口腔粘膜・皮膚症状から「見抜く」全身疾患
オラドローム,デルマドローム
編集 | : 出光俊郎/神部芳則 |
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ISBN | : 978-4-524-24842-1 |
発行年月 | : 2020年10月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 224 |
在庫
定価7,920円(本体7,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
口腔粘膜と皮膚に現れる局所症状は、潜在的な全身疾患を見抜く重要な手がかりとなる。特に口腔粘膜所見を全身疾患と結び付け診断を導くための知識は、皮膚科医の診断力を向上させる。本書は、統一的な記載形式で、口腔粘膜症状および皮膚症状から奥に潜む全身疾患を特定する流れを分かりやすく解説。隠れた真実を「見抜く」力を身に付けられる実践書。
第I章 皮膚症状が教える全身疾患
A 顔(頭頸部)の皮膚症状
1.眼瞼腫脹[Mikulicz病]
2.耳介と耳周囲の皮膚変化[痛風]
3.顔面の有痛性紅斑[Sweet病]
4.酒皶[Cushing症候群]
5.痤瘡様皮疹[免疫不全と好酸球性毛嚢炎]
6.顔面の腫脹(1)[腫瘍随伴性皮膚筋炎]
7.顔面の腫脹(2)[遺伝性血管性浮腫]
8.顔面の腫脹(3)[上大静脈症候群]
9.光線過敏症[ポルフィリン症]
B 体幹・四肢の皮膚症状
1.黒色疣贅状皮疹[Leser-Trélat徴候]
2.蕁麻疹様皮疹[Schnitzler症候群]
3.紅皮症[悪性腫瘍]
4.皮膚潰瘍[壊疽性膿皮症と炎症性腸疾患]
5.線状皮疹[成人スチル病]
6.環状紅斑,年輪状紅斑[悪性腫瘍]
7.壊死性遊走性紅斑[グルカゴノーマなど]
8.多発性皮下結節[膵炎・膵癌]
9.多発性丘疹[Degos病]
10.結節性紅斑[Crohn病]
11.広範囲の体部白癬[免疫不全,糖尿病]
12.背部の浮腫性病変[糖尿病性浮腫性硬化症]
C 手・足の皮膚症状
1.リベド・皮膚潰瘍[クリオグロブリン血症]
2.足の胼胝・鶏眼皮疹[糖尿病性神経障害]
3.爪の異常[皮膚筋炎]
4.手指の皮膚変化[全身性強皮症]
第II章 口腔粘膜所見から見抜く全身疾患
A 口腔潰瘍
1.梅毒[第2期梅毒]
2.薬物性口腔潰瘍
3.骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)
4.悪性リンパ腫
5.全身性エリテマトーデス(SLE)
(1)口腔粘膜所見
(2)皮膚症状
6.成人T細胞白血病(ATL)
B 舌・口内炎
1.貧血
2.口腔カンジダ症
3.潰瘍性大腸炎・Crohn病
4.亜鉛欠乏症
5.ペラグラ・ビタミン欠乏症
6.Behçet病
(1)口腔粘膜所見
(2)皮膚症状
7.Sjögren症候群
(1)口腔粘膜所見
(2)皮膚症状
C 色素沈着・色素斑
1.Addison病
2.黒色表皮腫
(1)口腔粘膜所見
(2)皮膚症状
3.Peutz-Jeghers症候群
D ウイルス感染症
1.サイトメガロウイルス感染症
2.マイコプラズマ感染症(マイコプラズマ関連粘膜炎)
3.水痘
4.手足口病
5.帯状疱疹
6.麻疹
7.HIV感染症
Kaposi肉腫
毛状白板症
E 口腔出血・紫斑
1.白血病
2.血友病・凝固因子欠乏症
3.特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
4.Osler病
F 白色病変
1.扁平苔癬(皮膚病変を伴う)
2.移植片対宿主病(GVHD)
(1)口腔粘膜所見
(2)皮膚症状
G 舌・口唇・歯肉の腫脹,口腔内の腫瘤
1.アミロイドーシス
(1)口腔粘膜所見
(2)皮膚症状
2.サルコイドーシス
(1)口腔粘膜所見
(2)皮膚症状
3.Crohn病
H 難治性潰瘍・びらん・水疱形成
1.尋常性天疱瘡
2.腫瘍随伴性天疱瘡
3.粘膜類天疱瘡
4.Stevens-Johnson症候群(SJS)・中毒性表皮壊死症(TEN)
I 口腔症状と心身医学的疾患
1.舌痛症
2.味覚異常
索引
序文 二つのドローム「オラドローム・デルマドローム」
デルマドロームとは特に全身性疾患の診断に役立つ皮膚病変で、内臓疾患のみつかる確率の高いものから低いものまでさまざまある。すでに皮膚科医の間ではよく知られている用語になっている。一方、オラドロームは、全身状態や基礎疾患の発見に役立つ口腔粘膜病変であり、近年、皮膚科のほか、口腔内科・歯科領域で徐々に浸透しつつある用語である。このように、口腔内科・歯科領域でも基礎から臨床まで口腔病変や皮膚病変と全身性疾患との関連が注目されている。
古くから東洋医学の分野では「舌診」というのがあった。口腔粘膜(舌)の状態が体調、全身の病状を表すというのは古くから知られていることである。また、「皮膚は内臓の鏡」ともいわれ、皮膚の状態が内臓の状況を知らせることも周知のことである。このうち、口腔病変から内臓の疾患を特定する、あるいは皮膚をみただけで内臓癌の存在を当てるなど、昔、TVで流行語になった「某外国人もびっくり!?」「あっと驚く〇〇ゴロー!」に相当する驚きの口腔粘膜・皮膚症状こそが、オラドローム・デルマドロームの真髄である。これらの中には的中精度の高い口腔粘膜・皮膚症状もあれば、的中率が低く、精査の結果、空振りに終わるものも少なくない。しかしながら、口腔や皮膚から内臓病変を疑う姿勢が大事であり、的をしぼった内科的精査により潜在疾患のみつかることもある。これら二つの「ドローム」は皮膚科や口腔内科のみならず、一般内科、総合診療科などとの共通の認識として発展させていくことができる。すなわち、口や体表から全身をみるという意識が必要である。
嘆かわしいことに皮膚科医の口腔粘膜をみる力量が落ちている印象を受ける。皮膚科医で咽頭、扁桃をみてしっかりと正しい所見をとれる医師は少ない。正常あるいは生理的な変化と異常所見の判別も難しい。特にデジタルカメラでは口腔粘膜の写真撮影が難しいことも教育を妨げている。この点、本書では口腔粘膜のきれいな写真を提示しているのが特徴である。口腔粘膜の所見は皮膚疾患の診断も助けてくれる。爪扁平苔癬、増殖型扁平苔癬、水疱型扁平苔癬など多彩な皮膚病変を有する扁平苔癬も、レース状の白色局面を呈する口腔病変から診断することも可能である。原因不明の脱毛を伴う膿痂疹病変が剝離性歯肉炎から天疱瘡と診断のつくこともある。重症の口腔カンジダ症がエイズ診断のきっかけとなる症例もある。皮膚の紫斑は打撲でも生じるが、口腔内の紫斑を伴うと血液疾患のRed Flag Sign(危険徴候)である可能性が高まる。
本書は、皮膚科と口腔内科のそれぞれのエキスパートに執筆していただいた。臨床、基礎にかかわらず口腔領域の疾患を奪い合うのではなく、互いの得意分野を尊重して発展させていくのがベストの分野である。
オラドローム・デルマドロームに相当する症状も多彩、かつ増加するようになった。今後もひとつひとつの症例の積み重ねにより、新しい「ドローム」が誕生していくものと思われる。それぞれの執筆者まさに渾身の作になっており、座右の名著として親しまれることを編者として身の程知らずと言われながらも期待するしだいである。読者にとって、口腔や皮膚から内臓病変をズバリ!当てる、まさにドロームズ・カム・トゥルーとなれば幸いである。
2020年8月
出光俊郎
神部芳則
デルマドロームとは全身疾患に由来する皮膚病変のことを指す.また,オラドロームとは全身疾患を示唆する口腔粘膜病変を指す造語である.皮膚や口腔粘膜はさまざまな内臓疾患を映し出す鏡である.内科医であればデルマドロームやオラドロームに精通しているべきではあるが,実のところ,これらの病変は「見えてはいても診れてはいない」ことが多いと思われる.いや,それどころか積極的に診てはいない可能性すらあろう.眼を開けていれば見える病変であるにもかかわらずである.心当たりのある内科医はぜひこの書籍を手元に置いて欲しいと思う.
内科医であれば病歴で勝負したくなるかもしれない.しかし,皮疹や粘膜病変の基礎知識がなければ何を聞くべきなのか皆目見当がつかない.たとえば,線状の紅斑を認めた場合,何を聞けばよいか.流行歴か,性行為感染症のリスクか.本書では,まず考える疾患,そして確認すべき項目をなぞりながら,皮膚科医の思考過程をわかりやすく解説している.シイタケ摂取歴,抗がん薬投与歴を確認し,皮膚筋炎や成人Still病が鑑別にあがることがわかれば,あとは内科医の得意分野にもち込める.
皮膚と口腔粘膜は連続した一つの臓器ではあるものの,皮膚科医であっても口腔粘膜病変に精通しているとは必ずしもいえないそうである.そのため,本書は皮膚科医と口腔内科医が互いの得意とするところを出し合いながら作成されている.写真の豊富さと美しさも本書の特徴であり,ざっと写真を眺めるだけでも勉強になる.また,実診療で役立つポイントや最新の検査方法などをコンパクトにまとめられた解説により,ベテラン医師にとっても学び多き書籍といえよう.
百聞は一見に如かずという言葉どおり,皮疹や粘膜病変が与える情報量は多い.デルマドロームやオラドロームは,使いこなすことができれば内科初心者から一気に上級内科医へと昇格できる魔法のアイテムである.その一方で,誤った解釈をすれば取り返しのつかない誤診につながるかもしれない.本書では良性の皮膚疾患から悪性腫瘍に伴う皮疹を見抜くポイントなど,一流の皮膚科医からのclinical pearlsが散りばめられている.今日からデルマドローム&オラドロームを学びたいという内科医から,すでにデルマドローム&オラドロームの重要性を理解している内科医まで幅広くお勧めしたい一冊である.
臨床雑誌内科127巻4号(2021年4月号)より転載
評者●洛和会丸太町病院救急・総合診療科 部長 上田剛士