ナースの“困った!”にこたえる こちら臨床倫理相談室
患者さんが納得できる最善とは
編集 | : 稲葉一人/板井孝壱郎/濱口恵子 |
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ISBN | : 978-4-524-25117-9 |
発行年月 | : 2017年12月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 240 |
在庫
定価3,300円(本体3,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
雑誌『がん看護』で大好評いただいた特集を書籍化。臨床で看護師が悩ましく思う看護場面をあげ、看護師からの疑問・相談に応えるかたちで臨床倫理の専門家が考え方を解説。法的、倫理的のそれぞれの観点から読者に直接語りかけるような語調で展開しているため、レクチャーを受けているような感覚で読み進められる。日々の業務でジレンマを抱えている看護師、患者・家族や多職種との対話を担う看護師必携の一冊。
はじめに
第1部 倫理カンファレンスのしかた〜現場レベルで臨床倫理を構築する〜
1.倫理カンファレンス開催時のコツ 〜院外から見た立場から〜
2.倫理カンファレンス開催時のコツ 〜院内から見た立場から〜
3.現場のカンファレンスのコツと工夫 〜医師の立場から〜
4.現場のカンファレンスのコツと工夫 〜看護師の立場から〜
5.どのようにコンサルタントに入ってもらい,どのようにカンファレンスをコーディネートするのか 〜院内コンサルタントの場合〜
6.どのようにコンサルタントに入ってもらい,どのようにカンファレンスをコーディネートするのか 〜外部(院外)コンサルタントの場合〜
第2部 情報提供・意思決定支援に焦点を当てて〜SPIKESに沿った確定診断・病名・病状説明の考え方〜
1.SPIKESに沿った意思決定支援のプロセス
2.情報を誰に知らせるのか 〜患者さんが家族への説明を拒否した場合〜
Q1.患者さんから「家族に言わないで」と言われた場合,どのようにかかわればよいのでしょうか
Q2.患者さんから「身寄りはないのでほかに連絡する必要はない」と言われた場合,どのようにかかわればよいのでしょうか
3.情報を誰に知らせるのか 〜家族が患者さんへの説明を拒否した場合〜
Q1.病状説明の日程を調整していたら,家族から「本人には,言わないで欲しい」または「本人に情報の“一部”だけを伝えて“一部”は伝えないで欲しい」と言われた場合は,どうすればよいのでしょうか
4.患者さんの現状認識の把握が難しい場合の対応,および知りたい気持ち,知りたくない気持ちへの対応 〜患者さんの病気の理解と情報に対する気持ちへの対応〜
Q1.患者さんが自分の状況をどのように理解しているのかを把握するにはどうすればよいのでしょうか
Q2.患者さんから「自分は知りたくない」と言われた場合,どうすればよいのでしょうか
Q3.患者さんから「自分はすべてのことを知りたい」と言われた場合,どうすればよいのでしょうか
Q4.患者さんから「わからない」と言われた場合,どうすればよいのでしょうか
5.患者さんの意向に沿った説明内容と方法,説明義務の範囲 〜看護師・薬剤師らとして患者さんに説明する場合〜
Q1.患者さんの心情に配慮しつつ,看護師らがどのようにかかわればよいのでしょうか
6.患者さんからの要望に対してどこまで配慮するか 〜患者さんから無謀ともいえるような要望が出てきた場合〜
Q1.患者さんから,治療拒否や過剰治療・根拠のない治療,希望を求められた場合にはどうすればよいのでしょうか
7.診療拒否・辞退 〜今後の診療が困難な場合〜
Q1.診療拒否・辞退をすること(診療契約を結ばないこと)は病院として,医療者として可能ですか
8.認知症の人への倫理的な対応 〜意思決定能力の程度にかかわらず,認知症の人は,診療が困難と判断されやすい.そこで認知症の人への倫理的対応について考えてみよう〜
第3部 終末期に焦点を当てて
[総論]
1.【法的観点からのレクチャー(1)】終末期における法・判例・ガイドライン〜まず知ったほうがよいこと〜
2.【法的観点からのレクチャー(2)】終末期を考えるうえで重要な基本概念
3.【倫理的観点からのレクチャー】終末期を考えるうえで大切な「事前指示」の概念〜よりよいアドバンス・ケア・プランニングのために〜
[各論]
●終末期のがん患者における倫理的問題
4.事前意思の確認
Q1.患者の事前意思の確認・今後の見通し(予後も含めて)について話し合う
Q2.事前指示の確認事項
Q3.身辺整理ができないことでの不利益:法的根拠
Q4.事前指示の法的根拠
Q5.意思決定能力・対応能力の判定基準
5.代理人
Q1.代理人について患者と話し合う
Q2.代理人の役割
Q3.代理人が決められておらず,家族間の意見が異なるときの対応
6.苦痛緩和のためのセデーション(鎮静)
Q1.セデーションに関して話し合う
Q2.セデーション開始の判断(セデーションの適応・開始時期)
Q3.セデーションに関する意向が患者と家族と異なるとき
Q4.セデーション中止の判断:苦痛が再燃するのではないかというおそれ
7.DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)
Q1.患者・家族とDNARについて話し合う
Q2.DNAR患者の看取りのケア
8.死亡時の対応
Q1.DNAR患者の家族がいないときの対応
Q2.DNARではない患者の看取りのケア
資料:終末期における倫理的問題の概要
索引
はじめに
本書のねらい
本書のねらいを説明するためには、編集会議での議論を紹介することが適切と思います。企画に当たった3名(稲葉、板井、濱口)は、いずれも、雑誌『がん看護』において、特集「困ったときの倫理コンサルテーション 〜SPIKESに沿って」(2012年)、特集「困ったときの倫理コンサルテーションII .終末期に焦点を当てて」(2015年)の共同執筆者で、この成果を活かして出版を企画しました。当初の企画は、成果をいかに活かすかが中心でしたが、この際、がんを中心としながらも、がんにとどまらず、臨床での倫理的対話を援助できるような新しい単行本を世に出したいという考えにいたりました。しかも、看護師だけでなく、多くの医療関係者に手に取ってもらいたいと期待は膨らみました。
しかし、その後の編集会議では、やはり、「比較的若手(5〜10年)」の看護師を倫理的な対話の担い手に位置づけ、患者・家族とのやりとりや倫理的調整(発案、場の設定、調整、まとめや、現場への還元)の役割を持つ人を中心として本書をささげたいという現実的な考えに「変遷」していきました。
このような編集方針は、現実の臨床についての次のような事実認識と期待に由来します。
1。臨床では、倫理的な問題に困りながら、これを声に出せていないし、対話もできていない。その原因としては、倫理問題の気づきができていない、できても問題を的確に表現できない、倫理的な対話が成立しにくいという、いくつかのレベルが考えられる。
2。倫理問題について対話の場を設定することが難しい。時に看護師だけでの対話の場は設定できても、医師を巻き込んでの場の設定や倫理的対話の進行が難しい。医師からの倫理問題についての話題提供はほとんどない。
3。臨床では多くの大小のカンファレンスがあるが、倫理的なカンファレンスとそれ以外のカンファレンスが、どう違いどう同じかがわからない。答えを求める圧力がかかるなか、あれでもないこれでもないとカンファレンスができない。
4。なによりも、「倫理コンサルテーション」チームや、臨床倫理委員会は現実にはすべての病院には存在しないし、それがあったとしても、高見の存在で、現場を支えるというには程遠い。
5。以上の現状を打開するためには、当面、やはり、倫理的問題に直面し気づくことの多い、現場の少し経験を持った看護師[CNS(certified nurse specialist:専門看護師)はもちろん、ジェネラリストも]にぜひ活躍してもらう必要がある。
そのうえで、次のような表を示しましょう(次頁)。
米国では、3階の倫理コンサルテーションチーム(この内容の詳細は本文中で明確となりますが、臨床の医療チームではないが、病院のなかでのチームからの倫理的な問いに応えるしくみのことを指します)の創設や活動が先行しました。そのため、日本でも倫理コンサルテーションを推し進めようという動きがありました(2000〜2010年ころ)。しかし、臨床での倫理的活動の実態を考えると、そのような病院レベルでの倫理的な活動だけではなく、それ以外、たとえば、1階の、各医療者や看護師チームだけでできる倫理的な配慮もあるし、また、2階の、医師を含めたカンファレンスを開き、チームとして倫理的な対処を考えるというレベルもあり、これらはいずれも大切であり、むしろこれらが有機的・重畳的に行われることが望ましいと考えられます。3階が強過ぎると、どうしても現場での「粘り」「配慮」が疎かになる傾向が出ますし、3階が確保されていることで、臨床が「支えられる」ことにもなるのです。したがって、私たちは、2階こそが本丸と考えています。
そのうえで、本書の構成を示します。
第1部は、本書を制作するにあたり、新しく執筆されたところです。
執筆者は、いずれも医師、看護師、倫理学者、法律家と、立場や職種は異なりますが、現実に臨床倫理的対話を実践している面々です。編集者からは、これらの方々に書いていただきたい項目や方向(無理難題)をお示ししました。第1部を縦横に読むことで、倫理的対話とはどういうことで、院内外の人の役割、医師・看護師などそれぞれの職種の役割や分担、考え方の違い、さらに、それを踏まえての倫理カンファレンスの設営上の注意点やヒントがわかります。医師の立場からの執筆項目では、「このようなことに注意すると、医師と対話ができる」といったほかの場面でも使えるコツが示されています。
現実の臨床は、リソースや病院の機能・文化が異なるなかで多様であって、そのなかで、できることはなにか、優先順位などを考えるにあたり、失敗したこと、成功したことが語られています。
第2部は、倫理的対話の大きな目的は、患者(家族)を中心に置き本人の意思決定を支援することでもあることから、本書の重要な部分です。意思決定の支援は、情報の提供や医療者-患者間の対話の量と質に依存していますので、この観点から、がん患者の支援モデルであるSPIKESに沿って倫理的な支援方法が説明されています。
第3部は、終末期という場面に焦点を置いて記述されています。総論では、法的・倫理的な視点が整理して記述されており、各論では、臨床で現実にしばしば起こる論点に絞って、記述が進められています。
本書の射程 がんと非がん、慢性期と急性期
本書は、雑誌『がん看護』の特集をベースとしているという経緯からも、がんの患者さんを念頭に置いています。しかし、一口でがんの患者さんといっても、実は疾患部位、ステージによって極めて多様な病態を示しますが、おおむね「患者さんの意思決定能力が保たれている場合」が多く、「治療などの選択肢がある場合」が多い、「予後予測が可能である場合」が多いということ(これだけではない)を特色として、だからこそ、このような特色を踏まえて、SPIKESという意思決定支援のステップ・アプローチが考案され、がん患者の意思決定支援が他の分野に先駆けて検討されてきたのだと推測されます。
しかし、がん患者というカテゴリーでも、初期・治療期と、終末期・臨死期では、予後に対する配慮の違いもあり、本人の意思決定能力の程度などには、グラデーションがあり、選択肢の少ないがん患者の事例や、予後予測が簡単でない事例もあります。
また、現実の臨床では、非がん患者においても数多くの、定型的・非定型的な倫理問題を提起しています。
特に、意思決定能力に疑義がある、認知症患者さんへの意思決定支援ないし自律尊重原則を踏まえた倫理的なかかわりは、典型的ながんとは異なった問題が伏在しています。
当然、がん患者さんで認知症の患者という方々も多くなり、がんの治療が、本人に告知→本人が決定というパターンではない場合、すなわち、本人の意思決定能力が減弱→家族に説明→家族が決定というコースがより多くなり(家族すらいらっしゃらない方もいます)、家族の権限や本人の意思の推定がクローズアップされる事例も数多くあります。
また、がんの大半は急性期ではありませんが、急性期医療では、本人の意思が不明であり、さらに家族の意思を確認することができない場面など、上記のがんに特徴的と考えられてきた場合と違いが目立ちます。
では、がんと非がん、慢性期と急性期では、倫理的な対応に違いがあるのでしょうか。あるいは、参照される倫理原則に違いがあるのでしょうか。
それは、「YES」であり、「NO」と答えることになります。
まず、参照される倫理原則には違いはないということです。倫理原則はユニバーサルということです。しかし、倫理的な具体的な対応には違いはあるということです。倫理的配慮の表れは、ローカルです。
そのために、本書は典型的には、がん患者さんの対応を念頭に置いて書かれていますが、少なくとも、倫理的な分析ないし法的な指摘は、がんと非がん、慢性期と急性期で違いはありません。ただ、個々の倫理的対応は、がんと非がんとでは、あるいは、慢性期と急性期とでは違いが出ると思われるので、この点は各質問の後に違いがある場合にはそこで言及されます。
ということで、本書は、がんだけではなく、非がんにも、慢性期だけではなく、急性期にも、個々の臨床で出てくるどのような倫理的な問題にも、適切な示唆を持つと考えています。
2017年12月
編集者を代表して 稲葉一人