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結核Up to Date[Web付録つき]改訂第4版

結核症+非結核性抗酸菌症+肺アスペルギルス症

編集 : 四元秀毅/倉島篤行/永井英明
ISBN : 978-4-524-25265-7
発行年月 : 2019年6月
判型 : B5
ページ数 : 314

在庫あり

定価10,120円(本体9,200円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

多彩な結核の臨床像を整理し、関連病態として遭遇する機会の多い非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症についてまとめた好評書、待望の最新改訂版。デラマニドやベダキリンといった耐性結核に対する新薬の登場、LTBI(潜在性結核感染症)について、IGRA(インターフェロン-γ遊離試験)の保険適用、日本結核病学会などによる各種指針など、この領域の著しい進歩を盛り込み、今後の結核診療に一層役立つ内容へUp to Date。付録として掲載写真をweb上で公開。

第I章 結核症
 1.結核とは何か,結核病学とは何か
 2.日本と世界の結核−その過去・現在と未来
 3.結核の診断はどうするか
  A.どのようなときに結核を疑い,どう診断を進めるか
  B.結核菌検査
  C.感染検査(ツベルクリン反応,インターフェロンγ遊離試験)とは何か
  D.画像検査(所見,診断,分類)
  E.気管支鏡検査
 4.結核の診断がついたらどうするか
  A.外来治療か入院治療か(「入退院基準」)
  B.届け出と必要書類
  C.本人,家族への説明
  D.家族,集団感染への対応(「接触者健診の手引き」より)
 5.結核の治療の基本
  A.標準的な治療
  B.各薬剤の性質と副作用,相互作用
  C.減感作を含む副作用対策
  D.治療の継続とDOTS
  E.潜在性結核感染症(LTBI)
 6.特殊な状態や合併症がある場合の結核の治療
 7.耐性結核の治療と再治療をどうするか
 8.生物学的製剤と結核
 9.delamanid・bedaquiline使用の実際
  A.delamanidの実際
  B.bedaquilineの実際
 10.最近の結核の外科治療
  A.肺結核症の外科治療
  B.結核性膿胸の外科治療
  C.結核患者の麻酔はどうするか
 11.肺外結核はどう診断し,どう治療するか
  A.肺外結核にはどのようなものがあるか
  B.増えている粟粒結核
  C.結核性胸膜炎,膿胸
  D.あなどれないリンパ節結核
  E.ときに致命的となる結核性心膜炎
  F.むずかしい脳・髄膜結核
  G.骨・関節結核の診断と治療−結核性脊椎炎を中心として
 12.院内感染,医療従事者への拡がりをどう防ぐか
 13.肺結核後遺症
  A.肺結核後遺症とは
  B.在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法・呼吸リハビリテーション
  C.肺性心とは何か
 14.HIVと結核
 15.結核症学説の進展
 16.分子生物学からみた結核研究の現在
 17.小児結核
 18.外国人の結核
 19.多彩な症例
  A.岡IIB型の胸部X線所見
  B.肺気腫の結核
  C.胸囲結核
  D.リンパ節病変が食道および気管・気管支に穿破した結核
  E.喉頭結核
  F.腸結核
  G.婦人科臓器の結核(胆嚢結核+子宮結核)
  H.脈絡膜の結核性病変を認めた粟粒結核
  I.精巣上体結核
第II章 非結核性抗酸菌症
 1.増えている非結核性抗酸菌症
 2.結節気管支拡張型肺MAC症の病理形態
 3.非結核性抗酸菌症の薬物治療
 4.非結核性抗酸菌症の外科治療とその有効性
 5.比較的まれな菌種の非結核性抗酸菌症
 6.HIVと非結核性抗酸菌症
 7.生物学的製剤と非結核性抗酸菌症
第III章 肺アスペルギルス症
 1.肺アスペルギルス症の発症と進展
 2.慢性肺アスペルギルス症の病理
 3.慢性肺アスペルギルス症の内科治療
 4.肺アスペルギルス症の外科治療の適応とその有効性
 5.アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
付録 読んでおきたい書籍ガイド
索引

序文

 本書の初版が上梓されたのは1999年4月のことだったので、この本も20歳の春を迎えたことになる。当時、結核は再興感染症として国の内外で注目を集めていたこともあってか本書は広範な読者に受け入れられたが、じつはそのようにタイムリーな出版となったのはいわば偶然のことであった。ここでそのいきさつを紹介しておきたい。当時、国立医療施設は厚生省から独立行政法人への移管の流れのなかにあり、それに伴って各地の病院・療養所の建て替えが計画された。東京病院ではその先陣をきって建築工事が始まったが、その際に資料室に保存されていた戦前からの結核症例の診療録を整理する必要が生じた。永年にわたって営々と積み上げられてきた資料を処分しながら、これらの経験を現代的な視点で整理し世に伝えるべきでは、という考えに至ったのである。そこで、初版序文にあるように、東京病院のスタッフが中心となり、足らないところを外部施設の方々の協力で補って出来上がったのが本書初版であった。内容的には、結核を中心とし、増加しつつあった非結核性抗酸菌症と結核後遺症などとして知られる肺アスペルギルス症についての解説を加えることとしてユニークな内容の本書が出来上がった。
 当時の状況と関連して20世紀後半の結核医療の概要を振り返ってみると、この間、年間の新規発生結核患者数は1/50程度に減少し、一方、抗結核薬の開発で入院期間は約1/10に短縮された。そうなると結核病床数は当初の1/500程度で足りる計算になり、そのような状況下、世紀の変わり目の時期には結核病床を有する医療施設では減床を迫られることになった。このようないわば結核衰退の時期に企画された本書が広く受け入れられたのであるが、これは編集者にとって喜びであったとともに驚きでもあった。
 本書が予想外に広く求められた理由を推量すると、そこには結核医療の特徴と重なるものがあることに気づく。まず、減少したとはいえわが国では結核は依然としていつでもどこでも遭遇し得る疾患としてあり続けていることがある。かつて結核が国民病だったわが国では既感染者が多く人口の高齢化に伴いこの層からの発病は一定頻度で起こり、また、中年層や若年者からの発病も後を絶っていない。このような状況下、結核についての知識を持ち合わせずに症例に遭遇すると診断が遅れて患者に大きな不利益をもたらすことになる。さらに、疾患の性質上、診断の遅れは公衆衛生的な問題の発生にもつながる。一方、結核の診療は結核予防法(後の感染症法)に基づいて行われるので、これら法律的事項に関する知識も必要である。このような状況下、結核について幅広い観点からこれを整理した解説書が求められていたものと思われる。
 その後、本書は繰り返し改訂されたが、その要因としては結核予防法の感染症法への移行に伴う法改定の動きや結核菌の検出法および感染検査法についての開発・進歩などがあり、一方、外国生まれの人達の結核の増加という問題もあった。さらに、近年、結核菌に関する分子生物学的知見が集積され、また、待望の新薬の開発も相次いだことから今回の改訂に至った。今改訂では内容を“Up to Date”なものにするため執筆陣の大幅な拡充を図り、結核予防会やその他の施設の方々との合作となった。多忙ななか協力された執筆者各位に感謝しつつ、本書が引き続き多くの方々に利用されることを願うものである。

2019年5月
編集者

 本書は初版から20年を経て、このほど『結核Up to Date(改訂第4版)』として2019年6月に上梓された。わが国における本感染症領域を牽引されてきた国立病院機構東京病院、結核予防会の重鎮・スタッフが中心に執筆されている。内容は結核ならびに近年罹患率が急増している非結核性抗酸菌症、さらに結核後遺症で問題となる肺アスペルギルス症の3章から構成され、いずれも近年の医療の進歩にまつわる項目が充実しており、まさにup-to-dateな内容となっている。
 昭和20年代までの長い間、「国民病」であった結核も、国をあげて予防や治療に取り組み死亡率は往時の100分の1以下にまで激減した。1980年代になって、都市化の進展や高まん延であった時代に感染した人々が高齢化し発病するようになったため、結核罹患率低下が鈍化し、1999年には一時的に人口10万対34.6に増加して「結核緊急事態宣言」が発せられ、その後罹患率低下は徐々に回復した。
 欧米の先進国は結核罹患率が人口10万対10以下の「低まん延国」になっているのに対して、日本は2017年に人口10万対13.3と「中まん延国」であり、全国で1万6,789人(東京都は2,213人)の患者が報告されている。近年は若年者を中心に外国出生の患者が増加しており、結核は過去の病気ではなく、今も日本の主要な感染症の一つである。現在、国は結核に関する特定感染症予防指針を改正し、「低まん延国」を目指し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでの目標達成のため、さまざまな取り組みが行われている。
 本書は、第I章:結核症(結核の疫学、診断、治療法、合併症のある場合、耐性結核、生物学的製剤、多剤耐性結核の新規薬剤、外科療法、肺外結核、肺結核後遺症、小児・外国人の結核、多彩な症例)、第II章:非結核性抗酸菌症(疫学、病理形態、治療、HIV、生物学的製剤)、第III章:肺アスペルギルス症(発症・進展、病理形態、治療、ABPA)の項目からなり、その分野におけるエキスパートが最新の知見についてそれぞれきわめて格調高い内容を執筆されており、大変読みごたえのある書である。
 さらに本書のもう一つの特徴は、結核にまつわるエッセイがtea breakとして随所に散りばまれており、大変楽しみながら勉強できることである。
 明日の臨床現場において患者に遭遇する可能性のある研修医、若手医師のみならず、医療関連従事者のすべてにとって、科を越えた幅広い領域で本書は必読の書である。

臨床雑誌内科125巻2号(2020年2月号)より転載
評者●東邦大学医学部びまん性肺疾患研究先端統合講座 教授/東邦大学医療センター大森病院間質性肺炎センター センター長 本間栄

9784524252657