臨床呼吸器感染症学
編集 | : 迎寛 |
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ISBN | : 978-4-524-24167-5 |
発行年月 | : 2019年3月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 336 |
在庫
定価11,000円(本体10,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
呼吸器感染症に関する基本的知識(疫学や免疫、病態)から、的確な治療を行うための診断の実践、検査の種類と定義、原因微生物ごとの治療の実際までを、豊富な臨床画像とともに一貫性のある内容としてまとめた。「抗微生物薬適正使用の手引き」や、「成人肺炎診療ガイドライン2017」をはじめとする最新のガイドラインに対応。昨今の潮流を反映した臨床実践を網羅。
I 総論−確定診断に必要な知識1
1.呼吸器感染症とは
A.呼吸器の形態と機能
B.呼吸器感染症の概念と発症機序
2.呼吸器感染症の疫学
A.呼吸器感染症の疾患別死亡率における世界的状況
B.わが国における呼吸器感染症の疫学
C.呼吸器検体に由来する薬剤耐性菌分離率の年次推移
D.抗酸菌感染症における疫学の変化
E.予防ワクチンの導入と呼吸器感染症疫学の変化
3.呼吸器感染症の主要な症候と身体所見
A.総論
B.呼吸器症状
C.診察
4.呼吸器感染症の検査
A.総論
B.微生物検査
C.免疫学的検査
D.血液検査,血液生化学検査
5.呼吸器感染症の原因微生物
A.ウイルス感染症
B.細菌感染症
6.免疫による感染防御と病態
A.肺の感染防御機構
B.肺炎の免疫病態
II 呼吸器感染症アトラス
1.検査所見からみる呼吸器感染症
A.血液検査
B.塗抹検査
C.培養検査
D.アンチバイオグラム
E.抗原検査
F.敗血症の指標
G.その他の検査
2.画像所見からみる呼吸器感染症
A.大葉性肺炎
B.気管支肺炎
C.特徴的所見を有する肺炎
III 呼吸器感染症治療の概要
1.呼吸器感染症治療の概要−抗菌薬を中心に
A.呼吸器感染症と抗菌薬の適応
B.抗菌薬
IV ガイドラインに基づく肺炎診療の実際
1.肺炎診療ガイドラインに基づく肺炎の分類と診療の考え方
A.ガイドラインに基づく肺炎分類の考え方と変遷
B.肺炎群別の診療の流れ
C.標的治療
D.予防
2.市中肺炎治療の考え方と実践
A.臨床的特徴
B.診断のポイント
C.細菌性・非定型の鑑別
D.重症度の評価,治療の場
E.原因微生物の検索
F.エンピリック治療の考え方と実践
G.補助療法
H.その他考慮すべき市中肺炎
3.医療・介護関連肺炎治療の考え方と実践
A.疾患の特徴,疫学
B.診断のポイント
C.エンピリック治療の考え方と実践
4.院内肺炎治療の考え方と実践
A.疾患の特徴,疫学
B.診断のポイント
C.エンピリック治療の考え方と実践
5.人工呼吸器関連肺炎治療の考え方と実践
A.疾患の特徴,疫学
B.診断のポイント
C.エンピリック治療の考え方と実践
V 治療の実際
1.急性上気道感染症
A.原因微生物と感染経路
B.症候の特徴
C.診断のポイントと検査
D.治療の実践
2.急性気管支炎・細気管支炎
A.原因微生物と感染経路
B.症候の特徴
C.確定診断に至る手順
D.病態と各種検査
E.治療の実践−エンピリック治療として何を行うか
3.慢性気道感染症
A.慢性気道感染症を起こす基礎疾患と原因微生物
B.症候の特徴
C.確定診断に至る手順
D.病態と各種検査
E.治療の実践
4.胸膜炎
A.原因微生物と感染経路
B.症候の特徴
C.確定診断に至る手順
D.病態と各種検査
E.治療の実践
5.肺膿瘍
A.原因微生物と感染経路
B.症候の特徴
C.確定診断に至る手順
D.病態と各種検査
E.治療の実践
6.肺結核症・結核性胸膜炎
A.肺結核症
B.結核性胸膜炎
7.非結核性抗酸菌症
A.原因微生物と感染経路
B.症候の特徴
C.確定診断に至る手順
D.病態と各種検査
E.治療の実践
8.肺真菌症
A.アスペルギルス症
B.クリプトコックス症
C.その他の真菌症
9.ウイルス性肺炎
A.原因ウイルスと感染経路
B.症候の特徴
C.確定診断に至る手順−原因ウイルスの診断法
D.治療の実際
10.寄生虫性肺疾患
A.寄生虫疾患を疑うきっかけ
B.肺寄生虫症の診断
C.肺寄生虫症各論
11.特殊な病態下における呼吸器感染症
A.免疫不全患者にみられる感染症
B.COPD患者にみられる感染症
C.腎障害がある患者での抗菌薬投与の実際
VI 呼吸器感染症と感染制御
1.標準予防策と呼吸器衛生・咳エチケット
A.標準予防策
B.呼吸器衛生・咳エチケット
2.感染経路別予防策
A.接触感染対策
B.飛沫感染対策
C.空気感染対策
3.肺結核症における接触者検診の実際
A.接触者健診の目的
B.接触者健診の実際
C.院内感染対策としての接触者健診
4.呼吸器感染症におけるワクチンの種類と意義
A.ワクチンの実際
B.ワクチンと感染制御
C.呼吸器感染症に関連するワクチン
索引
はじめに−感染症学は長崎から
呼吸器は外界と直接的に接しているため、感染症を発症する頻度が最も高い臓器の一つである。かつて亡国病として恐れられた結核、スペイン風邪として猛威をふるったインフルエンザ、隣国の中国でアウトブレイクし世界を震撼させた重症急性呼吸器症候群など、歴史上呼吸器感染症が人類に多大な災厄をもたらしてきた。また、実臨床において呼吸器感染症は遭遇する頻度がきわめて高い疾患群であり、専門医のみならず非専門医や若手の医師であっても一定水準以上の知識や診療技能を身につけていることが望ましい。実際、軽症の上気道炎(いわゆるかぜ症候群)から重症の肺炎、難治性の真菌感染症など、原因微生物の種類、疾患の重症度、宿主の状態など、呼吸器感染症の病態はきわめて多岐にわたっており、診療にあたる医師には幅広い知識と豊富な経験が求められている。
超高齢社会を背景とした高齢者肺炎の問題、結核の定期的なアウトブレイク、非結核性抗酸菌症の増加、輸入感染症対策など、呼吸器感染症診療の重要性は現在ますます高まっている。国際的にも薬剤耐性(AMR)をもつ細菌の影響が危惧されており、2016年のG7伊勢志摩サミット(第42回先進国首脳会議)以降、わが国でも国を挙げてAMR対策がなされている。抗菌薬の開発がなかなか進まない時代において、抗菌薬の適正使用のためには、正しく豊富な知識に裏付けされた、日々の地道な診療の実践が不可欠である。
最近、『成人肺炎診療ガイドライン2017』が改訂されたが、これら呼吸器感染症関連の各診療ガイドラインが診療の手助けになることに疑問の余地はない。しかし、呼吸器感染症全般に関する基礎医学的な事項や、個々の症例に対する実践的な診療方法などを、ガイドラインのみから学びとることは不可能である。呼吸器感染症について、より深く、より広く学ぶための座右の書というべき医学書があれば、わが国における呼吸器感染症診療の質をより高めることができるのではないか。そのような希望、期待から今回、本書を企画した。呼吸器感染症について、基礎医学、検査医学、放射線医学、診療ガイドライン、予防医学、感染制御、腎障害時の抗菌薬の使い方といった多角的な視点から解説をしているのが本書のいちばんの特長である。
鎖国が行われた時代には、長崎は国内で流行したさまざまな感染症の発信元となり、感染症対策において重要な地域であった。また、1857年にオランダ海軍軍医ヨハネス・ポンペ・ファン・メールデルフォールトが長崎大学医学部の前身である長崎医学伝習所を設立したが、それがわが国の近代西洋医学教育の端となった。本書は、その長崎大学の第二内科で呼吸器感染症を専門にしている先生方を中心としてつくられた本である。ぜひ、その長崎から発信する本書を活用していただき、呼吸器感染症を深く広く学ぶことで、目の前で苦しむ患者を救い、感染症の拡大を適切に予防し、未来の患者を救うための新たなエビデンス創出の礎となれば幸いである。
末筆ながら、編集作業で南江堂の米田博史・笠井由美の両氏に尽力をいただいたことに深謝したい。
2019年2月
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科呼吸器内科学分野(第二内科)
迎寛
長崎大学第二内科学教室は、呼吸器学領域、感染症学領域、微生物学領域の教授を多数輩出してきた名門教室である。特筆すべきは、本教室から世界へ発信された論文の「質の高さ」と「数」である。基礎的研究を中心とし、その結果から臨床仮説を立てるトランスレーショナル・リサーチが数多く展開され、strong powerの成績が報告されている。また、多施設共同研究を主導し、実臨床に直結する成績も数多く発表されている。これまで報告してきた論文だけで、数十冊もの本になるが、外部から評価される優れた本は、自己完結でなく客観的な意見も取り入れる必要がある。1編の論文を完成させるのに100編以上の主要論文を網羅する。本書の大きな特徴の一つは、これまでの基礎研究で固められた土台の上に、無数の客観的なエビデンスがちりばめられた点にあり、内容にきわめて説得力がある。また、自身のデータに基づいているため、わかりやすく解説されている。
1998年、本邦で初の「肺炎診療ガイドライン」を作成し始めた際は、本邦のエビデンスが少なく、欧米の肺炎診療ガイドラインを参考に作成した。しかし、超高齢社会の日本では寝たきり高齢者や胃瘻を造設された介護高齢者が多く、欧米のガイドラインに準拠して治療することが必ずしも患者にとってよい結果(QOL)に直結しないことが判明している。「成人肺炎診療ガイドライン2017」では、本書執筆者の多くが作成委員として参加されたが、米国のガイドラインとは異なる方向へ舵を切ることを選択した。長崎大学第二内科学教室関連施設ならびに本邦のエビデンスが引用され、本邦の実情に即した、本邦独自のガイドラインへ進化したと思っている。本書では、3年半を費やして作成したガイドラインの重要なポイントが簡潔にまとめられている。
筆者は、本邦の呼吸器・感染症領域のオピニオンリーダーでありレジェンドである、長崎大学第二内科学教室ご出身の原 耕平教授、斎藤 厚教授、那須 勝教授、山口惠三教授、河野 茂学長、賀来満夫教授から直接指導を仰いだ。そして、レジェンドの先生方が書かれた書籍を読んで勉強してきた。世の中では「世代交代がうまくいかない」といった声をよく耳にするが、執筆者一覧から長崎大学第二内科学教室の伝統が次世代、次々世代へと継承されていることがわかる。本書には、長崎大学の伝統と新しい価値を感じる。本音をいえば、私も秘かに執筆協力をさせていただきたかった。
本書の最大の特徴は、呼吸器感染症について微生物学(基礎医学)、検査診断学、呼吸器病学、臨床感染症学、化学療法学、感染制御学、予防医学といった多方面から解説している点にあると思う。執筆者一覧に名前を連ねている先生方は、すでにこれらの母体となる日本感染症学会、日本化学療法学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会など、主要な学術集会を主催されてきた。すなわち本書は、多くの実績が凝集された説得力のある多面的な内容といえる。本書が多くの関係各位に活用されることによって、現在の呼吸器・感染症患者の診療を支援するだけでなく、さらなる新たなエビデンスの創出と将来の呼吸器感染症診療の進歩に貢献することを確信している。
臨床雑誌内科124巻4号(2019年10月号)より転載
評者●関西医科大学呼吸器感染症・アレルギー科 教授/同付属病院感染制御部 部長 宮下修行