不整脈診療ロジック×プラクティス
編集 | : 加藤武史/松尾征一郎 |
---|---|
ISBN | : 978-4-524-24894-0 |
発行年月 | : 2020年8月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 392 |
在庫
定価11,000円(本体10,000円 + 税)
正誤表
-
2023年01月27日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
不整脈の病態理解や診療におけるロジック(なぜそうなるのか?そうすべきなのか?)とプラクティス(それを踏まえてどう診療を実践していくか?)をわかりやすく凝縮。“いま”知っておくべき「必修!不整脈エビデンス」をはじめとして、かゆいところに手が届く「用語解説」や、実践に役立つ「匠のコツ」などが満載。不整脈医を志す後期専攻医・若手医師にとって、真に必要な不整脈診療に関する知識・技術をまとめた“新世代のテキスト”となっている。
総論
I 心臓電気生理学的検査(EPS)の基本
1 EPSに必要な機材とスタッフ
1 カテーテル室の準備・配置はどうするか
2 必要な人員は
3 記録解析装置
4 電気刺激装置
5 心腔内除細動装置
6 高周波心房中隔穿刺装置
7 高周波通電装置
8 バルーンアブレーション用装置
2 電極カテーテルの挿入・留置法
1 穿刺方法
2 電極カテーテルの留置方法
3 刺激装置の使い方とプログラム刺激法
1 刺激装置の使い方
2 プログラム刺激法
3 不整脈の誘発に用いる薬剤
4 心内心電図の基本的な読み方
1 単極/双極(unipolar/bipolar)電位とは
2 正常洞調律の心内心電図と房室伝導時間の測定
3 心房期外刺激による不応期の測定
4 心室期外刺激による不応期の測定
5 double potentialやfragmented electrogramとは
5 エントレインメントペーシング・リセット現象
1 不整脈の発生機序
2 リセットとは
3 エントレインメントとは
6 3Dマッピングシステムの使い方
1 3Dマッピングシステムにより得られる情報とは
2 CARTO3の特徴
3 EnSitePrecisionの特徴
4 RHYTHMIAの特徴
5 各システムの長所・短所
II カテーテルアブレーションの基本
1 アブレーションに用いるカテーテルと原理
1 エネルギー源
2 アブレーションカテーテルの種類と特徴
3 カテーテルアブレーションで押さえておくべき指標
2 心房中隔穿刺:Brockenbrough法
1 用意する道具
2 手技の手順
3 複数本のシースを左房に入れる手順
3 心外膜アプローチ法
1 心外膜アプローチの適応
2 剣状突起下穿刺法による心外膜腔へのアプローチ法
3 生じうる合併症とその予防法・対処法
4 鎮静法
1 カテーテルアブレーションにおける鎮静の重要性
2 鎮静・麻酔時のモニタリング
3 呼吸・気道管理の実際
5 合併症とその対応:診断,心嚢穿刺法とそのタイミング
1 心タンポナーデ
2 塞栓症
3 穿刺部合併症
4 肺静脈狭窄
5 胃食道合併症
6 横隔神経麻痺
III デバイス治療の基本
1 ペースメーカ
1 ペースメーカの適応
2 ペースメーカの構成
3 ペーシングとセンシングの基本
4 ペーシングに関与する細かな設定
5 ペースメーカの便利な機能
6 トラブルへの対応
7 センシング異常に関連した用語の解説
8 His束ペーシング
9 リードレスペースメーカ
2 植込み型除細動器(ICD)
1 ICDとは:原理と有効性
2 ICDの設定
3 ICD使用時の注意点
4 S-ICDの適応とスクリーニング検査
3 着用型自動除細動器(WCD)
1 WCDとは
2 WCDの概要
3 WCDを使用する病態
4 WCDの有効性
5 WCD使用の注意点
6 WCDの課題
4 心臓再同期療法(CRT)
1 CRTとは
2 CRTの適応
3 ノンレスポンダーの原因と対策
4 CRTと不整脈
5 CRT機器での新しい機能
6 フォローアップ時の注意点
5 デバイス手術の実際
1 ペースメーカ,ICD,CRT-Dの手術法
2 リード抜去の適応と手術法
3 リードレスペースメーカ
4 完全皮下植込み型除細動器(S-ICD)
6 デバイス植込み後のフォローアップ
1 デバイスフォローアップとは
2 デバイスクリニック(デバイス外来)
3 トラブルシューティングの実際
4 ICD
5 CRT
6 S-ICD
7 リードレスペースメーカ
8 遠隔モニタリング
各論
IV 上室頻拍
1 上室頻拍とはどんなものか,どう診断するか
1 上室頻拍とは
2 上室頻拍の症状
3 12 誘導心電図の特徴
4 アデノシン三リン酸(ATP)に対する反応
5 心室頻拍との鑑別
2 治療戦略のロジック
3 薬物療法の実際
1 院内における頻拍発作時の薬物治療
2 院外における上室頻拍の薬物治療
4 EPS,カテーテルアブレーションの実際
1 房室結節リエントリー性頻拍,房室回帰性頻拍(WPW症候群)
2 心房頻拍,心房粗動
V 心房細動
1 心房細動とはどんなものか
1 心房細動とは
2 心房細動で何が悪い?
3 疫学
4 分類
2 診断のロジック
3 治療戦略のロジック
ステップ1 心房細動の原因を考える
ステップ2 抗凝固療法の適応を評価する
ステップ3 洞調律維持あるいは心拍数調節を選択する
4 抗凝固療法の実際
1 現在使用可能な5種類の抗凝固薬
2 ワルファリンとDOACの使い分け
3 DOACの選び方と使い方
5 薬物療法の実際
1 リズムコントロールの実際
2 レートコントロールの実際
6 カテーテルアブレーションの基本松尾征一郎
1 心房細動カテーテルアブレーションとは
2 心房細動カテーテルアブレーション周術期の準備・対応
7 カテーテルアブレーションの実際
1 高周波による心房細動アブレーション
2 バルーンアブレーション
VI 特発性心室頻拍・期外収縮
1 特発性心室頻拍・期外収縮とはどんなものか,どう診断するか
1 特発性心室頻拍・期外収縮とは
2 分類
3 診断の要点
4 メカニズム
5 12誘導心電図による起源の特定
2 治療の実際:薬物療法,カテーテルアブレーション
1 治療戦略のロジック
2 薬物療法の実際
3 カテーテルアブレーションの適応
4 カテーテルアブレーションの実際
VII 器質的心疾患に伴う心室頻拍
1 器質的心疾患に伴う心室頻拍とはどんなものか
1 分類と症状
2 診断のロジック
1 原因検索の進め方
2 心電図診断
3 治療戦略のロジック
1 VT発作時の対応
2 停止後の再発防止
3 植込み型除細動器(ICD)の考え方
4 カテーテルアブレーションの実際
1 器質的心疾患に伴うVTのメカニズム
2 カテーテルアブレーションの術前検査
3 術中鎮静
4 VT誘発のプログラム刺激
5 VTのマッピング法のロジックとプラクティス
6 カテーテルアブレーション(焼灼法)
7 VTアブレーションのエンドポイント
8 VTアブレーションの合併症・予後
9 高周波アブレーション以外の侵襲的な治療法
VIII Brugada症候群,早期再分極症候群
A Brugada症候群
1 Brugada症候群とはどんなものか,どう診断するか
1 Brugada症候群とは
2 疫学
3 心電図
4 診断
5 原因
6 症状
7 検査
8 診断のコツ
9 遺伝子変異
10 病因
11 鑑別疾患
2 治療の実際
1 ICD適応のロジック(リスクの層別化)
2 薬物療法の実際
3 カテーテルアブレーションの実際
4 生活指導の実際
B 早期再分極症候群
1 早期再分極症候群とはどんなものか,どう診断するか
1 早期再分極症候群とは
2 疫学
3 分類
4 診断
5 心電図
6 症状
7 メカニズム
8 遺伝子変異
9 鑑別疾患
2 治療の実際
1 ICD適応のロジック(リスクの層別化)
2 薬物療法の実際
3 カテーテルアブレーションの実際
4 生活指導
IX QT延長・短縮症候群
A QT延長症候群
1 QT延長症候群とはどんなものか,どう診断するか
1 分類と疫学
2 臨床症状
3 心電図の特徴
4 先天性LQTSの診断
5 二次性LQTSの診断
2 治療戦略のロジック
1 先天性LQTSの自然歴と心イベントを予測するリスク因子
2 先天性LQTSの治療とその適応
3 先天性LQTSの治療後の予後
4 二次性LQTSの治療
3 薬物療法の実際
1 急性期治療
2 β遮断薬とNaチャネル遮断薬
B QT短縮症候群
1 QT短縮症候群とはどんなものか,どう診断するか
1 疫学と原因遺伝子
2 臨床症状
3 心電図
4 診断
2 治療戦略のロジック
1 ICD治療
2 薬物療法
X 徐脈性不整脈
A 徐脈性不整脈とはどんなものか
B 洞不全症候群
1 洞不全症候群とはどんなものか,どう診断するか
1 分類と症状
2 診断,心電図
2 治療の実際
1 洞不全症候群に対するペースメーカ治療
2 徐脈頻脈症候群の治療
3 変時性応答不全の治療
4 洞不全症候群に対する薬物治療
3 EPSの実際
1 overdrive suppression testと洞結節回復時間
C 房室ブロック
1 房室ブロックとはどんなものか,どう診断するか
1 心電図の特徴
2 診断に必要な検査
2 治療の実際
3 EPSの実際
1 His束電位図
2 漸増性心房ペーシング法
3 薬物負荷試験
D 徐脈性心房細動
1 徐脈性心房細動とはどんなものか,どう診断するか
2 治療の実際
索引
序文
不整脈治療の世界は、まさに日進月歩。驚くようなニューテクノロジー、新しいお薬、そして次々発表される大規模臨床試験のエビデンス。これらを駆使して、患者さんにとって良い治療を提供できることは我々の喜びです。
しかし一方で、その目覚ましい進化が医療者を2つに分断させてしまったと感じています。すなわち、「不整脈専門医」と「不整脈を診ない(診たくない?)医師」の2種類。不整脈患者はこんなにたくさんいるのに、不整脈学の敷居が高くなってしまったのはなぜでしょうか。
どんな不整脈を持っているにせよ、われわれが診るのは一人の人間。その患者一人ひとりに応じた診療ロードマップを描くのが医師の大切な役割です。一昔前は、不整脈をみたら抗不整脈薬を投与してあとは祈る、ぐらいしか選択肢はありませんでした。エビデンスなるものはないも同然で、正直、現在なら考えられない治療法もありました。しかし現代では、たとえば心室頻拍の患者に出会えば、原因を検索して発生部位・機序を診断、そしてお薬を使うのか、カテーテルアブレーションをするのか、植込み型除細動器を移植するのか、あるいはそれらのコンビネーションが必要なのか、その順序はどうするのか。この多様な選択肢のなかから決断するには、エビデンスに基づいた「ロジック」の構築が不可欠で、それを確かな技術で「プラクティス」につなげていく。そういう能力が求められるようになったのです。
これまでの不整脈関連テキストは、心電図の読み方、アブレーションの方法、デバイス手術の方法などそれぞれに特化していました。このことが、診断から治療に至るまでの流れの理解を妨げていることに、われわれは気づきました。また、電気生理学の教科書には、現代ではほとんど使われない古典的知識が詰め込まれていて、正直我々でさえ読むのがつらい…というものが多いのです。
そんな状況を打破して、多くの医師・メディカルスタッフに不整脈患者をちゃんと診てもらえるような世界にすべく、このテキストを作りました。執筆陣は、「現代的不整脈診療」に必要なエッセンスが何かをよく理解している、各分野の若きリーダーたちです。高い臨床能力はもちろん、普段から多くの優れた研究・論文執筆も行い、「ロジカルシンキング」に長けた不整脈医を厳選しました。
彼らが発する端的で最適化されたメッセージの数々、そして、随所に散りばめた“今”知っておきたい「必修!不整脈エビデンス」、エビデンスに基づき診療を進める上での「達人のロジック」、そして実践的な「達人の処方」「匠のコツ」などの記載を読んでいただければ、不整脈に悩まされていたみなさんの頭はスッキリすることでしょう。
2020年5月
加藤武史
松尾征一郎
毎年,星の数ほど医学書が出版される.不整脈領域においても,心電図,アブレーション,薬物治療,デバイス治療と管理,抗凝固療法など,さまざまな専門分野に特化された本が多くなっている.専門知識を深めることはとても重要なことであるが,一方で,特化された分野ごとの結びつき,治療の選択方法,何を踏まえて治療を行うかなどの実践的な“点と点を結ぶ”知識を与えてくれる本が少ないのが現状である.
本書の序文で編者の加藤武史先生と松尾征一郎先生は,目覚ましい進歩を遂げる不整脈治療のなかで医療者は“不整脈専門医”と“不整脈を診たくない医師”の二種類に分断されてしまったかもしれない,と述べておられる.残念ながら,これは的を射ていると感じられた.細分化され,同じ循環器領域であっても専門性が非常に高くなってきている.「専門じゃないからわからない.専門家に聞いて」としか言えない状態になりつつあるのでは,と危惧している.“木を見て森を見ず”という知識や臨床では,患者さんは決してよくならない.“病気を診ずして病人を診よ”という理念は大切であり,松尾先生やこの本を執筆された同じ志をもつ若手医師にもこの理念が貫かれているのを感じる.本書は,患者にとって病気に対する治療を決めるにあたり,エビデンスを踏まえ,どのような選択があり,その患者にとって理想的な治療は何か,患者の人生観や価値観を踏まえつつ医師がさまざまな選択肢を提示できるようにしておくための情報が詰まっている本である.
本書は不整脈診療の知識のみならず,「匠のコツ」「達人のロジック」「必修!不整脈エビデンス」などで,知っておくべき重要な情報・アドバイスが記載され,著者が大切と思うところはハイライトされている.専門書でありながら,看護師,臨床検査技師,臨床工学技士などのメディカルプロフェッショナル,研修医から専門医までが楽しみながら読める本だと思う.ワンチームとして患者の治療に大切な共通の知識をもち,皆が患者のために素晴らしい治療を行えるような知識が得られると確信した.また,若い研修医がこれから不整脈治療に興味をもって,どんどん裾野が広がっていくことを祈念している.素晴らしい本を作ってくれた先生方に心から感謝と祝福を送りたい.
臨床雑誌内科127巻4号(2021年4月号)より転載
評者●杏林大学循環器内科 教授 副島京子