これで万全!番度チャートを用いた2型糖尿病治療
著 | : 番度行弘 |
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ISBN | : 978-4-524-24568-0 |
発行年月 | : 2018年5月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 178 |
在庫
定価3,520円(本体3,200円 + 税)
正誤表
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2018年05月28日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
2型糖尿病診療の進め方、薬の選び方、専門医へのコンサルト等、一連の流れが一目瞭然にわかる「番度チャート」開発者による初の書き下ろし。チャート開発の経緯が丁寧に記されており、チャートの一つ一つのステップに込められた理由、根拠がわかる。実臨床での活用法は「バーチャルクイズ」形式で具体例が示され、チャートを用いた診療のコツがすぐに掴める。関連事項が記載されたコラム欄やメモ欄も充実。糖尿病患者さんの診療に従事するすべての医師にお勧めしたい、即効性抜群の一冊!
はじめに
第1章 番度チャートの基本的な流れを押さえよう!
1.ステップで押さえる基本アプローチ
2.治療に行き詰まったら…各薬剤の特徴をもう一度おさらいしよう!
3.「STEP2」と「STEP3」で使用する薬剤のここだけは押さえよう
4.「STEP4」で使用する薬剤のここだけは押さえよう
5.「STEP5」でBOTを行う際のポイント〜「3-3-1調節法」を活用する〜
6.専門医へコンサルトするタイミングは?
第2章 深読み番度チャート!〜誰でもできる2型糖尿病治療を目指して〜
1.基本コンセプトは「非専門医でも外さない薬物治療ができること」
2.すべての糖尿病薬を点数化すると〜ファーストラインドラッグは何か?〜
3.インスリン分泌不全と抵抗性の鑑別指標
4.DPP-4阻害薬とメトホルミンは「最高の相棒」!
5.SU薬を安全に開始するためのHbA1cは?
6.BOTを開始すべきHbA1cは?
7.SGLT2阻害薬をどこに位置づけるか〜新チャートの誕生〜
第3章 番度チャートを使いこなそう!
1.薬物治療を始める,その前に
2.番度チャートを用いた治療の実際〜バーチャル症例クイズ〜
経口薬編
Q1 薬剤選択を見極める!〜糖尿病薬の慎重投与と禁忌〜
Q2 ファーストラインドラッグ(第一選択薬)は何か?
Q3 セカンドラインドラッグ(第二選択薬)は何か?〜2点配置法と一極集中法〜
Q4 サードラインドラッグ(第三選択薬)は何か?Part1
Q5 サードラインドラッグ(第三選択薬)は何か?Part2〜TDSの効果〜
注射薬編
Q6 BOT導入の実際は?〜「3-3-1調節法」使用上の留意点〜
Q7 食後高血糖顕著!頻回注射かそれとも?
応用編
Q8 重度腎障害でメトホルミンが使えない!さあどうする?
Q9 「最高の相棒」だけでは食後高血糖管理が困難…さあどうする?
Q10 空腹時血糖値とHbA1cの間に明らかな乖離がある.さあどうする?
Q11 TDSでは体重管理が困難!さあどうする?〜TDSのセカンドステージへ〜
Q12 認知症合併でインスリン自己注射が困難!さあどうする?
Q13 食後高血糖メインでBOTから入りづらい!さあどうする?
Q14 ステロイド内服下で夕食後は高血糖なのに朝食前は低血糖気味になる!さあどうする?
付録 全糖尿病薬リスト
おわりに
索引
はじめに
〜百花繚乱の2型糖尿病治療薬
結局どの薬からどんな順番で使えばよいのだろうか?〜
筆者が糖尿病診療を志した頃
筆者が糖尿病診療を志した1987年当時、2型糖尿病の薬物治療といえば、スルホニル尿素薬(SU薬)とインスリン注射の2つだけしかありませんでした。
まず患者さんには食事療法と運動療法をできるだけ頑張っていただいて、これで血糖コントロールが不十分ならSU薬を少量から始め、それが最高用量に達しても血糖コントロールが不十分なら、バイアル製剤の中間型インスリンであるレンテインスリンの朝1回ないしは朝夕2回打ちに変更する、という極めて簡単な治療の流れでした。翌1988年になってもインスリンとSU薬の併用効果やSU薬の膵外作用などが真剣に議論されているような状況で、新薬が誕生する気配はまったくありませんでした。
ところが筆者が現在の病院(福井県済生会病院)に赴任した1995年前後から糖尿病薬の種類が一気に増加しました。まず食後血糖を優先的に低下させる「αグルコシダーゼ阻害薬」や「速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)」、インスリンの効果を高める「チアゾリジン系薬剤」の使用が可能となり、その後、インスリン製剤の分野では2001年にインスリンリスプロとアスパルト、2003年にはインスリングラルギンなどのアナログ製剤が発売されました。さらに2009年には「高用量メトホルミン」の承認、そしてインクレチン関連薬の登場など2型糖尿病の薬物治療は一気に活気を帯びてきました。
病診連携の取り組みの中で
2002年1月中旬のとても寒い日でした。筆者は当時院長であった三浦將司先生から院長室に呼び出され、「病診連携を重視した生活習慣病専門の外来をつくってほしい」という依頼を受けました。「病診連携」「逆紹介」「2人主治医制」といった糖尿病を中心とした生活習慣病の地域連携の重要性が、病院経営の面からも注目され始めた頃でした。
まったく手探りの状態で、まず生活習慣病の診療対策チームをつくり、連携施設の医療スタッフを対象とした「生活習慣病セミナー」や連携医師を対象とした「連携懇話会」などの勉強会を立ち上げました。その後、2005年5月には外来連携医療の中心となる「生活習慣病外来」を創設し、翌年以降はかかりつけ医の先生方を対象に系統的な糖尿病教育カリキュラム「福井済生会糖尿病セミナー」を毎年開催するなどして、糖尿病診療連携の強化を図りました。
一方、これらを行う過程で強く感じたのが、われわれ糖尿病専門施設とかかりつけ医の先生方との間で「糖尿病治療の方向性を一致させること」の大切さでした。この方向性が一致しないと病診連携は基本的にうまくいかないことがわかってきたのです。そのため「連携懇話会」にご参加の先生方のご協力を得て2004年8月に2型糖尿病治療を中心とした『生活習慣病ガイドライン第1版』(表紙が青いので当時「青本」と呼ばれました)を発刊しました。
ところが発刊当時「DPP.4阻害薬」は未発売で、BOT(basal supported oral therapy)はまったく未知の用語でした。薬物治療は食前血糖値140mg/dL未満、食後2時間血糖値200mg/dL以上が続く場合は「α.グルコシダーゼ阻害薬」か「速効型インスリン分泌促進薬」で、食前血糖値140mg/dL以上が続く場合は「少量のSU薬」で開始するという内容で、地域では当時それなりに浸透はしましたが、第一選択薬から低血糖の発現を危惧しなければならないという課題の多い内容でした。一方、インスリンについては中間混合型インスリンを朝夕2回注射で開始し、1日2.4回の血糖自己測定(SMBG)を用いて後ろ向き調節法で管理するというかなり複雑な内容で、当然のようにかかりつけ医の先生方にはほとんど浸透せず、まさしく「絵に描いた餅」に終わってしまったのです。
簡便で使いやすい治療アルゴリズムの作成へ向けて
2009年末に「DPP.4阻害薬」、「GLP.1受容体作動薬」の2系統薬、いわゆる「インクレチン関連薬」が発売され、2型糖尿病治療はますます百花繚乱の様相を呈してきました。講演後の情報交換会などで、かかりつけ医の先生方から、「高血圧や脂質異常症では病態に応じたわかりやすい薬物選択のガイドラインがあるのに、糖尿病にはこれがない。目の前にいる患者にどの薬をまず使えばよいのかよくわからない」というお小言とも批判ともとれる言葉を多く耳にするようになりました。実際、われわれ専門医の間でさえ、たとえば肥満2型糖尿病患者に処方する薬はバラバラであり、非専門医に至っては言わずもがなの状態でした。
そこで筆者が目指したのが、決して「絵に描いた餅」に終わらない(終わらせない)、簡便で使いやすい治療アルゴリズム「番度チャート」を考案することでした。これを用いて、シームレスにつながる糖尿病連携体制の構築に少しでもお役に立てれば、と考えたのです。かくして2010年に最初のチャートが、2014年には現在の新チャートができあがりました。
本書では、本チャートの内容と作成に至った経緯をまず紹介し、実践編ではバーチャル症例を用いて本チャートの利用法について、応用編では本チャートから一見外れた症例への対処法について解説しました。その内容は必ずしもサイエンスやエビデンスに基づくものばかりではなく、多くは筆者の32年間の糖尿病診療における臨床経験に基づくものであることをまずはっきりお断りしておきたいと思います。そのうえで本書が特に非専門医の先生方にとって、目の前の2型糖尿病患者さんの薬剤を選択する際のひとつの道標になればこの上ない幸いです。
2018年5月
福井県済生会病院内科部長
番度行弘