3DワイヤリングPCI
Open VesselとCTOに対する3次元でのワイヤー操作への挑戦
著 | : 岡村篤徳 |
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ISBN | : 978-4-524-24694-6 |
発行年月 | : 2020年8月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 172 |
在庫
定価5,940円(本体5,400円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
慢性完全閉塞病変(CTO)に対するPCI手技は多くの施術者にとって難関の一つである。本書の著者が提唱する「3Dワイヤリング法」は、“PCI手技中のワイヤーの状態を3次元イメージする”ためのノウハウであり、その技法を身に付ければCTO病変を理論的に攻略できるように、またOpen vesselでもより根拠をもった施術が可能となる。針の穴に糸を通すように、管腔を立体的にとらえるPCI手技を開発者自身が解説する。
Chapter1 CTO PCIに対する3Dワイヤリング法
Section1 CTO PCIに対する3Dワイヤリング法への気づきとその体系化
3Dワイヤリング法への気づき
3Dワイヤリング法の確立にいたるまでの3ステップ
Section2 3Dワイヤリング法の概要と有効性
2Dワイヤリング法と3Dワイヤリング法
CTOに有効な3Dワイヤリング法
Section3 2Dと3Dワイヤリング法のワイヤー操作の基礎知識
3Dワイヤリングのために理解すべき2つのワイヤー操作
Advance with rotation
Advance after rotation
3Dではないワイヤー操作では
透視像から正確なワイヤー操作をするための2つのアプローチ
Chapter2 アンギオガイドでのCTO PCIに対する3Dワイヤリング法
Section1 アンギオガイドでの3Dイメージの構築法
3Dワイヤリング法を行うときに必要な2つのポイント
直交する透視の2方向からの3Dイメージの構築
Step:リアルタイムの3Dイメージ構築法
3Dイメージの構築のおさらい
Targetに関する追加事項(central ワイヤリング)
Section2 実臨床での2Dと3Dワイヤリング法の使い分け
実験モデルと実臨床での3Dワイヤリング法のギャップ
3Dワイヤリング法にはdirected advance with swingingもある
2Dと3Dワイヤリング法の選択
Position:CTOの部位によるワイヤリング法の使い分け
Section3 実臨床での3Dワイヤリング法の実際
Antegradeとretrogradeでの3Dワイヤリング法の適応
Antegradeアプローチでの3Dワイヤリング法の実際
Retrogradeアプローチでの3Dワイヤリング法の実際
Point:実臨床でアンギオガイド3Dワイヤリングを行うための工夫
症例提示
Chapter3 IVUSガイドでのCTO PCIに対する3Dワイヤリング法
Section1 AnteOwl WR IVUSの開発と基本構造
AnteOwl WR IVUSの開発
AnteOwl WR IVUSの基本構造とNavi-IVUSからの改良点
AnteOwl WR IVUS使用時の基本的な注意点
Section2 IVUSガイド3Dワイヤリング法の概要
3Dイメージ構築の2つのステップ
ステップ(1)IVUS イメージで見える真腔の位置情報を透視のイメージに移行する
Point:実行のポイント
ステップ(2)IVUSガイドの3Dイメージの構築と3Dワイヤリング法
Point:実行のポイント
Section3 IVUSガイド3Dワイヤリング法の実践時のポイント
IVUSガイドワイヤリングの可能性がある場合は8Frが望ましい
IVUSガイドワイヤリングまでの準備:CorsairブジーのみでCTO病変内にAnteOwl WR IVUSを進める/ダブルチェンバーカテーテルを使用して2ndワイヤーを進める
IVUSのイメージはHからC モードまでを使い分ける/AnteOwl WR IVUSによるtip detection法はFモードがよい
2ndワイヤーの選択と先端形状
IVUSガイドワイヤリングでの偽腔開大に対する対応
Tip detection法は第一と第二術者のシンクロが重要である
CTO病変内でtip detection法が有効な長軸の距離
長軸のどの位置から1st ワイヤーのルートから変位して2ndワイヤーを真腔へ進めるか
短軸方向でのtip detection法の理想的な2ndワイヤーの通過ルートの決定方法
長軸と短軸の理想的な2ndワイヤーの通過ルートを融合して,2ndワイヤーの通過ルートを3Dで認識する
Section4 AnteOwl WR IVUSガイド3Dワイヤリング法の症例提示
症例1
症例2
初期の手技成績
Chapter4 Open vesselでの3Dワイヤリング法
Section1 Open vesselでの2D/3Dワイヤリング法
筆者が以前に行っていたopen vesselでのワイヤー操作
3Dワイヤリング法はopen vesselでも必要な手技
Section2 Open vesselでの3Dワイヤリング法の実際
3Dワイヤリング法を行うために必要な技術と知識
冠動脈本管内の基本的なワイヤーの進め方
Case:3Dワイヤリング法でのopen vesselのワイヤーの進め方
3Dワイヤリング法での側枝の選択法
Case:側枝の3Dワイヤリング法
冠動脈別のワイヤーの進め方
付録:透視2方向での3Dイメージ構築の早見表
索引
序文
PCI手技の最も重要な部分はガイドワイヤーの操作であり、ワイヤー操作に関して多くの著書がある。しかし、筆者は15年のPCI経験を経た10年前においても、open vesselの治療でもワイヤー操作にしっくりしない感じがあり、とくにCTOに対しては正確なワイヤー操作ができていないと感じていた。正確なワイヤー操作の根底となる操作法とは何か、また、その確立が必要であると考えていた。この10年間で、試行錯誤を繰り返して、その答えとして、本書に記載した3Dワイヤリング法を考案し、ひとまずの完成に至った。アンギオガイドの3D ワイヤリング法は、最終targetの1cm手前から、sequential targetの概念で、ワイヤーを最終targetに正確に収束させる方法である。IVUS ガイドの3D ワイヤリング法は、AnteOwl WR IVUSによるtip detection法により、見たままにワイヤーを正確にtargetに誘導する方法である。確かに、実臨床の病変は多彩であり、この方法でうまくいかない状況もある。しかし、PCIの術者の根底に3Dワイヤリング法があることで、ワイヤー操作に対する迷いが軽減し、より適切な手技の組み立てが可能になると考えている。
日常の診療業務のなかから、この3D ワイヤリング法を確立するまでに、多くの先生方からのサポートをいただいた。私が、初めて心臓カテーテル検査を行ったのは1993年であり、桜橋渡辺病院に勤務していたときである。大石充先生(現鹿児島大学心臓血管・高血圧内科学教授)に厳しいながらも適切にご教授いただき、カテーテルの基礎を築くことができた。PCIのガイドワイヤーを初めて握ったのは1994年である。急性心筋梗塞の緊急カテーテル時で、中土義章先生(故人)が術者で、私が助手であった。突然、私にPCIのガイドワイヤーを渡されたが、震えてしまい思わずワイヤーを落としてしまった。怒られると思ったが、もう1本ワイヤーをくださり、手技を継続させていただき、中土先生の心の大きさに感動したことを鮮明に覚えている。当時のPCIグループの上司には藤井謙司先生(桜橋渡辺病院統轄顧問)と、東野順彦先生(現東宝塚さとう病院院長)がおられ、加藤修先生が2〜3年前までおられた雰囲気も強く残っており、熱い情熱のなかでcomplex PCIが試みられていた。
1996年に、所属医局である大阪大学第四内科(現老年・総合内科学)に帰局し、3年間の基礎・臨床研究と、2年間のカルフォルニア大学サンディエゴ校での基礎研究を行った。留学が終了し、再度、桜橋渡辺病院への勤務が決まったときに、当時の大学の直属の上司である楽木宏実先生(現大阪大学老年・総合内科学教授)から、“PCIで一人ひとりの方を助けるのは大切であるが、より多くの方が助けられるように、臨床研究は続けるように”とのお言葉をいただいた。
桜橋渡辺病院に戻ってからは、CCU管理とPCI治療を再開した。最初の5年間は、ただがむしゃらに頑張ったような感じであった。この間も、伊藤浩先生(現岡山大学循環器内科教授)から、臨床研究のご指導もいただき、研究を通じて新しい考えを構築することの重要性が徐々に理解できるようになった。12年ほど前に、SGという定期的な指導の場で、“先生のオリジナルの手技を開発して、ライブオペレーターとして呼ばれるようになりなさい”との言葉をいただいた。この言葉は強く印象に残った。そのときに考えたことは、応用しやすいが、すでに行われているような手技の変法ではなく、皆が困っているCTOの手技で、何か新しい手技を確立できないかということであった。当時は、加藤修先生がレトログレードアプローチを確立された頃であった。このためアンテグレードアプローチでの新しい手技の確立を考えた。まずIVUSでアンテグレードワイヤーの動きを正確に把握する必要があると考えた。最初の取り掛かりとして、テルモ社の協力を得て、CTOに使いやすいIVUSであるNavifocus WR IVUSの作製を行った。この後、このIVUSガイドでのワイヤーの動きを観察するうちに、3Dでのワイヤー操作の重要性に気づき、アンギオでの3Dワイヤリング法を確立した。さらに、3D ワイヤリング法をIVUS ガイドでも標準化するために、tip detection法考案と、AnteOwl WR IVUS(テルモ社)の開発へとつなげた。紆余曲折あり、ここまでに10年を要した。
とくに藤井謙司先生と岩倉克臣先生(桜橋渡辺病院副院長)からは、院内外でのたゆまぬサポートを、また、日々の臨床では、当院のPCI グループの医師と技師からの熱いサポートをいただいた。対外的には、5年ほど前から、吉川糧平先生(三田市民病院循環器内科部長)と、この手技の実践に関しての議論を多く行い、より深い方法論を構築することができた。また、大辻悟先生(東宝塚さとう病院副院長)、中村茂先生(京都桂病院副院長)、吉川先生と行わせていただいているATCという関西のCTO PCIの研修会でも3D ワイヤリング法を採用いただき、多くの若手の先生へ広めることができた。
このように、多くの先生方、関係者の方々のサポートがあり、本書の刊行に至りましたことを深く感謝いたします。
2020年6月
岡村篤徳
冠動脈疾患におけるステント治療が登場して30年が経ち、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)手技は初学者でも経験者に近い結果を出せるようになり臨床現場を大きく進歩させた。しかしながら、複雑病変のなかで最もハードルが高い慢性完全閉塞病変(CTO)の治療はいまだ簡単にはいかない。1980年台には、CTO治療の成功率は60%であり治療適応ではなかった。1990年台になるとCTO治療が行われるようになり、先人たちは「偽腔に入るとワイヤーがざらざらした動きになる」などと表現していた。当時初学者であった筆者には想像しかできず、実際に治療する機会もなく未知のことであった。加藤修先生(現 草津ハートセンター顧問)がCART法(Controlled Aantegrade and Retrograde Tracking)を発明したことで治療成績が約90%へと上昇し、広く行われるようになったが、本邦のレジストリーデータの解析では、順行性の成功率は上がっていないことが指摘された。CTO血管の中をどのようにワイヤーが進むのかという研究がされ、偽腔を拡大してしまうとワイヤーを支持する組織がなくなり、ワイヤーの軸がぶれることで先端を的確に誘導できなくなることがわかった。ワイヤーの操作は押す、引く、時計方向に回す、反時計方向に回すの4つの操作で行う。多くの術者は経験と感覚で操作を行ってきたが、これでは進めたいポイントにワイヤー先端を時計方向に90度回したほうが近いのに、反時計方向から270度回して組織の挫滅腔を広げてしまうといったことが生じ得る。そこで、このような無用の操作をなくすために本書の著者である桜橋渡辺病院の岡村篤徳先生が体系的に確立した方法が3Dワイヤリング法である。
2013年から、Retrograde Approach法を教えるための一泊二日のAdvanced Training Courseを筆者、大辻悟先生(東宝塚さとう病院)、岡村先生、吉川糧平先生(三田市民病院)で行っている。順行アプローチを指導しているとき岡村先生がワイヤーを回転させる方向を時計方向(右回転)、反時計方向(左回転)と的確に指示するのをみて、なぜそれがわかるのかを尋ねた。「ワイヤーはターゲットの後ろ前なのでカウンターです」。「何を言っている? なぜわかる?」と筆者は自分の理解のなさに動揺した。後日、筆者も岡村先生からトレーニングを受けたが、岡村先生の言っている意味はわかったが、実際にマスターするのには2年かかった。
本書で、最も重要な画像はp19の「図3-方法1」である。RAO 30度でみたときにガイドワイヤーのシャフトは黄色いtarget(ワイヤーを通過させるべき末梢血管腔)の左にある。先端チップは右を向いている。この状態でLAO 60度に振ったときに透視をみると、シャフトがtargetより後ろ、チップが前方向に向いている。ワイヤーの位置はターゲットに対して後ろ前である。立方体画面の上からの見下ろし図をみていただきたい。時計方向に回すと近いということがわかる。
3Dワイヤリングの基礎は64パターンある。本書にはその一覧が掲載されており(p143)、この図をみた瞬間に無理だと諦めてしまう方もいるのではないかと思われる。しかし、岡村先生も最初は64パターンの暗記から始めたそうである。中学生のとき読者の皆様も英単語カードを使った経験があると思う。同じように、64パターンを単語帳にしてトレーニングすると覚えられる(テルモ社が提供しているので利用していただきたい)。この理論、操作法がマスターできると、自信をもってワイヤー操作を行えるようになる。筆者は本法をマスターしたことで順行性の成功率が上がった。
本書はCTOでのワイヤー操作法を解説したものであり、CTO-PCIの基礎知識が必要である。この点も本書のなかで、先端造影の方法、透視条件の設定、IVUSの周波数の切り替え、ワイヤーの回し方、先端を的確に方向づけるにはコアーシャフトの太いワイヤーConquest 12gのレスポンスがよいこと、偽腔形成時の対処法など、さまざまなTipsが散りばめられているので参照していただきたい。一方で、難解な表現も一部含まれており、この点は今後の改善を期待したい。たとえば、p53の「振り子の動き」の表現は理解できなかったので、岡村先生に質問した。「冠動脈を2方向からみても中枢側と末梢側からみているだけで直行方向ではない」ということだそうである。冠動脈の直交2方向の角度はp55に記載されているのでこれを覚えていただきたい。
第3章には今後発展していくIVUSガイド3Dワイヤーリングについて書かれている。
本書の内容は理論ではなく真理である。2Dで行っているPCIに3Dの考え方を足していただきたい。本書を読み込んでいくうちにさらなる気づきが出てくるはずである。本書の内容が理解できるようになれば、CTO-PCIの技術はすでに上がっている。
臨床雑誌内科127巻3号(2021年3月号)より転載
評者●京都桂病院 副院長/心臓血管センター 所長 中村茂