教科書

骨学のすゝめ

編集 : 中野
ISBN : 978-4-524-25159-9
発行年月 : 2020年3月
判型 : A4
ページ数 : 274

在庫あり

定価4,620円(本体4,200円 + 税)

正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

臨床と関連させながら骨学を学ぶことのできるテキスト。解剖学会で学生セッション優秀発表賞、献体協会賞を受賞したプロジェクトのなかで、愛知医科大学の学生が作成したテキストがもととなっており、学生の目線を盛り込んだわかりやすい構成が特徴。骨折などのレントゲン写真も盛り込み、「骨のどの部位が、どのように臨床的に重要か」を理解しながら、学生が能動的に学習できる。

総論
 I.骨の部位名の‘意味’を押さえよう
 II.骨の形態的分類
 III.骨の機能
 IV.骨の構造
 V.骨の組織学的構造
 VI.長管骨の栄養血管
 VII.骨の発生
 VIII.骨の成長
 IX.骨の連結
 X.関節面の形状による関節の分類
上肢
 I.鎖骨
 II.肩甲骨
 III.上腕骨
 IV.橈骨
 V.尺骨
 VI.手の骨
下肢
 I.大腿骨
 II.脛骨
 III.腓骨
 IV.膝蓋骨
 V.足の骨
胸郭
 I.胸郭の構成
 II.胸骨
 III.肋骨
脊柱
 I.脊柱
 II.頸椎
 III.胸椎
 IV.腰椎
 V.仙骨・尾骨
骨盤
 I.寛骨
頭蓋
 I.頭蓋の構成
骨学事始
参考文献
索引

序文

 本書『骨学のすゝめ』のプロジェクトは、2015年秋に開催された日本解剖学会中部支部学術集会(福井大学)において、愛知医科大学医学部2学年次(当時)山田崇義君の「皆さん、初めて骨学を学んだ時のことを覚えていらっしゃいますか」という‘象徴的な’第一声で幕を開けた。
 解剖学、とくに骨学は、医学を学ぶ者が最初に遭遇する試練であろう。教科書を開けば見たこともない難解な漢字が並び、講義では耳慣れない専門用語が飛び交う。何が重要か、なぜ重要かが判らないままに、解剖学用語の無味乾燥な暗記に陥りやすいであろう。「知識は実際に使わなければ身に付かない」といわれる。数学は暗記ではない。しかし公式は覚える。その公式を使って応用問題を解く。同様に骨学の知識は、骨折および脱臼の発生機序や画像診断に留まらず、内科診断学における聴診や打診、産科学における分娩時の母体骨盤と児頭の関連など、臨床医学の理解に幅広く応用できるのである。換言すれば、解剖学の真の重要性は、臨床医学を学び、臨床実習で患者を診る時に改めて認識されるであろう。
 本書は、私たち教員と医学部学生がONE TEAMになって築き上げた‘能動学習のための道標(みちしるべ)’である。近年の臨床実習ではclinical clerkshipが重視され、学生は医療チームの一員として診療に参加する。同様に本書のプロジェクトは、当初から愛知医科大学医学部学生の視点を取り入れてきた。基礎医学から臨床医学、臨床実習へと進むにつれて、その時々の視点で解剖学を振り返りながらアイデアを持ち寄り、私たち教員の指導の下で学生も自ら筆をとった。Medical Science Club部長(当時)の蓬来春日さんが卓越したリーダーシップを発揮し、後輩である山田崇義君をフォローして、さらに1学年次(当時)の古屋佑夏さん、中山幹都君、花林卓哉君、關栄茂君へ引き継いだ。その間、「学生による医学教育改革に向けた提言」を主題に本書のプロジェクトを紹介し、2016年春の第121回日本解剖学会全国学術集会(福島県立医科大学)において学生セッション優秀発表賞、翌春の第122回日本解剖学会全国学術集会(長崎大学)では献体協会賞トラベルアワードを受賞した。
 ‘学無止境’−学問には終止も境界もない。この精神は、我が教え子たちの手によって『骨学のすゝめ』として見事に結実した。私の学生時代とは比べものにならない程に医学の情報量が増大した今日、共用試験や国家試験の勉強に追われる中で、最後まで厳しい指導に音を上げることなく本書を纏めあげた我が教え子たちに、心から敬意を表したい。

2020年1月14日
愛知医科大学医学部解剖学講座
教授 中野

 帯に「医学部学生の視点による教科書:あなたを臨床解剖学の世界に誘う」とあります。編者は愛知医科大学の解剖学教授の中野隆先生ですが、共著として医学部Medical Science Club 6名の名前があります。序文によれば、教員と医学部学生が“ONE TEAM”になって築き上げた「能動学習のための道標」であり、医学部学生の視点を取り入れたものである、と述べられておられます。さらに共著者の学生が「本書に込める私たち学生の想い…医学のすべては骨学から始まる」との文章を寄せておられます。
 これは教育に携わる教員としてはたいへんうれしいことであったと思います。もちろん、いわゆる素人の医学生に解剖学、本の編集を指導することはとてつもないたいへんな作業であったことは想像される一方で、こんなにも医学生が自ら学び、考えて編集につなげていく過程を指導できたことは教育者として大きな喜びであったと思います。医学生ならびに指導をされた先生方に心より敬意を表します。
 なるほど、学生の視点ではこのような編集になるのか、このような観点で骨学をみているのかと改めて認識いたしました。「骨学」というとどのようなことを思い出すでしょうか。医学部の専門教育開始のころに解剖学で骨学の講義と実習が行われ、多くのラテン語をはじめとする専門用語が出てきて、その意味があるのかないのかもわからないまま講義はどんどん進み、200数本ある骨別の名称に加え、一つの骨の中でも突起やへこみを示す用語にびっくりするとともに半ばあきらめつつ、必死に名称を憶えたように思います。
 さて本書では総論で、骨の部位別名称、骨の形態的分類、機能、構造、発生から成長まで記述しています。各論では上肢、下肢、胸郭、脊柱、骨盤、頭蓋別の章を設けています。
 各論の各部位別では骨について記載し、続いてその骨の骨折や疾患について例をあげて記述しており、臨床の場での診療に直結する様式になっています。その骨が臨床例ではどのような障害や疾病をきたすのか、合わせて学ぶことができるのでその骨の意義を知ることができます。また「MISSION」を設け、機能的意義を理解する手助けをしています。たとえば、「肩甲骨を光にかざしてみよう」として、肩甲骨が薄いことを実感させたり、「学生同士で体表面から烏口突起を触れてみよう」として体表解剖学に誘導し、実際の臨床で患者の体表から骨を触知する際の助けとなることを念頭においています。さらに「なぜ○○なのか」などの設問とその回答を設け、臨床において経過、骨折治癒に時間がかかることなどにも言及しています。骨学では骨そのものをその時点でみているだけですが、臨床の場では骨の時間的変化(成長による変化、骨粗鬆症などの疾病による骨脆弱への変化、骨折後の治癒過程)をみていくわけで、その意味でこの骨学の段階で臨床への橋渡しをしている記述となっています。さらに「臨床問題をかんがえよう」の欄では捻挫、分娩時における産道との関連などを説明し、ヒトの体「骨、骨格」とさまざまな生理的機能との関連を示しており、多くの学生や医師の関心を引く内容となっております。
 ところどころに「Tea Time」を設け、楽しい話題を提供しています。加えて最後の章である「骨学事始」では骨学のはじまりを記載しています。なかなか実際にみることのない貴重な木骨のこともていねいに記載し、写真が掲載されております。
 このように本書は医学生の視点が加わったものであり、骨学を単なる骨の紹介ではなく、臨床と結びつけて記載をしており、骨が人体でどのような役割をはたし、骨の障害や疾病ではどのような状態にいたるのか、また成長や治癒過程などの時間的経過による骨の変化を合わせて知ることができる実用の書となっております。医学生はもとより、看護師やリハビリテーションやX線撮影などの放射線業務にかかわる医療関係者、さらには教育を担当する方にはたいへん有用な書であると思います。まず手にとってみていただきたいと思います。

臨床雑誌整形外科71巻10号(2020年9月号)より転載
評者●新潟県立燕労災病院副院長 遠藤直人

9784524251599