専門医のための漢方医学テキスト
漢方専門医研修カリキュラム準拠
編集 | : (一社)日本東洋医学会学術教育委員会 |
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ISBN | : 978-4-524-24799-8 |
発行年月 | : 2010年3月 |
判型 | : A4 |
ページ数 | : 344 |
在庫
定価6,600円(本体6,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
好評既刊『入門漢方医学』に続き、漢方医学の第一線で活躍する執筆陣によるアドバンス決定版。臨床実践を重視し、歴史から病態、方剤、症候を切り口として章立て、さらに症例、古典、鍼灸を加え漢方医学を包括的に学べるよう構成。日本東洋医学会認定専門医(漢方専門医)養成のための研修カリキュラム準拠。さらに漢方医学を本格的に修得したい医療関係者にも広く有用な一冊。
I.歴史からみる漢方
1 漢方医学の歴史
A 中国
1中国医学の形成
2古代中国の医書〜三大古典の成立
3唐代までの医学書
4宋代の医学書
5金、元の医学
6明、清の医学書
7現代中医学の成立へ
B 日本
1奈良時代以前
2平安時代
3鎌倉・南北朝時代
4室町時代〜江戸時代前期
5江戸時代中〜後期から現代へ
2 現代医療の中の漢方医学
A 日本東洋医学会の歴史
1学会設立
2日本医学会加盟、専門医制度の実施および標榜科
3医療用漢方製剤の健康保険薬価収載とその後の削除問題
4用語の標準化
5学術雑誌等の刊行物
6学術総会、学術教育事業の開催
7終わりに
B 日本と世界の現状
1日本東洋医学会の海外との交流
2経穴を中心にした用語の国際統一
3WHOからの呼びかけと学会の対応
4日本東洋医学サミット会議(JLOM)の結成およびその目的
5その他の国際会議・学会
●コラム 伝統医学の国際化
3 これからの漢方医学
1パラダイムの相違を明確に
2二つのパラダイムの和諧
3薬効発現の機序の解明
4エビデンスの構築
5新たな治療学へ
●コラム 漢方薬のエビデンスレポート
II.病態からみる漢方
1 漢方医学の基本理論
A 陰陽説
B 五行説
C 臓腑説−10と12の併存
D 三陰三陽と経脈学説
●コラム 陰陽について
2 病態と治療
A 虚実
1虚実の概念
2虚実の診断と治療
B 寒熱
1寒熱の概念
2寒熱の診断と治療
C 表裏(内外)
1表裏の概念
2表裏の診断と治療
D 六病位(三陰三陽病)
1六病位の概念
2六病位の診断と治療
E 気血水
1気血水の概念
●コラム 三陰三陽の進行について
2気の異常と治療
3血の異常と治療
4水の異常と治療
3 漢方の診察法
A 望診
1動作・歩容の観察
2眼光の観察
3顔色の観察
4皮膚の観察
5爪の観察
6頭髪の観察
7口唇と歯肉の観察
8望診での印象
B 聞診
1言語と音声
2咳嗽と呼吸音
3グル音
C 問診
D 切診
1脈診
2腹診
補1 背診や手足の触診
補2 四診の注意点
補3 漢方所見の意義
4 病態治療学概論
A 証とは
B 病態治療の基本
1病態と治療法の対応
2治療法の適否判断
C 病態治療の応用
1合病・併病とその治療法
2治療中の病態変化への対応
3西洋医学との併用
4養生・食事
5漢方診療上達への手引き
III.方剤からみる漢方
1 生薬と方剤
A 薬物としての生薬・方剤の特性
1生薬ゆえの長所
2煎出液中への成分の溶出に対する共存生薬の影響
3成分の揮散
4成分の変化と薬効の変化
5成分どうしの反応と薬効の変化
6共存生薬による作用の増強、減弱
B 生薬
1基原
2修治
3品質
4四気・五味と薬能
5成分と薬理作用
C 方剤
1構成生薬と君臣佐使
2組み合わせの効果
3治方
4加減方と合方
5漢方薬の服用法と注意点
●コラム 適用外処方に際しての注意
D 剤形
1湯剤
2丸剤
3散剤
4エキス製剤
5外用剤
2 主な方剤群
A 桂枝(桂皮)を含む方剤群
1桂枝(桂皮)を含有する方剤の特徴
2主な方剤
3発展
B 麻黄を含む方剤群
1麻黄を含有する方剤の特徴
2主な方剤
3発展
C 柴胡を含む方剤群
1柴胡を含有する方剤の特徴
2主な方剤
3発展(柴胡剤、とくに小柴胡湯の合方)
●コラム 口苦、咽乾、目眩について
D 黄連を含む方剤群
1黄連を含有する方剤の特徴
2主な方剤
3発展
E 大黄を含む方剤群
1大黄を含有する方剤の特徴
2主な方剤
3発展
F 石膏を含む方剤群
1石膏を含有する方剤の特徴
2主な方剤
3発展
G 人参を含む方剤群
1人参を含有する方剤の特徴
2主な方剤
3発展
H 地黄を含む方剤群
1地黄を含有する方剤の特徴
2主な方剤
3発展
I 附子を含む方剤群
1附子を含有する方剤の特徴
2主な方剤
3発展
3 副作用
A 漢方における副作用
1漢方薬の安全性
2誤治、瞑眩と副作用の違い
3合方についての注意
B 臨床からみる副作用
1偽アルドステロン症
2間質性肺炎
3皮疹
4肝機能障害
5その他の副作用
C 生薬からみる副作用
D 特殊な病態に対する治療上の注意
1妊婦への投与
2透析患者への投与
E 西洋薬との相互作用
1併用禁忌、併用慎重、併用注意
2その他の相互作用
F その他の注意事項
1臨床検査値への影響
2薬剤リンパ球刺激試験(DLST)と漢方
●コラム 漢方薬の薬理作用
IV.症候からみる漢方
1 頭部
A 頭痛
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
B めまい・耳鳴り
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
C くしゃみ・鼻汁・鼻閉・後鼻漏
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
D 口腔内違和感
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
2 胸部
A かぜ症候群
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
B 遷延性咳嗽・慢性咳嗽、喀痰
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
C 喘鳴・呼吸困難
1疾患と治療の考え方
2漢方治療の適応となる病態と特徴
3方剤の選択
D 動悸・息切れ
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
3 腹部
A 食欲不振・悪心・嘔吐・胸やけ
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
B 便秘・下痢・腹痛・腹部膨満感
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
C 排尿異常
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
D 月経異常
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
4 四肢・関節・皮膚
A 浮腫
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
B 関節痛・神経痛
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
C 感覚障害・運動麻痺・不随意運動
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
D 湿疹・蕁麻疹・皮膚掻痒症
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
5 全身・精神
A 疲労・倦怠感
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
B 虚弱体質・冷え症
1虚弱体質
2冷え症
C 抑うつ状態・不安・不眠
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
D 認知症・異常行動
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
6 検査異常
A 代謝性疾患
1肥満
2糖尿病
3脂質異常症
B 腎・尿路系障害
1疾患と治療の考え方
2慢性腎炎・ネフローゼ症候群
3慢性腎不全・腎機能障害
4尿路感染症(膀胱炎様症状を含む)
5尿路結石
C 肝機能障害
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
D 貧血・出血傾向
1疾患と治療の考え方
2漢方における病態と特徴
3方剤の選択
●コラム がんと漢方
V.症例からみる漢方
1 頭部
A 頭痛
1頭痛
2頭重感
B めまい、耳鳴り
1めまい症
C くしゃみ・鼻汁・鼻炎・後鼻漏
1アレルギー性鼻炎
D 口腔内違和感
1舌痛症
2 胸部
A かぜ症候群、インフルエンザ
1かぜ症候群
2A型インフルエンザ
B 咳嗽、喀痰
1急性気管支炎
2非定型抗酸菌症
C 喘鳴、呼吸困難
1気管支喘息
D 動悸、息切れ
1拡張型心筋症
2胸痛、呼吸困難感
3 腹部
A 食欲不振、悪心、嘔吐、胸やけ
1慢性胃炎
2慢性胃炎
3胃がん術後
B 便秘、下痢、腹痛、腹部膨満感
1胆石症
2過敏性腸症候群
3潰瘍性大腸炎
4便秘症
C 排尿異常
1排尿困難・残尿感
2膀胱炎(再発性)
3夜尿症
D 月経異常
1更年期症候群
2月経困難症
3月経不順
4 四肢・関節・皮膚
A 浮腫
1ネフローゼ症候群
2下肢浮腫
B 関節痛、神経痛
1五十肩、腰痛症
2変形性膝関節症
3腰下肢痛
4脊柱管狭窄症
5関節リウマチ
C 感覚障害、運動不全、不随意運動
1脳血管障害後遺症
2脳血管性パーキンソニズム
3本態性振戦、頸部ジストニア
D 湿疹、蕁麻疹、皮膚掻痒感
1アトピー性皮膚炎
2アトピー性皮膚炎
3アトピー性皮膚炎
4尋常性座瘡
5ベーチェット病不全型
5 全身・精神
A 疲労、倦怠感
1全身倦怠感
2全身倦怠感
3全身倦怠感
4疲労倦怠感
B 虚弱体質、冷え症
1虚弱体質
2冷え症
3しもやけ
C 抑うつ状態、不安、不眠
1抑うつ状態
2不安神経症
3パニック障害
4不眠
D 認知症、異常行動
1認知症
VI.古典からみる漢方
VII.鍼灸
1 鍼灸医学総論
1鍼灸治療とは
2病態把握−−陰・陽、五行論と経絡・経穴
3治療原則としての虚・実、補・瀉
4治療上の経穴の選択・取穴
5鍼灸治療の道具 鍼・灸
6わが国における鍼灸治療の現状
7臨床的効果
8安全性、注意事項、禁忌
2 鍼灸医学各論
1治療対象および目標
2診察方法
3気・血
4鍼灸の刺激量
5鍼灸の適応
6疾患別使用経穴
●コラム 鍼灸の作用のメカニズム
社団法人 日本東洋医学会 倫理綱領
事項索引
方剤索引
本書は、社団法人日本東洋医学会が認定する専門医(漢方専門医)を養成するための研修カリキュラムに準拠したテキストであり、専門医試験を受験するために研修している医師を主たる対象としているが、専門医資格とは関係なく漢方医学を本格的に修得したいと考えている医療関係者に広く活用していただくことも可能である。
漢方専門医になるためには、本学会が定める研修施設で3年以上、漢方医学の臨床に修練を積むことが条件の一つになっている。この3年間の研修期間中に修得すべき漢方医学の診断・治療体系を、専門医研修カリキュラムに準拠しながら、第一線で活躍している先生方に執筆していただくことで本書が完成した。
本書の構成としては、学術教育委員会が既に刊行した『入門漢方医学』(南江堂)の内容に沿って、歴史、病態、方剤、症候、鍼灸を中心に編纂し直し、症例と古典を追加した。最も大きな変更点は、「疾患に対する漢方治療」を「症候に対する漢方治療」に改めたことと、症例ならびに古典を追加したことである。このことによって本学会が目指している専門医像(どのような疾患も漢方で総合的に診断・治療できる専門的知識と技能を備えた医師)が明確になるようにした。
本書の編集は社団法人日本東洋医学会学術教育委員会(喜多敏明担当理事、小暮敏明委員長)が行ったが、専門医制度委員会(三潴忠道担当理事、福澤素子委員長)や辞書編纂委員会(小曽戸洋担当理事、足立秀樹委員長)とも連携しながら作業を進めた。具体的には、専門医制度委員会が作成した漢方専門医研修カリキュラムとの整合性を重視し、漢方用語の統一と漢方医学の基本理論に関しては辞書編纂委員会の見解を尊重し、三委員会合同の会議を積み重ねながら学会としての編集方針を決めた。
漢方医学は臨床実践を重視した医学体系であり、用語や理論が一人歩きすることなく、臨床に裏打ちされた実証性の高いものでなければならない。しかし、臨床実践の経験を積めば積むほど、漢方医学に対する独自の考え方や手法がそこから創出し、様々な意見の対立や見解の相違が生まれ、現在に至っているというのが漢方医学の歴史でもある。したがって、本書で示した漢方医学の用語や理論についても、より論理的整合性の高いものに普遍化する努力を今後とも継続することが重要であると認識している。
そのような観点から本書を通読すると、執筆していただいた先生方それぞれの臨床経験に裏打ちされた独自性というものが、学会の編集方針によって大幅な加筆・修正を行った後も、随所に残されていることに気がつく。そのことで、テキスト全体の統一性がやや損なわれることを危惧するよりは、今後の発展的な議論に寄与することを期待したいと考えている。
2009年6月
社団法人日本東洋医学会
学術教育委員会担当理事 喜多敏明