エキスパートが答えるDr.小川の傷や傷あと治療Q&A
著 | : 小川令 |
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ISBN | : 978-4-524-25199-5 |
発行年月 | : 2019年4月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 184 |
在庫
定価4,730円(本体4,300円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
けがややけど、なかなか治らない傷・傷あと(創・瘢痕)は、命にかかわる傷のみならず、整容面の問題や痛み・かゆみなどの自覚症状を伴い、患者QOLに与える影響は大きい。その治療・管理においては創傷治療を専門とする形成外科医だけでなく、すべての医師・メディカルスタッフの相互協力が重要である。本書では、傷・傷あとの治療について、エキスパートの理論と実践的な知識を、医師や研修医、メディカルスタッフにQ&A形式でやさしく解説した。
1.傷の診断
Q1 すぐ処置すべき傷と待つべき傷がある?
Q2 命にかかわる傷がある?
Q3 新しくできた傷と注意点は?
Q4 古くからある傷と注意点は?
Q5 傷の汚染と感染は違う?
Q6 手術した傷が感染することがある?
Q7 手術した傷が感染する原因は?
Q8 傷はどのような経過で治る?
Q9 傷の治り方にはどのような違いがある?
Q10 組織は再生する?
Q11 傷の治りをわるくするのは何?
Q12 糖尿病で傷の治りはわるくなる?
Q13 下腿の潰瘍はどのように診断する?
Q14 褥瘡はどのように診断する?
Q15 傷から院内感染することはある?
2.傷の治療
Q16 消毒薬はいつから使われ始めた?
Q17 消毒薬はどのように使う?
Q18 ポビドンヨードとは?
Q19 洗浄と消毒の使い分けは?
Q20 傷は湿っていたほうがよい?
Q21 湿潤療法の適応は?
Q22 かさぶたとは?
Q23 指を切ったときの処置は?
Q24 動物に噛まれたときの処置は?
Q25 クラゲに刺されたときの処置は?
Q26 しもやけとは?
Q27 凍傷とは?
Q28 凍傷の治療は?
Q29 日焼けとは?
Q30 熱傷と凍傷の違いは?
Q31 熱傷はどのくらい冷やせばよい?
Q32 要注意のやけどは?
Q33 なかなか治らない傷には何をする?
Q34 傷の塗り薬の種類は?
Q35 病院で使える創傷被覆材の種類は?
Q36 創傷被覆材の材質の違いは?
Q37 傷に飲み薬は効く?
Q38 陰圧閉鎖療法とは?
Q39 陰圧閉鎖療法のコツは?
Q40 最新の陰圧閉鎖療法とは?
Q41 メカノバイオロジーと創傷治癒の関係は?
Q42 高気圧酸素治療とは?
Q43 陰圧治療と陽圧治療の関係は?
Q44 傷の手術とは?
Q45 手術後感染を予防するには真皮縫合が大切?
Q46 形成外科とは?
Q47 美容外科手術の後に傷ができることがある?
Q48 顔面移植とは?
3.傷あとの診断
Q49 傷あとが盛り上がることがある?
Q50 傷あとが盛り上がる原因は?
Q51 ケロイド体質とは?
Q52 ケロイドは遺伝する?
Q53 ケロイド・肥厚性瘢痕の症状は?
Q54 ケロイド・肥厚性瘢痕の違いは?
Q55 ケロイドはヒトにしかできない?
Q56 どういうときにケロイドに気をつける?
4.傷あとの予防と治療
Q57 手術の後にできるケロイドを予防するには?
Q58 手術のときに縫う糸は?
Q59 けがの後にできるケロイドを予防するには?
Q60 術後のテープの貼り方は?
Q61 術後に貼るテープの種類は?
Q62 ケロイドは治療できる?
Q63 ケロイドに対する手術とは?
Q64 ケロイドに対する放射線治療とは?
Q65 瘢痕拘縮の治療には何がある?
Q66 ケロイドに効く飲み薬には何がある?
Q67 ケロイドに効く塗り薬には何がある?
Q68 ケロイドに効く貼り薬には何がある?
Q69 ケロイドに効く注射とは?
Q70 傷あとにレーザー治療ができる?
Q71 傷あとのメイクアップ治療とは?
Q72 見た目が問題な傷あと(醜状瘢痕)の治療には何がある?
Q73 これからも傷の新しい薬や機器が開発される?
索引
序文
本書を手にお取りいただき、誠にありがとうございます。本書では「傷や傷あとの治療」をわかりやすく解説しています。一般の方から医療従事者まで幅広くご一読いただければと思います。
長い間、命を助けることが目的であった医療も、昨今の医療技術の発展により次のステージへと進もうとしています。それはいかに生活の質(quality of life:QOL)を高められるか、というチャレンジです。全身の熱傷で命は助かったものの、退院してから機能的な問題で仕事につけない、整容的な理由で人前に出られない、心の問題で引きこもりになってしまった、という状況は、何としてでも改善しなければなりません。命の次の、機能・整容・心の問題を真剣に考えるべき時がきたのです。
このようなQOLの改善に力を入れてきたのが「形成外科」です。狭義の「形成外科」は先天異常の外科、唇裂・小耳症・合指症など先天的なマイナスをゼロに戻す治療です。「再建外科」とは熱傷や外傷、がんや糖尿病などの疾病で失った組織を作る、すなわち後天的なマイナスをゼロに戻す治療です。「美容外科」は医学的には正常なものをプラスにする医療です。これら三つの科は、来院する契機と患者の気持ちがまったく異なるわけですが、マイナスからプラスまで整容・機能の獲得を目的とする「理念」そして「手術手技」が共通なので、広義の「形成外科」としてまとまっているわけです。このような「形成外科」の登場で、「いかに正常に近い機能を再建するか」「いかに傷をきれいに治すか」「いかに外観で悩む患者の心に寄り添えるか」といった問題が明らかになり、そして世界中の形成外科医がこれらの目的に向かって日々、臨床・研究を行っています。
本書をお読みいただき、「傷や傷あと」がここまで治療できるようになったのか、とご理解いただけましたら嬉しく思います。新たな時代のニーズに応えた医療を開拓すべく、読者の皆様とともに頑張ってまいりたいと思います。最後に、本書の企画から出版までご尽力いただきました南江堂の杉山由希さんに心より御礼申し上げます。
2019年3月
日本医科大学形成外科学教室 主任教授
小川令
ある日の外来、または入院病棟でのこと。
「先生、こんな小さな傷で手術ができるんですか?」
「先生、傷がかゆくって、かゆくって、なんか盛り上がってきちゃった」
「先生、傷が赤くなっていて、糸みたいなものがみえてるんですが…」
「先生、傷あとが突っ張った感じがあって…」
「先生、傷あとがどんどんみえなくなってきてます」
などなど、自分の「傷」や「傷あと」をみた患者さんの訴えに耳を傾ける医師や看護師などの医療従事者がいます。
このように「傷」や「傷あと」は、日常診療、特に外科診療において非常に重要です。なぜなら、心臓手術、移植手術など、どんなに大きな手術をしても外からみえるのは皮膚に残った「傷」や「傷あと」のみだからで、患者さんにとっては、みえるものが最大の関心ごとです。もちろん胸部の手術などでは、術後の肋間神経痛など慢性的な疼痛が長い間残り、患者さんを悩ませることがありますが、目にみえるものは側胸部の「傷」や「傷あと」だけなのです。また、目にみえる「傷」や「傷あと」は患者さんがその後の人生で一生お付き合いしますし、外科医も外来をしている間、見続けます。したがって、この「傷」や「傷あと」について多くのパターンを知り、それぞれのパターンに応じた適切な対応を知っておくことは非常に重要です。
本書は、この「傷」や「傷あと」の治療について、その専門家である形成外科のエキスパートが非常にわかりやすく解説しており、若手医師からベテラン医師にいたるまで、だれが読んでも非常にためになる内容となっています。また本書は、「傷」や「傷あと」の治療における気の利いた参考書になるだけでなく、外来でのちょっとした患者さんからの質問にもさっと答えられるようなワンポイントアドバイスのような内容もたくさん含んでいます。さらに驚くべきことに、実際に臨床を経験していない医学生、場合によっては一般の人が読んでも、十分に理解できるところが随所にあり、「できる限りわかりやすく書こう」という思いをもって書かれた著者の心遣いがうかがえます。
今回本書を手にして拝読する機会がありましたが、本当に内容がたいへん興味深く、一気に読ませていただきました。本書はQ&A方式になっているために、まずコンパクトな質問がそれぞれの項目の題になっています。したがって、目次にある73の題をパラパラめくって、興味のあるところから読み進められます。また、一つひとつの項目がコンパクトにまとめられているので、興味のある項目だけを読み進めていっても意味がわからず困ることはありません。さらに特筆すべきは、言葉遣いについて、平易な語句や文体を選んでいるので、非常に読みやすくわかりやすいだけでなく、内容の興味深さまでもが引き立つかたちとなっています。
最後になりましたが、丁寧な書きぶりに著者の思いがこもった本書を、日常診療における「傷」や「傷あと」治療のちょっとした参考書として、心から推薦したいと思います。
胸部外科72巻13号(2019年12月号)より転載
評者●名古屋大学呼吸器外科教授 芳川豊史