PICOから始める医学文献検索のすすめ
編集 | : 小島原典子/河合富士美 |
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ISBN | : 978-4-524-24579-6 |
発行年月 | : 2019年2月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 152 |
在庫
定価3,300円(本体3,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
ガイドライン作成における文献検索の専門家が、効率的かつ精度の高い文献検索の方法を実際の手順に沿って分かりやすく解説。ガイドライン作成はもちろん、日々の論文執筆・日常診療においても「PICO」モデルを用いて臨床課題を解きほぐした文献検索を的確に行う方法を伝授。EBMを使いこなす知識を身につけたい読者に最適の実用書。
PICOによる文献検索のすすめ−本書の使い方に代えて
I 基礎編:特異度を優先した絞り込み検索
A.文献検索の基本的考え方
1.文献検索とは
2.保健医療分野の情報源と文献データベース
3.キーワードとシソーラス
4.文献検索の基本的流れ
5.検索結果と検索式の保存
B.PICOとクリニカルクエスチョン(CQ)
1.Pの設定
2.I/Cの設定
3.Oの設定
4.PICOの構成要素からCQを作成
5.PICOの成分を用いたキーワードの選定
C.効率的な文献検索:日常の疑問を解決する
1.特定の文献を探す
2.臨床上の疑問の答えを素早く探す
3.Clinical Queries
D.臨床研究・看護研究のための文献検索:発表・投稿に活用する
1.文献検索の目的
2.シソーラスとフリータームを組み合わせた検索
3.目的別検索(治療・診断・害・予後)
E.データベースの選択と活用法
1.医中誌Web
2.PubMed
3.JMEDPlus
4.The Cochrane Library
5.CINAHL
6.EMBASE
7.その他
F.よくある質問
Q1.医学文献データベースとは何ですか?
Q2.検索結果のダウンロードとは何ですか?
Q3.エビデンスとは何ですか?
II 発展編:診療ガイドラインのための文献検索
A.診療ガイドライン作成における文献検索
1.クリニカルクエスチョン(CQ)
2.医学文献データベース
3.文献検索専門家とシステマティックレビュー担当者の共同作業
4.系統的文献検索の戦略
5.文献の選定と検索記録
6.システマティックレビューのための客観的文献検索法
B.診療ガイドライン作成における文献検索の実際
1.スコーピングサーチ
2.網羅的検索と効率的検索
3.推奨作成のためのエビデンスの収集
C.診療ガイドライン作成グループからいただいた質問
Q1.通常のシステマティックレビューと診療ガイドライン作成のためのシステマティックレビューの文献検索は同じものですか?
Q2.既存のシステマティックレビューで用いられた検索式を流用することは可能でしょうか?
Q3.診療ガイドライン作成における文献検索専門家の役割は?
Q4.コンセプトとキーワードの関係は?
Q5.PubMedのBest Matchとは何ですか?
Q6.Number Needed to Read(NNR)とは何ですか?
Q7.信頼できる診療ガイドラインの見分け方は?
D.実際のデータベースでの具体的検索例
1.網羅的検索
2.効率的検索
III 情報ソースのまとめ
1.文献検索方法
2.検索語の選定,検索式推敲
3.診療ガイドライン作成関連
索引
クリニカルクエスチョン(CQ)
CQ1 慢性腰痛の患者が運動すると腰痛が軽減するか?
CQ2 風邪(ウイルス性上気道炎)に抗菌薬を内服すると症状が軽減されるか?
CQ3 急性虫垂炎に対して抗菌薬投与は手術と比べて治癒率を向上させるか?
CQ4 前立腺癌患者に内分泌療法を行うと死亡率を低下させるか?
CQ5 がん患者に対してNSAIDsを投与すると痛みが軽減されるか?
CQ6 急性膵炎が疑われる患者に超音波検査を行うと確定診断ができるか?
CQ7 豆乳(または豆乳ミルク)は小児のピーナッツアレルギー発症リスクを増加させるか?
CQ8 転移性脳腫瘍患者の予後を改善する因子は何か?
CQ9 小児期に発症した成人喘息患者に対して,ステロイド剤の吸入は症状を緩和するか?
CQ10 急性脳塞栓患者に対してt-PA投与による副作用は起こるか?
CQ11 消化不良の症状を訴える成人患者に対して,内視鏡検査はコストを抑えられるか?
CQ12 2型糖尿病の薬物療法において,SGLT2阻害薬はメトホルミンに比べて心血管イベントを減らすことができるか?
CQ13 高齢者に対して運動は認知症予防効果があるか?
Column
Column1 スコープ(計画書)
Column2 作成前が最も重要:作成グループの編成と利益相反
Column3 パブリックコメントの重要性
Column4 検索してもエビデンスがないとき
Column5 ハンドサーチとは?
Column6 副作用の検索効率
Column7 治験の総括報告書(Clinical StudyReports:CSR)
Column8 治療による害のフィルタ
Column9 患者の意向の検索
序文
診療ガイドラインの作成支援に関わって15年が経ちますが、ガイドライン作成委員会では毎回新しい驚きがあり、いつも新鮮な気持ちで参加させていただいています。つい最近も、コクランライブラリのシステマティックレビューのエビデンスがあるのに日本語の商業誌に書いてある経験談を採用したり、希少疾患ではないのに特定の症例報告を引用されているグループがありました。このグループには推奨作成会議から参加したのですが、「Minds診療ガイドラン作成マニュアル2017」(以下「マニュアル2017」と略す)に沿ってGRADEで評価しても、スタートの文献検索戦略が間違っていると正しい推奨を導くことはできないというお話をさせていただきました。
文献検索は図書館の司書さんにお任せしている、とおっしゃる研究者も多いのですが、ここは是非疾患専門家である研究者と、検索の専門家である司書さんの共同作業をお願いしたいと思います。そのためのツールとして、クリニカルクエスチョンの設定をするわけですが、多くの研究者が臨床上の疑問文を作る作業から始めるため、残念なことにPICO(P:患者、I:介入、C:比較、O:アウトカム)の要素で構成されていないことがほとんどです。本書では、先に要素であるPICOを設定して、その要素をつないでクリニカルクエスチョンとしてまとめることを推奨しています。医学文献検索としては、PとIをキーワードにすれば目的とする論文が網羅的に拾えます。研究論文が多数出版されている分野では、研究デザインや、その次にアウトカム(O)を検索式に加えてスクリーニング可能な論文数になるまで絞ります。「マニュアル2017」では、この論文数を絞る過程が強調されていなかったせいか、膨大な論文をスクリーニングする羽目になったというお話(苦情?)をお聞きすることが多くありました。網羅的文献検索では感度を上げることが重要ですが、1万件の医学文献のスクリーニングを同じ判断基準で振り分けることはできるはずもなく、妥当で効率的な方法で絞り込むことは、最終的に目的となる論文をぶれずに選ぶという意味でも重要である、と本書では強調しています。
日本医療機能評価機構(Minds)のホームページでは、「マニュアル2017」の補足として特別寄稿3「診療ガイドライン作成のためのシステマティックレビューの文献検索戦略」を公開しています。本書は、この特別寄稿を受けて、MindsのEBM普及啓発部会の部会長の森實敏夫先生、同メンバーで日本医学図書館協会専務理事の河合富士美先生と始めた文部科学省科学研究費助成事業の研究成果をまとめたものです。実際に医学文献の検索を行っている現場の皆さんが使いやすいように、基礎編としてリサーチクエスチョンをキーワードに絞り込んでいく(特異度を上げる)医学文献検索についても言及しました。その際にもPICO(PはPatientとは限りませんが)から始める検索という点で同じだということに気づいていただければ、本書を出版した意義があったということで著者一同大変うれしく思います。
最後に、的確なご助言をいただいた枳穀智哉氏、無理なお願いにもご対応いただいた北島詩織氏の南江堂のお二人に心より感謝申し上げます。
2018年12月
著者を代表して 小島原典子
多くのハウツー本がある中で、本書は「診療ガイドライン作成」というキーワードを中心に、文献検索の基本(特異度優先)と発展(感度優先)に関してわかりやすく、かつ実践的な解説がなされているという特徴をもった、ユニークな本である。では、その内容を詳しくみてみたい。
本書は、特に医学文献検索力アップを目的として、I。基礎編、II。発展編、そしてIII。情報ソースのまとめの3章から構成されている。まず基礎編では、医学文献検索の基本的な流れ、PICO(P:patients、problems、population、I:interventions、C:comparisons、controls、comparators、O:outcomes)設定とクリニカルクエスチョン(CQ)の選定、効率のよい文献検索、そしてデータベースの選択と活用法などについてわかりやすくまとめられている。特にCQの例をあげて実践的な検索法が書かれており、臨床研究、発表あるいは論文投稿にあたっての即戦力となる。
次に、II。発展編に関してみてみよう。今の世はまさに診療ガイドラインずくめの時代である。そして、それに応えるべく本章では、診療ガイドライン作成におけるシステマティックレビューのための文献検索戦略に関し、その要点に加えて、効率を高める方法、客観的かつ再現性の高い方法などが紹介されている。さらに“実際”として、国内外の診療ガイドラインを調べるサイトの紹介(NICE、Trip、Mindsなど)や、CQの具体例をあげてCQ→PICO→キーワードへのプロセス、MeSH選定の作業などがわかりやすく記載され、適合度の高い文献が示される流れがスムーズに理解できる。これに加えて、「費用対効果」の検索について十分なページを割いて解説しているのは特筆すべき点といえる。著者らが指摘しているように、本邦の診療ガイドラインは数多く作成されているものの、費用対効果評価は少なく、今後どのようにガイドラインに含めていくかの議論を続けていく必要があるだろう。
第III章はわずか3ページであるが、有用な情報ツールがコンパクトにまとめられており、チェックリスト表も利用価値が高そうである。願わくは、表内にチェックボックスも書かれており、ユーザーがコピーして使用できるとさらにありがたい。
このように、本書は診療ガイドライン作成に従事する読者のみならず、診療や研究の現場で活躍する医療者や研究者、そしてこれらを開始したばかりのビギナーまで、幅広く活用できる秀逸の一冊である。
胸部外科72巻6号(2019年6月号)より転載
評者●北里大学呼吸器外科教授 佐藤之俊
南江堂からまた1冊、本文わずか144頁であるが、すぐに役に立つ良書が発刊された。まずはシステマティックレビュー初心者にぜひ熟読をおすすめしたい。診療ガイドラインのClinical Question(CQ)担当チームにはじめて参加予定の若手医師にとって、非常に重宝するものと思われる。また、初期研修医レベルから「英文検索のイロハ」を勉強するにはたいへん便利である。医学生・研修医レベルは「基礎編」からじっくり熟読をおすすめする。専門医レベルは「発展編」からでも十分に楽しめる。もちろん「文献検索」はすでに日常診療のルーチンワークである。毎日の診療でのちょっとした疑問や発見は、ただちに文献検索で確認しよう。医学中央雑誌も非常に便利ではあるが、さすがに和文検索だけで「この症状にはこの治療」と断定するのは少々危険である。まれな疾患・病態であればなおさら「英文検索」は必須作業である。「英文検索」には、上手なキーワード設定が基本中の基本である。検索方法を間違えると膨大な文献数に無駄な時間を費やすことになる。ピンポイントで日常診療の疑問に答える文献を探すこと。このスキルは初期研修医が最優先で修得するべきスキルかもしれない。当たり前であるが、指導医が熟知していなければ、研修医を指導できないのは当然?
まずはタイトルにあるようにPICOである。「ピコって何?」、「今さら聞けないピコ」、早速24頁を開いてみよう。P:患者、課題、I:介入、C:比較、対照、O:アウトカム。10頁より、入力単語は“MeSH”で。うっかり“Cancer”と入力してしまうことが多いが、正しくは“Neoplasms”ですね。もちろんMeSHの探し方も丁寧に説明されている。
さて、85頁を開いてみると…ガイドラインではCQ作成から文献検索、そしてステートメント作成とすすむわけであるが、そもそもCQをしっかり理解しないと適切なPICOが作成できない。適切なPICOを作成できなければ、良質の文献検索はできない。ガイドラインでは、常に介入の「益と害」のバランスが重要であるが、「害」の文献検索はあまり行われないため、ちょっとしたテクニックが必要である。94頁の「害の検索」の項は、実にかゆいところに手が届く丁寧な解説となっている。さらに105頁の「費用対効果」の項も、日常診療では見落としがちな重要ポイントである。
文献検索のスキルを修得することで、「デキる研修医」、「デキる指導医」のステップアップにもピッタリの良書と思う。
臨床雑誌外科81巻11号(2019年10月号)より転載
評者●東邦大学消化器外科教授・臨床腫瘍学教授 島田英昭