書籍

腎臓リハビリテーションガイドライン

編集 : 日本腎臓リハビリテーション学会
ISBN : 978-4-524-24663-2
発行年月 : 2018年6月
判型 : A4
ページ数 : 100

在庫あり

定価2,420円(本体2,200円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

CKD患者に対する包括的アプローチとして注目度が高まっている腎臓リハビリテーションに関する、わが国初のガイドライン。「総論」では腎臓リハビリテーションに要する評価法や運動療法の実施法などを、「各論」では疾患や病期における腎臓リハビリテーションの実際について解説する。

1.主要略語一覧
2.重要用語の解説
3.一般向け解説文
<Part1>総論
1.ガイドライン作成の目的
2.腎臓リハビリテーションに要する評価法
 (1)評価法の実際
  (ア)腎機能の評価
  (イ)運動耐容能の評価
  (ウ)歩行機能評価,筋力評価
  (エ)栄養状態・サルコペニア・フレイルの評価
  (オ)ADL・QOLの評価
 (2)慢性腎臓病(CKD)患者への運動療法の実際
  (ア)運動療法の種類と実施方法
  (イ)CKD患者の運動療法(腎移植患者を含む)
  (ウ)透析患者の運動療法の標準プロトコール(透析時間以外)
  (エ)透析患者の運動療法の標準プロトコール(透析中)
<Part2>各論(ガイドライン本体)
3.腎炎・ネフローゼ症候群患者に対する腎臓リハビリテーション
 CQ1 糸球体腎炎患者に運動制限は推奨されるか?
 CQ2 ネフローゼ症候群における安静・運動制限は推奨されるか?
4.保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーション
 CQ3 保存期CKD患者に運動療法は推奨されるか?
5.血液透析患者に対する腎臓リハビリテーション
 CQ4 運動療法は透析患者において有用か?
6.腎移植患者に対する腎臓リハビリテーション
 CQ5 腎移植患者のフレイル・低身体活動性は予後に影響するか?
 CQ6 腎移植患者において運動療法は推奨されるか?
索引

はじめに

<腎臓リハビリテーションとは>
 日本の高齢者人口は今後も増え続け、未曾有の超高齢社会への突入が予想されている。2025年には最も人口の多い団塊の世代が75歳以上の高齢者となるため、高齢者を中心とした慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)や透析患者への対策は喫緊の課題である。CKD患者数は1,330万人、慢性腎不全透析人口は2015年末には32万人を超えるまでに増加した。日本の透析医療は世界一の水準にあり、40年以上の生存例など長期延命にも成功している一方で、新規導入透析患者の平均年齢は69.2歳、透析人口全体の平均年齢は67.9歳と年々高齢化しており、重複障害を有する割合も高くなっている。
 このようななかでCKD患者は、透析導入だけでなく脳卒中、心筋梗塞などの心血管疾患発症の危険性が極めて高く、またCKD発症の原因として、糖尿病、高血圧、動脈硬化症といった併存する生活習慣病が関連したものが多くなっている。さらに、透析患者には心血管疾患や感染症、悪性腫瘍などの疾患が合併し、透析導入年後の死亡率が30%を超え、一般人と比べるとその予後が極めて不良である。
 これまでCKD発症にいたる様々な原疾患の診断法と治療法については、新たな薬剤の開発と相まって様々なエビデンスに基づくガイドラインなどが示されてきた。しかしながら、CKDそのものについての治療法に比し、CKDの診療にかかわる医療者間の連携方法、そして何より、患者主体の療養方法を含めた包括的な治療法についての系統的な整理が不十分であった。このような背景のもと、2011年に日本腎臓リハビリテーション学会が設立された。リハビリテーションとは「能力低下および社会的不利をもたらすような状態の影響を軽減し、能力低下および社会的不利のある者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を包含している」とWHOにより規定されている。したがって、腎臓リハビリテーションは「腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポートなどを行う、長期にわたる包括的なプログラム」と定義できる。すなわち単なる運動療法を目的とするのでなく、すべての腎疾患患者の円滑な社会復帰を支えるためにあらゆる治療、サポートを行うことが本来の形である。
<本ガイドライン作成の経緯>
 日本腎臓リハビリテーション学会のこれまでの順調な発展と合わせ、2012年に「腎臓リハビリテーション」(上月正博 編著)が刊行され(2018年改訂)、また、本学会ホームページ上には、2016年に「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」(日本腎臓リハビリテーション学会作成)が示され、さらに2016年度からは進行した糖尿病性腎症に対する運動指導の評価として「糖尿病透析予防指導管理料腎不全期患者指導加算」が診療報酬として認められ、2018年度からはその対象がCKD ステージG3b以降に拡大された。このような流れのなかで、医療としての腎臓リハビリテーションの位置づけを明確にし、患者予後、QOL、満足度を最大化する医療を提供するための診療ガイドラインの作成を検討する時期が到来した。海外から出されたいくつかのCKDに対するガイドラインでは、透析患者や保存期CKD患者における運動療法の定期的施行が推奨されているが、その記載が十分なものとは言い難い。そこで十分な科学的根拠に基づいた「腎臓リハビリテーション」指針が日本から発信されることが待たれており、腎臓リハビリテーションガイドライン作成委員会を設け、本ガイドライン作成にいたった。
 本ガイドラインは腎臓リハビリテーション医療の質、安全性と有効性、およびその提供を最適化することを目的としたものである。対象としては、糸球体腎炎・ネフローゼ症候群患者、保存期CKD患者、血液透析患者、腎移植患者とした。腎臓リハビリテーションを構成する項目のなかでは、特に運動療法は、包括的なプログラムの根幹となるものであり、実施するにあたり具体的なマニュアルの作成が強く求められてきた。したがって、本ガイドラインでは、研究報告が比較的多い運動療法についてのエビデンスを中心にレビューした。また、腎臓リハビリテーションのプログラムは、患者の医学的、栄養学的、心理社会学的、教育的、職業上のすべての側面を評価することから始まることから、本書前半の総論には、各種評価の方法や標準的な運動療法プロトコールについて概説を加えた。診療ガイドラインの作成方法も時代とともに大きく変わってきており、本ガイドラインについても、「Minds診療ガイドライン作成の手引き2014」に則り、エビデンスのシステマティックレビュー、患者ケアの最適化を意図した推奨文の作成、ガイドラインの質保証としてのQuality Indicatorの利用、ガイドライン作成への患者参加などにも留意した。
<本ガイドラインの対象と到達目標>
 本ガイドラインの対象となる患者は、腎代替療法を受ける患者を含めたすべてのステージのCKD患者である。また本ガイドラインの読者・利用者は、CKD患者に接する医師・すべての医療従事者および患者、ならびに患者の家族を読者対象とし、作成することを基本方針とした。すなわち、腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ、一人でも多くの患者がより健康的な生活を送れるように、また、かかりつけ医、腎臓内科医、透析医、リハビリテーション科医、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、栄養士、保健師、薬剤師、臨床工学技士などの医療従事者が活用できる内容として示した。
 本ガイドラインに基づいた診療を実施するためには、既存のCKDや生活習慣病に関するガイドラインにおける治療法を理解したうえで、CKDの治療に包括的にあたることが必要であり、その結果、CKD患者のQOLの保持、腎予後、生命予後の改善、さらには入院期間の短縮による医療費抑制へとつながるであろう。
<作成体制と作成手順>
 ガイドライン作成委員会は、日本腎臓リハビリテーション学会内に設置され、そのメンバーは腎臓専門医・透析専門医・移植専門医・リハビリテーション科専門医・栄養学専門家・ガイドライン専門家・看護師・理学療法士および患者代表を含む幅広い有識者によって構成された。本学会理事長および理事2名によるガイドライン統括委員会を設置し、委員長をガイドライン作成委員長が務めた。ガイドライン作成の進行管理、メンバー間の連絡、会議の日程調整などを担当するガイドライン作成事務局を設置した。
 ガイドラインの総論部は、ガイドライン統括委員会の合議のうえ、各分野のエキスパートに執筆を依頼した。各腎疾患の病態に合わせたClinical Question(CQ)を作成する必要性から、各論部は腎炎ネフローゼ・CKD・透析療法・腎移植の4グループを組織し、グループごとにDelphi法などを用いてCQを策定した。エビデンスを網羅的に評価するシステマティックレビュー(SR)は非常に膨大な作業であることから、各グループリーダーが意欲ある若手主体のSR member teamを編成し、PubMedおよび医中誌を用いて文献検索を行った。検索式は、運動療法の介入に関しては共通化し、患者対象についてはグループ独自のものを用いた。各論文のエビデンス評価はMindsに則り、複数のメンバーが独立して一次評価を行い、その結果をもとにグループリーダー・サブリーダーが合議して二次評価を行い、委員会の合議により最終決定を行う多段階評価方式とした。特に推奨度の決定に際しては患者代表および多職種の代表によるコンセンサス会議によって決定した。また、ガイドライン作成に関するアドバイスを南郷栄秀先生(東京北医療センター)・湯浅秀道先生(豊橋医療センター)・片岡裕貴先生(尼崎総合医療センター)から得た。このように、本ガイドラインは多くの作成委員・SR memberの多大なボランティア作業によって作成された。ここに改めて謝意を表する。
 ガイドライン作成委員会は次頁に記載の日程で開催されたが、その他にもグループ内および全体メール会議を頻繁に行った。2018年1月から2月の間に各章2名ずつの指定査読者による査読、およびその後、関連・協力学会に査読を依頼し、6学会・協会から期日までに査読コメントを得た。さらに、2018年3月17〜18日に開催された第8回日本腎臓リハビリテーション学会総会(上月正博会長)にて特別企画を設けるとともに、日本腎臓リハビリテーション学会会員からも広くコメントを求めた(パブリック・コメント)。この査読意見とパブリック・コメントに基づき、適宜修正を行い最終原稿を作成した。本ガイドラインとそのSR作業結果、査読意見およびパブリック・コメントに対する回答は、日本腎臓リハビリテーション学会より個別に送付するとともに、必要に応じてホームページに公開する予定である。
<委員会開催日程と開催地>
2016年3月26日 理事会にてガイドライン作成の基本方針が決定 岡山コンベンションセンター
2016年6月18日 第1回ガイドライン作成委員会 横浜ベイホテル東急
2016年11月26日 第2回ガイドライン作成委員会 パシフィコ横浜
2017年2月19日 第3回ガイドライン作成委員会 つくば国際会議場
2017年5月28日 第4回ガイドライン作成委員会 アークホテル仙台青葉通り
2017年8月26日 第5回ガイドライン作成委員会 ホテル東京ガーデンパレス
2017年10月23日 ガイドライン作成委員会パネル会議 フラクシア東京
2017年10月29日 第6回ガイドライン作成委員会 パシフィコ横浜
2017年11月25日 第7回ガイドライン作成委員会 フラクシア東京
<本書の構成>
 本ガイドラインは、腎臓リハビリテーション全般ならびに、運動療法に関する評価と実践法などの総論と、腎炎・ネフローゼ、保存期、透析期、腎移植後の各論4つのテーマから構成され、それぞれの包括治療としての腎臓リハビリテーションに関しての概要が示されたうえで、各論テーマごとに1〜2つのCQとその推奨の強さ、推奨文、解説文、文献検索結果、参考文献が記載されている。なお構造化抄録については日本腎臓リハビリテーション学会のホームページ上にその記載があるので参照されたい。
<アウトカム全般のエビデンスの強さおよび推奨の強さ>
 「Minds ガイドライン作成の手引き2014」に準じて、アウトカム全般に関する全体的なエビデンスレベルと推奨グレードは以下の基準に基づき決定した。エビデンス総体の強さは各グループ内にて合議にて決定し、委員会にて修正・承認を行った。推奨の強さは患者代表、多職種代表からなるパネル会議で合議したうえで決定した。
 エビデンスレベル
  I システマティックレビューやランダム化比較試験のメタアナリシス
  II ランダム化比較試験
  III 非ランダム化比較試験、ランダム化比較試験のサブ解析・後付け解析
  IVa 疫学研究(コホート研究、コホート研究のメタアナリシス)
  IVb 疫学研究(症例対照研究、横断研究)
  V 記述研究(症例報告やケースシリーズ)
  VI 専門委員会や専門家の意見
 エビデンス総体のエビデンスの強さ
  A(強):効果の推定値に強く確信がある
  B(中):効果の推定値に中程度の確信がある
  C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である
  D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない
   (Minds診療ガイドライン作成の手引き2014)
 推奨の強さ
  1(強い):「実施する」または、「実施しない」ことを推奨する
  2(弱い):「実施する」または、「実施しない」ことを提案する
   (Minds診療ガイドライン作成の手引き2014)
<資金源と利益相反>
 本書の作成のための資金はすべて日本腎臓リハビリテーション学会が負担した。この資金は、委員会のための交通費・会場費・通信費・弁当費・飲料費に使用され、作成委員に報酬は支払われていない。
 日本内科学会および関連学会の「臨床研究の利益相反(COI)に関する共通指針」に基づき、SR memberを含めた全作成委員にCOIに関する申告書の提出を求め、診療ガイドライン作成に支障がないことを確認した。利益相反の存在がガイドラインの内容に影響を及ぼすことがないように、複数の査読委員やパブリック・コメントを通じて意見を求めた。
<今後の予定>
1.診療ガイドラインの広報
 本ガイドラインを学会ホームページに掲載するとともに書籍として刊行(南江堂)する。また、本学会英文機関誌であるRenal Replacement Therapy誌(Bio Med Central社)に英語版(ダイジェスト版)を掲載する。また、各グループSR作業のメタアナリシス結果は随時英文誌に投稿する予定である。
2.本ガイドラインの実践・遵守状況の評価
 今回作成したガイドラインに対して、実際の診療現場でどのくらい実践され、診療の向上に寄与しているのかを、医療の質を評価するQuality Indicator(QI)指標をもとにその実施・遵守状況の評価を行う予定である。
3.今後必要となるエビデンスの確立へ向けた方略
 ガイドラインの検証やシステマティックレビューを進めることにより、新たなエビデンスの集積に向けて疫学的見地、医療経済面から臨床研究を含めた検証を実施していく。
4.改訂の予定
 今後は上記のガイドラインの実践・遵守状況の評価や新たに得られたエビデンスを反映させ、およそ5年後を目安として改訂を行う予定である。

 人口高齢化に伴う患者数の増加と心血管病をはじめとする健康状態への影響の大きさという観点から、今や国民病として広く認識されるようになった慢性腎臓病(CKD)に対して、10年ぶりに日本腎臓学会、日本透析医学会、日本医師会、患者団体および関連学会などで構成される“腎疾患対策検討会”が開催され、今後のCKD対策の方針が改定された(平成30年7月)。また、平成28年度に認められた「糖尿病透析予防指導管理料腎不全期患者指導加算」は、平成30年度からCKDG3bまで対象が拡大された。さらに平成30年度から、「腎臓病療養指導士制度」が創設されるなど、今まで個別かつ経験的に行われてきたCKD患者に対する医療の提供体制が、さまざまな面から見直され、政策的にも整ってきたといえる。
 一方CKDは患者数が多いため、腎臓専門医療機関のみで診療を行うことは困難である。軽症のうちは、血圧、血糖の管理や減塩指導などの一般的な内科診療が中心であるが、重症化すると、合併症予防や最適な腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)の選択や準備など、専門性の高い診療が必要となる。そのため、メディカルスタッフなどの協力のもと、患者やその家族に対する啓発や個別の指導などを重症度に応じて行うことにより、効果的かつ効率的な診療ができるであろう。
 その意味で、腎臓リハビリテーション、すなわち“CKD各ステージにおいて、すべての腎臓病患者さんの円滑な社会復帰、日常生活を支えるために、運動療法、食事療法、薬物療法、心理的サポートなどのあらゆる手段で支援する、長期的かつ包括的なプログラム”が、今回初めて定義され、現在の知見が記述された意義はきわめて大きい。とくに、CKD患者に対する運動処方について、その評価やリスク管理に関する基本的な考え方だけでなく、より具体性をもって実際の写真も例示されている点は、本書の特徴の一つである。
 CKD対策に多職種連携が必要なことは述べるまでもないが、それを確実に充実させるためには、職種を越えた共通の目的意識と病態理解、そして標準的な手段の提示が不可欠である。本ガイドラインはその意味でも大きな役割を果たすことであろう。
 一方、現在得られるエビデンスが必ずしも十分ではない部分もある。最も大きな課題の一つは、運動をはじめとする腎臓リハビリテーションが患者の生命予後や腎機能にどのような影響をもつかという点であろう。また、そのメカニズム自体も重要な意味があるかもしれない。本ガイドラインが多くの関係者に活用されることによって、現在の腎臓病患者さんの診療を支援するだけでなく、さらなる新たなエビデンスの創出と将来のCKD診療の進歩に貢献することが期待される。

臨床雑誌内科123巻3号(2019年3月号)より転載
評者●新潟大学医歯学総合研究科腎研究センター腎・膠原病内科学教授 成田一衛

9784524246632