日本整形外科学会診療ガイドライン
前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン2019改訂第3版
監修 | : 日本整形外科学会/日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会 |
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編集 | : 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン策定委員会 |
ISBN | : 978-4-524-24841-4 |
発行年月 | : 2019年2月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 102 |
在庫
定価3,300円(本体3,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
スポーツ外傷のなかでも頻度の高いACL損傷に関し、新しいガイドライン作成指針に基づき内容を刷新。病態や疫学的事項に関する新知見を提供するとともに、日本の医療事情に即してACL損傷診療の診断・治療およびリハビリテーションの指針に関するクリニカルクエスチョンと推奨を示した。整形外科医・スポーツ外傷に携わる医療職必携の書。
前文
第1章 疫学・自然経過・病態
Background Question 1 ACL損傷に危険因子は存在するか
Background Question 2 非接触型ACL損傷の受傷メカニズムにはどのようなものがあるか
Background Question 3A CL損傷後の自然経過は
第2章 診断
Background Question 4 ACL損傷の診断に徒手検査は有用か
Background Question 5 ACL損傷の診断にX線検査は必要か
Background Question 6 ACL損傷の診断にMRIは有用か
第3章 保存治療と手術適応
Clinical Question 1 保存治療は有用か
Background Question 7 小児ACL損傷に対し保存治療は有用か
Clinical Question 2 若く活動性の高い患者の手術適応は
Background Question 8 膝不安定性を認める患者の治療法は
Clinical Question 3 中高齢者に対して手術適応はあるか
Clinical Question 4 再建術の時期はいつがよいか
第4章 ACL再建術とその成績
Clinical Question 5 膝蓋腱と膝屈筋腱を用いるACL再建術に臨床成績の差はあるか
Clinical Question 6 ACL再建術の移植腱として大腿四頭筋腱を使用することができるか
Clinical Question 7 自家腱より同種腱を用いたACL再建術を勧めるか
Background Question 9 人工靱帯を用いたACL再建術の術後成績は自家腱と比して術後成績に差があるか
Clinical Question 8 二重束再建と一束再建ではどちらが推奨されるか
Clinical Question 9 ACL再建術における大腿骨孔作製はindependent drilling法がよいか
Clinical Question 10 遺残ACLは温存すべきか
Clinical Question 11 成長期(骨端線閉鎖前)におけるACL再建術は行うべきか
Clinical Question 12 ACL再建術は変形性関節症の発症を防ぐことができるか
Clinical Question 13 ACL再再建術の成績は初回再建術と比べて劣るか
第5章 合併損傷と術後合併症
Clinical Question 14 合併半月板損傷に対する修復術は術後成績を向上させるか
Background Question 10 ACL再建時の軟骨損傷は術後成績に影響するか
Background Question 11 合併するMCL損傷の治療法は
Background Question 12 半月板がロッキングしたACL損傷膝の治療はどうすべきか
Background Question 13 ACL再建術後の感染とその治療法,術後成績に与える影響は
Background Question 14 ACL再建術後の可動域制限の原因および治療法は
Background Question 15 ACL再建術後の筋力低下の原因と術後成績に与える影響は
第6章 リハビリテーション・再断裂・スポーツ復帰
Clinical Question 15 ACL損傷に対し術前リハビリテーションは必要か
Clinical Question 16 ACL再建後の術後リハビリテーションは有用か
Clinical Question 17 ACL再建術後のドレーン留置は有用か
Clinical Question 18 ACL再建術後の冷却療法は有用か
Background Question 16 ACL再建術後の鎮痛対策は
Background Question 17 ACL再断裂の危険因子は
Background Question 18 予防トレーニングはACL再断裂予防に有効か
Background Question 19 ACL再建術後の装具は有用か
Background Question 20 予防的装具はACL損傷の予防に有用か
Clinical Question 19 ACL再建後のスポーツ復帰の指標として有用なものはあるか
第7章 その他
Background Question 21 再建靱帯の成熟は術後6ヵ月までに完了するか
Background Question 22 移植腱採取部(ドナー部)に腱は再生するか
Clinical Question 20 移植腱の初期張力はACL再建術の成績に影響するか
Background Question 23 両側同時ACL再建術を行う利点,欠点はあるか
Clinical Question 21 ACL再建術にコンピュータ支援システムは有用か
索引
改訂第3版の序
日本整形外科学会では、2002年から主要な整形外科疾患の診療ガイドライン作成に着手しました。前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドラインは、このなかのひとつとして2006年に初版が発刊され、2012年に第2版が発刊されています。初版は日本膝関節学会を中心に策定作業が行われましたが、同学会が日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)に移行したことにより、第2版の策定作業はJOSKASを中心に行われました。その後も多数のACLに関する基礎研究や臨床研究が報告され、その治療は大きく進歩しています。この度、新しいエビデンスを加え、第3版を発刊することとなりました。
初版のガイドラインでは95のResearch Questionが、第2版でも95のClinical Question(CQ)が採択されています。今回は『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』(以下、『手引き2014』)に準じ、最新の策定方法に準じてCQが決定されました。『手引き2014』では、「治療法等の決定に際し複数の選択肢があり、そのいずれがよりよいかを推奨として提示することにより、患者アウトカム改善が期待できる場合」に、それをCQとして取り上げることを提案しています。さらにこれらのCQについては、システマティックレビューを実施することが求められています。このため今回のガイドラインでは、過去のCQで採択されていた「ACL損傷の危険因子は?」といったような臨床的・疫学的特徴はCQとせず、Background Questionとして解説を加えることにしました。CQ数は21と大幅に少なくなっておりますが、システマティックレビューにより従来のガイドラインより客観的にエビデンスを評価し、推奨文が作成されています。「診診療ガイドラインは、療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義されますが(『手引き2014』)、本ガイドラインがACL損傷治療の成績向上に役立つことを期待しています。
最後にガイドラインの作成に多大なご支援を賜りました日本整形外科学会、JOSKAS、同診療ガイドライン委員会、そして主に文献reviewを担当していただいたJOSKAS評議員の方々にこの場をお借りして御礼申し上げます。また、ガイドライン作成の基本的なところからご指導いただいた吉田雅博先生、頻回の委員会開催に協力していただいた日本整形外科学会事務局ならびに一般財団法人国際医学情報センターの逸見麻理子氏、米谷有佳氏に深謝いたします。
2019年1月
日本整形外科学会
前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン策定委員会
委員長 石橋恭之
膝の前十字靱帯(ACL)は、スポーツ膝損傷として手術的治療が標準的な治療法となっている重要な構造物である。ACL損傷はその頻度、発症の背景、治療法や損傷予防など、未解決の問題も多く、現在も世界各国でスポーツ治療医学の中心課題の一つである。
そのACL損傷を正しく理解しておくことは、膝を扱う専門医ばかりでなく、一般整形外科医、スポーツ選手と接する多職種の人たちにとって重要である。これらの背景から日本整形外科学会により2006年に整形外科の日常診療で頻繁に遭遇し重要度が高いと考えられる11疾患の一つに選択され、初版発行時のACL損傷診療ガイドライン策定委員会委員長を筆者が務めた。
当時、疾患ガイドラインの策定は整形外科医にとっては目新しい作業であった。初版は95という数多くのクリニカル・クエスチョン(clinical question:CQ)をかかげ、その時点での研究実態をまとめたという意味で意義深かったと感じている。しかし、エビデンスの基本になっているそれぞれの研究の質については統一感がなく、弱い根拠に基づいている推奨が多かった。CQの多くがこれからのエビデンスレベルの高い研究をまつ必要があるという示唆を与えた。
第2版は初版の内容をup-to-dateする目的で、その後発展してきたエビデンスレベルの高い無作為割付け比較研究やシステマティックレビューを数多く加えた。しかしながら、エビデンスレベルの高い研究に乏しいわが国の現状を背景とするとCQに対する推奨は、わが国の医療基準を反映したとはいいがたいという問題点を残した。PubMedで“anterior cruciate ligament”をキーワードとして論文数を検索すると20,665もの論文がヒットする。“Low back pain”の36,098と比較しても、いかにACLの研究が数多くなされているか、ということが実感される。
今回発刊された本書第3版の特徴は、わが国の診療ガイドラインの方向性に対して多大な影響をもつMinds(EBM普及推進事業Mindsは、厚生労働省の委託を受けて公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する事業)の「診療ガイドライン作成の手引き2014」に基づき最新の策定方法に準じてCQが決定されたことにある。そこでは治療法などの決定に際し複数の選択肢があり、そのいずれがよりよいかを推奨として提示することにより、患者アウトカムの改善に期待ができる場合にCQとして取り上げることが提案されている。そのため今回取り扱われたCQ数は21と大幅に少なくなった。第3版はこれまでより、より客観的に高いエビデンスを評価し推奨文が作成されている。患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨が提示されているといえる。
一方CQが少なくなったということは、ACLに未解決問題が数多いことを示している。私たちACL損傷患者を扱い、よりよく治療し指導していく立場の者たちにとっては、絶対的に治療成績を上げていくことが求められている。本書でbackground questionとして取り上げられている23の項目は、ACL損傷を取り扱ううえで基本となる重要な項目ばかりである。
本ガイドラインにCQとしてあげられていない項目は数多く、ガイドラインに示されていないこれらを向上させることが私たちには求められている。そのためにも第3版に取り上げられているCQとbackground questionの理解はACL損傷にかかわるすべての関係者に必要であると考える。まず第3版を手にとり、第1、第2版と比較して、ACL損傷の治療を考え、今後のACL研究をすすめていきたい。
臨床雑誌整形外科70巻11号(2019年10月号)より転載
評者●災害医療センター院長 宗田大