心臓デバイス植込み手技改訂第2版
編著 | : 石川利之/中島博 |
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ISBN | : 978-4-524-25154-4 |
発行年月 | : 2018年3月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 204 |
在庫
定価8,250円(本体7,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
心臓デバイス植込み手技に関する標準的方法を提起する書籍として初版を刊行してから7年、満を持しての改訂版となる。初版刊行後、2016年1月に皮下植込み型除細動器が保険承認されるなど本領域の進歩は著しく、本改訂版ではこれらの新規デバイスを盛り込むほか、新知見を反映した最新の内容となっている。
I章 心臓デバイス植込みの基礎
1 手術手技の基本
A 手術環境
(1)手術を行う場所
(2)環境的差異:手術室vs心臓カテーテル検査室
B 手術器械
(1)モスキート鉗子
(2)ペアン鉗子
(3)筋鉤
(4)リスター鉗子
(5)開創器
(6)鑷子
(7)剪刀
(8)持針器
C 患者の術前処置,常用薬剤の中止,予防的抗菌薬投与
D 手指消毒
E 患者の入室,体位固定
F 術野の消毒,覆布
G 局所麻酔
H 穿刺が先か,皮膚切開が先か
I 皮膚切開,組織剥離
J 止血
K 電気メス
L 縫合
(1)創傷治癒の基本
(2)縫合糸と針の種類
(3)縫合方法
M 創処置
N ドレナージ
(1)閉鎖式ドレナージ
(2)開放式ドレナージ
2 デバイス感染予防
A 感染危険因子
B エビデンスに基づいた感染予防への提言
(1)患者に対する術前準備と処置
(2)術者の服装
(3)手洗い
(4)予防的抗菌薬投与
(5)創部(ポケット)洗浄
(6)血糖コントロール
(7)術中体温の維持
(8)副腎皮質ホルモンなどの免疫抑制薬服用患者の取り扱い
(9)抗凝固療法
C 手術手技
D 術後の創処置
E 手術環境,手術機械の滅菌
F 感染多発に対しての解決方法
(1)環境
(2)人的要因
3 植込みに必要な解剖学的知識
A ペースメーカーリード挿入に必要な解剖
(1)穿刺部位の解剖について
(2)「胸郭」(thoracic cage)とは
(3)胸郭外静脈穿刺の落とし穴:「胸肩峰動脈」の重要性
(4)解剖学的にみた胸郭外静脈穿刺の至適部位
B ペースメーカーリードの心腔内誘導に必要な解剖
(1)左・右腕頭静脈の解剖学的相違の重要性
C ペースメーカーリード留置に必要な解剖
(1)心房リード留置に必要な心房の解剖
(2)心室リード留置に必要な三尖弁の解剖
(3)心室リード留置に必要な右室の解剖
(4)心室リード留置に必要な心室静脈系の解剖:冠状静脈洞の解剖
II章 植込み手技の実際
1 植込み手順
A 手術までの流れ
(1)術前準備
(2)患者入室後の術前準備
2 リードの挿入方法,静脈アクセス
A 静脈アクセスについての総論
(1)経静脈的心内膜電極の挿入ルート
(2)複数リード挿入の場合の選択
(3)透視と実際の穿刺点がずれる理由
B 静脈切開法
(1)橈側腕頭皮静脈切開法
(2)外頚静脈切開法
C 静脈穿刺法
(1)鎖骨下静脈穿刺法
(2)胸郭外穿刺法
(3)エコーガイド下静脈穿刺法:リアルタイムエコーガイド法
3 リードの選択とその操作
A リードの種類
B リードの構造
(1)passive fixation lead
(2)active fixation lead
4 ICDとリードの選択
A single chamber ICD vs.dual chamber ICD
B single coil ICD lead vs.dual coil ICD lead
5 リードの留置・固定・ポケット内処理
I.リードの留置
A 心房リード
(1)右心耳
(2)右房自由壁
(3)心房中隔ペーシング
B 右室リード
(1)右室心尖部ペーシング
C 心室中隔ペーシング
(1)上からの中隔へのアプローチ
(2)下からの中隔へのアプローチ
D シングルリードVDD リード
E 左室リード
(1)ガイディングカテーテルの冠状静脈洞への挿入
(2)リードの選択
(3)CRTの実例提示
F ショックリード
G 心筋電極およびアプローチ法
(1)Medtronic社製CapSureR EPI,Model 4968
(2)Medtronic社製Model 5071(ユニポーラ)
(3)Enpath Medical社製MYOPORER(販売:日本ライフライン社)
H パッチ電極,アレイ電極
(1)パッチ電極
(2)アレイ電極
II.リードの固定
III.リードのポケット内処理
6 シース・デリバリー・リードシステム
A シース・デリバリー・リードシステム(SelectSecureTM)の構造
B 静脈アクセス
C 心腔におけるデリバリーカテーテルの操作
D リード先端の固定(screw-in)
E リード固定の確認
F デリバリーカテーテルのスリッティング
G 留置位置の変更
7 ポケットの作製方法
A ポケット作製の基本
B 大胸筋筋膜上ポケット
C 大胸筋筋膜下ポケット
D 大胸筋筋内・筋下ポケット
E リードが先か,ポケットが先か(穿刺手順とポケット作製)
(1)はじめに皮膚から穿刺法を行う場合,小切開で橈側皮静脈切開法を行う場合
(2)リード操作とポケット作製
F ポケットの位置をリード挿入部位と分ける方法
G デバイス植込み部位:右側か,左側か
(1)解剖学的特徴による差異と電磁干渉による差異
(2)植込み側が別の要因で限定される場合
8 S-ICD(完全皮下植込み型除細動器)
A S-ICDとは
B S-ICDの有用性と限界
C 体表心電図のスクリーニング
D S-ICD植込み手技
(1)プランニング
(2)3incision techniqueと2incision technique
(3)S-ICD植込みに必要な解剖
(4)ポケット作製
(5)トンネル作製
(6)デバイス収納と閉創
(7)DFTテスト
(8)創感染
(9)不適切作動
9 リードレスペースメーカー
A MicraTMの構造
B MicraTMのデリバリーカテーテル/イントロデューサー
C MicraTMの植込み手技
(1)植込み前の準備
(2)大腿静脈穿刺
(3)MicraTM デリバリーシステムの挿入
(4)MicraTMの展開
(5)閾値,心内波高の確認
(6)再捕捉,再固定
(7)テザーの抜去
(8)MicraTM イントロデューサーの抜去および縫合
(9)MicraTMの抜去
III章 術中・術後の管理と合併症対策
1 術中チェック
A 心内電位波高,閾値,インピーダンスの確認
B far field sensing
C ICDのDFTの測定およびULVについて
2 リード固定,収納,閉創
A 本体固定,止血,洗浄,収納
B 閉創
C 皮膚縫合法
(1)全層結節縫合
(2)垂直マットレス縫合
(3)皮下連続縫合と真皮内連続縫合
D 圧迫固定
3 術後の管理
A 安静度
B 創部の処置
C 抗菌薬
D モニター,検査,ペースメーカーチェックなど
4 ジェネレーター交換術,ポケットの処置
A 術前準備
B ポケット内到達とリードの剥離
C 本体の交換とリードチェック,除細動テスト
D アップグレードとポケットの拡張
(1)リード追加
(2)ポケット拡張
E 閉創
5 合併症とtroubleshooting
A 術中・術後早期合併症
(1)気胸
(2)動脈損傷
(3)静脈損傷
B ポケットトラブル
(1)出血・血腫
(2)皮膚圧迫壊死
(3)アレルギー反応
C リード損傷・穿孔,dislodgement,横隔神経刺激
(1)リード損傷
(2)リード穿孔
(3)dislodgement
(4)横隔神経刺激
D 左上大静脈遺残,鎖骨下静脈閉塞,上大静脈症候群
(1)左上大静脈遺残
(2)鎖骨下静脈閉塞
(3)上大静脈症候群
6 デバイス感染症とリード抜去
A デバイス感染症
B リード抜去
C リード抜去の適応
D リード抜去を行う条件
(1)リード抜去を行う施設
(2)リード抜去に必要な機器・設備
(3)術者に要求される条件
E リード抜去手技の実際
(1)除脈への対応
(2)traction controlとは
(3)platformの構築
(4)entry siteの剥離
(5)血管内の剥離
(6)スネアテクニックについて
(7)collateral injuryの予防と早期発見
索引
改訂第2版序文
『心臓デバイス植込み手技』は2011年に出版されたが、類書がなかったこともあり、幸い好評のうちに迎えられることができ、植込み手技に関する教科書のニーズが高かったことが再確認された。植込み手技の書籍という性格上、当初は、改訂は不要で、重刷を重ねることで済むと考えていた。しかし、思いのほか進歩は早く、改訂と追加が必要と判断された。
もともと本書は、2011年の第3回日本不整脈学会デバイス関連冬季大会(会長豊島健先生)開催時に企画・出版された。日本不整脈学会デバイス関連冬季大会は、豊島健先生が委員長を務める不具合委員会(現、安全対策委員会)の提案で2009年から開催されるようになったという歴史があり、2011年に豊島健先生が会長を務められた後は、2012年(第4回)安部治彦、2013年(第5回)中島博、2015年(第7回)中里祐二と、『心臓デバイス植込み手技』執筆グループのメンバーから大会長が選ばれた。2018年2月、執筆グループのメンバーの一人である、石川利之が日本不整脈心電学会デバイス関連冬季大会第10回記念大会の大会長を務めることになった。そして、この学会を機に、改訂第2版を出版することができた。
共著とはせず、討議を重ねて執筆グループとして作った本書に対するメンバーの苦労と思いが、改訂の原動力であった。この改訂第2版が、初版以上に広く受け入れられれば幸いである。
2018年3月
『心臓デバイス植込み手技』執筆グループを代表して
石川利之、中島博
心臓デバイスに関する書籍には、心臓デバイスの機器、システム、植込み手技や適応、設定、薬剤との植込み効果の比較、ガイドラインに関する事項など年々進歩する内容を包括的に記載したものが多く出版されている。しかし、デバイスの植込み手技のみをテーマにした書籍は多くはない。「心臓デバイス植込み手技」はその一つで、2011年に出版された。その後、増刷もされており、このたびは内容も追加されて改訂第2版が出版された。この本の特徴は、手技に特化して記載されているということは語るまでもないが、実技に必要な本体・リードなどの材料、仕組み、構成に関して、豊富な写真と図によってそれらの特徴や構造を詳細に、かつわかりやすく記載されていることである。たとえばリードの種類には、いわゆるタインリード(passive fixation lead)とスクリューインリード(active fixation lead)があるが、その先端構造に関してなぜそのような構造になっているのかまで具体的に記載されている。とくに驚いたのは、タインリードの開発に1970年代に順天堂大学の中田八州郎先生、阿部 亮先生と東京医科歯科大学医療器材研究所の戸川達男先生、豊島 建先生たちが共同研究されていたとの記載があり、先人の知られざる歴史にも触れられた。さらに、スクリューインリードは、当初植込み早期のdislodgementを防ぐためのものであったが、留置が心臓内の構造に依存せず任意の場所にリードを固定できることを使ってAAIペーシングを1980年代に中田先生らが行われたとある。現在、心房、心房中隔のみでなく、右室中隔、右室流出路への右室リードの固定、さらには最近ではHis束ペーシングにも使われているスクリューインリードであるが、このような歴史があったことを知り、興味深く読ませていただいた。
写真が豊富にあると述べたが、右心耳や右室内腔からみた内部構造やリード固定された部位の写真も載せてある。心タンポナーデの発生部位として多い右室心尖部自由璧の菲薄化などの写真もあり、植込み手技を施行する際には、十分に慎重であるべき部位だと改めて悟った。
ポケットの作製は感染と最も関連する手技であり、デバイス植込みの際に合併症を予防する重要なポイントの一つであるが、本書では最も感染リスクが高くなるといわれるジェネレータ交換術時のポケット切開の位置から皮下剥離の方法までが具体的に書かれている。さらに、手技のみでなく、注意すべきポイントに関しても事細かく記載されている。現在でも論争となっている再手術時のカプセル除去に関しても、肯定論および否定論ともに書かれており、自施設での方針を決定する際の判断資料になると思われる。
皮下植込み型除細動器(S-ICD)やリードレスペースメーカーなどの最新機器の植込みの方法、注意点なども各エキスパートによって詳細に書かれている。
「心臓デバイス植込み手技 改訂第2版」を読んで、改めて本書が読まれ続けている理由を理解できたし、今後も心臓デバイス植込み手技のバイブルとなると感じた。
臨床雑誌内科122巻5号(2018年11月号)より転載
評者●医療法人社団 宇部興産中央病院 院長/山口大学名誉教授 清水昭彦
心臓デバイスの進歩は著しい。かつては右室刺激のペースメーカだけであった徐脈治療デバイスは、両心房、心室ペーシング、運動応答機能などを付加した生理的ペーシングが可能なデバイスになった。植込み型除細動器も小型化され、バックアップペーシング機能、両心室ペーシング機能が付加され、心室頻拍、心室細動を治療するのみならず、低心機能例では左室ペーシング補助による両心室ペーシングが可能となった。デバイス本体は年々小型化され、植込み術が容易になった。しかし、不適切なデバイス植込み手技によるデバイス感染は増加する一方である。
本書は、長年デバイス植込みにかかわってこられた石川先生、中島先生が20年以上にわたり蓄積されたデバイス植込みのtips and pitfallsをこと細かに執筆した。基礎編として、(1)手術手技の基本、(2)デバイス感染予防、(3)植込みに必要な解剖学的知識を詳述し、さらに植込み手技の実際として、(1)植込み手順、(2)リード挿入方法、(3)リード選択とその操作、(4)ICDとリードの選択、(5)リードの留置・固定・ポケット内処理、(6)シース・デリバリー・リードシステム、(7)ポケットの作成方法、(8)S-ICD、(9)リードレスペースメーカを解説し、そして第III章は、(1)術中チェック、(2)リード固定、収納、閉創、(3)術後管理、(4)ジェネレーター交換術、ポケットの処置、(5)合併症とtroubleshooting、(6)デバイス感染症とリード抜去からなる、基礎から合併症、トラブルシューティングまですべてを網羅した成書である。まさに心臓デバイス植込みのためのバイブルというべき書籍である。
初版の序文で石川先生、中島先生が述べておられたように、本書は「心臓デバイス植込み手技執筆グループ」として数名の先生の執筆で始まった心臓デバイス植込み手技のためのテキストであるが、これまでの類書で見受けられた「施設ごとの手技の紹介」にならないように執筆グループが内容を討議してまとめた標準的な手術手技の解説書である。
本書の刊行に先駆け、日本不整脈学会においてデバイス関連冬季大会が立ち上げられ、2011年の第3回日本不整脈学会デバイス関連冬季大会開催時に初版が企画、出版された。2018年2月の日本不整脈心電学会デバイス関連冬季大会第10回記念大会の会長を石川先生が務められたのを機会に、本書(改訂第2版)の出版にいたった。共著とせず、執筆グループとして討議を重ねて本書を改訂したことは例のない試みであり、初版以上に多くの読者に受け入れられることは必定と信じる。
心臓デバイスを扱う内科医、外科医の双方にとって最良の心臓デバイス植込み手技のための手引書ができたと喜んでいる。
胸部外科71巻13号(2018年12月号)より転載
評者●広島大学心臓血管外科教授 末田泰二郎