Dr.辻本の腹部超音波塾
未熟では済まされない!
著 | : 辻本文雄 |
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ISBN | : 978-4-524-24258-0 |
発行年月 | : 2015年5月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 286 |
在庫
定価7,480円(本体6,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
簡便ではあるが実は簡易ではない超音波。重要な所見をなぜ見落とし、間違えてしまうのか。本書では超音波検査・診断の達人Dr.辻本が実際の画像を提示しながら、検査者の思考と達人の思考を比べて解説。すぐ隣で指南を受けているように勘所がわかる。また、胆嚢壁肥厚の鑑別など知っておきたい知識をレクチャーとしてまとめ、超音波検査・診断のランクアップに役立つ。腹部超音波をもっと知りたかった方に待望の一冊。
1 誤診しないための腹部超音波検査の進め方
Lecture:見逃さないために
2 肝血管腫
転移巣とされた例
Lecture1:肝血管腫の超音波所見
Lecture2:高エコー腫瘤の鑑別疾患
3 肝細胞癌
長期間経過観察とされた肝細胞癌2例
症例(1)
症例(2)
Lecture1:肝細胞癌の肉眼分類と超音波像
Lecture2:カラードプラとFFT解析による血流波形分析
Lecture3:NASHと肝細胞癌
4 肝内結石
検出されなかった肝内結石症2例
症例(1)
症例(2)
Lecture1:肝内結石と肝内石灰化
Lecture2:多重反射とコメットエコー
5 胃癌
見逃されていた胃進行癌2例
症例(1)
症例(2)
Lecture1:胃の超音波解剖
Lecture2:悪性リンパ腫
6 転移性肝癌
肝転移巣が検出されなかった胃進行癌
Lecture:転移性肝癌の超音波像
7 膵癌
1年後に検出された進行膵頭部癌
Lecture1:膵描出のコツ
Lecture2:膵癌の超音波所見
8 自己免疫性膵炎
悪性腫瘍が疑われた例
Lecture1:正常膵の老化に伴う萎縮性変化
Lecture2:自己免疫性膵炎の臨床像と診断
9 原発性胆汁性肝硬変
ウイルス性肝炎が疑われた例
Lecture1:PBCの一般的な知識
Lecture2:肝硬変周辺病変の超音波所見
10 胆管癌
糖尿病腎症から精査過程で見つかった例
Lecture:胆管癌の臨床像と超音波所見
11 胆嚢壁肥厚の鑑別
胆嚢捻転正診症例2例
症例(1)
症例(2)
胆嚢捻転とされた急性心筋炎
Lecture1:心筋炎の臨床像
Lecture2:胆嚢壁の特異な構造
Lecture3:胆嚢の超音波解剖と壁肥厚所見の鑑別診断
Lecture4:急性胆嚢炎
12 脾腫と胆道ジスキネジー
誤った脾腫判定法をされた例
Lecture1:胆道ジスキネジー
Lecture2:脾の超音波解剖と走査法
13 腎オンコサイトーマ
腎細胞癌が疑われた例
Lecture1:腎腫瘤性病変と超音波所見
Lecture2:CECと超音波
14 急性虫垂炎
回腸末端炎が疑われた例
回盲部リンパ節炎が疑われた例
Lecture1:急性虫垂炎の病態
Lecture2:急性虫垂炎の腹痛症状
Lecture3:虫垂の描出法と虫垂炎の診断
Lecture4:虫垂炎の鑑別診断
索引
序
私は、大学で工学を学んだ後に、医学部に入り直して臨床現場に身を投じたが、そこでプローブ一つで体外から侵襲なく体内を観察できる超音波検査・診断に出会った。描出すべき画像の中で解剖学、病理学、生理学、音響学、流体力学等々の世界が展開していた。臨床医学の知識とそれらの知識を総動員することによって、描き出された目の前の患者さんの病態を解読することができる。
この技術に工学と医学の両方の興味をくすぐられ、その奥深さに魅せられて寝食を忘れて診断技術と研究に30年以上取り組んできた。ちょうど超音波診断機器の普及と技術開発の進歩がシンクロしていた30年でもあった。
“超音波でここまで言える!”ことを体得した頃、超音波プローブは聴診器の一つとも言われ簡便な検査法として、医師のみならず多くの検査技師が携わることとなっていた。超音波検査は簡便ではあるが、決して簡易ではない。リアルタイムに判断しながら行う検査法である。描出しながら画像に集中して生体情報を得なくてはならない。検査の技量が左右する所以である。“簡易”と認識されてはいけない検査・診断法なのである。
重要なサインが視覚に入っていながらなぜ認識できないのか、何を見なくてはいけないのか、それが重要な情報なのだと認識するために必要な知識は何なのか。
本書では間違い症例を挙げながら、間違えた検査者の動きと筆者の知見を同期させることによって筆者の思考回路を余すことなく紹介した。
超音波検査・診断を行う上で必要な知識はlectureとして各章にまとめている。どうか、これらの知識を裏打ちさせ、患者の命を守る医療者として、信頼される検査レポートやコンサルトにつなげてほしい。
なお、本書にまとめた内容は2007年10月から2008年3月まで綜合臨牀(永井書店)に連載した「間違いだらけの超音波検査・診断」をベースに大幅加筆修正を施したものである。
2015年3月
辻本文雄
腹部の超音波検査は、まさに著者がいうように、簡便な検査であるが決して簡単な検査ではない。超音波検査が臨床に登場して、かれこれ40年経つが、簡便、無侵襲そして有用性が高いことから、今では臨床現場はもとより検診や人間ドックで、なくてはならない検査である。現在、医師だけでなく多くの技師が超音波に携わっており、日頃このような方々の検査をみていて感じることは、所見のチェックや病変の見つけ出しだけで満足し、残念ながら十分な掘り下げがなされていないことだ。得られた超音波所見を正しく解釈し、リアルタイムに背景病態を探りつつ、鑑別診断を考え、そして質的診断にいたる過程が、不十分なことが多いようにみえる。
さて「未熟では済まされない!Dr.辻本の腹部超音波塾」、このドラスティックなタイトルの本書は、誤診例・見逃し例を通して学ぶ、超音波診断における実践的な教科書である。
内容としては、原発性肝がん・膵がん・自己免疫性膵炎・胃がん・腎腫瘍・虫垂炎といった各領域の代表的疾患について、著者の関係する臨床現場で遭遇した、あるいは見聞きした、見落とし例・誤診例を取り上げ、大変内容の濃いユニークな症例検討集となっている。
各症例とも、まず生の臨床経過およびデータを示し、続いて豊富な超音波画像を提示。必要に応じCTやMRI画像、病理所見を織り交ぜ、なぜ見逃したのか、なぜ診断できなかったのかを著者が懇切丁寧、かつ鋭く指導する。ところどころに歯に衣着せぬ厳しい指導があるが、読んでいて大変痛快であり、これがとても勉強になる。画像の解説の後は「Lecture」として、その疾患に関して知っておくべき臨床的事項がしっかりと解説され、症例の最後は、「ポイント」でまとめられている。著者の得意なカラードプラやアーチファクトなど超音波の基礎事項についてのレクチャーもあり、知識の整理とともに改めて教えられる点も多い。したがって一例一例、本書をじっくりと読み込むことで、おのずと超音波の知識だけでなく、解剖および病態生理、疾患の概要など周辺知識を膨らませることができ、その意味では、まさに「超音波消化器病学」ともいえるテキストブックである。
著者は、これまでに超音波に関する多数の著書を世に送り出している。ベストセラーである「腹部超音波テキスト-上・下腹部(改訂第3版)」(ベクトル・コア、1995)は、私どもの検査室にもあるが、多くの施設でリファレンスブックとして検査室に備えられている。また、超音波の教育指導にも定評があり、症例検討会や学会での超音波画像の読みは鋭く、教えられるところが多い。
現在、プローブを手にしている方には、ぜひ超音波をご自分のライフワークにしていただきたい。そして著者がいうように「患者の命を守る医療者として信頼される超音波」にまで自身の技量を高めてほしい。そのためにも本書は待望の一冊であり、一読することをお勧めする。
臨床雑誌内科117巻4号(2016年4月増大号)より転載
評者●虎の門病院消化器内科 竹内和男