こんなときどうする?PCIトラブルの対処術
監修 | : 坂田泰史 |
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編集 | : Gruentzig Club編集委員会/南都伸介/藤井謙司/西野雅巳 |
ISBN | : 978-4-524-24141-5 |
発行年月 | : 2018年8月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 186 |
在庫
定価6,050円(本体5,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
PCI手技中にデバイススタック、冠動脈破裂・穿孔、ステント脱落、空気塞栓などに遭遇したことはありませんか? 本書では、これまでPCI合併症とその対策について20年以上症例検討を続けている研究会、Gruentzig Clubが集積した、PCI合併症に関する情報を余すことなく提供し、PCI初級者とカテ室スタッフが、必ず知っておくべき合併症とその予防法、具体的な対処法をわかりやすく解説した。
A 日本におけるPCI合併症の現状
B デバイススタック
〈1〉IVUSスタック
1.発生機序と予防法
2.対処術
〈2〉ガイドワイヤースタック
1.発生機序
2.対処術
〈3〉バルーンスタック
1.発生機序と予防法
2.対処術
C 冠動脈血腫
1.発生機序と診断法
2.対処術
D 冠動脈破裂バルーン血管形成術やステント留置後
1.発生機序と予知法
2.対処術
a パーフュージョンカテーテル利用法
b カバードステント利用法
E 冠動脈穿孔
1.発生機序と予防法
2.対処術
a コイル利用法
b 塞栓物質利用法
c マイクロカテーテル利用法
F slow flow/no flow
1.発生機序と予知法
2.予防法
3.対処術
G ステント脱落
1.発生機序と予防法
2.対処術
H 穿刺部合併症
1.仮性動脈瘤・動静脈瘻
2.後腹膜血腫
3.TRIの穿刺部合併症
4.Angio-Sealのトラブル
5.腸腰筋膿瘍
I 空気塞栓
1.発生機序と予防法
2.対処術
J その他の合併症
1.急性A型大動脈解離に合併する冠虚血
2.造影剤腎症
3.ガイディングカテーテルのキンク
4.Tornusの合併症
K ロータブレーターの合併症
1.発生機序と予防法
2.対処術
a slow flow/no flow
b 冠動脈破裂
c スタック
d その他
L レーザー血管形成術の合併症
1.発生機序と予防法
2.対処術
a 冠動脈破裂
b その他
M 角辻流:IVUSを活用した合併症対処術
1.血腫の診断・対処術
2.冠動脈破裂の予知・診断・対処術
索引
監修の序
これからの医療は、IT(Information Technology)、IoT(Internet of Things)、AI(Arti.cial Intelli-gence)、VR(Virtual Reality)などの導入により大きく変わると言われています。電子カルテがどこの病院でもつながるようになれば、紹介状を書く必要はなくなります。すでにコンタクトレンズで血糖値が測定できるようなデバイスが開発され、そのデータは医師の手元ではなく、まず「クラウド」に入ります。CT画像が自動的に腫瘍病変を指摘する日は近いでしょう。心臓リハビリテーションもリハビリ室を離れ世界中どこへでも「自転車で駆け回れる」ようになるかもしれません。このような時代に、我々人間は「医師」として何ができるのでしょうか。
これまで医師という職業を形作ってきたものは、医療に関する情報を手元におくこと、必要があれば患者さんに針やメスを入れても罰せられないこと、この二点です。しかし今や、前者は患者さんに開放されています。これからの医師は、患者さんと情報を共有しながら、患者さんに「触れる診療」に専念できるようになるのかもしれません。循環器内科医は、丁寧な問診と身体所見、心エコー図検査、そしてデバイス治療など、患者さんに「触れる診療」を多く持ってきました。その中でも、その技術を最も研ぎ澄ませてきたのがPCIです。1977年チューリッヒにて、Andreas R.Gruentzig先生がヒトの冠動脈に対する世界第一例目の冠動脈バルーン拡張術に成功して以来、慢性期から急性期への適応拡大、患者さんの術前後の管理、合併症対策のためのニューデバイスや薬物療法の開発という多くの課題に対し、基礎研究、臨床研究、医工連携、そしてmedical staffとのチーム医療の確立まで、循環器医は努力を積み重ねてきました。その努力は、急性心筋梗塞死亡率低下や、狭心症の苦痛からの解放につながっていると思います。
大阪大学循環器内科とその関連病院でも、多くの先輩方がこれらの課題に取り組み、研究成果を挙げ、PCI治療の発展に貢献してきました。PCIの技術に関して、南都伸介先生、藤井謙司先生、西野雅巳先生を中心とした「Gruentzig Club」が合併症やトラブルを公開し、その発生状況、bailout、反省点を共有することで、より安全なPCIを多くの医師が行えるように努力されてきました。合併症やトラブルは、どうしても公にしたくないという気持ちが働きます。それを表に出し、共有しやすい雰囲気を作ってこられたGruentzig Clubの先生方には心から敬意を表します。そして、その情報を多くの読者にも共有していただければ、監修者としてこれ以上の喜びはありません。
2018年7月
大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学
坂田泰史
このたび「こんなときどうする? PCIトラブルの対処術」が南江堂から発刊された。PCIの技術に関する症例検討会「Gruentzig club」における議論を集大成したPCI合併症のマニュアル本である。現状分析、トラブル対処術、IVUSを活用した合併症対処術などで構成され、著者らからのメッセージ、とくに覚えておくべき内容はエッセンスとして冒頭に記載されている。また、トラブルからの回避手段は具体的に多くの図、写真を用い平易な言葉で記載されている。本書の特筆すべき点は、トラブルの発生機序、予防策に関して理論的解説がなされている点である。結果(トラブル)には必ず原因があり、トラブルから回避できた場合にもそこにはチップスがあるからである。この理解がなければトラブルを繰り返すであろうし、トラブル回避への応用も不可能だからである。このように本書は、読者の理解を深める構成となっており、実践的な解説書である。本書を読み進める間、数多くうなずく点を見つけることであろう。
本書に記載されているように、本邦における大きな合併症の頻度はいずれも1%以下といわれ、決して高頻度ではない。この事実は、逆にPCIが成熟した今日でも合併症は絶対皆無にはならないことを示唆しており、このことを肝に銘じるべきであろう。であるから、“転ばぬ先の杖”“濡れぬ先の傘”となる本書が必要なのである。本書は杖となり傘となり、読者が怪我することなく濡れることなく医療を実践するためのバイブルとなることであろう。
しかし、転ばぬ先の杖は“言うは易く行うは難し”である。自分には関係ないと他人事になりやすいのが現実である。いつ経験するかわからないトラブルのために対策を練っておくことの必要性はわかっていても、忙しさにかまけて後回しになりやすいからである。トラブルを経験して初めて一人前などといわれた時代もあったが、知っていれば回避できることを怠ることは許されない。“盗人を見て縄を綯う”はあってはならないのが現在である。先人の教え、“一寸先は闇”“備えあれば患いなし”を思いだし、多くの関係者にぜひ本書を通読していただきたい。そして、多くの読者には合併症回避というexperience based medicineの醍醐味を体感していただきたい。
臨床雑誌内科123巻1号(2019年1月号)より転載
評者●東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授 中村正人