高齢者のがん薬物療法ガイドライン
編集 | : 日本臨床腫瘍学会/日本癌治療学会 |
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ISBN | : 978-4-524-24013-5 |
発行年月 | : 2019年7月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 104 |
在庫
定価1,980円(本体1,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本臨床腫瘍学会および日本癌治療学会の共同編集によるガイドライン。がんの薬物療法は、抗がん薬の増加、治療レジメンや支持療法の進歩等により飛躍的な発展を遂げているが、急速に増えている高齢がん患者においては、QOLや認知機能の低下、合併症や副作用の頻度増加など、特有の問題があり、かつ個人差も大きいため、標準治療は確立されていない。本ガイドラインは、今後ますます重要性を増す高齢がん患者に対する薬物療法について、基本的な診療指針を示すものとなる。
はじめに
総論
CQ1 高齢がん患者において,高齢者機能評価の実施は,がん薬物療法の適応を判断する方法として推奨されるか?
造血器
CQ2 高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療方針の判断に高齢者機能評価は有用か?
CQ3 80才以上の高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対してアントラサイクリン系薬剤を含む薬物療法は推奨されるか?
消化管
CQ4 高齢者では切除不能進行再発胃がんに対して,経口フッ化ピリミジン製剤とシスプラチンまたはオキサリプラチンの併用は推奨されるか?
CQ5 結腸がん術後(R0切除,ステージIII)の70才以上の高齢者に対して,術後補助化学療法を行うことは推奨されるか?行うことが推奨されるとすれば,どのような治療が推奨されるか?
CQ6 切除不能進行再発大腸がんの高齢者の初回化学療法においてベバシズマブの使用は推奨されるか?
呼吸器
CQ7 一次治療で完全奏効(CR)が得られた高齢者小細胞肺がんに対して,予防的全脳照射(PCI)は推奨されるか?
CQ8 高齢者では完全切除後の早期肺がんに対してどのような術後補助薬物療法が推奨されるか?
CQ9 高齢者非小細胞肺がんに対して,免疫チェックポイント阻害薬の治療は推奨されるか?
乳腺
CQ10 高齢者ホルモン受容体陽性,HER2陰性乳がんの術後化学療法でアントラサイクリン系抗がん薬を投与すべきか?
CQ11 高齢者トリプルネガティブ乳がんの術後化学療法でアントラサイクリン系抗がん薬の省略は可能か?
CQ12 高齢者HER2陽性乳がん術後に対して,術後薬物療法にはどのような治療が推奨されるか?
一般向けサマリー
「高齢者のがん薬物療法ガイドライン」発刊にあたって
日本の人口が高齢化するのに伴い、高齢者にがん薬物療法を施行する機会が増えているが、その際は気を使う。高齢者ではがん薬物療法の副作用は強く治療効果は不十分である場合が多いと一般的に考えられているが、その機序はよくわかっていない。高齢であるというだけで薬物動態が変化することは多くない。たとえば高齢者ではドセタキセルの薬物動態は変化していないが、骨髄抑制の感受性が亢進しているため若年者と同量は使いにくいことが示されている。
わが国のがん薬物療法の臨床試験では高齢者は除外されることが多いが、欧米では除外されない。科学的根拠もなく高齢であることだけを理由に臨床試験から除外することは、高齢者の差別につながるからである。過去の臨床試験における検討では、高齢であっても適格基準に合致すれば安全に治療ができることが示されている。ただし、高齢者では臨床試験の適格基準を満たす人が少ないのである。しかし、実地診療では臨床試験の適格基準を満たさなくても、高齢者に対してもがん薬物療法を実施せざるを得ない場合も多い。その時にどのような考え方で、どのように対応したらよいのか、指針があれば役に立つ。その一助とするため日本臨床腫瘍学会では関連学会の協力を得て、本ガイドラインを作成することになった。高齢者に特化した質の高い臨床試験が少ないため、ガイドライン作成にあたって委員は苦労したと思う。この場を借りて感謝したい。
質の高い臨床試験が少ないため仕方ないことだが、本ガイドラインの記述内容のエビデンスレベルは高くない。実質15のクリニカルクエスチョンに対し、エビデンスレベルAの推奨はなく、Bも6件しかない。Cが7件、Dが2件とエビデンスレベルが低いものが多い。さらに推奨の一致率も高くなく、90%以上の一致をみたクリニカルクエスチョンは1件しかなく、80%台が5件、70%台が7件で、70%未満のクリニカルクエスチョンすらある。これらの数字は高齢者のがん薬物療法に関していかにエビデンスが乏しいかを示しているといえる。しかも本ガイドラインで扱っているクリニカルクエスチョンは少なく、本ガイドラインをもって高齢者のすべてのがん薬物療法に対応することは不可能であるが、高齢者のがん薬物療法の考え方の参考になれば幸いである。
高齢者に対するがん薬物療法の考え方はがん種によらず共通である。日本臨床腫瘍学会が認定するがん薬物療法専門医は臓器・領域横断的にトレーニングを積んでいる。がん薬物療法を実施するすべての施設でがん薬物療法専門医が中心となって実施する体制を構築して欲しい。
本ガイドラインがわが国の高齢者のがん薬物療法に貢献することを願っている。
2019年6月
日本臨床腫瘍学会 理事長
神戸大学大学院医学研究科腫瘍・血液内科学
南博信
「高齢者のがん薬物療法ガイドライン」発刊にあたって
超高齢化社会に突入しつつあるわが国において、高齢者に対する最適ながん治療を開発することは、大きな社会的要望となっています。高齢者は、がん薬物療法においても副作用、有害事象が強く現れる可能性がある一方で、適切な投与がなされなかった場合に治療効果が減弱する危険性も指摘されています。しかしながら、高齢者は臨床試験の対象から除外されることが多いため、根拠となるエビデンスに乏しく、治療法の選択、治療強度の修飾が、それぞれの医師の経験や施設の慣習で行われているのが現状です。そのため、これまでしっかりとした高齢者のがん薬物療法のガイドラインは作成されてきませんでした。今回のガイドラインは系統的に、高齢者がん薬物療法をMinds診療ガイドライン作成手引きに準拠して作成されております。アドバイザーとして中山建夫、佐藤康仁両先生にご参加いただき多くの若手医師によるシステマティックレビューチームが作成に協力していただいたことも大きな助けとなりました。
本ガイドラインの作成グループは日本臨床腫瘍学会ならびに日本癌治療学会が作成主体となり、日本老年医学会の協力を得て現時点で総論、各論をあわせて12のクリニカルクエスチョンについて記載しています。作成委員は、高齢がん薬物療法のエキスパートのみならず多職種の委員として看護師・薬剤師の方々にも協力いただき非常に層の厚い作成グループによる厳正な査読のもとで完成しており、現場の日常診療に大いに貢献できるものと考えております。
日本癌治療学会は領域・職域横断的な学術団体の責務として、様々な臓器のがん治療に共通するガイドラインに携わってきました。今回の高齢者がん薬物療法の質向上に寄与する本ガイドライン策定に参画できましたことは、本学会にとっても大きな意義のあるものと考えております。本書が、がん薬物療法にかかわるすべての人にとって適切かつ有効に利用されることを心より望んでおります。
最後に、本ガイドラインの作成にリーダシップをとり、ご尽力いただきました作成部会統括委員長の安藤雄一先生ならびに副委員長の長島文夫先生、そして多くの関係者の皆様に深く感謝いたします。
2019年6月
日本癌治療学会 理事長
慶應義塾大学医学部外科学
北川雄光
諸氏待望の優れたガイドライン書が発刊された。本邦初の時宜を得た良書である。ガイドラインとしては、まだ将来を見据えた状況でいわば緒に就いたばかりの書であるが、現時点におけるsecond tononeであることには相違ない。日々の実地臨床に、また臨床研究や基礎的基盤研究に大いに活用していただきたい。
『高齢者のがん薬物療法ガイドライン』作成という空前の難事業を遂行するためには、何より先進先鋭の布陣が求められた。そこで、がん薬物療法に精通する日本臨床腫瘍学会と臓器・領域・職域横断的な体制が整備されている日本癌治療学会を中核として斯界の有能な人材を募り、可能な限り偏りを排してがん薬物療法とがん医療を俯瞰する大きな視野からガイドライン作成組織が結成された。さらに、日本老年医学会からも協力を得て盤石の体制で臨んだ書である。この大きな組織を統率するには、活動の指針を適切に指南し得る広くあまねくがん薬物療法の理論と実践に通じた委員長が求められるが、幸いこのガイドライン作成部会は主題であるがん薬物療法の基盤たる臨床薬理学の傑士を得た。また、副委員長にはがん医療に通じ、かつ老年腫瘍学にも精通した第一人者を擁することにより指導体制が確立されている。
がん関係のガイドラインの歴史は浅く、黎明期はむしろ支持医療に関するものの充実ぶりが際立っていた。しかし、過去十数年にわたる各臓器がんガイドライン作成の実践と実績、スキル、経験を通して、わが国でも欧米に劣らない傑出したガイドライン書が相次いで発刊されるようになってきた。このような経緯や経験を踏まえて、本書は「Minds診療ガイドライン作成の手引き2014」に準拠して作成されており、系統的なシステマティックレビューにより、偏りのない、透明性が担保された内容となっている。また最近のガイドラインの潮流として、エビデンス一辺倒に反省がみられるが、幸か不幸か当該領域にはエビデンスがきわめて乏しいことから、委員間での十分な検討と討議を経て各推奨が呈示されている。そしてその推奨については、各担当分野におけるパネル委員による投票の経緯と結果が示されており、読者も自身の意見との擦り合わせに有用である。本書を開いてみれば一目瞭然であるが、推奨にいたった経緯や背景、その解説が実にきめ細やかに記されている。これは日本人がもつ特質かもしれないが、疑問と回答、説明に対するひたむきさ、きめ細やかさ、実直さがなせる業であろう。初学者には教科書以上にメリハリのある、要点を得た現実的な対応、対策、そしてその背景を学ぶのには最適な書であり、医療スタッフにとってはその詳細な解説が種々の場面での判断の支えとなり、また理解を深め向上につながる書である。今後探求すべき未解決な事項、不明な所見、現象、反応については、基礎研究者も本書から多くを学び取っていただきたい。
この書が発展途上であることは、「臨床現場での問題」「今後の研究課題」と称した別項が各CQに設けられていることからも自明の理である。読者とともに解決すべき問題に取り組む姿勢を示すとともに、広く読者を勇気づける作成委員からのメッセージである。本務多忙のなか、秀逸な本ガイドラインをまとめられた関係諸氏に深甚なる謝意と尊信を表するとともに、この書を原点として高齢者のがん薬物療法のさらなる発展を祈るものである。
臨床雑誌内科125巻4号(2020年4月増大号)より転載
評者●戸田中央総合病院腫瘍内科 部長 相羽惠介