書籍

血管腫・血管奇形 臨床アトラス

編集 : 大原國章/神人正寿
ISBN : 978-4-524-25136-0
発行年月 : 2018年5月
判型 : B5
ページ数 : 260

在庫あり

定価9,900円(本体9,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

血管腫・血管奇形は、病型や病変部位、臓器障害の程度によって、外科的切除、硬化療法、レーザー治療、薬物療法などの治療法が選択される。新たな薬物療法としてβブロッカーが承認され、治療の選択肢も広がった。本書は、血管腫・血管奇形診療の基本知識から最新動向まで写真を多数掲載し解説した、皮膚科、小児科、形成外科、放射線科等の多くの診療科に役立つ一冊である。

 A.はじめに−ISSVA分類の変遷と現在の血管腫・血管奇形診療
 B.ISSVA分類と従来の皮膚科的な呼称の関連とその問題点
 C.血管腫・血管奇形診療ガイドライン
  ・わが国の研究班とガイドライン
  ・欧米のガイドライン
 D.薬物療法の実際
  ・ステロイド
  ・βブロッカー
  ・その他
 E.レーザー療法の実際
  ・Vビームレーザー
  ・その他
 F.手術療法の実際
 G.硬化療法・塞栓術の実際
 H.圧迫療法(compression therapy)の実際
 I.画像診断の実際
 J.病理診断の実際
各論
 A.Infantile hemangioma(乳児血管腫,いちご状血管腫)
 B.Congenital hemangioma(先天性血管腫)
  [Rapidly involuting congenital hemangioma(RICH:急速消褪型),Non-involuting congenital hemangioma(NICH:非消褪型),Partially involuting congenital hemangioma(PICH:部分消褪型)]
 C.Tufted angioma(房状細胞腫)
 D.その他の血管腫
  ・Spindle-cell hemangioma(紡錘型細胞血管腫)
  ・Epitheloid hemangioma(Angiolymphoid hyperplasia with eosinophilia)(類上皮型血管腫)
 E.Pyogenic granuloma(毛細血管拡張性肉芽腫)
 F.Kaposiform hemangioendothelioma(カポジ肉腫様血管内皮細胞腫)
 G.その他の血管内皮腫
  ・Retiform hemangioendothelioma(網状血管内皮細胞腫)
  ・Dabska tumor(Papillary intralymphatic angioendothelioma)
  (Dabska腫瘍,乳頭状リンパ管内血管内皮細胞腫)
  ・Composite hemangioendothelioma(複合型血管内皮細胞腫)
 H.Kaposi sarcoma,Pseudo-Kaposi sarcoma(カポジ肉腫,Pseudo-Kaposi肉腫)
 I.Angiosarcoma(血管肉腫)/Epithelioid angiosarcoma(類上皮型血管肉腫)/Epithelioid hemangioendothelioma(EHE:類上皮型血管内皮細胞腫)
 J.Kasabach-Merritt phenomenon(Kasabach-Merritt syndrome,カサバッハ・メリット現象)
 K.Capillary malformations(CM:毛細血管奇形)
 L.Venous malformations(VM:静脈奇形)
 M.Arteriovenous malformations(AVM:動静脈奇形)
 N.Lymphatic malformations(LM:リンパ管奇形)(嚢胞状リンパ管腫Macrocystic LM,海綿状リンパ管腫Microcystic LM,限局性リンパ管腫Lymphangioma circumscriptum)
 O.Primary lymphedema(原発性リンパ浮腫)
 P.Generalized lymphatic anomaly,LM in Gorham-Stout disease(リンパ管腫症,ゴーハム病)
 Q.Vascular malformations associated with other anomalies ,症候群,母斑症
  ISSVA分類に記載されているもの
   ・PHACES syndrome
   ・PELVIS /SACRAL /LUMBAR syndrome
   ・Capillary malformations-arteriovenous malformations(CM-AVM)syndrome
   ・Osler disease,Hereditary hemorrhagic telangiectasia(HHT:遺伝性出血性末梢血管拡張症)
   ・Cutis marmorata telangiectatica congenita(先天性血管拡張性大理石様皮斑),Adams-Oliver syndrome
   ・Blue rubber bleb nevus syndrome(青色ゴムまり様母斑症候群)
   ・Klippel-Trenaunay syndrome(KTS)
   ・Parkes Weber syndrome
   ・Servelle-Martorell syndrome
   ・Sturge-Weber syndrome
   ・Limb CM +congenital non-progressive limb hypertrophy
   ・Maffucci syndrome
   ・Macrocephaly /megalencephaly-capillary malformation(-polymicrogyria syndrome)(MCM/MCAP)
   ・Microcephaly-capillary malformation syndrome(MIC-CAP syndrome)
   ・CLOVES syndrome
   ・Proteus syndrome
   ・Bannayan-Riley-Ruvalcaba syndrome(BRRS)
  その他
   ・von Hippel Lindau disease;Hemangioblastomas
   ・Phakomatosis pigmentovascularis(色素血管母斑症)
   ・Ataxia telangiectasia(毛細血管拡張性運動失調症)
   ・Bonnet-Dechaume-Blanc syndrome(Wyburn-Mason syndrome)
   ・Bockenheimer syndrome(Diffuse genuine phlebectasia)
   ・Cobb syndrome
   ・その他血管奇形をきたしうる疾患
 R.Provisionally unclassified vascular anomalies
  ・Verrucous hemangioma(疣状血管腫)
  ・Angiokeratoma(被角血管腫)
  ・Multifocal lymphangioendotheliomatosis with thrombocytopenia/Cutaneovisceral angiomatosis with thrombocytopenia(MLT/CAT)
  ・Kaposiform lymphangiomatosis(KLA)
  ・PTEN(type)hamartoma of soft tissue /“angiomatosis”of soft tissue
 S.昔のISSVA分類にみられた病名
  ・Targetoid hemangioma(Hobnail hemangioma)
  ・Glomeruloid hemangioma
  ・Microvenular hemangioma
  ・Hemangioendotheliomas
 T.ISSVA分類に記載されていない皮膚の血管病変
  ・Senile angioma(老人性血管腫)
  ・Diffuse neonatal hemangiomatosis(血管腫症)
  ・Intravascular papillary endothelial hyperplasia(IPEH:血管内乳頭状内皮細胞増殖症)
  ・クモ状血管腫
  ・Cutaneous epithelioid angiomatous nodule(CEAN)
  ・Venous lake(静脈湖)
  ・Hemilateral nevoid telangiectasia
  ・Arteriovenous hemangioma
  ・Sinusoidal hemangioma
  ・Cirsoid aneurysm,Cirsoid angioma
  ・Angioma serpiginosum
  ・Eccrine angiomatous hamartoma(Sudoriparous angioma)
  ・Hemangiopericytoma(血管周皮腫,血管外皮細胞腫)
  ・Benign lymphangioendothelioma(Acquired progressive lymphangioma,良性リンパ管内皮細胞腫)
付録
 ISSVA分類(日本語訳)
 このアトラスで触れられていない希少な血管病変
索引

序文

 本書は“血管腫・血管奇形”についての、日本では初めての系統的な総説です。日本、あるいは海外でも、血管腫を論じた書籍が過去に存在しますが、疾患の羅列に終始した感が否めず、分類や診断の根拠に説得力が欠けていました。その理由としてはいくつかの要素があります。“血管腫・血管奇形”を扱う診療科が皮膚科、血管外科、形成外科、小児外科、放射線科、小児科、病理科、脳外科など多岐にわたり、それぞれものの考え方が違うこと。そして、各専門領域によって診療する疾患の種類や重症度にかたよりがあること。その結果として、治療方針も領域ごとの特性があること。そして診断の根拠も、臨床形態、臨床経過、病理所見、血流動態、画像所見などのうちで、どれを重視するか、あるいはどの組み合わせを用いるかが統一されていないこと。このような事情により、“百家争鳴”あるいは“船頭多くして船山に登る”がごとき状況が続いていました。
 その混沌を打開する動きが、International Society for the Study of Vascular Anomalies(ISSVA:国際血管奇形研究学会)によって始まり、それを受けて国内でも“血管腫・血管奇形診療ガイドライン2013”が作成されました。このガイドラインは厚生労働省の難治性疾患克服研究事業として作成されたために、動静脈奇形や静脈奇形、骨軟部の合併症を含む大型で難治性の病態が主な対象でした。残念ながら皮膚科はこのような動きから取り残されていたのですが、日本皮膚科学会としてもこの事業に参画することとなり、“血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017”作成の一助を担うようになったのです(本書総論C参照)。
 本書はこのような時流の中で企画され、できるだけ多くの疾患を網羅することを目指しました。内容に最新の遺伝子研究も含まれているのは、この分野の発展によって疾患分類の再編成の可能性も見据えているからです。
 取り上げている疾患には頻度の多いものから希少疾患までも含まれていますので、現時点における血管腫・血管奇形のほとんどすべてが理解できる内容と自負しています。しかし、その一方でページ数の制限により、叙述が物足りないと感じられる部分があるかもしれませんし、本書に記載のない新しい治療法が開発されることも予想されます。それらについては、今後の改訂の課題とさせていただきます。
 本書が皮膚科医のみならず、血管腫・血管奇形を診療するすべての関係者の役に立つことを願っていますし、それによって患者さんたちの安寧が得られることが目標です。

2018年5月
大原國章
神人正寿

 血管腫・血管奇形は、乳児から高齢者まで幅広い年齢層に生じる疾患で、日常診療においても形成外科・皮膚科・小児科・小児外科を中心に、さまざまな診療科で比較的目にする機会があるものと思われる。
 その病変は多彩な形態を呈し、呼称についても「いちご状血管腫」や「海綿状血管腫」など、臨床像や生じた背景から命名されたものが慣例的に細かく使用されたり、総じて「血管腫」としてまとめられたりと、あまり統一感のない状態で扱われてきた。
 そのようななか、呼称を「腫瘍」と「奇形」の大きく2つの病態に分けて再編成するISSVA分類が報告され、疾患全体を体系化・系統化しようとする流れが国際的に生じた。
 本邦でもその流れを踏まえ、呼称を「血管腫」と「血管奇形」に改めたり、2009年度からは難治性疾患の研究班事業も発足した。2013年には診療ガイドラインの初版が制定され、2017年にはその規模や関連診療科を拡大した改訂版が発行されるなど、体系化・系統化の動きが著しい。
 その一方、診療に携わる診療科や体制、治療手段は施設間で大きく異なり、そうした体系化の浸透が今もってそれほど進んでいない印象もある。ともすれば扱いづらい疾患として敬遠されたり、適切な診断や治療が施行されずに状況を難しくしている場合も見受けられる。
 そこで、疾患全体の考え方や診療像、治療法をわかりやすく系統的に網羅した書籍の存在は、本邦の血管腫・血管奇形診療の底上げと適正化に非常に重要な要素となる。本書はその大きな役割を果たしうる、ほかに類をみない貴重な書籍と考えられる。
 総論として、呼称から本邦での歴史、診断から内科的・外科的治療法まで、さまざまな領域をしっかりとした文量で余すことなく記載しており、書籍では難しい最新の知見も多く含まれている。各論においては、各々の疾患に対する掘り下げた記載のみならず、まれな疾患や症候群にいたるまでの多岐にわたる疾患について、ISSVA分類に基づき、わかりやすく系統的に細部にわたり行き届いた情報提供がなされている。
 この一冊ですべてを網羅しているといっても過言ではないが、特筆すべきはアトラスとしての臨床写真や病理写真の多さで、日頃あまり血管腫・血管奇形に触れることのない内科をはじめとするプライマリケア医にも学びやすい形態となっている。そうした臨床・病理写真は、定型的な疾患のみならず稀少疾患の一つ一つにまで提示されており、本書を唯一無二のものへと押し上げるとともに、この領域を専門とする医師にとっても非常に貴重な資料になっている。ただし、血管奇形の診断に非常に重要な役割を担う超音波やCT、MRIといった画像所見については、書籍としてのvolumeの関係から、まとめた記載に留まる。もっとも、これから血管奇形を学ぶ者にとっては、本書でのまとまった記載のほうが理解しやすいのかもしれず、実臨床経験への大きな足がかりになる。
 このような貴重な書籍の誕生を可能にしたのは、本邦の皮膚外科分野を長きにわたり開拓し牽引してきた大原國章先生の膨大な経験と幅広い見識、携わり育てた多くの貴重な人材によるものと思われ、改めてその多大な功績と志に心からの敬意を表したい。
 総じて、本書は血管奇形に携わるすべての臨床医にとって、バイブルになりうる名著で、この領域の専門医のみならず、内科などのプライマリケア医にとっても、幅広い血管腫・血管奇形への見識を深めるための大きな礎になる書籍である。多くの臨床現場での長きにわたる活用と、本領域へのさらなる理解ならびに発展を期待したい。

臨床雑誌内科123巻3号(2019年3月号)より転載
評者●順天堂大学医学部附属浦安病院形成外科・再建外科教授 林礼人

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