書籍

消化器科医のためのアルコール臓器障害診療マニュアル

減酒療法のススメ

編集 : 吉治仁志
ISBN : 978-4-524-23498-1
発行年月 : 2022年11月
判型 : A5
ページ数 : 168

在庫あり

定価3,300円(本体3,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

消化器科医が日常診療で遭遇する“お酒をやめなきゃいけないのに,なかなかやめられない患者”への対応を一冊に凝縮.消化器科を受診するアルコールに問題を抱えた患者への減酒療法について,用いられる治療薬から精神的・社会的治療,生活指導までを解説するとともに,アルコールによる各臓器障害の治療のポイントを紹介.消化器科医が直面するアルコールによる健康障害の現状を把握し,その問題を解決するための必携書.

1.はじめに
2.非専門医のための「アルコール依存症(アルコール使用障害)」拾い上げのコツ
3.減酒療法(ハームリダクション)って何?
4.減酒療法に使う治療薬のキホン
   @精神科の立場から
   A内科の立場から
5.非専門医のための心理社会的治療のコツ
6.非専門医が知っておくべき精神科領域におけるアルコール使用障害
7.非専門医から精神科医への紹介のタイミングは?
8.アルコールによる消化器系臓器障害と治療のポイント
 A.食道
   @食道運動機能障害への影響と食道炎リスク
   A食道癌
 B.胃
   @胃粘膜障害・胃炎
 C.肝臓
   @脂肪肝
   Aアルコール性肝炎
   B肝硬変
   C肝臓癌
 D.大腸
   @大腸癌
   A下痢も含めた癌以外の疾患
   B腸内細菌とのカンケイ
 E.膵臓
   @膵炎
   A膵癌
   B糖尿病



消化器疾患は対象が多臓器にわたるため非常に多くの疾患が診療の対象となります.これら消化器疾患に対する治療法は年々進歩しており,様々な領域で患者さんの予後が大きく改善しています.各種合併症に対する治療とともに,疾患の原因の根本的除去は実臨床において最も重要な課題です.アルコールは多くの消化器疾患の原因となることが知られています.日本人のアルコール摂取量は総量をみると近年減少傾向にあり,OECD加盟先進国の平均よりも少ないものの,アルコール摂取上位20%で比較すると世界で3番目に多い飲酒量となっています.日本人の多くは海外に比してアルコール代謝酵素活性が低いことから臓器障害をきたしやすいことは容易に想像できます.日本人におけるアルコール関連死因の実に87%が肝・消化器関連疾患であることが近年報告されており,消化器疾患を診療する医師にとってアルコールに対するマネジメントは日常診療において必要不可欠な課題となっています.
しかし,日常診療において禁酒が必要であるにもかかわらず飲酒をなかなかやめられないアルコールの問題を抱えた患者に頻繁に遭遇します.これまではそうしたアルコール依存の強い患者の対応は主に精神科医や心療内科医が行ってきましたが,実臨床でこのような専門医外来への受診は専門機関の不足も相まってハードルが高く,治療ギャップが大きいものとなっていました.
アルコールが原因となる臓器障害に対しては,禁酒することによって臓器障害のみならず予後の改善が認められますが,完全な禁酒を達成できる患者の割合は極めて限られており,いったん禁酒しても再飲酒を始める症例が多いため,非専門医にとっては治療介入が困難でした.近年,完全な禁酒ではなく飲酒量を減らすことにより臓器障害を軽減する,という「ハームリダクション」の概念が注目されています.これまで,飲酒量低減治療薬はアルコール依存症の専門研修を受けた医師のみに処方が可能でしたが,2021年に日本肝臓学会および日本アルコール・アディクション医学会によるeラーニング受講修了者であれば一般診療医もこの薬剤が処方できるようになり,アルコール性臓器障害患者の治療が大きく変わろうとしています.
本書は,一般の診療医を受診しているアルコールに問題を抱えた消化器疾患患者の治療補助としての禁酒・減酒について,薬物療法から生活指導まで解説し,消化器診療医が直面している問題を解決できる一冊となるようになっています.減酒療法の概念から精神科専門医による治療のコツ,各種臓器障害の治療法など消化器診療医に対する情報を適切かつコンパクトにまとめている本書を,皆様の明日からの日常診療に役立てていただければ幸いです.

2022年9月
吉治 仁志

やっと,薬物によるアルコール性肝障害患者救済の道が開けた!

 私が医学部を卒業した1967年当時の肝臓病学といえば,診断学が主体でAST,ALTという逸脱酵素や肝障害の進展を予測する膠質反応の結果をみて,肝生検組織像と対比しながら肝庇護剤の効果に一喜一憂する日々であったような気がする.しかしながら,B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)のウイルス学的診断が可能となるや,多くの肝臓病研究者はウイルス肝炎の診療にシフトしていった.私自身はAFPの研究をきっかけに,肝がんの発生機序の研究に興味をもち,フィラデルフィアの某がん研究所にお世話になったが,その際に驚いたことは街頭にたむろするアルコール中毒者の多さであり,また研究所で剖検されるアルコール性肝硬変患者の肝細胞がん組織が日本人の場合と異なることであった.当時,わが国では故・武内重五郎(金沢大学),故・高田昭(金沢医科大学),故・石井裕正(慶應義塾大学)博士といった方々がこの分野のリーダーだったと記憶している.ウイルス肝炎が肝臓病学の主流になるにつれて,アルコール性肝障害を含む代謝性肝障害の研究者は減少した.
 ところが,B型肝炎における核酸アナログ製剤による治療やC型肝炎におけるDAA製剤による治療で疾患コントロールが可能となるや,肝臓病研究者の関心は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に向かい,そのなかでアルコール性肝障害にも再び光が当たることになった.2022年の米国肝臓学会総会では,アルコールに関する演題が過半数を占めており,いまや世界の研究者の関心はウイルス肝炎からアルコール性肝障害へとシフトしている.ご承知のようにアルコール性肝障害は脂肪肝から肝炎,線維症,肝硬変,肝がんまで連続性があり,有効な治療法が禁酒や減酒であることは論をまたない.しかしながら,これが患者にとって一番難しい.欧米ではすでにnalmefeneによる治療介入が行われているが,日本では行政側の高いハードルで門前払いが続いた.転機は2021年に起きた.日本肝臓学会理事で本書の編集者でもある吉治仁志教授から行政側の垣根を取り払って,消化器科医がnalmefeneを処方可能なシステムをつくりたいとのお話があり,それには政治家を動かすのが一番と判断し,アルコール議員連盟委員長に事情を説明したうえで懇願した.紆余曲折を経ながらも,日本肝臓学会および日本アルコール・アディクション医学会によるeラーニング受講修了者に対してはnalmefeneの使用が可能となった.使用に際しては,本書でも強調されているようにアルコール依存症の拾い上げが重要で,WHO作成のAUDIT—C(the Alcohol Use Disorder Identification Test—Consumption)の利用が提唱されている.アルコールに関しては,「百薬の長」という言葉や,医師側も「少量であれば」と容認する傾向があり,なかには『酒飲みを喜べ』というタイトルでアルコールとの付き合い方を解説する新書を出版した肝臓医もいた.しかし,AUDITという概念が医療者側のみならず社会に浸透すれば,アルコール依存症患者の減少につながるものと確信している.
 本書は平易に記述されており,読後には飲酒が体全体に及ぼす悪影響とそれを防止・軽減するための減酒療法の必要性を強く認識していただけるものと思う.大変タイムリーな書籍として吉治教授の慧眼に最大の賛辞を贈りたい.

臨床雑誌内科131巻6号(2023年6月号)より転載
評者●山口大学 名誉教授,日本肝臓学会 元理事長 沖田 極

9784524234981