書籍

ボツリヌス療法のすべて

アジア人への応用

監訳 : 三井浩
ISBN : 978-4-524-24807-0
発行年月 : 2022年4月
判型 : B5
ページ数 : 220

在庫あり

定価11,000円(本体10,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

ボツリヌス療法をアジア人向けに解説した本邦初の成書.ボツリヌストキシン毒素の基礎知識から各種BTX製品薬剤の比較と使用上の注意点,シワ治療,顔面輪郭形成術,皮内注射,痩身,多汗症など各種治療の入門から応用までを,多数の写真・イラストを駆使してビジュアルに解説.アジア人,西洋人における適用量・注射部位・適用についてその差異を明示し,特に腓腹筋,僧帽筋,三角筋,大腿四頭筋などの肥大に対する治療など,本書独自の内容が満載!

1 ボツリヌス学
1.1 はじめに
1.2 シワに関する専門用語
 1.2.1 シワに関する基本的な専門用語
 1.2.2 機能的側面
 1.2.3 重症度側面
1.3 ボツリヌストキシン(BTX)の基礎科学
 1.3.1 種類と機能
 1.3.2 A 型BTX の分子構造
 1.3.3 作用点
 1.3.4 回復
 1.3.5 用量と効果
 1.3.6 効果の個人差
 1.3.7 知覚神経系への影響
1.4 BTX 製品の比較
 1.4.1 効果の比較
 1.4.2 添加剤の比較
 1.4.3 Botox®:世界的な標準薬
 1.4.4 Dysport®:ヨーロッパの標準薬
 1.4.5 Neuronox® :韓国初のBTX 製剤
 1.4.6 Myobloc®:唯一のB 型BTX 製剤
 1.4.7 Xeomin®:第2 世代のBTX 製剤
 1.4.8 BTXA®:中国製BTX 製剤
 1.4.9 Botulax®
 1.4.10 Nabota®
 1.4.11 Innotox®:Botox® に支持されたBTX 製剤
1.5 免疫原性/薬剤耐性
1.6 BTX の安全性
 1.6.1 ヒト致死量
 1.6.2 過量投与
 1.6.3 小児
 1.6.4 妊娠
 1.6.5 過敏症
1.7 BTX の溶解法と保存法
 1.7.1 溶解法
 1.7.2 保存法
1.8 禁忌
 1.8.1 絶対禁忌
 1.8.2 投与注意
1.9 手技の特徴(EAT 分類)
文献

2 ボツリヌストキシンによるシワ治療
2.1.はじめに
 2.1.1 BTX 治療が効果的なシワと効果のないシワについて
 2.1.2 コミュニケーション
 2.1.3 治療前のアセスメント
 2.1.4 アジア人と白人の民族性の違いについて
  2.1.4.1 アジア人,白人それぞれの魅力的な合成顔
  2.1.4.2 アジア人と白人における顔の形と美的基準の違い
  2.1.4.3 アジア人の3 つの顔タイプ
  2.1.4.4 アジア人と白人における解剖学的違い
  2.1.4.5 注射手技と投与量の違い
 2.1.5 追加注射と再注射における最適な治療間隔
 2.1.6 シワ治療に対するBTX の予防効果
 2.1.7 ボツリヌスリバランス(代償性過活動)
 2.1.8 表情のボツリヌスリモデリング
 2.1.9 BTX 注射手技
 2.1.10 BTX の副作用
  2.1.10.1 頭痛
  2.1.10.2 アレルギー反応
  2.1.10.3 内出血斑
  2.1.10.4 浮腫
  2.1.10.5 違和感(重たい感じ)
  2.1.10.6 マスク様顔貌
2.2 部位別の投与方法
 2.2.1 外眼角の皺
  2.2.1.1 解剖
  2.2.1.2 治療前評価
  2.2.1.3 注射手技
  2.2.1.4 投与量
  2.2.1.5 副作用
  2.2.1.6 写真
 2.2.2 眼瞼下垂
  2.2.2.1 注射手技
 2.2.3 上眼瞼の小ジワ
 2.2.4 下眼瞼のシワ
 2.2.5 前額部の横スジ
  2.2.5.1 解剖
  2.2.5.2 治療前の評価
  2.2.5.3 注射手技
  2.2.5.4 投与量
  2.2.5.5 副作用
  2.2.5.6 写真
 2.2.6 眉毛の造形と眉毛の持ち上がり
 2.2.7 眉間のスジ
  2.2.7.1 解剖
  2.2.7.2 注射手技
  2.2.7.3 投与量
  2.2.7.4 写真
  2.2.7.5 副作用
 2.2.8 バニーライン/鼻の側壁のシワ
  2.2.8.1 解剖
  2.2.8.2 注射手技
 2.2.9 鼻根の横スジ
 2.2.10 鼻尖の高さ
  2.2.10.1 解剖
  2.2.10.2 注射手技
 2.2.11 歯茎の過度な露出/ガミースマイル
  2.2.11.1 解剖
  2.2.11.2 注射手技
 2.2.12 鼻唇溝,左右非対称な笑顔
  2.2.12.1 解剖
  2.2.12.2 注射手技
 2.2.13 鼻翼靭帯とえくぼ
 2.2.14 口周囲のスジ(財布の引き紐様の唇)
  2.2.14.2 注射手技
  2.2.14.3 写真
 2.2.15 口角の持ち上がり
  2.2.15.1 解剖
  2.2.15.2 注射手技
 2.2.16 オトガイ筋の過活動,梅干しジワ
  2.2.16.1 解剖
  2.2.16.2 注射手技
 2.2.17 プラティズマバンド
  2.2.17.1 解剖
  2.2.17.2 注射手技
  2.2.17.3 投与量
  2.2.17.4 副作用
  2.2.17.5 写真
文献

3 A 型BTX による顔面輪郭形成術(エラボトックス)
3.1 square jaw/咬筋肥大症
 3.1.1 作用機序:廃用による筋萎縮
 3.1.2 咬筋肥大症の原因
 3.1.3 治療前評価
 3.1.4 自己評価
 3.1.5 解剖
 3.1.6 注射手技
 3.1.7 投与量
 3.1.8 咬筋容量の変化
 3.1.9 効果の発現と持続期間
 3.1.10 繰り返して薬剤投与をする際の適切な間隔と用量
 3.1.11 合併症
  3.1.11.1 咬合力の低下
  3.1.11.2 痩けた頬部
  3.1.11.3 たるんだ顎
  3.1.11.4 左右非対称の笑顔/ぎこちない笑顔
  3.1.11.5 咀嚼時の咬筋の突出
  3.1.12 下顎骨に対するA 型BTX 投与の効果
3.2 側頭筋肥大
 3.2.1 解剖学
 3.2.2 注射手技
 3.2.3 副作用
3.3 唾液腺肥大
 3.3.1 耳下腺肥大
 3.3.2 顎下腺肥大
 3.3.3 注射手技
文献

4 複数箇所へのBTX 皮内注射
4.1 コンセプト
4.2 注射手技
文献

5 BTX による痩身
5.1 はじめに
 5.1.1 BTX の調整
 5.1.2 投与量
 5.1.3 注射手技
 5.1.4 再注入時の適切な間隔と用量
 5.1.5 副作用
5.2 部位別詳細
 5.2.1 肩痩せ(僧帽筋)
  5.2.1.1 解剖
  5.2.1.2 注射手技
  5.2.1.3 副作用
  5.2.1.4 写真
 5.2.2 腕痩せ(三角筋)
  5.2.2.1 解剖
  5.2.2.2 注射手技
  5.2.2.3 副作用
  5.2.2.4 写真
 5.2.3 大腿痩せ(大腿四頭筋)
  5.2.3.1 解剖
  5.2.3.2 注射手技
  5.2.3.3 副作用
  5.2.3.4 写真
 5.2.4 ふくらはぎ痩せ(腓腹筋)
  5.2.4.1 解剖
  5.2.4.2 注射部位
  5.2.4.3 投与量
  5.2.4.4 注射手技
  5.2.4.5 効果の発現と持続
  5.2.4.6 副作用
  5.2.4.7 写真
文献

6 BTX による多汗症治療
6.1 はじめに
 6.1.1 多汗症の病因・分類
 6.1.2 局所性多汗症の疫学
 6.1.3 局所性多汗症の診断
 6.1.4 局所性多汗症が患者の生活へ与える影響
 6.1.5 局所性多汗症の治療
 6.1.6 BTX による局所性多汗症の治療
  6.1.6.1 はじめに
  6.1.6.2 注射手技
  6.1.6.3 麻酔
6.2 部位による特徴
 6.2.1 腋窩多汗症
  6.2.1.1 注射手技
  6.2.1.2 副作用
  6.2.1.3 評価方法
 6.2.2 手掌多汗症
  6.2.2.1 注射手技
  6.2.2.2 手首の神経ブロック
  6.2.2.3 でんぷん-ヨウ素テスト
  6.2.2.4 副作用
  6.2.2.5 評価方法
 6.2.3 足底多汗症
 6.2.4 顔面および頭皮多汗症
 6.2.5 味覚性多汗症
 6.2.6 代償性多汗症
 6.2.7 臭汗症/腋臭
 6.2.8 BTX に反応するほかの疾患
文献








著者について

 KKyle Koo-Il Seoはソウル市在住の皮膚科医.ソウル大学校医科大学(韓国ソウル市)卒業後,修士号,博士号を取得.ソウル大学校医科大学皮膚科の臨床教授(ボトックス外来チーフ)を経て,現在Modeloクリニック(韓国ソウル市)の院長を併任.韓国皮膚外科学会会長として韓国皮膚科学会をリードしている.

 ボツリヌス療法とフィラー治療の分野で世界的権威であり,韓国ではじめてとなる,ボツリヌス療法とフィラー治療のハンズオントレーニング,“Modeloアカデミー”を2002年に立ち上げた.“ボツリヌス療法のすべて─アジア人への応用─”(韓国語版:ソウル医学書籍,2014年)や“Clinical Anatomy of Face for Botulinum Toxin and Filler Injection”(Springer,2016年),“Facial Volumization with Fillers”(Springer,2016年)など多数執筆.2015年の第23回World Congress of Dermatology(WCD:世界皮膚科学会)のプレナリーセッションでは美容分野の代表として単独基調講演の演者を務めた.また,2019 年の第24 回WCD ではボツリヌス療法とフィラー治療セッションの議長を務めた.

 2011 年韓国ソウルで開催された第22 回WCD の実行委員会の副委員長として皮膚科領域における世界的な学術活動に貢献した.また,第36回International Society for Dermatologic Surgery(ISDS:国際皮膚外科学会)では実行委員会の事務総長を務めた.

序文

 ボツリヌス療法は,美容治療の世界へ踏み出す患者にとって「最初の扉」となる.美容治療全般に抱いていたモヤモヤした不安などは5分の施術ですぐに消え去り,あまりにも簡単に若さと美しさが取り戻せたことに驚きと感動を覚えるだろう.感動が大きい患者ほど,美容に傾倒して,より侵襲的な治療へと足を踏み入れていく傾向にある.したがって,金銭的な点からいうとボツリヌス療法はクリニックの収益全体にとって重要なものになる.反対に,はじめてのボツリヌス療法がうまくいかなかった患者は2度とクリニックにこないであろう.このことからもわかるようにボツリヌス療法は美容治療のきわめて重要なスタート地点で大きな影響を与えており,医師が患者と信頼関係を築けるかどうかの分岐点となっている.

 ボツリヌス療法に関してよく起こる誤解は,“誰が打っても治療結果は同じで,技術や経験は関係ないだろう”というものであり,これはおそらく2,3回打てば終わるその施術の手軽さに起因している.しかしながら,元々筆者のクリニックに通っていた患者が,他のクリニックでボツリヌス療法を受けて合併症を生じてしまい,すぐに筆者のクリニックに戻ってくることが多いのも事実である.ボツリヌス療法がうまくいかなかった場合,残念ながら医療的介入の余地はない.解毒剤を投与するのではなく,約2ヵ月間不自然な顔の表情に我慢してもらうしかない.ボツリヌストキシンに対して効果のある解毒剤がないためである.実際,ボツリヌス療法を行う際に適切な予防策を講じる重要性は,十分に強調されることはないであろう.筆者がボツリヌス療法をはじめた当初は,いろいろな副作用に遭遇し大変苦労したのを覚えているし,今でも,そういった感情を完全に拭い去ることはできていない.そういった事実がこの本を執筆した背景にあり,ボツリヌス療法をはじめたばかりの医師,あるいは試行錯誤(実をいうと,私自身はじめの頃にやらかしてしまったこと)に基づいた安全治療マニュアルがあってもまだ自信が持てない医師の方々に役立つことを願っている.

 考えてみると,筆者が初期にやってしまった間違いの多くは,アジア人と白人の顔の造形や美の基準が異なっていることを十分に理解できていないために生じていた.たとえば,凹凸があって横幅の狭い白人の顔に比べると,アジア人の顔は横幅があって平たい.突出した頬骨とsquare jaws(いわゆるエラ)は欧米文化では美的特徴とされているが,一方でアジアでは顔のサイズを小さくする頬骨減少術やエラボトックスがトレンドとなっている.筆者が失敗してしまったアジア人患者のほとんどにおいては,欧米人と同一の方法を取っていたことが原因と考えられた.欧米人と同一の方法で行うと,アジア人の美の基準とはかなり乖離してしまうのだ.そのため本書では,筆者の臨床経験に基づいたアジア人向けのボツリヌス療法のテクニックをわかりやすくまとめている.このような点から,本書はアジア人医師のみならず,アジア人患者を治療する欧米人医師にも実用的な手引書として役立つのではないかと思われる.もちろん,アジア人は均質な集団ではなく,本書で述べられている“アジア人”という言葉は狭い意味で使用されており,主として東アジア人,日本人,中国人,韓国人などについて述べられている.アラブ人やインド人など他のアジア地域の人には述べられていない.しかしこれは個人的な意見だが,世界中でK-POP や韓国ドラマなどが流される韓流ブームの中で,韓国の美容はアジアのスタンダードともいえる.

 実際,日本や中国,そして東南アジアから多くの人が美容治療を受けに韓国を訪れている.そのため,本書はある意味,国籍関係なくアジアのスタンダードな美しさを手に入れたいアジア人患者に広く適用することができる.

 本書に記載されている注射手技はアジアでコンセンサスを得られているわけではないが,筆者が実際に臨床現場で実践している手技を詳細に例示している.公平に見ても,異なる医師の手技をいろいろと例示してしまうと,違う視点を与えてしまうおそれがある.これらの注射手技は,これまで18年以上にわたって行ってきた数千の症例に基づいて確立されたものであり,実用的な指標を求めている医師にはうってつけである.

 本書が世界中の読者にとって,価値あるものとなり,新たな知識と有益な情報の源泉として広く愛される原典となることを希望してやまない.

2016年5月
韓国ソウルにて
Kyle K. Seo




監訳者序文

 Dr.Seoとは彼が2000年にソウル大学校から東京大学医学部皮膚科学教室に短期留学された時に知り合った.当時,私は東京大学医学部皮膚科学教室の大学院生だった.Dr.Seoは聡明ですばらしい人格の持ち主であり,年齢の離れている私によき友人として接してくれ,現在でも連絡を取り合っている仲である.いつも相手のことを気にかけてくれる,本当に紳士な先生である.

 ある日,Dr. Seoからメールが届いた.ボツリヌス療法の本を英語で出版したのだが日本語でも出版したい,という内容だった.彼がボツリヌス療法の国際的な第一人者であることを思い出しながらその本を読んでみると,そこにはボツリヌス療法の基礎的なところから,ボツリヌス療法の種類や特性,さまざまな疾患に対する具体的な手技内容まで詳細に記載されていた.確かにアジア人と欧米人では骨格,筋肉の量に違いがあり,理想とする顔立ちや表情なども異なるため,A型BTX製剤の投与量や注射部位は欧米の推奨量から変更すべき点が多い.彼の長年の経験から導き出された方法は,ボツリヌス療法初心者にはもちろんのこと,すでにボツリヌス療法に熟練している医師にも十分に役立つと思われる.解剖学,薬理学などが体系的にわかりやすく記載され,注射手技がこれだけ多くのイラストを用いて詳細に記されたものはほかに類を見ない.本書がDr.Seoの願いどおり,アジア人に対するボツリヌス療法のバイブルとして使われることを祈念したい.

 日本語訳は東大医学部皮膚科学教室出身の先生方に分担していただいた.私は第1章を担当したのだが,1番困ったのが「シワ」を表す英単語がとても多かったことで,対して「シワ」を意味する言葉は日本語ではあまり多くないため,訳さずに英語のままにしようかとも思ったが,極力日本語の言葉を充てていった.なるべく原書に沿って訳すように努力したが,一部は日本語で表現しやすいものなどに変更し,適切に対応させていただいた.

 最後に,今回の出版企画を引き受けていただいた南江堂編集部諸氏,翻訳していただいた執筆の先生方に心から感謝申し上げる.

2022年2月 三井 浩

9784524248070