さてどうしよう?に答える B型肝炎治療30の方針
ガイドライン準拠
著 | : 田中篤 |
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ISBN | : 978-4-524-24539-0 |
発行年月 | : 2018年6月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 144 |
在庫
定価3,520円(本体3,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
治療介入のタイミングから薬剤の選択、治療目標の設定、重症化やウイルス再活性化の場合など、判断に悩む場面の多いB型肝炎治療において30の方針を明快に提示。第1章では基本的知識をQ&A形式で解説。第2章ではCASEごとに、ガイドラインに基づく最新の治療内容を示す。随所に「選択・判断のポイント」を記載して、根拠を明示。また、背景の基本知識は第1章のリンク先に当たることができる。現場の「こんなときどうする?」に即答える、“わかりやすく、最新の内容が学べるB型肝炎治療本”の決定版!
口絵
第1章 〜キホンをおさえる〜B型肝炎Q&A
A そもそもの・・・疫学
Q1.そもそも,B型肝炎ウイルスとは?
Q2.乳幼児感染後にたどる経過は?
Q3.乳幼児感染を防ぐために何をすべきか?
Q4.ユニバーサルワクチンとは?
Q5.成人感染後にたどる経過は?
Q6.B型急性肝炎発症後の経過は?
Q7.劇症肝炎とは?その定義・成因は?
Q8.B型肝炎ウイルスの“再活性化”とは?
Q9.再活性化を予防するにはどうする?
Q10.B型慢性肝炎での発癌リスクは何だろう?
B 治療を始める前に
Q11.どんなHBVキャリアが治療適応になる?
Q12.HBVキャリアの治療目標は何か?
Q13.HBs抗原とは?
Q14.HBs抗原の試薬はどう違うのか?
Q15.HBs抗体・HBc抗体とは?
Q16.HBe抗原陽性・陰性の違いは?
Q17.HBV DNA量とは?その測定法は?
Q18.HBV DNA量の表記にはどんな変遷があるか?
Q19.HBコア関連抗原とは?
C 各治療薬を知る
Q20.Peg-IFNとは?
Q21.核酸アナログとは?
Q22.Peg-IFNと核酸アナログはどう違うのか?
Q23.Peg-IFNの治療成績は?
Q24.Peg-IFNで注意すべき副作用は?
Q25.核酸アナログ各製剤の特徴は?
Q26.核酸アナログの治療成績は?
Q27.核酸アナログで注意すべき副作用は?
Q28.核酸アナログの“薬剤耐性”ってどういうこと?
Q29.核酸アナログを中止する必要条件と中止後の再燃リスクは?
Q30.核酸アナログはどのようなときに変更する必要があるか?
第2章 Caseで学ぶB型肝炎治療
A 治療介入のタイミング
Case1.“無症候性キャリア”って何?治療は必要?
Case2.無症候性キャリアが肝炎を発症したら?
Case3.1回診ただけで,非活動性キャリアと診断しても大丈夫?
Case4.肝生検が必要なのはどんな場合?
Case5.慢性肝炎の治療が必要!(1)〜まずはどうする?〜
Case6.慢性肝炎の治療が必要!(2)〜核酸アナログ,どれを使う?〜
Case7.肝硬変の治療が必要!〜治療方針はどうする?〜
Case8.核酸アナログの中止後,また肝炎が再燃した!
Case9.急性肝炎にはどう対応する?
Case10.劇症肝炎疑いの患者が来た!
Case11.再活性化予防を他科から相談されたら
B 治療中に考えるべきこと
Case12.Peg-IFNの治療効果があまりみられないが・・・
Case13.LAM単剤が効いている場合どうする?
Case14.LAM単剤が効いていない場合どうする?
Case15.ETV単剤が効いている場合どうする?
Case16.ETV単剤が効いていない場合どうする?
Case17.TDF単剤が効いている場合どうする?
Case18.TDF単剤が効いていない場合どうする?
Case19.TAF単剤が効いている場合どうする?
Case20.TAF単剤が効いていない場合どうする?
Case21.LAM+ADV併用が効いている場合どうする?
Case22.LAM+ADV併用が効いていない場合どうする?
Case23.その他の併用治療はどうする?
C 特殊なケース
Case24.非代償性肝硬変!核酸アナログはもう使えない?
Case25.核酸アナログ治療で発癌リスクは本当に減る?ゼロになる?
Case26.「核酸アナログ治療をやめたい!」と言われたら
Case27.妊娠したHBVキャリアが紹介されてきたら
Case28.HCVにも感染している!治療はどうする?
Case29.HIVにも感染している!治療はどうする?
Case30.腎機能障害・透析中の患者にはどう対応する?
索引
序文
B型肝炎は難しい、とよく言われます。肝臓専門医として長く働いている私自身、確かにそうかも知れない、と思います。C型肝炎の場合、自然経過が比較的シンプルであり、有効性・安全性が極めて高い治療薬が存在するため、ほぼすべての感染者が治療適応となるのに比べ、B型肝炎は、治療を行うことなく臨床的治癒に至ることもある一方、急速に肝不全に陥るような激しい肝炎を起こしうるなど自然経過が複雑であり、治療介入のタイミングに迷うことがしばしばあります。治療の必要はないと判断した場合でも、それではどのように経過観察していけばよいのか、どうなったら治療に踏み切るのかを決めるのがまた難しい。その一方で、治療が必要な場合、最近は新しい薬もあるし、どの薬をどのように使えばよいのか、効かなくなったらどうするのか、どんな副作用に気をつければよいのか、……本書は、B型肝炎の患者さんを前にして、こんなふうにどちらへ進めばよいのか悩んでいる医師ないし医療関係者を主に念頭に置き、その方々に道しるべを指し示すことができればという思いから書いたものです。
実は、本書の内容は日本肝臓学会・肝炎診療ガイドライン作成委員会が作成している「B型肝炎治療ガイドライン」(以下、本書中では「ガイドライン」と略)を下敷きとしています。ガイドラインの第1版は2013年に作成され、以後新薬の発売とともに改訂し、2018年3月現在第3版が最新版です(2018年5月に第3.1版に改訂予定)。肝炎治療のエキスパートでいらっしゃる委員の先生方によって作成されたこのガイドラインには、B型肝炎治療について文字通り「すべて」が書き込まれていると言っても過言ではなく、これを熟読いただければB型肝炎の患者さんを前にしても悩むことはないでしょう。しかしその反面、このガイドラインは「重厚長大」という表現がぴったりあてはまるボリュームで、第3版は132ページあります。多忙、かつ予備知識が十分でない医師が全体を読み通すのは容易ではありません。私は作成委員会の事務局としてガイドライン作成の裏方を務めてきた関係上、ガイドラインの裏も表もすべて知り尽くしていると自負していますが、このガイドラインをもう少しuser friendlyな形で紹介できないものかと以前から考えていました。
今回、南江堂のご厚意で、この私の思いを実現することができました。本書にはガイドラインのエッセンスが詰め込まれており、一冊読み通していただければガイドラインの内容はほぼ把握できます。もちろん全体を読み通す必要はなく、実臨床で遭遇する臨床上の疑問に応じて、該当するページだけを辞書を引くように参照していただいても結構です。また、臨床には携わってはいないものの広くB型肝炎についての知識を必要とされる製薬会社、行政・法律関係者の方にも、さらにはご自分の病気についてもっとよく知りたいと考えておられる患者さんにも、本書はお役に立てるものと自負しています。本書が日本でのB型肝炎治療に少しでも貢献できれば望外の喜びです。
なお、本書はガイドラインの内容を踏まえて記載していますが、ガイドラインと矛盾のない範囲内で私自身の個人的見解を踏み込んで記した箇所もあり、記載された内容の責任はもちろん私自身にあります。また、参考文献は膨大になりますので一切省略しています。必要な場合にはガイドラインの該当箇所をご参照いただければ幸いです。
最後に、本書の構成を立案するにあたりお忙しいなか貴重なアドバイスをいただいた、日本肝臓学会・肝炎診療ガイドライン作成委員会委員である大阪労災病院副院長の平松直樹先生、武蔵野赤十字病院消化器科部長の黒崎雅之先生に、この場をお借りして深謝いたします。
2018年4月
帝京大学医学部内科学講座 教授
田中篤
B型肝炎ウイルスはわが国の肝硬変や肝がんの原因の15%を占めており、いまだにウイルスを身体から排除するための根治療法がない。わが国では、1986年より母子感染防止対策が講じられ、30歳未満の日本人にはB型肝炎のキャリアがほとんど存在しなくなっている。しかしながら、30歳以上ではキャリアが存在し慢性肝炎を発病している人が多い。
B型肝炎ウイルスに感染していても無症状のことが多いが、自覚症状がなくても慢性肝炎や肝硬変になっている場合がある。B型慢性肝炎の臨床経過は複雑で、急激に肝障害が悪化して肝不全にいたることがある。また、肝線維化があまり進行していない慢性肝炎でも肝がんを併発することがあり、予期できない経過をたどる。経験豊富な肝臓専門医であっても想定しない経過をたどることがしばしばみられる。このようにB型肝炎の治療はさまざまな経過の可能性を考えて対処していくことが必要となる。
本書の著者の田中 篤先生は、日本肝臓学会慢性肝炎診療ガイドラインの事務局として、数々の専門医の意見を調整し、集約して取りまとめる中心的役割を果たしておられる。学会ガイドラインの作成は大変骨が折れる仕事である。新しい薬が発売されると、すぐにガイドラインに記載する必要がある。発売前の臨床治験で得られたデータに基づいて、実際にわが国で使用されるようになる場合に、どのような患者に適応されるのか、その薬の留意すべき事項を整理して、臨床現場にわかりやすく示していく必要がある。ガイドライン案を示して専門家の意見を集約して取りまとめるという大変な作業を長年やってこられた、臨床現場からの多数の質問や問い合わせに答えてこられた、ガイドライン事務局として多くの意見を聞いてこられたことが、ご自身の経験として役立っているものと思われる。
著者自身も長年の肝臓専門医としての臨床経験を積まれ、さまざまな疑問や困難を克服してこられたと思う。著者とは、ガイドライン委員会だけでなく、さまざまな会議や座談会でご一緒させていただき、その見識に敬服している。また、常に冷静で、科学的な分析をして臨床医としての解答を出されている。本書は、著者の豊富な経験に基づき記載されている。とくに後半ではCaseごとにわかりやすく解説し、その根拠を示されているため、臨床の現場で非常に役立つ内容になっている。ぜひ、肝疾患の臨床の役に立てていただきたい。
臨床雑誌内科123巻4号(2019年4月増大号)より転載
評者●武蔵野赤十字病院院長 泉並木