高齢者糖尿病診療ガイドライン2023
編・著 | : 日本老年医学会・日本糖尿病学会 |
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ISBN | : 978-4-524-23464-6 |
発行年月 | : 2023年5月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 264 |
在庫
定価3,960円(本体3,600円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本老年医学会・日本糖尿病学会の共同編集による診療ガイドラインの改訂版.今版はMindsの「ガイドライン作成マニュアル2020 Ver.3.0」を参考に,高齢者特有の生理機能の変化や合併症・併存疾患など,糖尿病診療にあたって考慮すべき点や臨床上の疑問について111個のCQ・Qでまとめ,解説.章ごとに文献一覧・アブストラクトテーブルを収載し,エビデンスの確認も容易にできる構成とした.
T.高齢者糖尿病の背景・特徴
1.高齢者の定義,高齢者糖尿病の定義
Q-T-1 高齢者糖尿病の定義は何か?
2.加齢と耐糖能
Q-T-2 加齢とともに耐糖能異常,糖尿病は増えるか?
3.高齢者糖尿病の特徴
Q-T-3 高齢者糖尿病はどのような特徴があるか?
4.高齢者糖尿病の合併症・併存疾患
Q-T-4 高齢者糖尿病で加齢とともにどのような合併症・併存疾患が増えるか?
Q-T-5 高齢者糖尿病は老年症候群をきたしやすいか?
5.高齢者糖尿病の高血糖
Q-T-6 高齢者糖尿病は食後の高血糖をきたしやすいか?
Q-T-7 高齢者糖尿病は高浸透圧高血糖状態(hyperosmolar hyperglycemic state:HHS)を起こしやすいか?
6.高齢者糖尿病の低血糖
Q-T-8 高齢者糖尿病の低血糖にはどのような特徴があるか?
7.死亡の危険因子と個別化医療
Q-T-9 高齢者糖尿病では糖尿病がない人と比べて死亡が増えるか?
Q-T-10 高齢者糖尿病の死亡の危険因子は何か?
Q-T-11 高齢者糖尿病の個別化医療を行うのに有用な因子は何か?
U.高齢者糖尿病の診断,病型
1.高齢者糖尿病の診断
Q-U-1 高齢者糖尿病の診断は非高齢者と同様の診断基準を用いるか?
2.高齢者の1型糖尿病
Q-U-2 高齢者でも1型糖尿病を新規発症するか?
Q-U-3 高齢者1型糖尿病は増加しているか?
Q-U-4 1型糖尿病の病型は高齢発症と非高齢発症で異なるのか?
3.高齢者糖尿病の診断,および管理における血糖管理指標
Q-U-5 高齢者糖尿病の診断,および管理にはどのような血糖管理指標が有用か?
V.高齢者糖尿病の総合機能評価
1.総合機能評価
Q-V-1 高齢者糖尿病では総合機能評価として何を評価すべきか?
2.認知機能の評価
Q-V-2 高齢者糖尿病においてなぜ認知機能を評価する必要があるのか?
Q-V-3 高齢者糖尿病において認知機能のスクリーニングはどのように行うのか?
3.ADL・フレイル・サルコペニア・転倒リスクの評価
Q-V-4 高齢者糖尿病においてなぜADL低下やフレイルを評価する必要があるのか?
Q-V-5 高齢者糖尿病においてADL低下やフレイルはどのように評価を行うのか?
Q-V-6 高齢者糖尿病においてサルコペニア,バランス能力,転倒リスクはどのように評価を行うのか?
4.心理状態の評価
Q-V-7 高齢者糖尿病においてうつ状態はどのように評価を行うのか?
5.薬剤の評価
Q-V-8 高齢者糖尿病において薬剤についてはどのようなことを評価すべきか?
6.社会・経済状況の評価
Q-V-9 高齢者糖尿病において社会・経済状況についてはどのようなことを評価すべきか?
W.高齢者糖尿病の合併症
1.糖尿病網膜症
Q-W-1 高齢者糖尿病では糖尿病網膜症をどのように評価するのか?
2.糖尿病性腎症
Q-W-2 高齢者糖尿病では糖尿病性腎症をどのように評価するのか?
3.糖尿病性神経障害
Q-W-3 高齢者糖尿病では糖尿病性神経障害をどのように評価するのか?
4.脳・心血管疾患
Q-W-4 高齢者糖尿病の動脈硬化性疾患の特徴は?
5.末梢動脈疾患
Q-W-5 高齢者糖尿病の足病変の特徴は?
X.高齢者糖尿病の併存疾患
1.認知症
Q-X-1 高齢者の糖尿病または高血糖は認知機能低下・認知症の危険因子となるか?
Q-X-2 高齢者の(重症)低血糖は認知機能低下・認知症の危険因子となるか?
CQ-X-3 高齢者糖尿病における(厳格な)血糖コントロールは認知機能低下・認知症発症の抑制に有効か?
2.フレイル・サルコペニア
Q-X-4 高齢者糖尿病の高血糖はフレイル,サルコぺニアの危険因子か?
Q-X-5 高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル,サルコペニアの危険因子か?
Q-X-6 高齢者糖尿病における血糖コントロールは筋量や筋力の維持に有効か?
3.ADL低下
Q-X-7 高齢者糖尿病の高血糖または低血糖はADL低下の危険因子か?
4.転倒
Q-X-8 高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子か?
Q-X-9 高齢者糖尿病における血糖コントロールは転倒の予防に有用か?
5.うつ
Q-X-10 高齢者の糖尿病や高血糖,低血糖はうつ(うつ病またはうつ傾向)の危険因子となるか?
Q-X-11 高齢者糖尿病におけるうつ(うつ病またはうつ傾向)への介入は血糖コントロールの改善に有効か?
6.骨粗鬆症
Q-X-12 高齢者糖尿病は骨粗鬆症・骨折のリスクに影響を及ぼすか?
Q-X-13 高齢者糖尿病においてHbA1c低値または低血糖は骨粗鬆症・骨折のリスクに影響を及ぼすか?
7.悪性腫瘍
Q-X-14 悪性腫瘍を有する高齢者糖尿病における血糖管理はいかに行うべきか?
8.心不全
Q-X-15 高齢者糖尿病は心不全の発症や進行に影響を及ぼすか?
Q-X-16 高齢者糖尿病において糖尿病治療薬は心不全の予防・改善に有効か?
9.歯周病や口腔の問題
Q-X-17 高齢者糖尿病において歯周病とフレイル・サルコペニアは関連するか?
10.multimorbidity
Q-X-18 高齢者糖尿病はmultimorbidityとなりやすいか?
Q-X-19 高齢者糖尿病のmultimorbidityはどのような点に注意すべきか?
Y.高齢者糖尿病の血糖コントロール目標・治療方針
1.治療目標
Q-Y-1 高齢者糖尿病の治療目標は?
2.血糖コントロールのエビデンス
CQ-Y-2 高齢者糖尿病の血糖コントロールは血管合併症の発症・進展の抑制に有効か?
CQ-Y-3 高齢者では血糖コントロールは感染症予防に有効か?
CQ-Y-4 高齢者糖尿病では厳格な血糖コントロールを避けるべきか?
Q-Y-5 HbA1c値と大血管症発症または死亡との間にはどのような関係があるか?
3.カテゴリー分類の方法
Q-Y-6 認知機能やADL,機能障害に基づく健康状態・特徴によるカテゴリー分類の方法は?
4.カテゴリー分類による血糖コントロール目標
Q-Y-7 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標はどのようなことを考慮して設定するか?
5.カテゴリー分類に基づいた治療方針の立て方
Q-Y-8 カテゴリー分類に基づいた治療方針設定の留意点は?
6.シェアード・ディシジョン・メイキング,スティグマ
Q-Y-9 高齢者糖尿病の治療方針決定におけるシェアード・ディシジョン・メイキングが果たす役割は?
Q-Y-10 高齢者糖尿病治療におけるスティグマの影響は?
Z.高齢者糖尿病の食事療法
1.食事療法の有効性と考え方
CQ-Z-1 食事療法は高齢者糖尿病でも非高齢者と同様に高血糖,脂質異常症あるいは肥満の是正に有効か?
Q-Z-2 高齢者糖尿病の低栄養と過栄養・肥満をどのように評価するか?
2.エネルギー摂取の指示量
Q-Z-3 高齢者糖尿病の治療開始時のエネルギー指示量を決める際にはどのような点に注意すべきか?
3.バランスのとれた食事
Q-Z-4 高齢者糖尿病の炭水化物,タンパク質,脂肪の指示量の決定にあたってはどのような点に注意すべきか?
CQ-Z-5 ビタミン,脂肪酸の摂取の過不足は高齢者糖尿病の認知機能低下と関連するか?
CQ-Z-6 ビタミンD,カルシウムの摂取不足は高齢者糖尿病の骨密度低下と関連するか?
4.タンパク質の摂取量
Q-Z-7 フレイル,サルコペニアの予防を目的とした高齢者糖尿病のタンパク質摂取量を決める際にはどのような点に注意すべきか?
CQ-Z-8 タンパク質の摂取制限は顕性腎症を併発した高齢者糖尿病で腎症の進展抑制に有効か?
5.減塩
CQ-Z-9 食事のナトリウム制限(減塩)は高齢者糖尿病の血圧改善や心血管疾患の発症予防に有効か?
6.勧められる食事パターン
Q-Z-10 高齢者糖尿病で勧められる食事パターンはあるか?
[.高齢者糖尿病の運動療法
1.運動療法の実際
Q-[-1 高齢者糖尿病において運動療法はどのように行うか?
2.運動療法の有効性
CQ-[-2 高齢者糖尿病において運動療法は血糖コントロール,脂質異常,高血圧,体組成,身体機能,生命予後の改善に有効か?
CQ-[-3 高齢者糖尿病において運動療法は認知機能,ADL,うつやQOLの改善に有効か?
CQ-[-4 高齢者糖尿病において運動療法と食事療法や社会活動などの多因子の組み合わせによる介入は有効か?
3.運動療法の注意点
Q-[-5 高齢者糖尿病において運動療法を開始する前にどのような医学的評価(メディカルチェック)が必要か?
\.高齢者糖尿病の経口血糖降下薬治療
1.一般的な注意点
Q-\-1 高齢者糖尿病の糖尿病治療薬療法で注意すべき点は?
CQ-\-2 高齢者糖尿病で経口血糖降下薬は心血管イベントを減少させるか?
CQ-\-3 高齢者糖尿病で経口血糖降下薬は複合腎イベントを抑制するか?
2.インスリン分泌非促進系
1)メトホルミン(ビグアナイド薬)
Q-\-4 高齢者糖尿病でメトホルミンを使用する場合にはどのような点に注意すべきか?
2)チアゾリジン薬
Q-\-5 高齢者糖尿病でチアゾリジン薬を使用する場合にはどのような点に注意すべきか?
3)α-GI
Q-\-6 高齢者糖尿病でα-GI薬を使用する場合にはどのような点に注意すべきか?
4)SGLT2阻害薬
Q-\-7 高齢者糖尿病でSGLT2阻害薬を使用する場合にはどのような点に注意すべきか?
3.血糖依存性インスリン分泌促進系
1)DPP-4阻害薬
Q-\-8 高齢者糖尿病でDPP-4阻害薬を使用する場合にはどのような点に注意すべきか?
4.血糖非依存性インスリン分泌促進系
1)スルホニル尿素(SU)薬
Q-\-9 高齢者糖尿病でSU薬は低血糖を起こしやすいか?
2)速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
Q-\-10 高齢者糖尿病でグリニド薬を使用する場合にはどのような点に注意すべきか?
5.ポリファーマシーと減薬
Q-\-11 高齢者糖尿病のポリファーマシーは低血糖や転倒の危険因子となるか?
].高齢者糖尿病の注射薬
1.GLP-1受容体作動薬
CQ-]-1 高齢者糖尿病でGLP-1受容体作動薬は心血管イベントを抑制するか?
CQ-]-2 高齢者糖尿病でGLP-1受容体作動薬は複合腎イベントを抑制するか?
Q-]-3 高齢者糖尿病でGLP-1受容体作動薬を使用する場合にはどのような点に注意すべきか?
2.インスリン療法
Q-]-4 高齢者糖尿病でインスリンを使用する場合にはどのような点に注意すべきか?
]T.低血糖およびシックデイ対策
1.低血糖およびシックデイ対策
Q-]T-1 高齢者糖尿病の低血糖症状は非高齢者と同様か?
Q-]T-2 高齢者糖尿病での低血糖の危険因子は何か?
Q-]T-3 発熱,下痢,嘔吐,食欲不振などのシックデイではどのような点に注意すべきか?
2.血糖測定
Q-]T-4 低血糖およびシックデイ対策としてどのような血糖管理指標が有用か?
]U.高血圧,脂質異常症,メタボリックシンドローム,サルコペニア肥満
CQ-]U-1 高齢者糖尿病の高血圧の管理は糖尿病細小血管症と大血管症の発症・進展抑制に有効か?
CQ-]U-2 高齢者糖尿病の脂質異常症の管理は大血管症の発症・進展抑制に有効か?
Q-]U-3 高齢者糖尿病の高血圧,脂質異常症はその他の合併症の危険因子となるか?
Q-]U-4 高齢者糖尿病のメタボリックシンドローム・肥満は大血管症の危険因子となるか?
CQ-]U-5 高齢者糖尿病のサルコペニア肥満に食事運動療法は有効か?
]V.さまざまな病態における糖尿病の治療
1.ステロイド治療
Q-]V-1 加齢はステロイドによる耐糖能悪化のリスクに影響するか?
Q-]V-2 ステロイド治療は高齢者糖尿病の有害事象発生に影響するか?
2.周術期
Q-]V-3 高齢者において糖尿病は周術期合併症のリスクを上昇させるか?
Q-XIII-4 高齢者糖尿病の術前および周術期血糖コントロールは周術期合併症のリスクに影響するか?
3.感染症
Q-]V-5 高齢者糖尿病ではどのような感染症にかかりやすいか?
CQ-]V-6 肺炎球菌ワクチン,インフルエンザワクチンの接種をすることでこれらの感染症の重症化を予防できるか?
Q-]V-7 高齢者糖尿病に新型コロナウイルスワクチンの接種は推奨されるか?
4.介護施設入所
Q-]V-8 高齢者糖尿病は介護施設入所の危険因子になるか?
Q-]V-9 介護施設に入所している高齢者糖尿病にはどのような特徴があるか?
5.エンドオブライフケア時
Q-]V-10 高齢者糖尿病のエンドオブライフケアではどのような点に注意すべきか?
]W.高齢者糖尿病をサポートする制度
1.高齢者糖尿病の要介護リスク
Q-]W-1 高齢者糖尿病では介護保険で要支援,要介護と認定されることが多いか?
2.高齢者糖尿病の利用できる社会サービス
Q-]W-2 高齢者糖尿病では地域包括ケアのなかでどのようなサービスが利用できるか?
3.認知症合併患者のサポート
Q-]W-3 認知症を合併した糖尿病患者に対してどのようなサービスがあるか?
4.フレイル患者のサポート
Q-]W-4 フレイルを合併した糖尿病患者に対してどのようなサービスがあるか?
付録
●付録1:Barthel Index(基本的ADL)
●付録2:Lawtonの尺度(手段的ADL)
●付録3:DASC-21
●付録4:DASC-8
●付録5:GLIMの基準
日本老年医学会 序文
『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』の発行にあたり,日本老年医学会を代表して一言ご挨拶申し上げます.本ガイドラインは,『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』の6年ぶりの改訂版になりますが,その端緒は2015年4月に「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」が設置されたことです.合同委員会は世代交代をしつつ現在まで継続的に,しかもプロダクティブに活動しており,合同委員会結成を英断された,当時の両学会理事長でいらっしゃる門脇 孝先生と大内尉義先生の先見の明と実行力に心から敬意を表したいと存じます.
合同委員会は,2016年に「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」を発表し,続いて2017年には『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』を作成,発刊しました.また,2018年と2021年には『高齢者糖尿病治療ガイド』を発刊しております.これらの成果物は,わが国の高齢者糖尿病診療に大きな影響を与えました.高齢者では,高齢者総合機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)に基づいて低血糖のリスクが高い場合には血糖管理を緩くすることも許容ないし推奨されること,また,フレイルを回避するためには糖尿病であっても十分なエネルギーとタンパク質を摂取する必要があることなどは,糖尿病診療におけるパラダイム転換であり,また糖尿病学と老年医学との見事な融合であるという点で大きなインパクトがあったと思います.
さて,『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』以降,高齢者に有用な新たな糖尿病治療が登場し,また高齢者糖尿病に関するエビデンスも蓄積したことから,合同委員会ではガイドライン改訂に向けて作業を続けてまいりましたが,今般『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』の完成にいたりました.今回のガイドライン改訂では,最新のMinds基準に則り,システマティックレビュー(SR)や執筆などを担当するメンバーも増員して新たなClinical Questionに取り組んだと聞いています.
ガイドライン作成の中心を担った合同委員会のメンバー,特に代表委員の稲垣暢也先生と荒木 厚先生,また評価委員,執筆協力者・SR担当者,SRサポートチーム,リエゾン委員の皆様,そして日本糖尿病学会理事長の植木浩二郎先生に深謝申し上げますとともに,本ガイドラインが糖尿病診療に携わるすべての職種の方々に活用され,超高齢社会を迎えたわが国の高齢者の健康寿命の延伸に資することを願っています.
2023年5月
一般社団法人 日本老年医学会
理事長 秋下 雅弘
日本糖尿病学会 序文
わが国における糖尿病患者の割合は70%を占めるといわれていますが,個々の患者のADLや認知機能,生活環境,社会環境は多様であり,治療の目標とその方法については若年者以上に個別化が求められています.このような要請に応えるべく,日本糖尿病学会の門脇 孝前理事長と日本老年医学会の大内尉義前々理事長,樂木宏実前理事長のご主導のもと,両学会の合同委員会が設置され,2017年に『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』が発刊されました.その後,これをもとにより実践的な診療の手引きとして,2018年に『高齢者糖尿病治療ガイド2018』,2021年に『高齢者糖尿病治療ガイド2021』も合同委員会から発刊され,高齢者糖尿病の診療の向上に大いに貢献しています.
しかしながら,『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』の発刊から6年を経て,この間,SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬をはじめとする新たな糖尿病治療薬の合併症などに関するエビデンスが得られたことや,糖尿病の食事療法に関する考え方の大きな転換があり,これらを踏まえた高齢者糖尿病診療ガイドラインの改訂が必要となってきました.また,幸いなことに糖尿病患者の死亡時年齢は糖尿病のない人と比べても遜色のないレベルとなっていることも明らかになってきましたが,高齢者では老年症候群をはじめとする併存疾患が糖尿病に高率に併発し,またこのような併存疾患が血糖マネジメントを困難にして,患者のQOLや寿命に大きな影響を与えており,このような併存疾患の発症・進展予防を考慮した糖尿病治療や,併存疾患存在下での適切な糖尿病治療の選択が極めて重要であることも認識されるようになりました.このような要請に応えるべく,今般再び両学会の合同委員会から『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』が発刊されることになりました.高齢者糖尿病では,ランダム化比較試験などの精度の高いエビデンスが得られにくい状況で,今回の改訂では,できる限りCQが採用されて,よりevidence-basedな内容となっており,合同委員会の先生方は大変ご苦労されたものと思います.
今回の発刊あたり,秋下雅弘日本老年医学会理事長,「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」の委員,評価委員,リエゾン委員,執筆協力者・システマティックレビュー担当の先生方,コメントをいただきました両学会の先生方に深く御礼を申し上げます.また,この診療ガイドラインが広く活用されて,ますます高齢糖尿病患者のQOLの向上や健康寿命の延伸につながることを願ってやみません.
2023年5月
一般社団法人 日本糖尿病学会
理事長 植木 浩二郎
高齢者糖尿病の診療・研究に関わる全職種の座右の書
『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』が6年ぶりに改訂され,『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』として刊行された.
高齢者糖尿病および高齢者重症低血糖例の増加に加えて,糖尿病が認知症,ADL低下,フレイル,転倒,うつ等の老年症候群の危険因子となることなどが明らかになってきたことから,2015年4月に日本糖尿病学会の門脇孝理事長と日本老年医学会の大内尉義理事長(いずれも当時)の合意により,「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」が設置された.その結果,2017年に『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』が刊行された.その後,合同委員会は世代交代をしつつ今日まで活動を継続し,同ガイドライン刊行以後の諸論文,SGLT2阻害薬などの新規糖尿病治療薬,食事療法の考え方の変化なども考慮にいれた『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』が作成・刊行されたのである.
『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』では,「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」は個々の高齢者の年齢,ADL,認知機能を勘案して定めるべきこと,さらに重症低血糖を引き起こす恐れのあるインスリン,スルホニル尿素(SU)薬,速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)を使用している場合は甘めに設定し,かつ定めた下限値以下とならないように,言い換えると低血糖を避け安全な治療を行うべきとする考えが数々の根拠をもって示された.その結果,わが国での高齢者糖尿病におけるSU薬使用頻度,血糖コントロール目標値の下限値以下となるような症例の頻度は減少し,より安全な治療が行われるようになった.低血糖が認知症,転倒・骨折,うつなどの危険因子となることを考えると大変喜ばしいことといえる.そして,上記の考え方は本書でも踏襲されている.
さらに,『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』では臨床上の問題はすべてCQ(Clinical Question)とされていたが,本書では推奨グレードを決める必要のない記述的なCQは「Q」,推奨グレードを決める必要のあるCQは「CQ」に分類,整理された.また,「CQ」に関して推奨グレードを決めるために実施した系統的・網羅的な文献検索に用いられたPICO,すなわちPatients/Problem/Population,Interventions,Comparisons/Controls/Comparators,Outcomesが示されており,どのような効果が,どの程度期待できるかを把握することが容易になった.
本書では,糖尿病と認知症,軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI),ADL低下,フレイルとの関係,高齢者総合機能評価の重要性,食事療法,運動療法,薬物療法に加えて,新たに「高齢者糖尿病の併存疾患」「さまざまな病態における糖尿病の治療」「高齢者糖尿病をサポートする制度」などが加えられ,より実用的な内容となっている.
本書が高齢者糖尿病の診療に関係するすべての職種の方々の座右の書として活用されることにより,高齢者糖尿病患者の健康寿命の延伸,QOLの向上が期待できる.また,本書は,高齢者糖尿病における未解決の問題が何かを俯瞰することもでき,高齢者糖尿病に関する研究を進めるうえでも有用な書である.
コロナ禍の約3年半の長きにわたりガイドラインの改訂に取り組まれた稲垣暢也,荒木厚両学会代表委員をはじめとする合同委員会の委員の先生方,評価委員,執筆協力者・システマティックレビュー(SR)担当者,リエゾン委員などの諸先生方のご尽力に敬意を表したい.
臨床雑誌内科132巻5号(2023年11月号)より転載
評者●井藤英喜(東京都健康長寿医療センター 名誉理事長)