心臓血管外科専攻医・専門医必修! Off the Job Trainingテキスト(Web動画付)
監修 | : 3学会構成 心臓血管外科専門医認定機構 |
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編集 | : 日本胸部外科学会・日本心臓血管外科学会・日本血管外科学会 |
ISBN | : 978-4-524-24144-6 |
発行年月 | : 2018年10月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 254 |
在庫
定価9,350円(本体8,500円 + 税)
正誤表
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2018年11月14日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
心臓血管外科専門医認定機構が新専門医制度において必修化を決定した、手術室の外で技術を磨くOff the Job Training(OFF-JT)の概要と教材・教育法をまとめた本邦初のテキスト。基本的なトレーニング法に加え、若手医師が遭遇した危険な場面とその対処、さらに第一線の術者が技術を習得する過程で得た貴重な教訓も披露。専攻医のみならず指導医・専門医の座右にふさわしい一冊。
I.総論
1.OFF-JTとは何か?:伝統的外科修錬からの転換
2.ON-JTとOFF-JTの相互補完:偶発的経験と計画的経験
3.専門医制度との関連
4.航空業界におけるOFF-JT:外科トレーニングへの応用
II.各論.:Simulator-based Skill Training(SST)
1.Simulator-based Skill Trainingの種類とエビデンス
2.Basic Skill Training
A.結ぶ
1 基本的練習法
2 さらなる上達に向けて
B.縫う
1 基本的練習法
2 さらなる上達に向けて
C.止血する
1 基本的練習法
2 さらなる上達に向けて
3.標準手術トレーニング
A.人工心肺操作
B.CABG/OPCAB
1 末梢端側吻合
2 内胸動脈採取
3 内視鏡下大伏在静脈採取
C.大動脈弁置換術
D.僧帽弁置換術
E.腹部大動脈人工血管置換術
F.末梢動脈バイパス
G.血管内治療
H.ステントグラフト内挿術
4.OFF-JT certificateの認定要件と記載要領
5.トレーニング施設紹介
6.私はシミュレーターをこう使っている
A.「みかん法」による大動脈カニュレーション手技の習得
B.朝の15分
C.冠動脈吻合の練習法:内視鏡手術シミュレーション
7.自作のシミュレーター紹介
A.植木鉢型血管吻合シミュレーター
B.金魚すくいのポイを用いた裂けない運針のトレーニング
C.テープを用いたslip knotのトレーニング
III.各論.:Critical Case Simulation &Checklist
1.典型的状況と対処:何を想定し,何をチェックし,どう対処するか?
A.人工心肺トラブル
B.冠動脈バイパス術トラブル
C.大動脈弁置換術トラブル
D.僧帽弁手術トラブル
E.大動脈手術トラブル
F.末梢動脈手術トラブル
G.ステントグラフト手術トラブル
2.若手外科医が実際に経験した事例・対処・転帰
A.日本心臓血管外科学会U-40より
<共通>
1 胸骨正中切開時にinnominate veinが完全離断
2 再胸骨正中切開時にoscillating sawで大動脈ホモグラフトを損傷し大出血した
3 上行大動脈へ送血管を入れたら解離した
4 上大静脈のテーピングの際,右肺動脈壁を損傷した
5 下大静脈の脱血管を抜いたら右房が裂けた
6 右上肺静脈から挿入したベントカテーテルが左室を穿孔していた
7 人工心肺を開始したあとに人工肺圧が高くなった
<小児>
8 Fontan型循環の再手術で癒着.離中に心房を損傷し空気が心内に混入した
9 動脈管結紮の際に血管損傷した
<成人>
10 大動脈弁置換術後の人工心肺離脱困難
11 生体弁大動脈弁置換術後のmassive trans-valvular leakage
12 僧帽弁形成術時の左冠動脈回旋枝損傷
13 左内胸動脈をfree graftにするため中枢側を.離・切離する際に左鎖骨下静脈を損傷した
14 CABGでの静脈グラフト中枢側吻合で大動脈を損傷した
15 MICS-僧帽弁形成術で大腿動脈送血したら逆行性解離した
B.日本血管外科学会ワーキンググループより
1 腹部ステントグラフト術時に腎動脈カバーをきたした症例
2 胸部ステントグラフト術のシース抜去時にアクセス血管損傷をきたした症例
3 腹部ステントグラフト内挿術(EVAR)時のタッチアップバルーンにより血管損傷をきたした症例
4 血管内治療時に右総大腿動脈の穿刺部出血をきたした症例
5 Leriche症候群の血管内治療後に急性上腸間膜動脈閉塞症をきたした症例
6 腹部人工血管置換術中の遮断鉗子で動脈を損傷した症例
7 腹部人工血管置換術時に腸骨静脈を損傷した症例
8 下肢バイパス術直後に動脈閉塞をきたした症例
9 腹部大動脈吻合部からnative aortaが裂けて出血をきたした症例
3.エキスパート外科医の肝を冷やした一例
1 高度の癒着.離に苦労した若年女性の自己弁温存大動脈基部再建術
2 遮断解除直後にValsalva洞から血液が噴き上がった急性大動脈解離の一例
3 急性増悪した上大静脈症候群のため脳浮腫・意識消失をきたしたBentall術後大動脈解離の緊急手術−腋窩静脈脱血によるbail-out
4 強固な石灰化のために大動脈弁置換が遂行できなかった一例
5 人工心肺送血による術中大動脈解離
6 僧帽弁置換13年後の再弁置換術中に左室破裂をきたした一例
7 筆者の成人先天性心疾患再手術構築に影響を与え続けている一針
8 ガイドワイヤーによる胸腔内出血
9 体外循環確立前に上大静脈から出血した一例
10 縫っても縫っても裂ける心室
11 食事摂取開始後胸骨下ドレーンからの排出物により腸管損傷に気がついたCABGの一例
12 油断するな,心しておりよ
13 Bentall手術中に左室破裂を起こし止血に難渋した一例
14 MICSで発症した術中大動脈解離
15 石灰化した左房壁のtearに対し生体弁越しにウシ心膜パッチを縫着して再建した一例
16 胸腹部大動脈ステントグラフト治療時に予期せず上腸間膜動脈をカバーした一例
索引
WEB動画タイトル一覧
II.各論1:Simulator-based Skill Training(SST)
3.標準手術トレーニング/H.ステントグラフト内挿術
動画1:腹部ステントグラフト内挿術(Endurant)のシミュレーション
動画2:胸部ステントグラフト内挿術(Variant)のシミュレーション
6.私はシミュレーターをこう使っている
A.「みかん法」による大動脈カニュレーション手技の習得
動画3:みかん法
7.自作のシミュレーター紹介
B.金魚すくいのポイを用いた裂けない運針のトレーニング
動画4:金魚すくいのポイ
C.テープを用いたslip knotのトレーニング
動画5:slip knot
企画意図と本書の使い方:初心者から達人への道しるべ
本書は、日本初の心臓血管外科OfftheJobTraining(OFF-JT)に関するテキストブックである。2016年からの心臓血管外科専門医制度へのOFF-JT導入に伴い、多くの指導医からOFF-JTに関する質問が心臓血管外科専門医認定機構に寄せられている。そこで、指導医と専攻医のための入門書として3学会協力のもと緊急出版することになった。ベテラン指導医の執筆はもちろんのこと、実際にトレーニングを受ける若手外科医にも編集と執筆に協力してもらった。
まずは【総論】でOFF-JTの全体像をつかんで欲しい。この数年は伝統的な外科修練からの転換期である。外科技能の向上とは? 向上に有効なトレーニングとは? スキルはどう評価するのか? 専門医制度との関係は? など、基本的な事項を解説した。ぜひ一読して欲しい。外科トレーニングでは常識となっている考え方や用語も解説した。
【各論1】は、【技能】のシミュレーショントレーニングである。心臓血管外科における基本的スキルと標準手術のスキルの練習について紹介している。シミュレーショントレーニングを準備して実施し、専攻医にフィードバックや評価をする際の参考になる。基本的スキルの項にはその道の達人から奥義を記載していただいたので、参考にして欲しい。また、若手医師からも簡便なシミュレーターを紹介してもらった。専攻医には、自分に合った方法でそれぞれ工夫して日々のトレーニングに活用して欲しい。指導医からの問い合わせが多い各施設での【OFFJT認定書】発行の実際についても、わかりやすく解説していただいた。
【各論2】は、【認知と判断】のシミュレーショントレーニングである。「想定外の事態を想定する」トレーニングであり、ベテランから若手まで幅広い経験から執筆していただいた。想定外の事例が発生した記載が出てきたら、いったん本書を閉じて「何が起きたのか」と「その次の一手」を考えるグループディスカッションのテキストとして使用するのもよし、当直室で一人寝る前に一症例を読み、自分ならこうするとあれこれ考えながら眠りに落ちるのもよしである。いずれにしろ手術経験の宝庫であり、一外科医がこれらのピットフォールをすべて経験するには何十年も必要である。もし明日の手術で想定外の事態に遭遇しても、本書で仮想体験していれば、迷うことなく冷静に正解にたどり着けるであろう。いつもの手術の流れと違う【おかしいな?】が起きたときに、種々の可能性から【何が起きているのか】を判断し、次に【どうするか】を決めて、手を動かし指示を出して対処するイメージを持って欲しい。認知/判断/技能を連動させてトレーニングを行うとより効果的である。多くの外科医がピットフォールを回避して、心臓血管外科医療の安全向上につながることを期待する。
本書は心臓血管外科のOFF-JTに関するはじめての本である。難度の高い手術のシミュレーションなどは割愛し、入門書として編集した。多くの先生方からの改善の要望を編集部宛にいただければ、改訂版に反映させていきたい。
2018年9月
編集委員を代表して
横山斉
医師免許を取得し医師としての研修が始まったときには、誰もが一流の医師になることを夢想している。しかし、医療に限らずあらゆる分野と同様に、一流への道は容易ではない。とはいえ、基本的な心臓血管外科手術の技術を学ぶことは以前と比べて比較的容易になってきた。それは心筋保護法の発達や器械類の進歩はもちろん、心臓血管外科が普通の手術になるほどの経験知が蓄積されてきたことによる。
技術とは形式知化された知識のことであり、文書や会話などで他人に伝達可能であるとされている。これに反して技能とは、技術を使用し、作業を遂行する能力のことである。この技能は個人の中に熟成されるため、他人に伝達不可能なものであるとされている。つまり、技術面だけを記憶することは容易であっても、その技術を自身の技能として身につけることは別問題である。そしていうまでもなく、一流の外科医は豊富な知識だけではなく、高いレベルの技能を有しなければならない。
さて、このたび南江堂より『心臓血管外科専攻医・専門医必修! Off the Job Trainingテキスト[Web動画付]』が上梓された。Off-the Job Training(OJT)のために企画された本書は、全体として具体的な手術手技の練習法に多くの頁を割いている。これまでは医局や先輩からの言い伝えで実施されていた練習方法が、こと細かく説明されており、内容についての意義づけまでも述べられている。もちろん基本的な運針や結紮についてもわかりやすく説明され、また運針の練習のための優れたトレーニング機器の利用法も記載されている。これほどまでに心臓血管外科分野に特化して技能を磨くための修練法を記載した類書は、これまでほとんど存在しなかったといってもよいであろう。昭和・平成時代では徒弟制的修行で成長してきた日本の心臓血管外科医も、令和時代においてはOJTを含めて効率よく技能を学ぶことが期待される。
本書の後半には、若手医師やベテラン医師の苦い体験が臨場感溢れる記述とともにまとめられている。いわゆる学術集会では成功例が語られることが多く、苦い経験談は公表されることが多くない。本書の貴重なヒヤリ・ハット系の記述は、技術や技能を高めていくための引き出しの中に是非とどめておくべき内容である。今日からの臨床にすぐにでも応用しなければならないかもしれないトラブルの回避ポイントが語られている。
イチロー選手が引退記者会見で、「アメリカの野球が変質して頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある」と危惧を表明した。データ・セオリー重視の野球は、勝率を上げる手段としてもっとも確率が高いのであろう。ドラマチックな展開が期待される野球とは異なり、手術はやはりデータや基本原則を重視すべきものである。しかし、想定どおりに進行しない事態もまた多数手術中に出現する。その異常事態に対処できる優れた外科医は、さまざまな状況を想定しそれに対処する引き出しが多い、すなわち高い技術と技能を兼ね備えた外科医であるといえる。その意味で、外科医としての修練が野球のトレーニングと比較して述べられているくだりは、非常に興味深い。われわれは職人的技能を生業にしているわけで、その意味でアスリートや音楽家のように、あるいは生命を預かるという責任からはそれ以上に、日ごろからトレーニングを怠らず、術前に準備運動もすべきなのである。
以上、本書は一流の外科医をめざす若き学徒のトレーニングマニュアルであるばかりではなく、熟練度の高い諸先生方にも臨床に直結する読み物として楽しめる良書である。時代とともに手技や器具は洗練されていくし、外科医を取り巻く環境もかわっていく。心臓血管外科医を育成するための秘伝が詰まった本書は、読者とともにさらに進化すべきものであるし、続編や改訂版にも大きな期待をしている。
胸部外科72巻8号(2019年8月号)より転載
評者●京都大学心臓血管外科教授 湊谷謙司
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