書籍

もう迷わない! 肝癌薬物療法ナビ

編集 : 建石良介/山下竜也
ISBN : 978-4-524-23463-9
発行年月 : 2024年6月
判型 : B5判
ページ数 : 190

在庫あり

定価5,830円(本体5,300円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

近年,新たな分子標的治療薬の承認が相次ぎ,大きな進歩を見せている肝癌(肝細胞癌)の薬物療法について,一次治療/二次治療以降における薬剤選択の基本から,各種診断マーカーを用いた症例選択,治療が奏効しなかった場合の対応,局所療法との複合的な治療戦略,有害事象発生時の対処方法までを網羅し,解説.各施設のエキスパートが,判断に迷う課題を整理し,肝癌治療に携わる臨床医へ最新の知見を示した一冊.

目 次
第1章 薬物療法開始前に
1 肝細胞癌治療の考え方
2 病態に応じた治療選択
3 薬物療法の評価法
4 有害事象の評価〜CTCAE〜
5 薬物療法開始前のスクリーニング〜肝機能,静脈瘤,自己免疫疾患,心疾患〜
第2章 各レジメンの使い方と注意点
1 アテゾリズマブ+ベバシズマブ
2 デュルバルマブ+トレメリムマブ
3 レンバチニブ
4 ソラフェニブ
5 レゴラフェニブ
6 ラムシルマブ
7 カボザンチニブ
8 肝動注化学療法
第3章 併用療法
1 分子標的治療薬+肝動脈化学塞栓療法(TACE)
2 薬物療法+切除
3 薬物療法+アブレーション
4 薬物療法+放射線治療
第4章 副作用対策
1 免疫関連有害事象
2 抗VEGF薬
付録
1 インフォームドコンセントフォーム
2 ケースリポートフォーム

肝細胞癌に対する薬物療法において,過去に二度の大きな節目があったと思います.1つ目は,2007年のソラフェニブの登場です.『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2005年版』における化学療法の章では,「肝細胞癌化学療法はどのような症例に行われるか?」というクリニカルクエスチョンに対して,「化学療法の適応について根拠がある推奨はない」というステートメントがなされていました.それまでも細胞障害性抗がん薬を使用した進行肝細胞癌に対する治療は行われていましたが,ソラフェニブが第V相ランダム化比較臨床試験で有効性を証明した最初の薬剤となったのでした.肝細胞癌領域における分子標的治療薬時代の幕開けを飾る大きな出来事であったと思います.一方で後続する第V相臨床試験はことごとく失敗に終わり,二次薬物療法としての2017 年のレゴラフェニブの承認まで,ソラフェニブのみが唯一の全身薬物療法薬でした.しかし,この間に進行肝細胞癌の薬物療法を担当する肝臓内科医は,マルチキナーゼ阻害薬であるソラフェニブの使用法,とくに副作用マネジメントを含めた使用法について習熟するに至ったと思います.その後,レンバチニブ,ラムシルマブ,カボザンチニブが相次いで認可されましたが,それら新規薬剤の導入にあたってもソラフェニブ時代の経験が活きたと思います.
2つ目の節目は,2020年のアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の認可です.これ以後,一次薬物療法の第一選択はチロシンキナーゼ阻害薬から複合免疫療法へ大きく変わりました.免疫療法は,奏効期間が長いという特徴があり,またこれまでまれにしか見られなかった完全壊死を認める著効例や治療を中断しても再発しない例なども経験するようになりました.治療効果の向上に伴って,borderline resectable(切除可能境界)といった他癌種ではすでに確立されている概念の議論が始まり,ネオアジュバント,アジュバント治療に関する臨床試験も盛んに行われています.この間,免疫療法に関する基礎的な理解も急速に進歩しました.分子標的治療薬もそうですが,免疫療法では臓器特異的よりも臓器横断的な病態理解が重要になってきます.とくに副作用に関しては,免疫関連有害事象について,院内で専門家から構成されるチームが必要とされています.有効性に関しても他癌種で明らかになった知見が肝細胞癌にも応用可能な事例が増えており,これまで以上に薬物療法全体の進歩に目を配る必要性を感じています.
医療の進歩の歴史は,専門分化の歴史でもあり,必要とされる専門知識・技能が高度化するにつれて,疾患ごとにさらなる細分化が進んでいくのが世の習いです.薬物療法も,手術を担当した外科医が再発例・手術不能例に行っていた時代から,現在では薬物療法を専門とする医師が担当するようになり,専門の診療科として臨床腫瘍科を持つ病院も増加しています.一方で病勢の進行に伴って臓器特異的な問題が大きくなることも事実であり,とくに肝細胞癌患者では,肝硬変・肝不全問題は避けて通れず,また背景肝疾患に対する治療も予後改善に重要な役割を果たすことから,薬物療法に習熟した肝臓内科医が進行肝細胞癌の治療を担当するのが理想的であると思います.
まとめますと,進行肝細胞癌の治療にあたる医師は,薬物療法に関する一般的な知識を持ち,肝細胞癌の疾患特異性を理解し,ウイルス肝炎を始めとする背景肝の治療を理解し,肝硬変合併症,肝不全のマネジメントにも習熟している必要があるといえます.薬物療法の分野の進歩は非常に早いので,知識を常にアップデートすることも求められています.
本書は,忙しい日常臨床を担当する肝細胞癌臨床医に薬物療法に関する最新情報を漏れなく学んでいただくために企画されました.治療選択の考え方から個々の治療法の具体的な実施方法,副作用マネジメント,最新の臨床試験の動向に至るまで,第一線で活躍されるエキスパートの先生方に執筆いただきました.皆様のお役に立てることを確信しております.末筆になりましたが,本企画の編集協力をお務めいただきました小笠原定久先生,土谷薫先生,南江堂の上平和秀様,関田啓佑様に深謝いたします.
2024年5月吉日
建石 良介
山下 竜也

肝細胞がんの薬物療法をこれ一冊でマスター! エキスパートが語る治療の極意

 近年,分子標的治療薬と免疫チェックポイント阻害薬の登場により,さまざまながん種の薬物療法が著しく進歩している.ただし,多くのがんではガイドラインに基づく治療アルゴリズムに従うことで,標準化された治療が実施可能となりつつあるのに対し,肝細胞がんにおいては事情が異なる.具体的には,肝細胞がんのガイドラインでは一次治療や二次治療のフローチャートは提供されているが,薬剤の選択は基本的に医師の裁量に委ねられている.その理由として,進行肝細胞がんの治療選択においては肝予備能や多クローン性発がん,肝硬変合併症などの多くの要因を考慮して総合的に判断する必要があり,最終的な決定はその患者を診る主治医にしかできないともいえるからである.逆にいえば,その判断が患者の予後に大きく影響する可能性があるということでもある.また肝硬変を背景にもつ場合は,副作用が重篤になるリスクも高く,これらのマネジメントも非常に重要である.したがって,肝細胞がんの薬物治療では,ガイドラインだけではなく,高度で多面的な判断を下すための広範な知識が求められる.そのようななかで,本書では肝細胞がん薬物療法の基本から病態理解,実践的な知識に至るまで,第一線で活躍する多くの専門家によって網羅されている.
 第1章では薬物療法開始前に必要な知識を扱い,その冒頭で本書編集者の建石良介先生により,肝細胞がん治療の考え方,なかでも言語化が難しい概念について,さまざまな例をあげて非常に論理的に解説されている.肝細胞がんの臨床を行ううえでこれらの考え方を理解することは非常に重要であるため,まずはこの項目をしっかりと読むことを推奨する.次に,もう一人の編集者である山下竜也先生からは病態に応じた治療選択について,誰もが直面しうるさまざまな症例に対する判断材料と考え方がエビデンスと豊富な臨床経験をもとに,理論的かつ明快に解説・提示されている.続いて,薬物療法や有害事象の評価法,治療前スクリーニングなど,肝細胞がん薬物療法における必須知識が記載されている.
 第2章および第3章では,各レジメンの使い方と注意点,そして局所療法との併用療法について,臨床試験のエビデンスからそれぞれの治療法の特徴と注意点まで,具体例を示しながらわかりやすく記述されており,非常に充実した内容となっている.
 第4章では副作用対策として,とくに肝細胞がん治療において問題となる免疫関連有害事象と抗VEGF薬に関する有害事象が詳細に解説されている.それぞれの薬物療法の効果を最大限引き出すには副作用マネジメントがきわめて重要であり,エキスパートの先生方がどのように対応しているかを知ることができる機会は非常に貴重である.
 最後に付録として,インフォームドコンセントフォームやケースリポートフォームの実例が示されており,ハイボリュームセンターで患者説明や症例管理をどのように行っているかを学べるとともに,すぐに各病院で活用できる大変貴重な資料である.
 また,要所要所で挿入されているコラムでは,基礎的病態から臨床試験の現状など,さまざまなトピックに関する最新情報がコンパクトにまとめられている.
 このように,本書は肝細胞がん薬物療法の最新情報だけでなく,リアルワールドにおいて一般的なエビデンスだけでは判断が難しい症例でエキスパートの先生方がどのように考えているかなど,指針となる情報をその論拠とともに得ることができる素晴らしい内容となっている.肝細胞がん診療に携わる先生方にはぜひご一読いただきたい一冊である.

臨床雑誌内科135巻1号(2025年1月号)より転載
評者●中川勇人(三重大学大学院医学系研究科消化器内科学 教授)


9784524234639