末梢血管疾患診療マニュアル
編集 | : 東谷迪昭/尾原秀明/金岡祐司/水野篤 |
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ISBN | : 978-4-524-25223-7 |
発行年月 | : 2018年3月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 494 |
在庫
定価15,400円(本体14,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
下肢の閉塞性動脈硬化症を中心に、全身の末梢血管疾患診療に必要な循環器内科・血管外科・形成外科などの幅広い知識を網羅したテキスト。診療科の垣根を越えて末梢血管疾患治療の議論を深める研究会「J-Rescue」、および下肢の血管内治療における現状と予後に関する検討を行う「TOMA-Code Registry」の参加施設を中心に編纂。各疾患の病態・診断・治療についての総論的な解説のみならず、症例提示やカテーテル治療・外科的血行再建術のTips、バスキュラーアクセスなど、実際的な内容を豊富に盛り込んでいる。
第1部
I.下肢動脈疾患
1 総論
A 定義と病因の変遷
B 予後と疫学
C リスクファクター
D 併存疾患
1 動脈硬化性疾患の併存
2 糖尿病の併存
3 慢性腎不全の併存(透析患者)
2 解剖
A 解剖と症状の関係
B 膝窩動脈とその周囲疾患
C 膝下動脈〜足動脈まで
3 診断
A 病歴
B 身体所見
C 重症度診断
D 下肢血流の機能的検査
1 ABI・TBI,SPP,tcPO2
2 負荷ABI
3 近赤外線法(NIRS)
E 血管エコー・ドプラ検査
F CTG MRAH血管造影
4 治療総論
A 動脈硬化性疾患としての介入
B 薬物治療
C 運動療法
D 血行再建治療
1 カテーテル治療:基本的な考え方
2 外科的血行再建術:基本的な考え方
3 血行再建術の選択
4 カテーテル治療後の抗血栓療法
5 外科的血行再建術後の抗血栓療法
5 急性下肢虚血
A 総論
B 診断
C 治療
1 血栓溶解療法:全身性
2 血栓溶解療法:CDT
3 カテーテル治療:吸引,破砕
4 カテーテル治療:血栓移動
5 カテーテル治療:経皮的Fogartyカテーテル血栓除去術
6 カテーテル治療:ステント
7 外科的治療
8 ハイブリッド治療
6 重症下肢虚血
A 総論
B 診断
C 治療
1 薬物治療
2 フットケア
3 靴・装具
4 創傷管理
5 感染管理
6 疼痛管理
7 血行再建治療:カテーテル
8 血行再建治療:外科的治療
9 カテーテル治療のエンドポイント
10 その他の治療(1):Buerger病の治療
11 その他の治療(2):マゴット療法
12 その他の治療(3):血管再生治療
13 重症下肢虚血のリハビリテーション
14 在宅管理・退院調整
15 医療連携
7 無症候性の下肢動脈疾患の問題点
第2部
I.大動脈瘤
1 総論
2 診断
3 治療
A 内服治療
B ステントグラフト治療の基本的な考え方とフォローアップならびに予後
C 胸部大動脈瘤
1 外科的治療
2 ステントグラフト治療
3 ハイブリッド治療
D 腹部大動脈瘤
1 外科的治療
2 ステントグラフト治療
E 胸腹部大動脈瘤
1 外科的治療
2 ステントグラフト治療
F 腸骨動脈瘤
G 大動脈瘤外科的治療後のフォローアップ
II.急性大動脈症候群
1 総論
2 診断
3 治療
A 内科的治療
B 急性大動脈解離に対する外科的治療
C 急性大動脈解離に対するステントグラフト治療
D 臓器虚血に対する治療オプション
III.頸動脈狭窄症
1 総論
2 診断
3 治療
A 内服治療
B 外科的治療
C carotid artery stentingの実際
IV.鎖骨下動脈狭窄症
1 総論
2 診断
3 治療
A 内服治療
B 外科的治療
C カテーテル治療
V.腎動脈狭窄症
1 総論
2 診断
3 治療
A 内服治療
B カテーテル治療
VI.内臓動脈病変
1 総論
2 診断
3 治療
A 内服治療
B 外科的治療
C 急性腸管虚血に対するカテーテル治療
VII.深部静脈血栓症
1 総論
2 診断
A 一般的な診断法(エコー検査を除く)
B 静脈エコー
3 治療
A 内服治療
B 外科的治療
C カテーテル治療
VIII.下肢静脈瘤
1 総論
2 診断
3 治療
A 弾性ストッキング
B 外科的治療
C カテーテル治療
IX.バスキュラーアクセス
1 総論
2 バスキュラーアクセスの作製・再建手術
3 バスキュラーアクセスの血管内治療
索引
序文
世界でも類を見ない速度で超高齢化社会に突入したわが国では、血管疾患の増加が一つの問題となっています。冠動脈疾患に対する治療の標準化が進む一方、末梢血管疾患に対する治療は、施設ごとに、また診療科によっても方針が大きく異なっているのが現状です。末梢血管疾患に携わる診療科は、循環器内科、血管外科、総合内科、整形外科、形成外科、皮膚科など多岐にわたっており、どの診療科を受診するかによってその後の診療内容も変わってくると考えられます。さまざまな診療科が関与することでかえって診療内容が不均一となることもあると思われます。
一方、末梢血管疾患の症状の多様性から、単一の診療科で解決できるものではないことも確かです。この超高齢化社会における末梢血管疾患の増加を契機とし、多くの診療科、看護師、検査技師、理学療法士、臨床工学技士、ソーシャルワーカーをはじめとした医療従事者あるいは義足などの装具士と協力した適切な診療体制を、各医療機関で作ることが重要と思われます。こうした際に、参考となり指針となる書籍があると有用ですが、末梢血管疾患全体を包括し、かつわが国の実情に沿ったガイドブックはこれまで見あたりません。末梢血管疾患の分野は、多くの論文や研究内容が日進月歩であるのと同時に、未だ解決できていない問題点が多く存在することがその要因かもしれません。
そのような状況の中、現時点までにわかっている知見をまとめ、臨床現場に活かすことのできるガイドブックは自分たちで作るしかないと立ち上げたのが本書です。実際に書籍を作るとなるとそのあまりに広い末梢血管疾患の範囲に茫然自失となったのも偽らざるところで、途方に暮れているわれわれの頭に浮かんだのは同じような志を持った、診療科を越えた方々でした。2013年より年1回7月に開催している、診療科の垣根を越えて末梢血管疾患を議論し合う研究会(J-ReSCUE:Japan-Relationship of Surgeon and Cardiologist for Universal Endovascular treatment)でできた大きな絆、そして下肢動脈に対する血管内治療を行った患者を多施設で前向き登録するTOMACODE(TOkyo taMA peripheral vascular intervention research COmraDE)Registryに参加いただいた34施設の仲間たちが核となり、さまざまな研究会や学会などを通じて知り合った医師やメディカルスタッフなど、いずれも末梢血管疾患の診療の第一線で活躍する方々が、快く本書の執筆を引き受けてくれました。
そして138人もの臨床家が結集して、下肢動脈に始まり、大動脈、頸動脈、鎖骨下動脈、腎動脈、内臓動脈の各疾患に静脈疾患(深部静脈血栓症、下肢静脈瘤)まで網羅した書籍に結実しました。透析患者に対するバスキュラーアクセスについて、独立して1章を設けていることも本書の特長です。末梢血管疾患患者の治療やケアの課題に直面した際に該当の解説部分をご一読いただく、あるいは体系的に熟読いただくなどいずれにも耐えうるものであると自負しています。
本書の作成に際しては、この膨大かつ日進月歩の末梢血管疾患治療において、じっくりと執筆し、編集していたのでは発刊時に内容が古くなってしまうという事情に鑑み、「情報の旬」を意識して急ピッチで作業を進めました。執筆していただいた方々には短い時間で大変ご苦労をおかけしました。この場を借りてお詫びとともに感謝の気持ちを表します。また、編集作業におきましても内容の鮮度を意識するあまり、十分ではなかったかもしれません。そのあたりは、一刻も早く現状の末梢血管疾患治療のガイドブックを出版したいという熱い想いのこもった書籍ですので、読者のみなさまにおかれましてはこうした事情をお汲み取りいただければとお願い申し上げる次第です。
そして熱を帯びた本書を温かく包む表紙・カバーの中心となっている医師の絵は、編集者の一人、金岡祐司の描いたものです。人柄が滲み出たこの絵は末梢血管疾患診療に全身全霊で取り組むわれわれの象徴です。皆のつながりと信念によって完成した本書が、日夜奮闘されている皆様の日常臨床に少しでも寄与できれば、望外の喜びです。
2018年1月
東谷迪昭
尾原秀明
金岡祐司
水野篤
末梢血管は、身体中の臓器に血液を供給・回収する管であり、末梢血管疾患の病態生理は実に多岐にわたっている。そのためもあり末梢血管疾患診療には、これまで血管外科や心臓血管外科のみならず、循環器内科、放射線科、皮膚科、形成外科などの多くの診療科がかかわってきた。今回新たに出版された本書では、138人に及ぶさまざまな診療科の末梢血管疾患のエキスパートが執筆陣となり、多岐にわたる末梢血管疾患が、調和のとれたかたちで的確にまとめられており、類書にはない素晴らしい出来上がりとなっている。本書の企画・編集を行った東谷迪昭先生、尾原秀明先生、金岡祐司先生、水野篤先生のご尽力に敬意を表したい。わが国の血管診療を指導的立場で推進している4人の先生方の、熱い思いが具現化された書である。
医療は患者中心に行われなければならず、そのためには末梢血管疾患のように、対応する診療科が多い場合、共通言語で疾患について会話し、最善の医療を提供するための意見交換ができる環境形成が重要である。脈管疾患に関する複数の診療科の統合学会である日本脈管学会が、脈管専門医制度を開始した大きな理由の一つが、脈管疾患に関して意見交換する環境づくりであった。当然ながらこういった目標を達成するためには、さまざまな方面からのアプローチが必須であり、本書も重要な役割を担うことになると思われる。
本書を手にとってみると、ずっしり重い。といっても各項目は的確に要点がまとめられており、診療の合間に、ふと疑問に思ったことを短時間に簡単に参照でき、最新の診療のポイントを押さえることができる。重いのは、項目が多いためである。編者が序文に書いているように、短時間で執筆編集を行ったおかげで、出版されるころには内容が古くなってしまうという教科書の定説を見事に覆し、最新の知見がまとめられている。編者を中心とした執筆陣の熱意を感じる。重要な参考文献もリストアップされており、理解をさらに深めることもできる。目の前の臨床で遭遇している難問をどう解決するかという問いかけに十二分に答えてくれるので、机の片隅に起き、いつでも手にとれるようにしておきたい書である。
臨床雑誌外科80巻11号(2018年10月号)より転載
評者●山王病院・山王メディカルセンター血管病センター長 宮田哲郎