認知症サポート医・認知症初期集中支援チームのための認知症診療ハンドブック
監修 | : 鳥羽研二 |
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編集 | : 櫻井孝/服部英幸/武田章敬/佐治直樹 |
ISBN | : 978-4-524-24963-3 |
発行年月 | : 2021年4月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 192 |
在庫
定価4,730円(本体4,300円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
認知症サポート医および認知症初期集中支援チームの養成研修を担う,国立長寿医療研究センターのスタッフにより作られた“地域の認知症診療・ケアを支える医療者のためのハンドブック”.単なる診療マニュアルではなく,養成研修の内容やチーム医療の在り方,家族へのケアまで,多職種で地域医療を支援するためのノウハウがふんだんに盛り込まれている.認知症患者に関わるすべての医療者必携の“みんなで認知症を診る”ための一冊.
目次
第T章 認知症サポート医・認知症初期集中支援チームに求められること
A.認知症施策推進大綱に基づく認知症施策の推進
B.認知症サポート医
1.認知症サポート医の役割
2.こうして行われる! 認知症サポート医養成研修
C.認知症初期集中支援チーム
1.認知症初期集中支援チームの役割
2.認知症初期集中支援チームに入ろう! 〜研修の実際〜
第U章 実践! 認知症の包括的診療
A.国立長寿医療研究センターの包括的認知症診療〜one stop service のメリット〜
B.認知症を捉える
1.認知症診断の基本的な進め方と診断カンファレンス
2.病歴聴取を体系的に行う
3.高齢者総合機能評価を活用しよう
4.検査のポイントを押さえよう
a)認知機能検査
b)脳画像検査〜アミロイド・タウイメージングを含めて〜
c)正常圧水頭症の検査
[Column]期待される血液バイオマーカー
C.軽度認知障害(MCI)への対応〜対応方針と薬物・非薬物療法の可能性〜
D.認知症を治療する
1.薬物療法
a)各種薬剤の特徴を理解する
b)薬物療法の実際〜認知症サポート医はどこまで行うかを含めて〜
c)新薬の治験〜患者さん・ご家族にどのように伝えるか〜
[Column]オレンジレジストリ〜日本中をつなぐ情報登録システム〜
2.非薬物療法〜生活機能を維持するために〜
a)脳・身体賦活リハビリテーション〜外来と病棟での取り組み〜
b)音楽療法
[Column]認知症と運動:コグニサイズ
3.合併症への対応
a)循環器疾患
b)糖尿病とMCI
4.身体合併症・フレイルへの対応
[Column]認知症とフレイル:コグニティブ・フレイル
5.BPSD への対処〜発生原因から考える予防と初期対応〜
6.認知症専門病棟での治療〜一般病院で認知症の身体疾患をみていくためには〜
7.認知症サポートチーム(DST)の研修
[Column]認知症と栄養
E.患者さん・ご家族のケア
1.患者さんのケア
2.ご家族のケア
3.地域連携でできるケアの実践
[Column]患者さんとご家族を支えるロボットたち
F.データベースの構築と活用
1.バイオバンクへの登録
2.データベースの活用
G.人材育成
1.医師の研修
2.看護師・病棟ラダー・DCM マッピング研修
第V章 多職種でチームを作ろう〜病院で診る認知症の実際〜
A.認知症対応多職種チームって何だろう〜いつ,誰が,何をするの?〜
B.それぞれの立場から見てみると
1.医師の立場から
2.看護師の立場から
3.薬剤師の立場から
4.精神保健福祉士の立場から
5.公認心理師の立場から
6.理学療法士・作業療法士の立場から
7.臨床試験コーディネーター(CRC)の立場から
8.受付事務の立場から
C.ご家族も多職種チームのメンバー
1.相談を通じた治療・ケアへの参画
2.家族介護者の学びあいを通じた治療・ケアへの参画:家族教室
3.認知症高齢者の家族介護:不適切処遇と介護負担
[Column]家族教室への参加
索引
序文
認知症の診療は10 年間で大きく変貌した.10 年前には認知症の人を入院させると,病棟スタッフから強い反発を浴びることもあった.一部の医師においては認知症が専門外であること
を理由に診察を避けることもあった.2012 年に発表された認知症施策推進5 か年計画(オレンジプラン),および2015 年の認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)は,認知症に対する総
合的な計画として,わが国の認知症診療に大きなインパクトを与えた.医療と介護が連携して,認知症の人を地域で支えるという考え方が定着した.2019 年には認知症施策推進大綱が取りま
とめられ,認知症の共生と予防が,今後の取り組むべき方針として明記されている.
認知症サポート医は地域の認知症診療のアドバイザーとしての役割が期待され,2005 年からサポート医養成研修が始まった.しかし,当初はサポート医の役割はなかなか理解されなかっ
た.2015 年に認知症初期集中支援チームの活動が始まり,サポート医はチームの構成員として位置づけられた.2016 年の診療報酬改定で「認知症ケア加算」が創設され,認知症の人が入院
し,多職種から成る認知症ケアチームが介入すると加算が認められた.「認知症ケア加算」にかかわる医師の要件としても,認知症サポート医養成研修が認められた.認知症サポート医は10
年の雌伏を経て,社会的にも広く認知されるようになった.
また,全国に約500 ヵ所の認知症疾患医療センターが整備され,認知症診療の拠点となっている.国立長寿医療研究センターでは,2010 年にもの忘れ外来を改組し,もの忘れ外来,専門
病棟から成る「もの忘れセンター」を稼働している.年間1,000 名を超える初診患者が受診され,認知症疾患医療センターのモデルとなるべく,包括的な認知症診療を目指して新しい取り組み
を実践している.認知症サポート医の研修,認知症サポートチーム(DST),家族教室,認知症リハビリテーション,認知症予防プログラム,多職種の人材育成などである.本書では,認知
症サポート医養成研修のみならず,私どもが行ってきた取り組みを紹介する.認知症診療は専門医だけで達成できるものではなく,多くの診療科,多職種との協働が必須である.老年内科,
脳神経内科,精神科,リハビリテーション科,脳神経外科,循環器内科,代謝内科などの多くの診療科医師,看護師,薬剤師,心理士,社会福祉士,栄養士,セラピスト,事務職等の多職
種の活動をもとに,様々な診断後支援を実践している.本書では,多くの専門職にも執筆していただき,業務の工夫点を書いていただいた.本書が認知症疾患の診療にかかわる多くの専門
職のヒントとなり,予防から看取りまでを見据えた認知症の包括的診療につながることを期待したい.
2021 年3 月
国立長寿医療研究センター もの忘れセンター長
櫻井 孝
認知症の有病率は加齢とともに増加し,90歳以上では6割を超える.したがって,長寿になれば誰もが認知症になる可能性がある.認知症の前段階として軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)が位置づけられているが,MCIの人がすべて認知症になるわけではなく,認知症への移行率は年間5〜15%,逆に正常に戻る人の割合は16%以上との報告もある.すなわち,MCI の人は認知症になるより正常に戻る割合が高いということになる.したがって,認知症の予防は大事であり,このことが認知症施策推進大綱に柱としてあげられている.
認知症の診断や治療についてはまだまだ未確立な部分が多い.認知症の半分はAlzheimer 病といわれているが,最近のバイオマーカー検査の進歩に伴い(本文p76〜77),従来Alzheimer 病と考えられていたもののなかにはアミロイドの沈着を伴わない進行が緩徐なタイプの認知症(suspected non‒Alzheimer’s disease pathophysiology:SNAP)がかなりの割合で存在することがわかってきた.そもそもAlzheimer病に対するコリンエステラーゼ阻害薬やmemantineは進行防止薬であり,服用しても認知症は進行する.ましてやSNAPや他のタイプの認知症であれば進行防止のための有効な治療薬はなく,基本的に病気と上手に付き合っていくしかない.認知症施策推進大綱のスローガンの一つに「共生」があげられているのはそのような背景もある.したがって,認知症の人への対応は薬物療法ではまったく不十分である.むしろソーシャルワーカーやケアマネジャー,介護職,行政など認知症の人の生活を支援する立場の職種の関わりが重要である.そして,認知症の人が住み慣れた土地で長く生活していくためには,本人の視点,家族の視点に立った支えが必要である.そのために重要なのが認知症サポート医や認知症初期集中支援チーム員による認知症サポートチームであり,地域資源(デイサービス,デイケア,オレンジカフェ,ホームヘルプサービスなど)の有効活用である.
このような認知症の人を支える仕組みは各地域で異なるはずであり,これを一から準備するにはかなりの労力と時間が必要である.そこで有用になるのが本書である.世間には認知症の診断や薬物療法のことが書かれた医学書は多数存在するが,非薬物的な介入方法,本人と家族を支える方法のことまで記載した成書は少ない.その意味で本書の利用価値は高い.ぜひ本書を参考に,地域でさまざまな職種がつながって認知症の共生と予防を進めていただきたい.
臨床雑誌内科129巻1号(2022年1月号)より転載
評者●杏林大学医学部高齢医学 教授 神ア恒一