脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018
監修 | : 日本神経学会 |
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編集 | : 「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会 |
ISBN | : 978-4-524-24617-5 |
発行年月 | : 2018年6月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 298 |
在庫
定価5,500円(本体5,000円 + 税)
正誤表
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2024年12月04日
第1〜2刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本神経学会監修による、エビデンスに基づいた脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン。疫学、病態、検査、診断、治療、リハビリテーションなどの診療上問題となるクリニカルクエスチョン(CQ)に対して明確に回答し、治療においては一部のCQでは推奨グレードを明記し対応の指針を示している。
1.総論
(1)定義
CQ1-1 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症とはどのような疾患か
(2)分類
a.遺伝性脊髄小脳変性症
CQ1-2 脊髄小脳変性症のなかで遺伝する疾患の遺伝様式にはどのようなものがあるか
CQ1-3 常染色体優性遺伝をきたす脊髄小脳変性症にはどのような疾患があるか
CQ1-4 常染色体劣性遺伝をきたす脊髄小脳変性症にはどのような疾患があるか
CQ1-5 X連鎖性脊髄小脳変性症にはどのような疾患があるか
b.孤発性脊髄小脳変性症
CQ1-6 孤発性脊髄小脳変性症にはどのような疾患があるか
CQ1-7 多系統萎縮症とはどのような疾患か
CQ1-8 皮質性小脳萎縮症とはどのような疾患か
c.(遺伝性)痙性対麻痺
CQ1-9 痙性対麻痺とはどのような疾患か
(3)全体の疫学
CQ1-10 有病率,孤発性/家族性の割合はどのくらいか
CQ1-11 日本において頻度の高い疾患は何か
2.各論
(1)AD-SCD
a.臨床像
CQ2-1 AD-SCDの臨床症状にはどのようなものがあるか
b.病因・病態
CQ2-2 病因・病態はどのようなものか
c.診断・鑑別診断
CQ2-3 できる限り正確に臨床診断するにはどうしたらよいか
d.予後
CQ2-4 病型ごとにどのように予後を予測し,説明をすべきか
e.MJD/SCA3
CQ2-5 どのような症候をみたときにMJD/SCA3を疑うか
f.SCA6
CQ2-6 SCA6の特徴的な症候は何か
g.DRPLA
CQ2-7 DRPLAの特徴は何か
h.SCA31
CQ2-8 SCA31の特徴は何か
i.その他のAD-SCD
CQ2-9 他のAD-SCDではどのような疾患を注意すべきか
(2)AR-SCD・X-linked SCD
a.臨床像
CQ2-10 AR-SCD,X-linked SCDの臨床症状にはどのようなものがあるか
b.病因・病態
CQ2-11 病因・病態はどのようなものか
c.診断・鑑別診断
CQ2-12 遺伝子検査以外の検査で,鑑別診断につながる検査はあるか
d.予後
CQ2-13 どのように進行するか
e.EAOH/AOA1
CQ2-14 EAOH/AOA1およびAOA2の臨床・治療で気をつけることはあるか
f.ビタミンE単独欠損性運動失調症
CQ2-15 ビタミンE単独欠損性運動失調症の臨床・治療で気をつけることはあるか
g.FXTAS
CQ2-16 FXTASの臨床・治療で気をつけることはあるか
(3)MSA
a.臨床像
CQ2-17 多系統萎縮症の臨床症候にはどのようなものがあるか
b.病因・病態
CQ2-18 多系統萎縮症の病態に関連する因子はあるか
c.診断・鑑別診断
CQ2-19 多系統萎縮症の診断基準にはどのようなものがあるか
CQ2-20 多系統萎縮症の診断に自律神経検査の意義はあるか
CQ2-21 多系統萎縮症の診断に画像検査の意義はあるか
d.予後
CQ2-22 多系統萎縮症の進行の速さはどのくらいか
CQ2-23 多系統萎縮症の呼吸障害にはどのような特徴があるか
CQ2-24 多系統萎縮症の突然死の原因と予防法にはどのようなものがあるか
(4)CCA
a.臨床像
CQ2-25 CCAには小脳外症状・症候はみられるか
b.病因・病態
CQ2-26 臨床的にはどのようにして孤発性と判断するか
CQ2-27 孤発性失調症に対して,遺伝学的検査をして既知の遺伝性脊髄小脳変性症と判明する割合はどのくらいか
c.診断・鑑別診断
CQ2-28 CCAと鑑別すべき疾患はどのようなものがあるか
d.予後
CQ2-29 多系統萎縮症(MSA-C)と比べて予後はどうか
(5)遺伝性痙性対麻痺
a.臨床像
CQ2-30 遺伝性痙性対麻痺にはどのようなものがあるか
CQ2-31 純粋型と複合型はどのように区別されるか
b.病因・病態
CQ2-32 どのような病因遺伝子があるか
CQ2-33 遺伝子型と臨床像に相関はあるか
c.診断・鑑別診断
CQ2-34 診断・鑑別診断はどのように行うか
CQ2-35 JASPACとは何か
d.治療・予後
CQ2-36 薬物治療にはどのようなものがあるか
CQ2-37 どのような経過をたどるか
e.SPG4
CQ2-38 SPG4とはどのような病気か
f.SPG11
CQ2-39 SPG11とはどのような病気か
(6)その他の失調症
a.ミトコンドリア病
CQ2-40 ミトコンドリア異常による失調症の特徴は何か
b.反復発作性運動失調症
CQ2-41 反復発作性運動失調症の特徴は何か
c.小脳低形成症
CQ2-42 小脳低形成はどのような疾病か
3.臨床症状・徴候
(1)運動失調症候
CQ3-1 運動失調とはどのような症候か
CQ3-2 運動失調の重症度評価にはどのようなものがあるか
a.小脳性失調
CQ3-3 小脳の障害による運動失調とはどのような症候か
b.深部感覚性失調
CQ3-4 深部感覚の障害による運動失調とはどのような症候か
c.前庭性失調
CQ3-5 前庭障害による運動失調とはどのような症候か
(2)錐体路症候
CQ3-6 脊髄小脳変性症において錐体路徴候が目立つ場合,どのような疾患を考えるか
(3)錐体外路症候
a.パーキンソン症候
CQ3-7 脊髄小脳変性症においてパーキンソン徴候が目立つ場合,どのような疾患を考えるか
b.不随意運動
CQ3-8 脊髄小脳変性症における不随意運動にはどのようなものがあるか
(4)自律神経症候
CQ3-9 脊髄小脳変性症において認められる自律神経症候にはどのようなものがあるか
(5)認知機能障害
CQ3-10 脊髄小脳変性症における認知機能障害の内容とそれが目立つ疾患は何か
(6)末梢神経障害
CQ3-11 脊髄小脳変性症において末梢神経障害が目立つ場合,どのような疾患を考えるか
(7)眼球運動障害
CQ3-12 脊髄小脳変性症において認められる眼球運動障害にはどのような特徴があるか.またその特徴によってどのような疾患を考えるか
(8)精神症候
CQ3-13 脊髄小脳変性症において精神症候が目立つ場合,どのような疾患を考えるか
4.検査
(1)血液・髄液検査
CQ4-1 小脳失調症の鑑別にどのような血液・髄液検査を提出すべきか
(2)画像検査
a.MRI
CQ4-2 小脳失調症と病型毎のMRI所見はどのようなものか
CQ4-3 hot cross bun signがあれば,MSA-Cとしてよいか
CQ4-4 MRS検査は有用か
b.その他の画像検査
CQ4-5 SPECT検査は有効か.病型別のSPECT検査の特徴は何か
CQ4-6 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の鑑別にMIBG心筋シンチグラフィーは必要か
(3)神経生理検査
CQ4-7 電気生理学的検査の意義と有用性は何か
(4)神経眼科・神経耳科検査
CQ4-8 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の診断に神経眼科および神経耳科検査は役立つか
(5)自律神経検査
CQ4-9 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の診断に自律神経検査は役立つか
(6)遺伝カウンセリング・遺伝子検査
CQ4-10 脊髄小脳変性症の遺伝子診断はどのように進めればよいか
CQ4-11 痙性対麻痺の遺伝子検査はどのように進めればよいか
CQ4-12 遺伝子検査を行う際のインフォームドコンセントはどのように取得すればよいか
CQ4-13 脊髄小脳変性症,痙性対麻痺の遺伝学的検査はどこで実施しているか
CQ4-14 明らかな家族歴がある場合,遺伝学的検査で病型が判明する割合はどのくらいか
CQ4-15 脊髄小脳変性症ではどの程度に表現促進現象がみられるか
CQ4-16 遺伝性脊髄小脳変性症の浸透率はどのくらいか
CQ4-17 脊髄小脳変性症の発症前診断は可能か
CQ4-18 日本では遺伝子診断に関して,生命保険に加入する場合の告知義務があるか
(7)その他の検査
CQ4-19 運動失調症の嚥下・呼吸・睡眠障害の検査にはどのようなものがあるか
5.診断と鑑別診断
CQ5-1 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の鑑別疾患にはどのようなものがあるか
CQ5-2 症候性(二次性)の小脳性運動失調症にはどのようなものがあるか
6.治療・ケア
(1)病態修飾治療(遺伝子治療,再生医療を含む)
CQ6-1 小脳失調症に対する病態修飾治療はどこまで進んでいるか
CQ6-2 小脳失調症に対する治験情報はどのように得られるか
CQ6-3 遺伝子治療や核酸治療はどこまで進んでいるのか(小脳失調症における展望について)
CQ6-4 再生医療はどこまで進んでいるのか(小脳失調症における展望について)
(2)脳刺激治療
CQ6-5 運動失調に対して,経頭蓋磁気刺激治療は有効か
CQ6-6 運動失調に対して,脳深部刺激療法(DBS)は有効か
(3)症状改善治療
a.運動失調症候
CQ6-7 運動失調の対症療法にはどのようなものがあるか
b.錐体路症候
CQ6-8 脊髄小脳変性症の痙縮の対症療法にはどのようなものがあるか
c.錐体外路症候
CQ6-9 パーキンソン症候の対症療法にはどのようなものがあるか
CQ6-10 不随意運動の対症療法にはどのようなものがあるか
d.自律神経症候
CQ6-11 起立性低血圧の対症療法にはどのようなものがあるか
CQ6-12 食事性低血圧の対症療法にはどのようなものがあるか
CQ6-13 直腸障害の対症療法にはどのようなものがあるか
CQ6-14 神経因性膀胱の対症療法にはどのようなものがあるか
CQ6-15 性的機能障害の対症療法にはどのようなものがあるか
CQ6-16 発汗障害の対症療法にはどのようなものがあるか
e.嚥下障害
CQ6-17 嚥下障害の対症療法はいつ・どのように行うのか
f.呼吸障害
CQ6-18 呼吸機能障害の対症療法はいつ・どのように行うのか
g.睡眠障害
CQ6-19 睡眠障害の種類と対症療法にはどのようなものがあるか
h.認知機能障害
CQ6-20 認知機能障害の対症療法にはどのようなものがあるか
i.末梢神経障害
CQ6-21 末梢神経障害の対症療法にはどのようなものがあるか
j.精神症候
CQ6-22 脊髄小脳変性症において認められるうつ状態にはどのように対応したらよいか
(4)合併症予防・治療
a.誤嚥性肺炎
CQ6-23 誤嚥性肺炎の予防にはどのような方法があるか
b.褥瘡
CQ6-24 褥瘡の予防と治療にはどのような方法があるか
c.転倒予防
CQ6-25 転倒・骨折の予防にはどのような方法があるか
d.コミュニケーション障害
CQ6-26 コミュニケーションを補助する手段や機器にはどのような方法があるか,その導入時期はいつか
7.リハビリテーション・福祉サービス
(1)リハビリテーション
a.理学療法
CQ7-1 理学療法としてどのような練習を行うのがよいか,その効果は
b.作業療法
CQ7-2 作業療法としてどのような練習を行うのがよいか,その効果は
c.言語聴覚療法
CQ7-3 言語聴覚療法としてどのような練習を行うのがよいか,その効果は
d.摂食嚥下療法
CQ7-4 摂食嚥下療法としてどのような練習を行うのがよいか,その効果は
(2)福祉サービス
a.指定難病
CQ7-5 特定医療費(指定難病)支給認定で受けられるサービスにはどのようなものがあるか
b.障害者総合支援法
CQ7-6 障害者総合支援法により受けられるサービスにはどのようなものがあるか
c.介護保険
CQ7-7 要介護認定で受けられるサービスにはどのようなものがあるか
d.就労支援
CQ7-8 指定難病対象患者に対する就労支援にはどのようなものがあるか
e.障害年金
CQ7-9 受給可能な公的年金にはどのようなものがあるか
索引
序
脊髄小脳変性症と多系統萎縮症は神経内科医にはよく知られているが、患者数は全体で約3万人と稀少疾患の範疇に入り、一般的には必ずしもポピュラーではない。特に脊髄小脳変性症は脊髄や小脳を中心とする多くの変性疾患の総称であり、そこに含まれる個々の疾患に至ってはもっとまれであるため、ほとんど知られていないと言っても過言ではない。特徴のひとつは、非常に多数の遺伝性疾患が含まれることであり、他の神経変性疾患で遺伝性のものの比率は10%未満であるが、脊髄小脳変性症では約30%と極めて高い。孤発性疾患としては多系統萎縮症と皮質性小脳萎縮症であり、前者はひとつの疾患単位であるが、後者は複数の疾患が含まれると考えられている。さらに両側の錐体路の変性は痙性対麻痺と呼ばれるが、日本では行政的に脊髄小脳変性症に含まれている。
これらの疾病の進行を止める根本的な治療薬、あるいは治療効果が明瞭に実感できる運動失調症の対症治療薬の開発はまだまだこれからであり、本ガイドラインでは、治療のみならず病態の理解や診断に関しても多くのページを割いている。また、ほぼ運動失調症候のみを呈する疾患の他に、多彩な症状、徴候を呈する疾患も多いため、これらの疾患に含まれるほぼすべての症候を網羅した。欧米のガイドラインが運動失調症について記載していることと対照的である。
本ガイドラインが、脊髄小脳変性症や多系統萎縮症を少しでも身近に感じていただくこと、そしてその日々の診療に少しでもお役に立てば幸いである。
2018年5月
「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会委員長
水澤英洋
日本神経学会が2002年から発刊してきた主要な神経疾患の診療ガイドラインは15件となった。今回の「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018」も、日本医療機能評価機構の「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」や世界標準となっているGRADEシステムを採用している。各章のタイトルが具体的なクリニカルクエスチョンになっているのは、これまでのシリーズと同じであるが、実用的でわかりやすい。必要に応じて開けば、適切かつ妥当な臨床判断に役立つことは間違いない。
本書は総論から始まり、各論、臨床症状・徴候、検査、診断と鑑別診断、治療・ケア、リハビリテーション・福祉サービス、と展開する。それぞれの章に最大で42項目のクリニカルクエスチョンが示され、たとえば「病型ごとにどのように予後を予測し、説明をすべきか」では、「進行が緩徐である」という回答の背景・目的や解説・エビデンス、文献、二次資料などが懇切丁寧に示されている。用語の使い方も統一されていてわかりやすい。
脊髄小脳変性症はこれまで、病理学的な病変分布に基づく小脳型、小脳・脳幹型、脳幹・脊髄型の3型の分類や、遺伝を考慮した遺伝性、孤発性、続発性などの分類が用いられてきた。現在、脊髄小脳失調症というように臨床症候で表現する傾向であるという。遺伝子が次々と明らかになって遺伝子診断が第一と考えたり、臨床症候だけから診断するのが難しく、経過をみなければ診断できないと感じたこともあった。私自身、担当した脊髄小脳変性症の患者さんの病名がいろいろ変わり、他の診療科の同僚から説明を求められ、返答に苦慮した経験がある。
本ガイドラインでは、疾患の原著も参照して病名の歴史的経緯を振り返り、診断について記載している。孤発性失調症の疾患概念図をみると、やはり診断は難しいなと感じさせられる。遺伝性痙性対麻痺の診断基準が表で示されているが、日本でつくられ有用性と妥当性が高く評価されている診断基準である。
一読すると頭のなかはかなり整理されるものの、やはり膨大な病名・病型・症候があり、複雑で難しいとも感じざるを得ない。拡大鏡が必要なほどの小さな字でびっしり1ページ、ときに3ページにわたり示されている疾患、症状、病因蛋白の機能、病因遺伝子、萎縮症の評価尺度などの表は大変有用な必要情報であるものの、尻込みしそうになるのも否定できない。本書には、必要情報は漏らすことなくすべて記載しようという、作成スタッフの執念と覚悟を感じた。
また、抗痙縮薬治療についての丁寧な説明やMSAの画像所見の記載には、実際に臨床の現場で経験する悩みも取り上げられていると感じた。
もう少しページを割いてほしかったのは、遺伝子検査についてのインフォームド・コンセント、カウンセリング、発症前診断などについての記載である。主治医にも迷い、悩みがある。現状ではカウンセリングがどこでも容易に受けられるわけではなく、問題はまだまだ多いからである。
各章が1〜2ページで完結しており、解説も短く簡潔明瞭で、あっという間に読めるので、一読することをお勧めする。神経内科医のみならず、他科の医師、看護師、リハビリテーションスタッフ、介護職員などにも必要な情報が少なくないと思う。
このガイドラインは、長期にわたる厚生労働省の小脳失調症に関連する班会議の努力と、患者さんとそのご家族のご協力の賜物であることを忘れてはならないと思いつつ、発刊を心より喜ぶものである。
臨床雑誌内科123巻5号(2019年5月号)より転載
評者●玄々堂君津病院神経内科/リハビリテーション科 清水夏繪