膵臓を診る医師のための膵臓病理テキスト
編集 | : 中沼安二/古川徹/福村由紀 |
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ISBN | : 978-4-524-24879-7 |
発行年月 | : 2020年10月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 304 |
在庫
定価16,500円(本体15,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
好評既刊『肝臓を診る医師のための肝臓病理テキスト』『胆道疾患を診る医師のための胆道病理テキスト』の姉妹書。膵臓全体の病理学の基本とそれに基づく病態解釈、膵の炎症と線維化、腫瘍の病理診断までを系統的にまとめた。臨床医が知っておくべき膵臓病理について非腫瘍・腫瘍を含めて豊富な写真とともに詳しく解説し、昨今注目度が高まっている膵癌診療に役立つ一冊となっている。
I章 発生・解剖,病理・病態
1 発生,解剖,組織,cell lineage
A 膵臓の発生とその分子制御
B 肉眼解剖,膵管と外分泌腺と内分泌腺
2 病理,病態の基礎
A 膵炎
B 膵管および膵管腺からみた膵疾患の病理
C 膵疾患の理解への胆管・胆管周囲付属腺研究のインパクト
3 膵内分泌の病態
II章 非腫瘍性疾患の病理学的特徴
1 膵炎の病理
A 急性膵炎
B 慢性膵炎
C 1型自己免疫性膵炎(1型AIP)
D 2型自己免疫性膵炎(2型AIP)
E 特殊な膵炎
2 非腫瘍性嚢胞
3 先天性異常,まれな代謝性疾患
III章 腫瘍性疾患の病理
1 嚢胞性腫瘍
A 粘液性嚢胞腫瘍(MCN),漿液性腫瘍(SN),単純粘液性嚢胞など
B 嚢胞性腫瘍由来癌
2 管腔内腫瘍
A 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)とその由来癌
B 膵管内管状乳頭腫瘍(ITPN)とITPN由来癌
C 膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)と浸潤性膵管癌(PDAC)
3 浸潤性膵管癌(IDC)
A 危険因子
B 膵腺癌
C 腺扁平上皮癌,粘液癌,退形成癌,髄様癌
D 膵癌モデルからの考察
4 家族性膵癌
5 早期膵癌,その他の前癌病変
6 腺房細胞癌(ACC)
7 神経内分泌腫瘍(NEN)
8 充実性偽乳頭状腫瘍(SPN),膵芽腫など
9 過誤腫,リンパ腫,肉腫などの間葉系腫瘍
10 異所性膵からの腫瘍発生
11 転移性膵腫瘍
IV章 診断アプローチ
1 特徴的な画像所見を示す膵病変
2 超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)
A 手技
B EUS-FNAで採取された検体の細胞診・組織診について
3 膵液細胞診
4 前浸潤性膵腫瘍の遺伝子・分子異常に基づく,組織・吸引液等での診断応用
5 術中迅速診断
6 膵癌治療効果判定
7 膵がんにおけるゲノム医療
索引
序文
現在、膵臓の病理は、学生への講義を中心とした病理学と、臨床分野に直結した病理診断学が中心である。しかし、膵臓の解剖、病態、腫瘍性・非腫瘍性疾患を含めた膵臓病理の総論、各論、診断アプローチを含む総合的な成書は、洋書を含めてもあまり接することはない。そこで今回、これらのほぼ全領域を網羅し、膵臓病理の成書となるよう本書「膵臓を診る医師のための膵臓病理テキスト」を上梓することとなった。
本書は、下記の4つの章から構成されている。
I章の「発生・解剖、病理・病態」では、教科書的な膵臓の解剖、組織についてわかりやすく解説している。最近、膵管の付属腺である膵管腺に分布する前駆細胞、あるいは幹細胞が注目されていることも踏まえ、cell lineageも含め解説した。従来、病理学的にわかりにくい急性膵炎と慢性膵炎の病態が、病理の観点から詳述されている。また、膵管および膵管腺の病理は、非腫瘍性・腫瘍性疾患、胆管疾患との関連性という新しい角度から解説している。さらに、ランゲルハンス島を中心とする内分泌組織は膵臓において重要な成分である。糖尿病以外の内分泌の病態を、種々の角度から、総論的、各論的に解説している。
II章の「非腫瘍性疾患の病理学的特徴」では病理形態学を中心に解説している。急性・慢性膵炎、自己免疫性膵炎などの膵炎を総合的に理解しやすく解説している。また、先天性疾患やまれな代謝性疾患など、膵炎以外の非腫瘍性疾患の各論も教科書として必要十分な内容となっている。
III章の「腫瘍性疾患の病理」は、膵臓の臨床病理の要である。特に膵癌は、死因として上位に位置し、予後不良な疾患であり、これらの病理に精通することは生検診断、切除材料での診断、病期決定等に重要である。また、膵管腔内腫瘍は、遺伝子・分子レベルでの研究の展開が著しく、診断学も進歩している。日常的にしばしば経験する神経内分泌腫瘍(NET),神経内分泌癌(NEC)も、診断学、治療医学の進歩が著しい領域であり、これらについても理解しやすく述べている。さらに、膵腺房細胞癌を含め、その他の膵腫瘍の病理も簡潔に記載しており、免疫染色、特殊染色診断方法を含め、診断に役立つ内容となっている。最新のWHO分類2019の改定も含めた内容といえる。
IV章の「診断アプローチ」は、診断手技、EUS-FNA、細胞診、術中迅速診断についてわかりやすく説明されており、今日、明日の病理診断に役立つものとなっている。その他、日々の診断に重要である治療効果判定、またゲノム診療が日常診療に導入され、病理医にも必要である膵疾患でのゲノム情報やその情報提供についても解説した。
本書は、膵臓に関係する臨床の先生方、病理の先生方、さらに基礎研究の先生方、そして研修医にとって必携の一冊といえる。
2020年9月
中沼安二
古川徹
福村由紀
近年の医学の進歩には目覚ましいものがある.しかしながら,こと膵疾患においては,膵臓の解剖学的位置・構造および生理機能的な複雑さに加え,診断に必要な病理組織標本の採取や病態生理の正確な把握が容易でないこと,さらに確立された治療法も少ないことから,いまだに“暗黒臓器”の疾患ともいわれている.
このたび,広く膵疾患を対象として,解剖,病態生理,診断アプローチを含む病理診断を網羅した『膵臓を診る医師のための膵臓病理テキスト』が上梓された.本書は,いまだ未解明なことの多い膵臓という臓器に病理学的見地から光を当て,日ごろ膵疾患診療に従事する医師へ向けて膵臓学研究の現在地と今後の展望を解説する良書である.ここに簡単に本書の内容を紹介させていただく.
T章の「発生・解剖,病理・病態」では,膵臓の解剖,組織について従来の教科書的な解説のみならず,膵管の付属腺である膵管腺に分布する前駆細胞や幹細胞を含むcell lineage や非腫瘍性・腫瘍性疾患,胆管疾患との関連性という新しい角度からみた病理など,最新の研究成果もイラストを交えて大変わかりやすく解説されている.また,病理学的に理解しにくい外分泌腺の炎症疾患である急性膵炎,慢性膵炎,自己免疫性膵炎などの病態も,病理の観点から記述されている.一方,内分泌腺疾患においても,糖尿病以外の病態があらゆる角度から解説されている.
U章の「非腫瘍性疾患の病理学的特徴」では,病理形態学を中心に,急性・慢性膵炎,自己免疫性膵炎などの膵炎だけでなく,先天性あるいは代謝性希少疾患などの病理学的特徴も詳述されている.
V章の「腫瘍性疾患の病理」は,死因として第4位(2016年厚生労働省「人口動態統計の概況」)に位置し,最も予後不良な疾患の一つである膵臓がんを中心に,膵管腔内腫瘍,神経内分泌腫瘍(NET),神経内分泌がん(NEC),膵腺房細胞がんを含む膵腫瘍の病理についても,免疫染色,特殊染色による診断方法はもちろんのこと,遺伝子・分子レベルの最新の研究も含めて理解しやすく解説されている.
W章の「診断アプローチ」は,病理からみた臨床医に必須の診断手技,EUS‒FNA,細胞診,術中迅速診断だけでなく,治療効果判定,ゲノム診療に関する最新情報もわかりやすく説明されている.
以上のように,本書はまさに膵臓病理の成書ともいえ,膵臓疾患を診療する臨床医,病理医はもちろんのこと,さらに膵の基礎研究者や研修医にいたるまで,膵臓を診る医師にとって必携の一冊といえる.なお,本書筆頭編者の中沼先生は,本書の姉妹書『肝臓病理テキスト』(2013年刊),『胆道病理テキスト』(2015年刊)も編纂されている.併せて手に取っていただくことをお勧めしたい.
臨床雑誌内科128巻2号(2021年8月号)より転載
評者●関西医科大学理事・名誉教授,関西医科大学香里病院 病院長 岡崎和一