールと止血
(6)胸腔ドレーンの留置と閉創
3.典型的な肺区域切除
1)S6区域切除
(1)葉間肺動脈の剝離,上下葉間の不全分葉の形成とA6の切離
(2)B6の剝離と切離
(3)V6の剝離と切離
(4)肺実質の切離
(5)リンパ節郭清
(6)空気漏出のコントロールと止血
(7)胸腔ドレーンの留置と閉創
2)底区域切除
(1)肺靱帯の切離,下肺静脈の剝離と底区肺静脈の切離
(2)葉間肺動脈の剝離,中下葉間の形成と底区肺動脈の切離
(3)底区気管支の剝離と切離
(4)肺実質の切離
(5)リンパ節郭清
(6)空気漏出のコントロールと止血
(7)胸腔ドレーンの留置と閉創
3)左上大区域切除
(1)上肺静脈の剝離と上大区肺静脈の切離
(2)肺動脈の剝離と背側の葉間形成
(3)肺動脈の剝離と切離
(4)上大区気管支の剝離と切離
(5)区域間の形成
(6)リンパ節郭清
(7)空気漏出のコントロールと止血
(8)胸腔ドレーンの留置と閉創
4)左舌区域切除
(1)上肺静脈の剝離と舌区肺静脈の切離
(2)肺動脈の剝離と切離,腹側の葉間形成
(3)舌区気管支の剝離と切離
(4)区域間の形成
(5)リンパ節郭清
(6)空気漏出のコントロールと止血
(7)胸腔ドレーンの留置と閉創
4.非典型的な肺区域切除
1)右肺S1区域切除
(1)上肺静脈の剝離とV1の切離
(2)肺動脈の剝離と切離
(3)区域気管支の剝離と切離
(4)区域間の形成
(5)リンパ節郭清
(6)空気漏出のコントロールと止血
(7)胸腔ドレーンの留置と閉創
2)右肺S8区域切除
(1)葉間肺動脈の剝離とA8の切離
(2)B8の剝離と切離
(3)肺静脈の剝離と切離
(4)区域間の形成
(5)リンパ節郭清
(6)空気漏出のコントロールと止血
(7)胸腔ドレーンの留置と閉創
3)右肺S9+10区域切除
(1)葉間肺動脈の剝離,S6と底区の分離
(2)A9,A10の剝離と切離,B9,B10の剝離と切離
(3)肺静脈の剝離と切離,区域間の分離
(4)リンパ節郭清
(5)空気漏出のコントロールと止血
(6)胸腔ドレーンの留置と閉創
4)左肺S3区域切除
(1)V3の剝離と切離,上区と舌区の分離
(2)A3とB3の剝離と切離
(3)区域間の分離
(4)リンパ節郭清
(5)空気漏出のコントロールと止血
(6)胸腔ドレーンの留置と閉創
5.トラブルシュート
1)広範な癒着
2)分葉不全
3)出血の対処
(1)肺動脈の確保による出血制御
(2)タコシール貼付による止血
(3)圧迫止血
4)気管支損傷の対処
5)横隔神経損傷の対処
おわりに
索引
WEB動画一覧
(1)自然気胸に対する肺部分切除【37秒】(II-1;20〜21ページ)
(2)肺腫瘍に対する肺部分切除【3分6秒】(II-2;21〜22ページ)
(3)右肺上葉切除術【27分34秒】(II-2-1;23〜36ページ)
(4)右肺中葉切除術【18分17秒】(II-2-2;37〜46ページ)
(5)右肺下葉切除術【15分10秒】(II-2-3;47〜58ページ)
(6)左肺上葉切除術【20分43秒】(II-2-4;59〜74ページ)
(7)左肺下葉切除術【18分49秒】(II-2-5;75〜85ページ)
(8)S6区域切除【9分49秒】(II-3-1;86〜91ページ)
(9)底区域切除【15分24秒】(II-3-2;92〜96ページ)
(10)左上大区域切除【16分7秒】(II-3-3;97〜103ページ)
(11)左舌区域切除【4分10秒】(II-3-4;104〜107ページ)
(12)右肺S1区域切除【12分16秒】(II-4-1;108〜112ページ)
(13)右肺S8区域切除【15分28秒】(II-4-2;113〜117ページ)
(14)右肺S9+10区域切除【12分46秒】(II-4-3;118〜122ページ)
(15)左肺S3区域切除【13分23秒】(II-4-4;123〜127ページ)
(16)癒着剝離【4分46秒】(II-5-1;128〜130ページ)
序文
1980年代の腹腔鏡下胆嚢摘出術が外科医に衝撃を与えたのに影響されて、1990年ごろから胸腔鏡手術が始まった。このような経緯から世界各地で同時多発的に始まったわけであるが、1990年ごろは腹腔鏡手術の影響でモニター視での手術が大半で、また行える手術も肺の部分切除や自然気胸の手術など、あまり複雑ではない手技が大半であった。特に1992年に内視鏡手術で使用できる自動縫合器が発売される前は、「どのようにして出血させずに肺実質を切離するか」ということが問題で、電気メスやレーザーを用いて肺の切離を行い、切離面は縫合閉鎖するか糊で閉鎖するようにしていた。
胸腔鏡手術で使用できる自動縫合器が発売され、改良に改良が加えられるにつれて、複雑で高度な手術も行われるようになった。最近では肺癌に対する肺葉切除術と肺門および縦隔の系統的リンパ節郭清も行われるようになった。肺の区域切除もかなり胸腔鏡手術で行われるようになってきている。しかし手術を行うのであるから、縫合結紮が基本的手術であることに変わりはない。胸腔鏡手術でも縫合結紮を行えるような修練が必要である。
消化器外科、産婦人科、泌尿器科などが腹腔鏡手術で低侵襲化を図っていくにつれて、呼吸器外科でも高度な手術を行うようになってきた。筆者などのように、他の科と同様にモニター視での手術を続けた呼吸器外科医もいたが、胸腔は気密にする必要がないためある程度開胸し、場合によっては開胸器をかけて直接術野を視野に入れ、胸腔鏡は光源に用いて行う手術も「胸腔鏡手術」と呼ばれた。わが国以外では、少なくとも開胸器を使用する手術を胸腔鏡手術(video-assisted thoracoscopic surgery:VATS)とは呼ばないので、注意が必要である。特に2016年に3ポートと1アクセス切開の胸腔鏡手術と最大8cmの肋間開胸での前側方切開での肺癌に対する肺葉切除とを比較したprospective controlled studyで胸腔鏡手術の低侵襲性が示され1)、開胸器を用いない胸腔鏡手術の低侵襲性の議論は決着したように思う。
本書ではモニター視のみで手術を行う完全胸腔鏡手術について解説する。筆者は25年の完全胸腔鏡手術の経験の間、手技を洗練させ、定型化させてきた。今回、25年の集大成を解説する機会を得た。読者の先生方の参考にしていただければ幸いである。
2020年3月
河野匡
著者の河野先生は1982年卒、私が1981年卒ですのでほとんど同級生です。入局当時、先輩の先生から、「手術は目でみて覚えるんだ」とよくいわれました。しかし、39年前はすべて開胸手術でおまけに両肺換気ですから、第一助手ですら術野を常時みることはほとんど不可能でした。ましてや多くの研修医が担当する第二助手は術者の腕しかみえません。また当時は進行肺癌が多く、たいへんな手術が多かったと思います。手術記録は後で血管の分枝を先輩に教えてもらい、みてきたような嘘の手術シェーマを書いたものでした。つまり目でみて覚え、上達することは事実上不可能でした。みえないんですから。
私が卒業する前年の1980年に名著『呼吸器外科手術書』(金芳堂)が刊行され、多くの呼吸器外科医がこの本のお世話になりました。「序」を書かれていた恩師・寺松孝京都大学名誉教授が「手術前はこれで勉強するように」と、その手術書を研修医に貸してくださいました。この年の入局者は私を入れ5人、悪ガキ5人は寺松先生には内緒で、この本をすべてコピーして勉強しました(出版社の皆さん、もう時効とお許しください。当時研修医でお金がまったくありませんでした。もちろん、今は刊行物のコピーはしておりません)。この本の大きな特徴は素晴らしい手術イラストです。手術操作の記載もわかりやすいものでした。ただイラストは動きません。術中の手術操作をリアルタイムに実感することはできませんでした。また、手術の細かいコツをイラストから学ぶことはできませんでした。この最大の欠点を克服したのが本書で、手術の息づかいを感じることができます。特等席でリアルタイムに手術操作を何度でもみることができます。
この手術書で優れているのは下記の点です。
(1)基本手術を定型化し、誰がやっても同様の手術ができるように動画と文章で教示しています。
(2)特別な技術を必要とする高度な手術ではありません。安全なスペースをつくってそれをつなぐという基本を繰り返しています。
(3)鋭的剥離をむやみに行わず、血管剥離はツッペルを多用しています。鈍的剥離は重要な手術手技です。私はこの操作が大好きです。
(4)血管処理はステープラーのみに頼らず、結紮も行っています。これはとても重要です。血管結紮は手術の基本中の基本です。昔の外科医は暇をみつけては結紮の練習をしていました。
(5)ステープラーの挿入には特に留意して、アンビル、カートリッジ両方の確認を常に行っています。また周囲組織にも十分注意が行き届いています。血管損傷はステープラー挿入時にしばしば起きます。
これらの基本操作を多くの手術動画の中で繰り返し行っていることが素晴らしいのです。同様の操作を数々の局面でみせてくれます。
一方、欠点もありました。手術動画をみる前に本文を読むと、写真の理解が困難でイライラすることです。その写真が何を指しているのかわかりにくいことがありました。それぞれの写真の横にシェーマ(部位の名称を含む)があれば万全でした。現状では写真を気にせずに目標の手術の解説を読みとばし、それから動画をみて、もう一度本文に戻って詳しく理解して読むのが正解と思われます。
完全鏡視下肺葉切除を安全に確実に行うための教科書として、本書はきわめて優れた本と考えます。呼吸器外科医が目でみて学習する、まさにIT時代のツールと考えます。少し時間があったら自分のPC、スマートフォンで勉強できます。今、呼吸器外科の修業を行っている若い外科医に一言、「手術は目でみて覚えるんだ」。
胸部外科73巻12号(2020年11月号)より転載
評者●香川大学呼吸器・乳腺内分泌外科教授 横見瀬裕保