睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
監修 | : 日本呼吸器学会/厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究」班 |
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編集 | : 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン作成委員会 |
ISBN | : 978-4-524-24533-8 |
発行年月 | : 2020年7月 |
判型 | : A4変型 |
ページ数 | : 136 |
在庫
定価3,300円(本体3,000円 + 税)
正誤表
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2021年04月16日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 書評
日本呼吸器学会と厚生労働省「難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究」班の監修によるエビデンスに基づいたオフィシャルな睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン。疫学や病態から臨床症状と診断、治療・予後はもちろんのこと、SAS患者の車の運転や遠隔医療を含めて、クリニカルクエスチョン(CQ)を取り上げ、国内外のエビデンス等を踏まえつつ、指針を示した。
I章 SASの概念・分類・疫学
CQ1:病 態
CQ1-1 SASとはどのような疾患ですか?
CQ2:種 類
CQ2-1 SASにはどのような種類がありますか?
CQ3:SAS,CSAの疫学
CQ3-1 SASの頻度はどれくらいですか?
CQ3-2 CSAの頻度はどれくらいですか?
II章 SASの病態・発症機序
CQ4:OSAの病態生理
CQ4-1 OSAはどのようにして起こるのでしょうか?
CQ5:OSAの危険因子
CQ5-1 OSAの発症に関連する主な因子は何ですか?
CQ6:CSBの病態
CQ6-1 CSBはどのようにして起こるのでしょうか?
CQ7:SASと心不全
CQ7-1 SASと心不全にはどのような関連がありますか?
III章 SASの臨床症状と診断
CQ8:OSA診断と自他覚症状
CQ8-1 OSAを疑う際の自他覚症状は何ですか?
CQ8-2 自他覚症状は客観的検査と比較してOSAの診断に有用ですか?
CQ9:CSB診断と自他覚症状
CQ9-1 CSBを疑う際の自他覚症状は何ですか?
CQ9-2 自他覚症状は客観的検査と比較してCSBの診断に有用ですか?
CQ9-3 CSBを疑う際の重要な併存症にはどのような病態がありますか?
CQ10:OSAと日中の眠気の関係
CQ10-1 OSAは日中の眠気の原因になりますか?
CQ10-2 OSA患者の日中の眠気は治療によって改善しますか?
CQ11:質問紙
CQ11-1 質問紙はSAS(OSA,CSA)の診断に有用ですか?
CQ12:睡眠ポリグラフ検査(PSG)
CQ12-1 PSGはSAS(OSA,CSA)の診断に有用ですか?
CQ13:呼吸イベント判定
CQ13-1 PSGで判定される呼吸イベントにはどのような項目があるでしょうか?
CQ14:アテンドPSG
CQ14-1 アテンドPSGは非アテンドPSGに比較してSASの診断に有用ですか?
CQ15:portable monitor(簡易モニター)
CQ15-1 portable monitor(簡易モニター)はOSAの診断に有用ですか?
CQ15-2 portable monitor(簡易モニター)はCSAの診断に有用ですか?
IV章 SASの治療・予後
A.OSAの治療総論
CQ16:OSAの治療法・適応
CQ16-1 OSAにはどのような治療法があるでしょうか?
CQ16-2 どのようなOSA患者にCPAP治療を行うべきですか?
CQ16-3 どのようなOSA患者にOA療法が有効ですか?
CQ16-4 どのようなOSA患者に減量療法が有効ですか?
CQ16-5 OSA患者の治療に睡眠時の体位療法(positional therapy)は有効ですか?
CQ16-6 どのようなOSA患者に耳鼻咽喉科的手術が有用ですか?
CQ16-7 どのようなOSA患者に酸素療法が有用ですか?
CQ16-8 どのようなOSA患者に顎顔面形成術が有用ですか?
B.OSAの合併症と各種治療
CQ17:OSAと高血圧
CQ17-1 OSAは高血圧の原因となりますか?
CQ17-2 CPAP治療はOSA患者の高血圧を改善しますか?
CQ18:OSAと糖尿病
CQ18-1 OSAは2型糖尿病発症の危険因子となりますか?
CQ18-2 CPAP治療はOSA患者の血糖コントロールを改善しますか?
CQ19:OSAと脂質異常症
CQ19-1 OSAは脂質異常の危険因子となりますか?
CQ19-2 CPAP治療はOSA患者の脂質異常を改善しますか?
CQ20:OSAと内臓脂肪
CQ20-1 内臓脂肪型肥満はOSAの危険因子となりますか?
CQ20-2 CPAP治療はOSA患者の内臓脂肪量を減少させますか?
CQ21:OSAとQOL
CQ21-1 CPAP治療はOSA患者のQOLを改善しますか?
CQ22:OSAのCPAP治療
CQ22-1 CPAP治療はOSA患者の心血管障害関連パラメーターを改善しますか?
CQ22-2 CPAP治療はOSA患者の予後を改善しますか?
CQ22-3 CPAP治療にはどのような副作用がありますか?
CQ23:OSAのOA療法
CQ23-1 OA療法はOSA患者のQOLを改善しますか?
CQ23-2 OA療法はOSA患者の心血管疾患危険因子を改善しますか?
CQ23-3 OA療法にはどのような副作用がありますか?
CQ24:OSAの減量療法
CQ24-1 減量療法はOSA患者の無呼吸を改善しますか?
CQ24-2 減量療法はOSA患者のQOLを改善しますか?
CQ24-3 減量療法はOSA患者の心血管疾患危険因子を改善しますか?
CQ25:OSAの体位療法
CQ25-1 睡眠時の体位療法(positional therapy)はOSA患者の無呼吸を改善しますか?
CQ26:OSAの酸素療法
CQ26-1 酸素療法はOSA患者のQOLを改善しますか?
CQ26-2 酸素療法はOSA患者の高血圧を改善しますか?
CQ26-3 酸素療法はOSA患者の糖尿病を改善しますか?
CQ26-4 酸素療法はOSA患者の心血管疾患を改善しますか?
CQ26-5 酸素療法にはどのような副作用がありますか?
CQ27:OSAの耳鼻咽喉科的手術
CQ27-1 耳鼻咽喉科的手術はOSA患者のQOLを改善しますか?
CQ27-2 耳鼻咽喉科的手術はOSA患者の心血管疾患危険因子を改善しますか?
CQ27-3 耳鼻咽喉科的手術にはどのような副作用がありますか?
CQ28:OSAの顎顔面形成術治療
CQ28-1 顎顔面形成術はOSA患者のQOLを改善しますか?
CQ28-2 顎顔面形成術はOSA患者の心血管疾患危険因子を改善しますか?
CQ28-3 顎顔面形成術にはどのような副作用がありますか?
CQ29:CPAPの使用時間
CQ29-1 OSA患者のCPAP使用時間は治療効果に影響しますか?
CQ29-2 CPAP治療を何時間行えばOSA患者の日中の眠気を改善しますか?
CQ29-3 CPAP治療を何時間行えばOSA患者の高血圧や心血管イベントの発生率を改善しますか?
CQ30:アドヒアランスの改善
CQ30-1 OSAの治療において,固定圧CPAPとオートCPAPでCPAP アドヒアランスに差はありますか?
CQ30-2 圧リリーフ機能はCPAP アドヒアランスを改善しますか?
CQ30-3 患者に合ったマスクの選択はCPAP アドヒアランスを改善しますか?
CQ30-4 加湿器や点鼻薬の使用はCPAP アドヒアランスを改善しますか?
CQ30-5 患者教育や治療介入はCPAP アドヒアランスを改善しますか?
CQ31:CPAP治療の中断によるOSAの再発
CQ31-1 OSAに対するCPAP治療の中断によりOSAは再発しますか?
CQ32:睡眠薬の使用
CQ32-1 OSA患者の不眠に睡眠薬を投与しますか?
CQ32-2 OSAの不眠に対する睡眠薬治療にはどのような副作用がありますか?
CQ32-3 CPAP使用患者のアドヒアランス向上に睡眠薬は有効ですか?
CQ32-4 CSAに対する睡眠薬治療にはどのような副作用がありますか?
C.CSBの治療総論
CQ33:CSBの治療法・適応
CQ33-1 CSBにはどのような治療法があるでしょうか?
CQ33-2 どのようなCSB患者にCPAP治療を行うべきですか?
CQ33-3 どのようなCSB患者にASV治療を行うべきですか?
CQ33-4 どのようなCSB患者に酸素療法を行うべきですか?
CQ33-5 どのようなCSB患者に薬物療法を行うべきですか?
CQ33-6 どのようなCSB患者に機器(ペースメーカ)治療を行うべきですか?
D.CSBの各種治療
CQ34:CSBのCPAP,ASV,酸素療法
CQ34-1 CPAP治療はCSB患者のQOLを改善しますか?
CQ34-2 ASV治療はCSB患者のQOLを改善しますか?
CQ34-3 CPAP治療はCSB患者の心血管障害,予後を改善しますか?
CQ34-4 ASV治療はCSB患者の心血管障害,予後を改善しますか?
CQ34-5 CSB患者に対するCPAP治療にはどのような副作用がありますか?
CQ34-6 CSB患者に対するASV治療にはどのような副作用がありますか?
CQ34-7 酸素療法はCSB患者の心血管障害,予後を改善しますか?
CQ34-8 CSB患者に対する酸素療法にはどのような副作用がありますか?
V章 SAS患者の車の運転
CQ35:車の運転とリスク
CQ35-1 運転リスクに特に注意が必要なのは,どのようなOSA ドライバーですか?
CQ35-2 OSAの治療は事故発生リスクの抑制に関係しますか?
VI章 遠隔医療
CQ36:CPAP遠隔モニタリング
CQ36-1 遠隔モニタリング指導はCPAP アドヒアランスを改善しますか?
索引
英国のチャールズ・ディケンズの小説『The Pickwick Papers』の主人公の名前を冠したPickwick症候群などを嚆矢として、1983年の米国報告書“Wake up America”、2003年の山陽新幹線居眠り運転事故のニュースなどを経て、睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)はわが国においても一大疾患概念として注目されるようになっている。厚生労働省の統計によると、わが国の患者数は約50万人に達している。実際には、さらに多くの潜在患者がいるであろう。SASには、多彩な背景疾患、あるいは合併症や併存症の存在、疾患の社会的影響が知られる。多くの診療科や職種を巻き込む学際的なチーム医療としての患者管理が求められる。SASの管理は交通機関運転手の労働衛生などにも不可欠となっており、社会的にも行政や企業等との接点を生む。さらに、SASの研究や検査診療機器は日進月歩の進化があり、常に知識や情報をupdateしておかなければならない。
このような、多岐にわたる臨床課題の理解を踏まえて、個々の医療機関がバラエティに富む一人ひとりのSAS患者を適切に管理していくには、これまでの専門家の研究や臨床経験を集積し統合した診療ガイドラインが必要であり、臨床理解や判断のよりどころとして医療チームの大きな力になるであろう。今回、日本呼吸器学会および厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業研究班が発行母体となった「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」が上梓された。過去のガイドラインの蓄積に加え、最新の動向を踏まえた標準的な治療を示すために、新たに作成されたものである。SASの病態、臨床症状の理解、検査技術の普及と現状の有効性のエビデンスの紹介を目的とし、医師およびSASの医療チーム全体が参考にできるように対象が想定されている。
ガイドラインの内容は、大項目で36個(小項目もCQ 1個と考えれば89個)のクリニカルクエスチョン(CQ)からなっている。CQは治療に関するものばかりでなく、臨床的特徴、病態生理、疫学、検査、診療の流れなど、広範に網羅されている。編集委員長をはじめとした編集委員諸氏の配慮と思われるが、治療のアルゴリズムや診療の流れのなかのその位置づけを容易に知ることができるなど、見やすさ、読みやすさという点で随所に嬉しい工夫が細部まで施されている。エビデンスレベルはMindsの評価法を基本にしていて、推奨の強さについてもわかりやすく示されている。
5年を目途に本ガイドラインを改訂すると冒頭に明記されている。近未来のSASはどうなるか、導入される見込みの舌下神経電気刺激を含め、どんな新治療が出てくるのか興味深い。肥満や高血圧は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化因子と考えられるようになっている。SASをしっかり治療することの臨床的意義に新しい側面が加わるかもしれない。また、COVID-19に加え、医師の働き方改革など、さまざまな面で診療のあり方が変化するであろう。持続性陽圧気道圧(continuous positive airway pressure:CPAP)遠隔治療等についてのニーズが高まるかもしれない。そして、そのような未知の変化のなかでも、本ガイドラインは、SAS診療のバイブルとして、臨床医および診療チーム諸氏に役立つ標準の一冊となるであろう。
臨床雑誌内科127巻3号(2021年3月号)より転載
評者●東北大学大学院医学系研究科産業医学分野 教授 黒澤一